2016年5月28日 (土)

■Kawasaki・春のパンでPeace祭り!・前篇~2016年春アニメ感想+『ガルパン劇場版』感想追加 -更新第1059回-

劇場版の『ガルパン』、先日のBD発売直前に最後の3回目をまた劇場で見てきたんだけど、
やっぱ面白いね。

オイサンです。

「アニメっていいなあ」と、作る人の苦労もろくに考えずに思ってしまいました。
作ってる人たちは幸せになっているのかなあ。
水島監督は、アニメを作ることは幸せなんだろうか。
あの飄々としたコメンタリーの語り口の向こうでどんなことを思っているのだか。
マそんな小難しいこともともかく、新たに3つのことに気が付いた。

 ●その1●
 Aパートのエキシビジョン戦で生徒会チームが果たす初撃破、
 その不名誉な被弾の相手は、どうやらローズヒップさんの乗るクルセイダーだったらしいこと。
 いやあ気付かなかったw

 ●その2●
 廃校を通達された会長が最初にとった行動が「戦車の避難」だったことをご都合主義的に捉えてたけど、
 「戦車(と西住ちゃん)さえ手元にあれば、そこから状況をひっくり返せるかも?」
 と考えての策だった……とすると、腑にも落ちるし大変泣けること。
 やっぱり杏会長は最高です。

 ●その3●
 ローズヒップさんのクルセイダーは、あらゆる場面でもチョロチョロ落ち着きがなく、
 大変愛らしいことw
 かわええw 劇場版上映後やたら人気が出てたのでなんでだろうと思ってたけど、
 ラストのカットでお行儀悪く紅茶を飲んでるローズヒップさんも妙に印象的で、
 その秘密がなんとなく分かった気がした。

……デ今しがた、劇場版のBDを受け取ってきて見ていたんだけど、
スタッフコメンタリで監督とプロデューサーが
「ローズヒップの車だけ落ち着きなくて、なんか顔が見えるようですねw」
って言ってて笑ってしまった。

あと、アンツィオが助太刀するのに
どうして愛しのピヨピヨ(P40)じゃなくてCV33で来たんだろうかw? というのも気になったところ。
エンディングで意気揚々と帰る三人(これがまた可愛いんだけど)が、
CV33を軽トラにみたいなのにCV積んでるのを見て思った。
劇場版見たときは、まだアンツィオ戦見てなかったからな。
デカブツを運ぶお金と手段がなかったのかしらw?
トラックに積めちゃうCV33が、また可愛いんだけど。

……と、『ガルパン』の話ばかりになってしまいそうですが、
今回は2016年4月期アニメの感想なのですよ。



●○● 2016年4月期 アニメ感想 お品書き ○●○



 ▼▽▼<前篇>▼▽▼
 『クロムクロ』
 『田中くんはいつもけだるげ』
 『パンでPeace!』
 『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』
 『マクロス⊿』
 『ジョジョの奇妙な冒険 第4部』

 ▼▽▼<後篇>▼▽▼
 『ふらいんぐうぃっち』
 『くまみこ』
 『甲鉄城のカバネリ』
 『三者三葉』
 『ハンドレッド』
 『ばくおん!』
 『ハイスクールフリート』



■『クロムクロ』

 ▼クロムクロ公式サイト
 http://kuromukuro.com/

 ▼TVアニメ「クロムクロ」PV第3弾
 

5話まで見た。ワリと好きです。
飛びぬけた新しさ・面白さがあるワケではないけれども、
呆れるくらいどうでもいいという程でもなく、
「面白すぎず、どうでも良すぎず」の完成度が好いです。
ストーリーものだけど、一生懸命見なくてもいい、ラクに見られる点で非常に有難い。

  自分でも、コレがOKで『キャプテンアース』がNGだったサジ加減は
  よくわかんないけど。
  『キャプテンアース』は売らんかな精神というか、
  必死すぎる感じが好きじゃなかったな。
  「ボクって変わってるでしょ」みたいな感じが鼻についた。

P.A.Worksさんが突然のロボットものだったので、なんで!?って思ったけど、
さすがの富山推しです。納得。
今回は、「話のそもそもの発端がこの土地の戦国武将だから」っていう、
地方性に必然性・意味を持たせてるところはちょっと良かったなと。
最近、アニメの聖地化について、
「この土地を推すためにアニメの舞台に使った」みたいな
土地オリエンテッドの聖地使用が目立つような気がして……
「作品の表現とか空気感に必要だから・マッチしたからロケした」というのが本来的なものかと思うので、
多少無理矢理でも必然性を持たせようとしたのは個人的に嬉しい。

  マその戦国武将も架空のお家のようなので確固たる必然ではないけど。

あと、GLAYさんの歌うOPは結構好きなんだけど、
GLAYさんのお歌ってのは、大体こんな感じなんですかね?
イイ感じに古臭く、すごいベタな歌詞でちょうあんしんして聞ける感じが
本編の風味とマッチして有難いのだけど、
拵えたGLAYさんはアニメソングだからと気を使って若干古め・ダサめに作ってくれた
(もしくはそういうオーダーだった)んだろうか。
それともこれが彼らの今のエッジなんだろうか? というところが不思議。

ながいこと第一線で活躍し続ける人ってのはやっぱりちがうな。すごいぜ。
変にカッコつけたり、エッジきかせたり、他にない何かを! みたいな必死さとかないもんな……。
面取りの仕方に職人芸というか、切れない個性、みたいなモンを感じた。すげえ。
絶対切れない安全日本刀で斬り合うママさんチャンバラみたいな感じなんですかね。
あとGLAYさん、どうせ気を回してくれるのだったら、
『クロムクロ』なのだから今回だけでもKROYとかに出来なかったのか(無茶言うな)。

バトルシーンも目を引くようなものではないし、
メカデザインも、なんの必然性があるのか変にハデハデしい上に野暮ったくて
30年前のガムのおまけみたいだし、
お色気をがんばるのかと思えばそんなこともないしで、大変に地味ですが。
それがくたびれずに見られる好いサジ加減になっているように思います。
この先も、変に熱血になったり鬱になったりしないで、
見る側の期待を越えない速度で、「ああやっぱりね」と言われるくらいで走りきってもらいたい。
チョイチョイ挟まるサトリナさんボイスが癒しです。



■『田中くんはいつもけだるげ』

 ▼TVアニメ「田中くんはいつもけだるげ」公式
 http://tanakakun.tv/

 ▼TVアニメ「田中くんはいつもけだるげ」PV
 


2016年4月期が誇る、珠玉ののんびりアニメ3傑のうち一本。
画的にハッとした瞬間は、今のところなかった……と思うので、
動画として格別な部分というのはそんなに無い、のだろう。
ひとえに雰囲気、テンポ、間、トーンが好みで、大変よろしい。
毎週一風変わった入り方をするOPのその間といい、
統一して一枚柔らかなフィルターをかませたような声(の演技)を持った役者さんの品ぞろえといい、
色調といい。
まあ何が素晴らしいって、
このアニメの軸を作っているのは間違いなく太田であって、
話の8、9割を占める太田の声と芝居のトーンが最高にノンストレスなのだと思う。
すごいぞ、太田。
えらいぞ、太田。

監督が川面"のんのんびより"真也さんであり、
音楽も水谷"のんのんびより"広美さんであり、
まあなんというか、『のんのんびより』1期1話に脱力ネタを盛り込んで毎週やってる、みたいなところがある。
これではオイサンが好きにならない理由がない。

  川面監督、『のんのんびより』の劇場版も作らないでどこで油を売ってるんだ!!
  と憤っていましたがこんな隠し球を持っていたのか……。
  なんだよー、先に言えよモー(憤ってもいないしなれなれしい

あと、音楽が水谷広美さんだと書きましたが、
ベースで川村"岩男潤子の辣腕プロデューサー兼ツッコミ兼おかかえ力士"竜氏が
参加しておられるようです。
ツイッターで自分で宣伝してた。

今期アニメ・嫁にしたいランキングダントツNo.1(*1)の女子力モンスター・太田といい、
生きる弾丸・宮野といい、ファッションヤンキーの越前といい、
癒し系人材の豊富な本作にあって、けだるげな主人公・田中くんが一人でゲスいという
ミスマッチな配置も面白く、練れた作品だなと思います。

  ちなみに、今期アニメ・嫁にしたいランキングNo.2(*2)
  『ふらいんぐうぃっち』のケイくんです。

   *1:男性部門・総合ともに
   *2:同上

しかしまあ、なんだ。
男子サイドも女子サイドも結構な人数がいるにも関わらず、
どっちを向いても同性同士のカップルしか誕生の匂いがなく……
まったく今の世の中というのは、ほんのりやおい・ほんのり百合を基準にできあがってしまっているのだなと
否が応にも実感させられずにはおりませぬ。
未だに異性婚のみを当たり前に考えて、そうせいそうせいと
言いそやす輩はキチンと時代に目を向けるべきである。

その上で人口を増やすことが必要なら、もはやシステムで対抗するしかないだろう。
それが現実なのだ、多分。
……何の話をしているんだ。アニメの感想を書け。

梅雨に入るか、入らないか……そう、ちょうど今頃の時期に縁側にすわり、
お抹茶で食べる塩大福のようなアニメかな、と思います。
1話・2話を録り落としたのが痛い……orz


■『パンでPeace!』

正直、面白いところはほとんどないのだが……
OPの曲が好きで、なんとなくたまに「パンでPeace!」って叫びたくなる(病気か)。
コレ原作面白いのかな。逆に気になる。

……うん。

なんか書くことあったかな、と思って、いまちょっと振り返ってみたけど。
やっぱり何もないな。面白さも可愛さも、特に。
みんなで叫ぼう、パンでPeace!


■『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』

 ▼公式サイト
 http://netogenoyome.com/

 ▼TVアニメ「ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?」 PV
 

1話以外は見た。意外と追いかけられている。
ストーリーもカッチリあるお話ではあるけど、そこに大して面白味は感じておらず、
ヒロイン・アコのアホさ加減、ストレートに恋する乙女ちゃん加減だけを楽しみに見ている。
いやー、かわいい。こういう子好きだなー。
「イタくて見とられん」ていう人の方が多そうだけど、
オイサンはこういう好き好き光線ダダ漏れの恋する乙女ちゃんは好きです。
ついでに働き者で養ってくれるんだったら、リアルでいてくれても全然いいのに!
アコは働かなそうだからリアルでいられると困る!(キッパリ

  5話目の次回予告の「残念、全裸でした!」ですっかりやられてしまった。
  オモロイやないかくそ。

ネタとかネットスラングがらみの小ネタがたまに想像の斜め上に行くので嬉しい。
メインキャラは皆いい人で、且つそれなりのエピソードを背負ってはいるものの、
破綻や目に見えた瑕疵がない分こぢんまりとまとまってしまって
お話の展開そのものに目新しさはないのでそこはオマケ程度。
オンラインゲーあるある的なもめ事とか引きこもりのマインドを絡めた小ネタとかは
コレと言って目新しいものではないから、
やはり一番のウリ、一点ものの面白さはアコのキャラクターかなあ、と。

OPが好きなんだけど、楽曲といい、画的な雰囲気といい、
なんだか『俺妹』にすっごい似ている気がする。
狙ったのかしらん。

何にしても、言葉のおもしろさイッパツで持って行けてしまうパワーがあるので、ツボにはまれば強いでしょう。
だめな人はもう、スッカリだめなタイプの作品です。

こちらもWebラジオが面白い。

 ▼豊永・南條の2人はラジオしないと思った?
 http://www.onsen.ag/program/netoge/

主人公役の豊永さんと、何故か猫姫先生役の南條ヨシノさんがやっておられる。
お二人とも三十路に入ったばかりとのことですが、
奔放に楽しそうにおしゃべりになるのが好感度高いです。
技術じゃないけど、息が合っててノリがいい。勢いがあるってすごい。


■『ジョジョの奇妙な冒険 第4部』

 ▼ジョジョの奇妙な冒険 第4部ダイヤモンドは砕けない アニメ PV
 

第3部までとは趣を変え、2Dアニメ方向に舵を切ったご様子。
ウム、正直3部までの見た目は特に好きではなかったので、オイサンにとっては嬉しい変更。
やたらな擬音とか「わかりやすいジョジョっぽさ」に執拗にこだわらなくなったのは
好い変化なんじゃないかと思う。
なんていうか「ジョジョ好きのプライド」とか「分かってる感」みたいなものが
非常に押しつけがましくて、見ててシンドイ場面もあったので。

3Dじゃなくても画も(今のところ)十分きれいだし、、荒木タッチをアニメらしく再現してて好い。
億泰がこんなにかわいい萌えキャラだとは気付かなかった。
空が黄色!
もともとオイサン4部は好きで、お話にも無駄なパーツ
(トニオとか透明な赤ちゃんとか、本筋に関係ない思いつきみたいなネタ)も多くて
お話の完成度としてはあまり高くはないと思うんだけど、
その雑多な感じが、3部までのゴシックホラー!な面と打って変わってポップさを醸しているのが
非常に気楽でよろしい。
当時、いっそのこと『コナン』みたいにこの路線のまましばらく長くやったって良かったのになーと
思ったりもした。

今回はOPも、そのポップさに呼応するような曲でとてもマッチしている。
すばらしい。
……が如何せん、動きが足りなくて地味というか、エフェクトだのみで
ちょっと画的には手抜き感を感じまする。
ダンスっぽさ出してるんだからもっと動かせや。

制作の手が足りてないのかしら? と思っていたら、
第6話放映前後のWebラジオで、パーソナリティの二人が
「僕らまだ6話見られてません」って言っててオイオイオイ、大丈夫なのかと
尚のこと心配になるなど。
ラジオの収録をいつやってるか知らないけど……この先がチョイ心配。


■『マクロス⊿』

 ▼特番「マクロスΔ 先取りスペシャル」告知PV
 



5話か6話まで見た。ストレートに言えば物足らぬ。食い足りぬ。

マクロスなんだけど、マクロスだと思わなければ面白い。
楽しむためのお作法を押さえるまでにちょっと時間がかかってしまった。

『マクロス』という作品はキホン、「アタマオカシイ」ものだというのがオイサンの認識で、
それは要約すると
「見る側の想像を、ウケや狙いでなく、作り手の純粋な『面白い』という理想だけで
 ノーリミットで斜め上に超えてくる」
というものなのです。
作る側の強烈な妄想・アタマのオカシさが、見る側の微々たるアタマのオカシさを共鳴させ増幅させて、
「これだ! これなんだよアニキ!!」という気持ちにさせる作品である。
見る側の心の奥底に眠っている、無意識に抑え込んでいた本当に見たいものの妄想を呼び起こし、
「イヤ、しかしこれはさすがにアタマおかし過ぎるだろう……」
という気持ちを飛び越えて肯定させる力を持っているものだった。

……の、だけど……。

『7』『F』と、そのアタマのおかしさも徐々に弱まってきていたものの、
今回はすっかりおとなしくなってしまった感がある。
作り手の頭のおかしさが、すごい頑張ってやってる「頭を使って考えた頭のおかしさ」で……
天然モノでない、養殖の味わいでしかないように感ずる。非常に残念である。
まあでも、大変だとは思う。
歴史を重ねて、守るべきお作法を守りつつ斜め上をいかないといけない、というのは。

だからこう、もっと『Gガンダム』みたいな位置付けの『マクロス』を、
どっかで一回やってもいいと思うんだよね。

  ……と書きながら、
  「既に『マクロス7』が十分『Gガンダム』的だったな……」
  と気付くアラフォーですけども。
  それを思えば『マクロス7』はよくやったよ。
  いや、あの段階を踏むのはまだちょっと早すぎた気がするけど。
  アレをやるなら今だったかもしれない。
  なんていうかこう、黄門様が印籠から出るレーザーで悪人を薙ぎ払う、みたいなね。

今回も随分、突拍子もない設定の世界に広げていってはいるけれども、
おかしな方向に広がっちゃっただけなカンジ。
歌のファクターにアイドルグループを持ち込んできたことは当たり前だと思うし
(むしろ当たり前過ぎてそっちに驚いたというのはあるけど)、
歌の方にも、さほど力が入っているとは思えない。
OPの曲は、劇中歌としてはいいんだけど、主題歌っぽくない気がする。
今後、ストーリーとリンクするような要素があるだろうか。
たとえばもう、いっそのことクラシックの要素をぶち込むとか、
雅楽とか民族音楽を持ってくるとか。

映像表現や世界観にしても、
びっくりするようなことは今のところなかったように思う。
唯一引っかかったのはバルキリーの絵がなんかぬるっとしていることか。
これは多分意図しているのだと思うケド、どういう効果を狙ってるんだろうか。
ミクモさんが指で作るWのサインが「手マンの構え」って呼ばれてたのが妙にオモロイ。

どーなんだろな、
「アニメを作る人が、アニメばっかり見ててもしょうがない、つまんない、
 もっと外の色んなものを見て手に入れた驚きや感動を取り込んで欲しい」
みたいなことを、昔の年を取ったクリエイターたちがよく言っていたけど、
そういうことなのかも知れぬ。
勿論、他のモノを見てないなんて思わないけども、それ以上に
「足下の『マクロス』を見過ぎている」のではなかろうか、という危惧がある……。

いっそ「『Zガンダム』の続編を作ります!」って言っといて、
完成したら「実はコレは『マクロス』として発表します」
みたいな無茶苦茶でも……イヤそれはさすがに無茶苦茶だが、
しかしこの「イヤさすがにそれは」を取っ払ってくれてしまうのが
『マクロス』のモノ凄さだと思ってもいるので、次はさらなる限界突破を試みてもらいたい。

  ……とは言いつつも、『ガンダム』が平成に入って色々こしらえてる間も
  『マクロス』はワリと長いこと沈黙を守っていたワケで、
  それは案外賢い選択だったのかも知れんな、などと思いもする。
  ということを、いま上で至極当たり前のように「次」のことを書いてしまって思った。
  次なんかなくてもいいんだ。

マそうやって作った突拍子のないものは売れるように見えないから、
若手や実績のない人がやってもなかなか認めてはもらえないのだろうし、
そうなると
「実績のある、突拍子のない脳味噌の持ち主が作って認める立場の人間たちを黙らせる」
しか新しい物が出てくる道はないのだけども、
そうではなく、実績のあるモンスターの人たちが「認める」側に回って、
若手の考える突拍子のない物に
「よっしゃオモロイ、それやれ!」
と思い切りのいいハンコを押してあげる仕組みにならないといけないのかも知れぬ。

マそういう作り手が、管理する側、認める側に回ることも、
その気質上、難しいことだと思うけど。


……といったところで前篇おしまい。続きは後篇で。


どこか、カルロベローチェのチョロQ作ってくれないかなあ。
オイサンでした。
後篇に続きます。

 
 

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2016年5月27日 (金)

■Kawasaki・春のパンでPeace!祭り・序~2016年春アニメ感想+『ガルパン劇場版』感想追加 -更新第1058回-

ちょっと前までは、
「いま、物的に欲しいものってあまり無いなあ……」
などと、枯れてる俺カコイイアッピールキャンペーンを展開していたオイサンですが。
先日、いま欲しいモノ(且つ、買おうと思ったら買えるモノ)をピックアップしたら
あっという間に100万円近くなってビックリした。

欲しがりか。
欲しがりさんか。
ほしがりエンプーサか。
あーお金欲しい。

 ▼欲しがりエンプーサ
 

  ……どうでもいいけどさ、twitterだと、
  「えっちしたい」「おっぱいもみたい」「うんこしたい」「おなかいたい」
  「人の金で焼き肉食べたい」「休み欲しい」「ねむい」「しにたい」
  っていうのはイヤってほど見かけるのに、
  ストレートに「お金欲しい」って書いてるのほっとんど見かけないのってなんでなんだろ?
  なんかこう、「何を差し置いても一番言っちゃいけないこと」みたいな空気感じますよね。
  イヤ、そりゃ品があるとか節度のあるハナシじゃないのは分かってるけど、
  そういう意味では上で書いたことだって同じじゃない?
  同じ品がない畑の話の中でも最下位に置かれてる感じ、これはなんなんだろう、
  日本人の美意識なんだろうか?

だもんで、いま欲しい物を並べて書いておくので、
誰かオイサンに買い与えてくれると、きっとこのオジサンはがんばって面白いことをしますよ。


●カメラ RX1RⅡ 42万円くらい
http://www.sony.jp/cyber-shot/products/DSC-RX1RM2/
とりあえず欲しい。液晶のチルト機能がとにかく欲しいので、
ただのRX1に液晶チルトだけついたバージョンがあればいいのになあ。
ローパスのON/OFFとか、ポップアップのEVFとかは特に魅力を感じない……。
画素数アップはどうなんだろう。好い方向に作用しているのかしら?


●ノートPC レッツノートRZ4か5 20万円くらい
新しいRZ5だと、SSD128G+メモリ4GBで15、6万円くらいのが、
RZ4だったら、SSD258GBのメモリ8GBでも同じくらいなのでRZ4でも十分だ。
他のスペック差は大きいのだろうか。


●BlackBerryPriv 10万円くらい
Android版BlackBerryさん!

 ▼BlackBerry初のAndroidスマートフォン「BlackBerry Priv」徹底レビュー[geekles]
 http://geekles.net/gadget/151223-blackberry-priv-review
 

これでいよいよBlackBerryさんもスマホの仲間入り!(コラ
パッと見フツウのスマホで、スライドしていつものフルキーボードが出てくるという
お前日本がコレ作らなくてどうするんだよ! と言う、オイサンの夢見た日本がここにある仕様。
いやー、欲しいねえ。Androidでどのくらいスムーズに動くか知らないけど。


●Windowsタブレット 2、3万円くらい
要求スペックは、
 ・WindowsOSであること
 ・大きさ8インチまで、解像度1920×1080以上であること
 ・外部記録メディア(microSDとか)対応

……くらいかしら。それ以外で重視するのはバッテリーのもちと重さ。
ほかはまあ、予算枠で良ければ良いほど。
リサーチした結果だと NECのLavie Tab W の508あたりがいいのかなー、という感じ。

 ▼NEC PC-TW508CAS LAVIE Tab W
 http://kakaku.com/item/K0000812485/spec/#tab


●G-SHOCK的なアレ 15000円~2万円くらい
960円の超スマートなカッシオウォッチを買ってみた。

Reddsc03143

まあオイサンもいい大人だし、ボチボチこう……男としてのランクをいっこ上げとく? くらいの?
この春のマストバイアイテム的な? 意味で? コンセンサスにアグリーしていく?
……という感じで、腕時計を(よく分からない。)

そしたら、コレとも似た感じのデザインのG-SHOCKがあったので、
山登りとかにそういうのあってもいいかな、と思い始めた。

  960円のは960円で、960円で機能的にはこれだけ十分なものが手に入るんだー、
  とびっくりしますけどね。
  オイサンの子どもの頃、カシオのデジタルウォッチといったら
  もうカッチョイイ物の最前線みたいなもんで、
  コレも半分はその頃の憧れから大人買いみたいな気持ちで買いましたけど、
  ホント、時間を見たり計ったり、アラーム鳴らしたりならコレで十分だよ。

……しかしG-SHOCKってのは色々ありすぎてどれがどれやら……。
カシオさんも全部は把握してないんじゃないのか(そんなわけがあるか)。
ああ、大体こんな感じのやつですね(うろおぼえ)。
四角くてデジタルのやつです。





そもそも今回腕時計を買ってみたのは、
BlackBerryさんのバッテリやらメモリやらがヘタってきて、
イザ時間を見たいときにパッと立ち上がらない、なんなら息切れして見られない、なんてことが
最近チョイチョイ起こり出したので、緊急対応用である。
しかしイザはめてみたら、はめる前は気にしてた「鬱陶しそう」という接触感は
今のところ思ったほど気にならず(汗かき始めると気になるけど)、
ジョギングするときのストップウォッチ機能がなかなか面白くて、
ちょっと楽しいデバイスになってきた。
……ので、楽しみアイテムの一つとして、クラスを上げてみてもいいかな、という気分で。

デ最初はG-SHOCKで考えていたのだけども
(ていうか国産デジタルでまとまったデザインなのがカシオさんくらいしかない……。
ヨソのはどっかとっちらかっている気がする)、
EPSONさんが腕にはめる活動量計とか、GPS機能付きのアウトドア用とか、面白いのを出してたりしたので、
ヨドバシとかに行ったらチラチラと横目で見てしまうオイサンです。

面白いもんで、このG-SHOCKなんかは特に、
買わないで、欲しいままの気持ちで出掛けるたびに量販店で眺めて
「欲しいなー」って思っているのが一番楽しいですねw 買ったら多分、ソッコーで飽きるw
お店に並んでるのをじーっと見て、「これは俺のだ」と思ってる今が
一番楽しいですw



……。



とまあ、ここまででざっと75万円くらいですよ。
他はあんまないので、100万円は言い過ぎでしたね。
マ小銭入れに穴が空いてるとか(アカンがな)、絶妙なサイズの巾着が欲しいとか、
あるにはありますけどもあと25万円分は……特にないかな。
もう一個RX1買っちゃうかな(何故だ)。

マそんなんなんで、せっかくここまで読んで下さったアナタですから、
上の5つの中からどれか一つ、お好きな物を選んで
オイサンに買って上げると良いと思いますよ、エエ。
イヤ本当に。
損はさせません。
ワリと近いうちに、「俺、アイツにカメラ買ってやったことがあるんだぜ」って
人に自慢出来る日が来ますよ。
ええ、間違いなく。フッフッフ。



……などとですね、人生も斜陽を迎えつつある初老ゴミみたいな妄想は置いといて。
ボチボチ本題にまいりましょうか。
そうです、2016年・春アニメの感想です。


今期は……アニメ、バランスが良くて大変うれしいです。
ゆる萌えアニメ、ハード系SF、弱ユルSFの配分が良く、かつどれもナカナカ見ていて面白い。
短時間尺の作品がちょっとパワー不足かなと思うけど。
……と思ったら、『てーきゅう』のスピンオフとかやってたのね……
気付かなかった……もっとちゃんとチェックしよう……orz

……といったところで、長くなってきたんで切ります。本題始まってないのに。
2回に分けて載せまーす。



●○● 2016年4月期 アニメ感想 お品書き ○●○



 ▼▽▼<前篇>▼▽▼
 『クロムクロ』
 『田中くんはいつもけだるげ』
 『パンでPeace!』
 『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』
 『マクロス⊿』
 『ジョジョの奇妙な冒険 第4部』


 ▼▽▼<後篇>▼▽▼
 『ふらいんぐうぃっち』
 『くまみこ』
 『甲鉄城のカバネリ』
 『三者三葉』
 『ハンドレッド』
 『ばくおん!』
 『ハイスクールフリート』



----------------キリトリセン--------------------------------
えー、なお、残念ながらここから下は生き残れなかった人たちです。
録ってて後で見る枠も入ってますが、見る望みは薄いです。


■『迷家』
録り貯め枠。あとでまとめて見る予定……ではある。1話も見ていない。


■『キズナイーバー』

2話だけ見て、あとでまとめて見ようと思って録画保存枠。
サトリナさんが出ている(だからどうした)。

■『SUPERLOVERS』
1話だけ見て、結構おもしろそうだと思った。
しかしあとでまとめて見ようと思って録画保存枠入り。でも多分見ない。

■『双星の陰陽師』
2話だけ見て、あとでまとめて見ようと思って録画保存枠。
コレも多分見ないだろうなあ……。

■『あんハピ』
残念、3話目くらいで見なくなった……。

■『Re:ゼロから始める異世界生活』
2話だけ見た。サラバだ!

■『聖戦ケルベロス』
2~3話くらい見て……切った。なぜそんなに見たのかも不明。

----------------キリトラレセン--------------------------------



ほなまた、近いうちに。
オイサンでした。
 
 
 

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2016年3月13日 (日)

■ティファニーでガンプラを。~私信、『アマガミ』SS、「Plastic Joy」に寄せて~ -更新第1048回-

オッスおらオイサン。

今日のお話は、とあるお友だちに読ませてもらった
『アマガミ』の、絢辻さんにまつわる二次創作・SSの感想なので、
細部に関してはご当人以外にはサッパリわかんないと思うけど、
久々に『アマガミ』や絢辻さんについて思うことなんかを書くので、
せっかくだからご本人の許可を得て、こっちに載せちゃうことにした。

  いえーい。  ← 何がだ

デ、読ませてもらったんだけど、
先ずは、感想が2年越しになってしまったことを素直にお詫びしておきます。
メンゴメンゴ。

受け取った直後にもちゃんと読んだのだけど、
公私ともに超忙しい時期でもあって(お会いしたのもすごい合間を縫ってお会いしたんだったと思う)、
キチンとした感想を返せずにおりました。
今回改めて読み返してみての感想は……
だからもう、2年前とは違う感想になってしまうことはご容赦戴きたいのだけど、

「愛」とは、斯くも尊く、斯くも無邪気で、そして斯くも気恥ずかしいものであったか!

……と、そんな風に感じ入るものだった。


「恥ずかしい」とは書いたが、きっと、多分、
その恥ずかしさは書いてしまった今なんとなく分かってもらえるものと信じて書いた。
2年前には恥ずかしくなかったかもしれなくて、
今は恥ずかしいかもしれない……そんな恥ずかしさ。

お話自体はシンプルで、
それだけに愛と「祝い」に満ちていることが伝わりやすい、暖かいものでした。
そこがまた開けっぴろげで、恥ずかしさに直結してしまってると思うのだけど。

この結末にたどり着いた絢辻さんが、ナカヨシから来たのか、スキBEST・スキGOODから来たのかは
アマガミの実プレイから遠退いてしまった自分には推し量ることも難しいが、
いずれにせよ、
幸せな結末に辿り着いた絢辻さんへの、溢れんばかりの「おめでとう」に
むせかえるようだった。

登場人物の殆どが二人の門出の式にやってきて祝辞を述べるシーンでそれはよく感じられて、
キャラクター全員を登場させるのは二次創作としてのサービス精神でもあったのかもなーと思いつつ、
「誰からも祝われるまでになった二人のそれまでの時間」がさりげなく表れているのが
個人的には印象的だった。
あーホントに佳き二人であったのね、という感慨……というか、
そうであって欲しいという書き手の願いが、なんかもうパンパカパーンでパンパカパーンで。



……けど、どうなのでしょうね?



こうして、ビターではあるけれどもダークではない、
ハートウォーミングになってしまった絢辻さんは、
あの厳格な絶対輪郭を保っていてくれるのだろうか?



絢辻さんは、ブラックホールを抱えていた。



胸の深奥に、ブラックホール……
「無」の頂点であると同時に重力と質量の権化であり「在」の極致であるところの
奈落を抱えていたからこそ、そこから先に何者の介入も許さないくらいの強い強い強い強い輪郭、
事象の地平面をともなって
ボクらが愛してやまない唯一無二の絶対輪郭・「絢辻詞」というカタチでいてくれたワケで。
それを感じさせなくなったいま、彼女の輪郭はどうなってしまうのだろうか。
それが心配でならない……。
久しぶりに、そんな気分に浸ってしまいました。

  まオイサンは、そういう輪郭の残る気配が多分にあったからこそ、
  オイサンは「スキ」よりも、
  「アコガレからのナカヨシ」が好きだったりしたのだけれど。
  ……となると、それが感じられないこのSSの絢辻さんは、スキ系列の絢辻さんなのかしら?
  と妄想をたくましくするところではある
  (お会いした時に直接そんな話を既に伺ってたらごめんなさい)。

そんな気分にさせるほど、幸せいっぱいの絢辻さんのお話だったね、
ということです。

単体の読み物として、ヒトツ率直な物足りなさを述べると、
冒頭で述べた通り良くも悪くもシンプルで、シンプルさがたたり、
イマドキのオンライン・オフライン関わらず蔓延する物語作品から見れば、
どうしても、どこかで見た、誰かの何かの作品と重なってしまうところがある――



――のだけれども、それがダメかと言われたら、そうでもない。
二次創作のSSってそのくらいでいいんじゃないかなという感触を、
今回読ませてもらって改めて持った次第。



確定的な類似ではなく、全体的な枠組みが
「ああ、なんかこんな話どっかの何かで見たなあ」
という程度のことだけど。
けど、ヘンに作り込まれ過ぎて端から端まで風呂敷が畳み込まれるようなものよりは、
オイサンはよっぽど好きだけど。
モ少し余韻があっても好みかなあ。

デそういう好き嫌いを除いたとしても、だ。



特に、『アマガミ』は過程のゲームだ。



ADVだから、本来は一つの結末にたどり着くための過程は基本的に限定的で有限で、
SLGのような広がりは無い、
ハズである、
にもかかわらず、
過程に肝を置くゲームだ。
と、オイサンは思う。

  間口の広さは普通なのに、懐は不可思議に深く、そして出口はない、という
  歪むのもここまで来るとキモチワルイな!(ほめことば)
  ……という異様な(ほめことば)姿をしていた。

システムとしては完全にADVなのだけど、プレイするうちにSLGの味がしみてくる。
それは濃いプレイヤーたちの中で呼び起される感情が同じテキストを読んでも通り一遍でなく、
同じ道筋を辿りながら、パーソナルなステップを踏み次の展開に対して納得を得ている。
そうした手続きの事実はプレイする本人の外からは観測できないハズのものであるにも関わらず、
同じ世界に触れるプレイヤーたちは同朋たちの中で何かが起こっているのを
ボンヤリ察してしまうから、
そこに発生し存在する、個人の数だけの分岐を知り、それがSLG的である錯覚を起こす……。

……まゲームにしろ音楽にしろ映画にしろ、
娯楽物なんてのは多かれ少なかれ受け手の経験と引き出しによって違う味がしみてくるものですが、
『アマガミ』は特に個人の個人的な核に、針の形をした爆弾を打ち込んでくるらしい
(そしてどうやら、殊に傷を持つ者たちにはよりそうであるらしい)。

そういう個を相手どるゲームの二次創作なのだから、
ちょっとやそっと、骨格や輪郭が似ていたってどうということはないのではなかろうか。
個人が個人の材料と思い入れで勝負することが大事で、
そのはしばしに埋め込むパーツで、自分だけの輪郭を与えれば良い……んじゃないかなあ。
そしてたいがい、何故かそこに「ゆがみ」が埋め込まれるのがまた、
『アマガミ』の面白いところではあった。

だから、
「『アマガミ』が受け手にそういう(こういう)物語を書かせてしまう」ことは不思議でもなんでもなく、
今回読ませてもらったお話はまさにそういう物だったなーと思う。

書き手のアナタ自身の中で、
 「いつか幼い絢辻さんが川に投げたというおもちゃの指輪と、
  『アマガミVA5』にあったアンソロジーのストーリーと、
  エンゲージリングと、
  Plastic・Joyの歌の歌詞に現れたdiamond ringと」
が重なって、!他ならぬ一人の書き手が!いてもたってもいられなくなった、という、
熱の高さや鳥肌の立ったような昂揚感のあることが良く伝わるし、瑞々しいと思う。
その時点でもう勝ちだと言っていい。

  フシギなもので、なんかそういう
  「あ、そういう遊び方をしてもいいんだ」と思った人が、
  結構いたみたいね。他の環境とも相まってね。

……しかしそれだけに、やはり「我がコトの様に恥ずかしい」わけでw
ムズムズするわいw

……あの、言っておきますけれども、
オイサンはいま物凄いエラそうにして書いていますが、
これもまたものすごい恥ずかしいコトをしているという自覚のもとにやっているので、
なんかもうスミマセンでした。




……と、そういうことをふまえて。




これがまた、その世界を何も知らない人が読んでも共感出来てしまったり、
なんとも言えない気持ちにさせてしまったりすることが出来れば、
それはとても鮮やかだとオイサンは思うので。
ここから先は、読者としての贅沢。

オイサンは、一度お会いしたきりの第一印象からで申し訳ないけれども、
書き手のアナタのことを大変に豪放磊落な人物だと思っている。
その上で、人から認められる頭の良さや周到さなど、
緻密な面もきっと持っているのだろう、とお聞きする話の端々に感じていた。

大概どこかしらが鬱屈していて、
新品の折り紙を袋から出したら何故かどの折り紙も全部四隅の一つがちょこっとだけ折れちゃってた、
みたいなところのあるTwitterを通じてお会いした30人近い輝日東住人の中で、
アナタは稀有なパーソナリティを発揮しておられた。
アンタだけだよ、あんなんだったのw

  そうは言っても、上で書いたみたいに
  「瑕を持つものに這い寄ってくる『アマガミ』」だけあって、
  アナタも不思議なくらい主人公にシンクロする事件を抱えておったのでしたっけね。

「僕ってどんなんなんスかw」ってお思いになると思うけども。
まあお会いした皆さん、それぞれなんがしかの面で「アンタだけのあんなん」なんだけど、
その矢印の向き方が誰とも違っていた。
その分オイサンも面喰らって腰が引けてしまったところもあるんだけど、
その時点でも十分面白かったし、ときどき会って話を聞きたい人だなあと思う。

だからもっと大胆に、書き手であるアナタの持ってた当たり前、
でも他からしてみれば「お前なんじゃソレ」って言わずにいられない当たり前を、
作品の世界にぶちまけてみても良かったんじゃないかなーと思う、
っていうか、そういうのを読ませてもらいたいって思いました。
それはまあ、読者としての希望。

パーツにとどまらず、欲望・願望に収まらず、
土台からして自分ワールド全開の、新しい、『アマガミ』らしい冒険を。
今回の画サッパリまとまっていたから、
もっともっと「書き手くさい」ものを読みたいです。

絢辻さんは、比較的「閉じてしまった」ところのあるヒロインなので、
自分らしさを盛り込んで広げることは……難しいと思うんだけどね……。
情報も少ないしね……イヤ、遊び辛いとは思うのよ、ほんと。

  だからこう、当時、公式にはもう少し……ね。
  広げて欲しかったなとは思うんだけど、
  それはそれで、オイサンが最初に絢辻さんに感じた「完成度」と相反するんだけどさ。

オイサンの思うアナタの像を思うにつけ、
もしもアナタの愛したヒロインが、より快活で、より開かれた、
中多さんだったり、森嶋センパイだったりしたなら……
という妄想が尽きなかったりするです。

今現在、『アマガミ』や二次創作や、お好きなアーティストたちの作品と
どういう距離感で生きておられるのか分からないけど。
そういう遊びも見られると楽しいなーと思います。



……ね。



どーなんだろ。



まだ自分たちの体に、『アマガミ』や絢辻さんは息づいているんだろうか?
そんなことを思い返す価値を感じさせてくれる作品だったと思います。




……以上が、あなたが書いて、私が読んだ、
PS2版『アマガミ』の絢辻さんSS、「Plastic・Joy」の感想だったワケです。
相変わらずナニ言ってっか半分以上わからない感想だけれども。
どーでしょうね。

謎多き絢辻さんの物語、
そこにどんな自分なりの解釈を加えるか、
どの絢辻さんを自分の一番好きな絢辻さんに据えるか。
なんかこう、ゲームの『アマガミ』の絢辻さんでSS書いちゃうっていうのは
オノズとそういうトコが出ちゃうんで。

やっぱりこう、この作品に関しては、
みんなに「おめでとう」って言われちゃう、そういう絢辻さんだったよね、
と言うところが全てだったのかなと思います。



「ポチャーンって、安物のくせにずいぶん良い音がしてたわ」



次があるなら、是非。
カナダの森で、インドネシアのジャングルで。
絢辻さんが一体どんな絢辻さんらしさに出会うのか。
そんな話を読みたいです!  ← 無茶を言うな

オイサンも未だに書いてます。
次は、梨穂子で。
誕生日に間に合うといいけど、無理だろうなw



マそんなんで。
またお会い出来る機会があったら、面白い話を聴かせてください。
ホント、2年もすみませんでした。

気長によろしく。
オイサンでした。



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2015年11月 1日 (日)

■秋色シグナル~白樺湖・車山高原へ、『冴えカノ』巡礼に行くのこと -更新第1014回-

先週末、長野県は白樺湖まで、
『冴えない彼女の育て方』の聖地巡礼で白樺湖へ行ってきました。

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だって隊長が行きたいって言ったんだもん。
高山で『氷菓』の巡礼の最中に言ったんだもん。


 「だったら私たち、行くしかないじゃない!!」(アラフォーが黄色のコスプレで

  ……アラフォーの黄色コス見たくなってきた。
  似合いそう。(似合うものか


マ詳細なのはまた別途。

あまりにも……
眺めが素晴らしく、
宿が素晴らしく、
空模様が素晴らしく、
道模様が素晴らしく、
『スプラトゥーン』が素晴らしく、
あ、隊長の戦績はなんかイマヒトツだったみたいですけど、
あと白樺湖畔のおそば屋さんもふつうでしたけど、
白樺湖畔もだいぶん過疎ってましたけど、
えーとね、なんだっけ、
総じてものすごく素晴らしい旅だったので、
温度が高いうちにお写真だけ何点か見せびらかしておこうと思います。






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白樺湖。北海道の然別湖に似た匂いを感じました。

Dsc07242
湖畔のそば屋。トータル普通の評価ですが、おそばの味の濃さ、ねっとりした歯ごたえは、
結構なインパクトでオイサン的には◎でした。

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車山のてっぺんにあったお宿。素晴らしい眺望でした。

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黎明。深夜だけ雨が降ったせいで、残念ながら星を収めることはできませんでしたが
それ以外は本当にもう、恐ろしいほどの好天。

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朝日を浴びた車山。

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獣の背中の様な山容と蓼科山。こういう山の雰囲気が大好きです。
摩周岳っぽいよね。

Dsc07527


いやー……もうね。
素晴らしかったよ。
何よりもう、天候が完璧でした。天気がいい、気候がいいって素晴らしい。

あ、朝は2℃とかで、朝ジョギングは命がけでした。
まともに走れんやった。

Dsc07543

Dsc07580
こういう風景を見るたび、
「RPGの冒険者たちは、こういう中を道もなく歩いていくのだなあ」という気持ちになる。
「あの湖の畔に目指す集落があるはずだ」とかね。
うらやましくもあり、気が遠くなるようでもあり。
かつての地球には、そういう地面しか無かった筈だね。
デ、きっと今でも、そういう場所の方が、まだ多いはずなんだけど。
自分たちがぬくぬくした場所にとどこまってるだけのはずなんだけどね。


Dsc07633


あと、早朝にアラーム鳴らしたのに起きなくてすみませんでした。
だらしないアラフォーで申し訳ない。
こうやって、みんなの前で若さを失っていくんだな……


Dsc07651

Pa270009
そしてお迎えした、新しい装いの娘さんと青こしょう醤油。
この醤油がまたうめえ。
血圧が上がる(アカン







 

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2015年9月23日 (水)

■特急ヴェガ~SS『お嬢様特急』より -更新第1002回-

※このSSは、
「風韻軌道~過ぎ去りしあの夏のホーム~SS『お嬢様特急』より」
(-更新第1001回・1002回-) の元になった、
2000年作のSSを、手を加えずそのまま掲載しておりますデス。
何が言いたいかと申しますと、
「チョイチョイおかしいトコあるけどその辺は新し方でフォローしてるんで目ェつむってや」
ということです。
それが分かった勇者だけが読んでもいい。
  

 
 
 
『心地よいリズムが否応なしに体に刻まれるから、列車の
旅は乗客たちに不思議な一体感を生む、と列車好きたちは
口を揃えて言う。果たしてそれが真実なのかどうかは、生
物学や、或いは心理学の先生に譲るとして、今はそのリズ
ムに、身を任せていたいと思う。
 レールを敷かれた人生の下らなさを誰もが声高に謳うけ
れど、降りたホームで時間をつぶして次の列車に乗るもよ
し、特急列車に乗り換えて、前を行った列車を追い抜いて
見せるのも痛快なものだ。同じホームに立ったとき、いつ
やってくる列車に、どのドアから、どんな荷物を乗って乗
り込むのか、そして、隣に誰が座るのか。それは自分次第
なのだから。
 きっとそれは、答えを求めるまでのとても重要なプロセ
ス。人の一生は、きっと誰もが同じ一本道のレールの上だ。
けれど、力ある人はレールを曲げるし、知恵ある人はスピ
ードを変える。思わぬ事故。見たことのない駅。各駅停車、
特急列車、それだとて、すべての選択肢を目の当たりにす
る人がどれだけあるだろうか。決して完璧な自由ではない
けれど、人の手に余りあるほどの道が、その一本のレール
の上に広がっている』
 そこまで書いて、僕は万年筆を握っていた手を止めた。
大きく伸びをした窓の外は、もう暗い。山間の峡谷を今、
特急ヴェガは走っている。線路沿いに並んで立つ街灯の灯
りだけが、時折尾を引いて後ろへ後ろへ滑っていく。遠く
山の上には、それとは趣の違った星の光も見える。寄り添
って立つはずの木々の葉の一枚一枚はその鮮やかな緑色を
闇に黒く塗りつぶされていた。
 僕は固まった首と肩を押さえ、喉が乾いていることに気
が付いた。個室のソファから立ち上がるともう一度大きく
伸びをした。決して広くはないけれど、ここまでの十日あ
まり不自由を感じたことはない。さすが超豪華列車を名乗
るだけのことはある、と感心させられる。もうじきこの旅
も終わる。部屋を見渡して少し寂しさを感じながら、僕は
売店に足を向けた。



    ×     ×     ×



 車内の売店で、"ちひろさん"お勧めの缶コーヒーを買い、
客車の通路を縫って歩く。展望車まで行って空を眺めたい
と思った。
 列車は瀬戸内海を遠く臨んで走っている。広島を出、小
郡を通過して関門海峡に差しかからんとするばかりだ。山
と、谷と、その隙間から海の覗く風景の繰り返し。社内は
冷房が効いていて快適だが、窓ガラスを一枚隔てた外の熱
気は、日本の夏そのものだった。
 数時間前に、小郡で三十分の小停車があった。日が落ち
る寸前の時刻だというのに、ちょっとホームに降りただけ
であっという間にシャツが汗でずくずくになるほどで、西
日本の熱を僕は初めて肌で知った。そのホームで、名古屋
から乗ってきた"風音さん"に頼まれて写真を一枚、撮った。
ファインダー越しに覗いた、斜陽を眩しそうに遮る彼女の
顔が、いつもの晴れ晴れとした明るさを映しながらどこか
物憂げな色を帯びていたのは、夏の黄昏がそんな色をして
いるせいだけだったろうか。
 展望車に向かう途中、4号客車とその更に後ろに連なる
展望車とを繋げるデッキに差し掛かったとき、お尻のポケ
ットで携帯が震えた。未だ使い慣れないそれを、それこそ
缶コーヒーを取り落としそうになりながら捕まえて耳に押
し当てる。
 一体誰からだろうか?家族には、旅情がそがれるからよ
ほどのことがない限り鳴らしてくれるなと念押しをしてあ
る。持ち始めのこの電話の番号を知る友人も数少ない。わ
くわくしながらボタンを押す。我ながらわざとらしいと自
嘲しながら。相手は一人しかいない。
「あ、もしもし。あの、私、千歳です。今、大丈夫?」
 それは、広島で、このヴェガを降りた友人からだった。
丸一日かかってようやく埼玉は上尾にある実家に帰りつい
たという、彼女からの報告だった。
 ヴェガに乗ってしまったことで、結果的にとはいえ推薦
入学を蹴ることになってしまった彼女への、周りからの、
殊に家族親類からの非難は強く、さすがに何から何まで万
事無事といえるほど上手くはいっていない様子だったけれ
ど、それでも、今の彼女は多少の困難は乗り切れるだろう
と思う。
 彼女は答えを見つけた人だった。目の前に停まっていた、
始めから終わりまでを敷き切られたレールの上に乗った、
哀れなひと連なりの列車。お金も、ゆくあてもないままに
飛び乗っていい筈がないことは聡い彼女には当然分かって
いたはずだった。
 明日のことがある。昨日までの自分もいる。そんなこと
は今こそ痛いほどに知っていたはずなのに、彼女はその哀
れな超豪華列車に答えを求め、身を委ねたのだった。終わ
りある、選択の余地のない一本のレールをたった一度きり
走るために生まれたこの列車に、彼女は潔いまでの覚悟を
見てしまったと言った。
 そして答えを見つけた。むしろ、ないはずのそれを自分
の中に作り出し、旅に出てしまった自分への一つの解答を、
彼女は列車を降りることで体現して見せてくれた。ヴェガ
を降りて帰り着いた郷里の町は、今まで見たことがない色
をしていただろう。昨日までの明日は、もうそこにはなく
なっていたはずだ。
「じゃあ、そろそろ切るね。旅行、気をつけてね」
 電波に乗ってやってくる彼女の声はデジタルに変換され
てもその思いは損なわれず、しっかりと僕に届いて消えた。
まるで自分が励まされているような。ただ無責任に、ふわ
ふわと勝手なことを言っているだけの楽な自分が。
 一日ぶりにそんな彼女の強さに触れて、彼女の言葉を思
い出していた。

 不思議だわ。人に迷惑をかけているのに、自分が間違っ
ている気がしないの。

 僕はしばらくの間、点滅する携帯電話の液晶画面を見つ
め、ぼうっとしていたことに気が付いて、それをポケット
に押し込んだ。
 一歩足を踏み出すと自動ドアがさっと開き、デッキより
も一、二度低い冷気に体が飲み込まれる。展望車のラウン
ジは、壁も天井も、壁面のほとんどがガラス張りになって
いて、辺り様子が一望に出来た。旅の始めの頃、夜の北海
道を走ったときはその天然物のプラネタリウムのものすご
さに圧倒され、東北の山並み、見慣れたはずの東京の人の、
暮らしの群れにもいたく胸を打たれたものだった。
 この列車の始発点、北海道から僕は乗っている。本当に
線路がどこまでも続いているのか、それを見てみたかった。
出会いを求める気持ちもあった。これまでの日常を振り切
りたい気持ちもあった。ただ今になって思うのは、実は一
番強く胸の中にあったのは、もっと日常を愛したいという
気持ちだったのではないか、ということだった。人が旅に
出るのは帰る場所を探すためで、旅に出て、帰って来て、
やっぱり家が一番だとつぶやくように訴えたいからなんじ
ゃないだろうか。帰る場所が出発点と同じではないことも
あると思う。そのときには、新しい自分の帰る場所を作り
だし探し出して、これから続き続ける日常を、ただ当然に
そこにあるものやコトを、何より愛しく感じることが、人
生を正しく素晴らしいものに変えてくれるのではないかと、
今僕は期待している。その気持ちさえ、旅に身を委ねる時
間のいたずらなのかも知れないけれど。



    ×     ×     ×



 扉が開いた瞬間、さして広くもない展望車のどこかから、
あっという驚きの声が小さく上がった。声がした方を振り
返ると、いつもの飾り気の無いワンゲルルックで身を固め
た風音さんの警戒するような顔が見つかった。それもほん
の一瞬で、入って来たのが僕だと分かって頬を緩めてくれ
る。仕方のないことだった。僕も軽く笑い返すと、彼女の
もとへ寄り、足下に丸まっている愛らしい毛糸の固まりを
撫でてやった。
「よう、ゴロー、元気か?」
 ナップザックからはみ出ていた毛むくじゃらの固まりは
僕の声に反応し、もぞもぞと蠢いたかと思うと、黒目がち
な瞳を現して僕の鼻先に荒い息を吐きかけてきた。小熊の
ゴロー。山で拾ったゴローを再び山に返すための旅を、風
音さんは続けている。
 いくら特急ヴェガが自由な列車だと言っても、この猛獣
の子供を連れ込むことが許されているはずもなく、それに
ついては僕も風音さんも共犯だった。無邪気にのどを鳴ら
すゴローにじゃれつかれるだけでも、遊び相手には相当の
覚悟が必要だ。比較的慣れている僕や風音さんでもこの始
末だから、少しでも敵意のある人間が近づこうものならど
うなるか分かったものではない。こんな時間だから、自室
の外に連れ出してやることも出来たのだろう。
 窓の外は山、谷、海、谷、山。草いきれと水の匂いが伝
わってきそうな世界。たくさんの景色を映し出してきたこ
の窓の向こうに、もうすぐ見えてくるものがある。
「じきに九州だね」
 彼女の隣に腰を下ろして、残りのコーヒーをあおった。
もうほとんど残ってはいなかった。
「そうですね。もうすぐ、終点ですもんね」
 世間話のつもりで笑顔でそう返した風音さんは、僕の言
葉の意図に思い至ったようで、瞳に影を落とした。我知ら
ずうつむき加減になる視線の先にゴローがいる。そのとき
の彼女の胸にどれほどの痛みが走ったか、つらい別れをま
だ知らない僕には知り得なかった。ただ、ハーフパンツの
膝の上で固められた拳がその痛みを物語っていた。
 名古屋からヴェガに乗ってきた風音さんはずっと、ゴロ
ーを放すのに適した山を探してきた。自分で別れの場所を
探す、タイムリミットつきの列車行。誰が言い出したのか
知らないが、発案の主はよくも残酷なことを思いついたも
のだと思う。ここから先、ヴェガの停車する駅はたったの
三駅しか残っていなかった。博多、阿蘇、そしてヴェガの
ためだけに用意された終着駅「夢の崎」。別れのときは確
実に、忍ぶことすらせずに足音を立てて近づいていた。カ
タン・コトンと響く、眠気さえ誘うその音を、今彼女はど
んな風に聞いているのだろうか。否応なしに刻まれるリズ
ムが彼女の胸の痛みを僕に共感させてくれはしないかと期
待したが、それは詮無いことだった。彼女にとって、この
特急ヴェガは別れの瞬間に向かって冷徹なまでの猛スピー
ドで一直線に突き進む砂時計でしかないのかも知れないと、
冷静に思っている自分が申し訳なかった。
 気が付くと、僕は彼女の拳に手のひらを添えていた。風
音さんは驚いたように、少しだけ高い位置にある僕の顔を
降り仰いだ。その頬はわずかに朱味を帯びていて、彼女の
全身が一瞬で緊張するのが、小さくやわらかい手の甲から
も伝わってきた。けれど、彼女はまた徐に視線をおとし、
言葉に詰まる。暖かな気持ちがにじみ出すように弛緩して
いくのも分かった。僕は、言葉を慎重に選ばねばならなか
った。
「その、山は、まだ見つからない……?」
「……はい」
「そう」
 相応しい山を見つけた暁には、その別れに僕も立ち会う
ことになっていて、彼女の決心が鈍ってしまった時には無
理矢理にでも風音さんをゴローから引き離すという、悪魔
のような役目を与えられていた。彼女と出会ったばかりの
頃のことだ。初めは、僕も彼女も特別な感情を持たないも
の同士であることが互いにその役割に最適であると考えて、
頼み、引き受けたことだった。しかし今となってはそれも
容易くない。かといって、今更それを他の人間に頼むこと
も、譲ることも、もはや簡単なことではなくなっていた。
「誰が、言い出したことなの?」
「え、と、それは……」
 そのとき、彼女に重ねて、車内アナウンスが割って入っ
た。
『このたびは特急ヴェガにご乗車戴きまして、誠にありが
とうございます。当列車は間もなく、博多に到着いたしま
す。尚、当列車は博多で二十四時間停車致します。お降り
のお客様は……』
 柔らかに鳴る電子音につられて、思わず二人して、天井
のスピーカーをぼんやりと見上げてしまった。先に動き出
したのは風音さんだった。アナウンスの流れ終わるのを待
たずに、風音さんはいとおしそうにゴローの頬を撫で、そ
うされたゴローは満足そうに喉を鳴らして自分からナップ
ザックの奥へと帰っていく。見守る風音さんは穏やかさを
取り戻していた。まるで全部分かっているような、少し哀
しい、少し厳しい目をしていた。そして、見とれる僕を尻
目に勢いよく立ち上がり。驚くほど綺麗な微笑みで僕を見
下ろした。
「さ、行きましょう?降りる準備しないと」
 僕は促されるままに立ち上がり、歩き出す。元気よくナ
ップザックを背負い直して、トコトコと自室に向かう彼女
の後に続き、尻尾のように左右に触れる後ろ髪を見ながら、
さっきの続きを聞こうと思った。
 視線を横へ送ると、列車はいつの間にか山間を抜けて、
徐々にスローダウンを始めている窓の外に少しずつ町の灯
が映り始める。流れていく町灯り。近くのものはものすご
い速さで、遠くのものは緩やかに。それはさながら僕たち
の日常の様だった。無数の町明かりの中で、どれだけの人
たちが、どんな当たり前を営んでいるだろう。彼らは夏休
みの十五日間だけを走り過ぎて行く、特別すぎる日常を笑
い飛ばすのだろうけれど、それすらもやがて痛みを伴った
日常に溶け込んでいくことを知って欲しいと思った。駆け
抜けていくこの一列の光の帯は、決して頭上高くで瞬いて
いる、星の光ではないのだと気付いて欲しかった。



    ×     ×     ×



 目の前で自動ドアがさっと開く。足を踏み出す。背後で
ドアの閉まる音がして、にわかに慌しくなった客車では、
一人旅の学生やスーツ姿の男、子連れの家族や、或いは車
内で働く人たちが大勢動き回っていて、僕たちが入ってき
たことなど気にも留めない。前を歩いていた風音さんがさ
っと身を翻し、僕の隣に並んだ。
「どうしたんですか?ぼおっとして」
「へ?なんでもないよ。風音さんこそどうしたの。急に元
気になって」
 風音さんは答えなかった。
「あの、博多ではどこに行くか、もう決めてるんですか?」
「いや、まだ決めかねてるけど」
「じゃあ、中州なんてどうです?」
「中州? 別にいいけど、どうして?」
「意味はないですけど。なんとなく何か面白いことが起こ
りそうじゃないですか」
「じゃあ足を運んでみるかなあ。ああ、でもなあ……」
 後日、僕は風音さんの手を引いて、阿蘇の麓に広がる野
を駆け渡ることになる。風音さんは抵抗をしない。ただ、
ゴローのいた方を何度も何度も振り返り、黙ったまま、僕
を責めるでもなく、感謝するでもなく、走り出す方向を決
めることが出来ずにそこに吹く風に流されるように、その
細っこい体のベクトルを僕の手に預けることになる。それ
はこの時の笑顔からは信じられないことだったのだけれど。
 もうすぐ終わりを迎えるこの旅の中で、僕は一体何を決
め、何を変えてきただろう。ままならない時間と空間の流
れの中で、せめて自分のすべてだけは自分で決めてきたと
思ってきた。けれどそれすらも、天にかけた願いのその叶
いに似て、どこからか返ってきた答えの積み重ねでしかな
かったとさえ思う。答えは僕が出したものじゃなく、僕が
した、一瞬の瞬きの答えでしかないと。
 そんな僕の今はというと、どこに遊びに行くかも自分で
決められない、所詮はそんなマイニチなのだけれど。
 
 
 

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2015年9月16日 (水)

■風韻軌道~過ぎ去りしあの夏のホーム~SS『お嬢様特急』より・あとがき -更新第1002回-

はいこんばんわ。
おっさんです。 ← 読んでるやつも大体おっさんだわ

記念すべき更新第1000回目・1001回目は、
安定のオッサンホイホイ、まさかの『お嬢様特急』からのSSです。
いかがでしたでしょうかね。
皆さんの「俺は一体何を読まされたんだ」という顔が目に浮かぶようです。

と言っても完全新作ではなく、2000年頃に書いたものを見直してリライトしたもの。
さすがに98年発売のゲームの内容を事細かに憶えてはいない初老の私です。

『お嬢様特急』は98年にメディアワークス(当時)から発売された、
プレイステーション/セガサターン向けの恋愛アドベンチャーゲーム。
ディスク2枚組。
ちょう大作です。




真夏の15日間をかけて、北海道は稚内から、九州・鹿児島の南端までを旅する
超豪華特急列車『ヴェガ』での旅で巻き起こる恋愛模様を描いた作品です。

  ……たかが日本縦断に15日もかけて、何が「特急」なものか、
  というツッコミはこの際ナシで。

あとオイサンは鉄道関連には詳しくないのでよーわかりませんが、
車輛とか路線とか、その辺のリアリティについてもきっと突っ込みどころ満載の
トンデモ世界観だと思うのだけど、マその辺も、
98年製のギャルゲーだということで大目に見ると
きっといいことがあると思います。

  大体アンタ、企画だかがあかほりさとるで、シナリオ構成だかが花田十輝ですよ?
  真面目に相手するとアナタ、損しますよ。
  笑って流すのが粋ってものです。

とはいえオイサンも、コレを読み返してみて真っ先に出てきた感想が、

「イヤ風音さん、そういうコトしちゃだめだろ」。

でしたね。
クマて。
そもそもクマを拾ってきて飼っていいのか、
申請すれば飼う許可くらいはおりるのか? ってトコから始まって、
またそれをヨソの土地へ行き当たりばったりに捨てに行くっていうのが……
なんかもうこのコったら色々と片っ端からアウトなんじゃないか、と
ドキドキしてしまいまいた。

  オイサンが悪いんじゃねえぞ。
  原作からしてこういうエピソードなんだからな。

マ主題はそこにはないのでそんなツッコミも野暮っちゃ野暮、
とはいうものの、主題を楽しむ前に気になってドキドキしてしまう物事があると
主題に集中することを妨げるノイズにしかならんので……
その辺はキチンとしないとなあ、と思う。
ただこの辺の要素は原作マターなので、根本からナシには出来なかったけども。

それと、
「実際、九州の阿蘇地方にクマは棲んでるのか?」
「本当に、棲んで繁殖するのに適しているのか?」
ということも気になってしまい……色々調べてしまった。

結論から書くと、

 ・飼う → 申請して通ればOKっぽい。
 ・捨てる → どうやらNG。犯罪です。
 ・阿蘇にクマは?
    → 2012年時点では、大分・宮崎・熊本3県で、野生絶滅宣言が出されている。
     ゴロー超孤独。
 ・阿蘇はクマが生きるのに適している?
    → 生きられないことはないだろうが、適しているとはいえない。



九州では野生のクマは、オフィシャルな記録としては絶滅しているらしい。
けど、それらしい生き物の目撃情報なんかはワリと頻繁にあるみたいですね。
見つかれば70年ぶりだとかで。

ゴローちゃんを捨てた後で土地の人が襲われたとか、
襲った熊が撃たれて死んだとか、
そういうことになったらそれはそれでまた凹むんだろうなーこの子、とか、
ほぼ絶滅状態のところに放したりしたら、
先々ゴローが生き残れたとしても相方見つけられずに一人で死んじゃうじゃん、
とか考えて、
風音さん……もうチョイ場所や方法を、調べるなり、
……見た目だけで山を選ぶんじゃないよw!吟味しなさいよw
と、思ってしまった。

別にねえ、
お話を作る上でそういう考証の正しいことが全てだとは思わないけれども、
要らんノイズはなるたけ自力で排除して頂きたい所存。

とはいえ。
振り返ってみればこのゲームが発売されたのが、1998年。
企画はそれ以前の1997年から電撃G's誌上で動いていたわけで、
インターネットが、ギリギリ? ぼちぼち? 
先進的なご家庭には導入されたか、
気の利いた企業では使い始めてるか、っていう頃合いではないだろうか。

それを思えば、風音さんのような田舎の女の子が
(名古屋からの乗車になってるけど、岐阜の山奥とかに住んでると思うんだよね……)
どこまで気の利いた調査を出来るかと言われたらちょっとどうかナーと思うし、
そこはある意味ではリアルなのかもしれない、致し方なし、
と思うところもある。

そんでまた風音さんならずとも、
98年当時のギャルゲーのシナリオ屋さんがそこまで気の利いた調べ物をするかと言われたら……
ねえw?
イヤ、ホントはその辺ちゃんと調べてシナリオも作るべきだと思いますけどね。

今でこそ、ブラウザ立ち上げてチョチョイのチョイで
かなりそれらしい情報まで入手出来てしまいますし、
どこにどんな山があり、
そこにどんな植物が生えていて、どんな生き物が棲んでいるのか、
ということまで分かってしまう。

これを当時調べようと思ったら、それだけでも結構な手間だったんではないでしょうか。
シナリオライターはともかく、風音さんにそれが出来たか、アタマが回ったかは、
やっぱり「NO」なんじゃないかなあ、と思うオイサンです。

しかしまあ、それを思うと……すごい時代になったものですね。
当時とのそんなギャップに思いを馳せながら感慨にふけってしまったオイサンです。
イヤほんとスゴイ時代だよ。なんでもわかっちゃうものね。

あと、時代の流れといえば最初に驚いたのが、
作中で出てくる「小郡の駅で写真を撮る」シーン、
これも原作にあるイベントなのだけど、
ハテ2000年当時の俺はずいぶん適当に風景描写をしているようだけど、
小郡ってのはどんな土地なんだろう、どの辺にあるんだろう?
と思って調べてみたところ

……オイサンがコレを書いた2000年当時だって、
  今ほどご家庭でホイホイとネット検索が出来たわけでもなければ、
  地図やらが参照できたわけではないですからね。
  思い切り想像で描いていたものと思われます……

……?
小郡って、九州にあるぞ?
とビックリ。

実は98年当時、「小郡」という名前の駅は山口県と九州の両方にあり、
ゲームに出てくる山口県の方の小郡は2003年に「新山口」として駅名を変えていて、
2015年現在、駅名が消滅している。
地名はありますし、駅も「新山口」として存在するんですけどね。
駅名だけがない。コレにはびっくりいたしました。
博多との位置関係をまったく間違えて書いたのかと思ったよw
おどかすんじゃねえよw

マそんなんで、そもそも色々といい加減さをはらんだ感じの物なのだけど、
そういう作品の外側ではなく内側については、
案外自分がちゃんと原作に則って書いてたことにびっくりしましたw 
小郡で写真を撮るのがゲーム内イベント通りだとか、
さとみちゃんのせりふをチョイチョイ差し挟んでいるとか。
分かる人には分かると思います。
まじめだなあ、若い頃の自分w
いまだとそっちの方がユルいかも知れんw ← ダメだろ

正直、ゲーム自体については、
どのヒロインのエンディングを見たかとか、あまりよく覚えていません。
千歳さとみちゃん、風音さんは確実で、
幼なじみの妹キャラであるつばさ、
地味アート系の真美さん、パワーキャラの星奈……
この辺までは、多分確実。
アイドルキャラの飯山みらいちゃんも、多分クリアしていると思う。
後半以降に乗ってくるヒロインたちは、あんまり見てない気がする。

ゲーム自体、冒頭でも書いたように
ものすごい黄金タッグによるオシゴトであり、
色々とインパクト重視で雑な感じなので、
そんなに……心が動かされず、冷めた目でクリアしてたように思います。

唯一、作中にも出した千歳さとみちゃんのセリフだけが、
きゅっと心を締め付けた記憶があるくらい。

  そこまで好きなゲームでもなかったんでしょうね。
  なんで書いたの? 2000年の俺……暇だったの?

とまあそんなんなんで、面白かったらお慰みっていうか……どうなんだろ。
これまでも何度か再掲しよう再掲しようと画策し、
そのまま載せるのはちょっとなあ、という気持ちがどうしても先に立ってしまって
今になってしまったわけだけど。

……まあね。
読む人たちは原作を知らない方がほとんどだと思うけど、
楽しんでもらえたら幸いです。


あ、あと、
せっかくなので、あとで2000年当時の版も、
並べて上げようと思っています。

ほぼ別物になってますけど、
何がどんな風に変わったか、楽しんでもらえたらこれまたサイワイ。
まオマケ程度ですけどね。



以上、
リライトがようやく形になったな、と思った瞬間、
阿蘇山が爆発してワリカシびっくりしたオイサンでした。



ご、ゴローーーーーーーーーーーーーーーー!!!


ではまた。
 
 
 

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2015年9月15日 (火)

■風韻軌道~過ぎ去りしあの夏のホーム~SS『お嬢様特急』より・後篇 -更新第1001回-

 
 
 
    ×     ×     ×
 
 
 
 ざっと見渡したところ、展望車に人影はなかった。たそ
がれて景色も見えず、もうじき次の二十四時間停車をする
博多だから、ほかの乗客たちは部屋で降車の支度を進めて
いるのだと思う。いつもはだいたい混みあっている展望車
がこのタイミングだけは人が減る、それを知っていたから
ここへ来てみた。
 さて、どの席でのんびりしようか? 車両を奥へ向かっ
て歩いていたら、ほとんど最後尾の座席の影から小さな囁
き声と、何かおおきなものが蠢く気配が伝わってきた。聞
き覚えのある丸みを帯びた柔らかな声と、心を少しざわつ
かせる気配……ざわつきの理由は、その正体を知らなけれ
ば到底確信の及ばないところだと思う。
「風音さん?」
 僕は周りに本当に人がいないかどうか気にしてから、シ
ート何列分か離れたところから、気配の方へ向けて声を投
げた。すると、息を殺す気配も、空気がモゾモゾこすれる
感じも収まって、最後列から一つ手前の座席の影から、明
るい髪の形の良い頭が、ゆっくりと姿を覗かせた。やっぱ
り、風音さんだ。
 彼女の普段着である実用的なアウトドアルックで身を固
めた風音さんは、最初警戒の眉毛をしていたけれどそれも
ほんの一瞬で、入って来たのが僕だと分かると頬を緩めて
くれた。仕方のないことだった。
「ようゴロー、元気か?」
 風音さんの座席の足下には、その山岳スタイルに見劣り
のしない、五十リットルかもっと入りそうなザックが置か
れているけど、その中身が山の道具ではないことを、僕は
知っていた。
 ザックの口からは、いまも慌てて押し込んだのだろう、
パッと見はフリースか毛布かという丸められた毛の固まり
が少し覗いていて危なっかしい。その毛むくじゃらが僕の
声に反応してもぞもぞと蠢き、狭いはずのザックの中で器
用にぐるりと身を翻したかと思うと、くりくりとつぶらな
瞳が二つが現れた。風音さんが山で拾い、山間の集落にあ
る実家で育てていたという、熊の子どもだった。ザックの
口から鼻先だけをのぞかせ、嬉しそうに、僕の顔へ温度の
高い息を吐きかけてくる。小熊のゴロー。風音さんは、こ
のゴローを再び山へ返すために、返せるような山を探しに、
ひとに勧められてこの列車に乗ったのだと語った。
 いかにヴェガが特別で豪勢で、事前の申請があればペッ
トの同乗も許可される自由な列車だからといって、この猛
獣の子どもを連れ込むことが許される筈もない。それを見
過ごしていることについては、僕は風音さんと共犯だった。
無邪気にのどを鳴らすゴローにじゃれつかれるだけでも、
遊び相手には相当の覚悟が必要だ。風音さんや比較的懐か
れている僕でもこの始末なのだから、敵意を持った相手が
近付こうものならどうなるか分かったものではない。ひと
気の失せるこんなタイミングだから、少しでもゴローの気
分を和ませるためにと、自室の外に連れ出してやることも
出来たのだろう。
「じきに九州だね」
 僕は彼女の隣に腰を下ろして、もうほとんど重さを感じ
なくなったコーヒーの缶をあおった。案の定、一滴、二滴
しか残っていなかった。
「そうですね。私、博多は、って言うか、九州が初めてな
ので楽しみです。その次は、阿蘇……でしたっけ」
 世間話のつもりで返したのだろう、笑顔だった風音さん
は、僕の言葉の意図に思い至ったようで、表情に影を落と
した。我知らずうつむき加減になる視線の先にはゴローが
いる。ゴローはその理由を知るはずもなく、ただ不安そう
な様子の風音さんを慰めるように、心細げなのどを鳴らし
た。そのときの彼女の胸に走った痛みがどんな色をし、ど
んな形、どんな音だったのか、つらい別れをまだ知らない
僕には知り得なかった。ハーフパンツの膝の上で固められ
た掌から、その中に握り込まれたもののかたちを思うしか
なかった。窓の外を流れていくのは、山、谷、海、谷、山。
いまはもう宵闇に沈んでいるけれど、草いきれと水の匂い
が伝わってきそうな世界が広がっている。やがて山が途切
れがちになり、なだらかな平野を抜け、橋を越えて、町へ
となだれ込んでいくだろう。
 たくさんの景色を映し出してきたこの窓の向こうに、も
うすぐ見えてくるものがある。
 風音さんは名古屋でヴェガに乗り、途中途中の長時間停
車駅で、ゴローを放すのに適した山を探してきた。それは、
ゆく先々で別れの場所を探す、タイムリミットつきの列車
行だった。ここから先、ヴェガにはたった三つの停車駅し
か用意されていない。もうすぐそこまで迫っている博多、
阿蘇、そしてヴェガのためだけに用意された九州最南端の
終着駅「夢の崎」。
 山が見つかった暁には僕もその別れに立ち会う約束をし
ていて、彼女の決心が鈍った時には無理矢理にでも彼女を
ゴローから引き離す役目を与えられていた。彼女と知り合
い、ゴローの存在を知って少ししてからのことだ。その頃
は、僕も彼女もお互い特別な感情を持ちすぎない者同士で
あることがその役割に適当だと考えて、頼み、引き受けた
ことだった。うたかたの旅の時間が許した悪戯だというこ
とも自覚している。けれど今となっては、彼女がそれを他
の人間に頼むことも、僕が誰かに譲ろうとすることも、簡
単ではなくなっていた。
 彼女の事情を知ったとき、なぜこのヴェガである必要が
あったのだろうと不思議に思ったものだった。けれど、い
まは何となく、風音さんにこの旅を持ちかけた人の強い気
持ちと思いやりがない交ぜになった複雑な感情に、爪の先
程度とは言え触れられる気がしていた。それなりに年齢の
いった人の発案だったのではないだろうかというのは僕の
憶測だが、一度きりのやり直しのきかない旅であることと、
そこに至る必然的な時間が彼らには必要だったのだろう。
 カタン・コトン・カタン、と、在来線ほど強くはないけ
れど三つワンセットで静かに繰り返される、ときに心地よ
く眠りにさえ誘うその響きを、彼女はどんな風に聞いてい
るのだろうか。じっと身をゆだねていると、線路を踏むそ
の足音はどんどん加速していくようにも感じられた。否応
なしに刻まれるリズムが彼女の別れの痛みを僕にも運んで
くれはしないかと期待したが、それもまた詮無いことだっ
た。そんな痛みも知らない僕だから、風音さんも大任に抜
擢したのかもしれない。言葉は上手じゃないけれど、生き
物と触れ合うことに慣れているからか、風音さんは思いを
表すことにも、気持ちを汲むことにも、とても長けていた。
 カタン、コトン・カタン、カタン、コトン・カタン、カ
タン、コトン・カタン、カタン、コトン・カタン、カタン、
コトン・カタン、カタン、コトン・カタン。喉を鳴らすゴ
ローを優しくなだめる風音さんの瞳は、逃れようのない列
車の振動に合わせて揺れていた。その横顔を眺めるしかで
きない、僕の目も同じようだったろう。展望車の空調は、
外からの光が昼間強く差しこむ分、他の車両よりも低く調
整されている。そのせいだろうか、それとも長く尾を引く
夜の光跡のせいだろうか、列車が普段より速く、前へ、前
へと、ゴールを求める競走馬よろしく鼻先を懸命に突き出
しているように感じられて、僕は少し不安になった。やが
て車輪の音は渦になり、ほとんど時間の流れを正常に感じ
取れなくなった僕たちを天高く巻き上げて、そのまま地面
にたたきつけようとする。それはだめだ。咄嗟に身をよじ
り、ともに音の渦につかまって舞いあげられたはずの風音
さんの姿を宙空に探した。やはり彼女もまた、音の風に全
身の骨を砕かれたみたいに力なく宙をのぼっていて、その
勢いは頂点に達したところで失われ、ぐにゃりと向きを変
えて、地面に向けて真っ逆さまに落ちていく。彼女を追っ
て僕も向きを変える。落ちていく先の地面に一筋の線路が
見えた。その延びていく先をちらりと目で追ったが、遠く
地平の先にたわんで一直線に消失していた。線路めがけて、
眠っているようにまっすぐに落ちていく風音さんに僕は必
死に手を伸ばし、彼女を捕まえ、抱き留めようとするけれ
ど、肩にも膝にも、まだ力が入らなかった。足が宙を泳ぐ。
せいぜい手をつかみ、引き寄せるのが精一杯だったのだ。
 そのとき、手の甲に触れた感触のやさしさとか細さには
っとなった。ゴローを撫でようと手を伸ばしていたのだけ
ど、何かを感じ取ったゴローはザックに押し込められて身
動きがとれないはずなのに器用に身をよじって、僕の掌を
逃れようとした。ザックごと揺さぶるように大きく動いた
ゴローに驚いて引っ込めた僕の手を、横から風音さんがと
ったのだ。僕は生き物と気持ちを通わせたことがない。そ
の掌に風音さんは、いったいどんな気持ちをこめていたの
だろう。広島で列車を降りるさとみちゃんの背中に見たよ
うな、たったひと筋であるはずのレールに何か別の針路を
見出す力を僕が手にすることは、とうとう、旅の最後まで
無かった。
 これから数日ののち、僕は風音さんの手を引いて阿蘇の
麓に広がる野を駆け渡ることになる。風音さんは抵抗をし
ない。ただ、ゴローのいる方を何度も何度も振り返り、黙
ったまま、僕を責めるでもなく、感謝するでもなく、走り
出す方向を決めることが出来ずにそこに吹く風に流される
ように、その細っこい体のベクトルを僕の手に預けること
になる。
 あのとき、ゴローは理解してくれていたのだろうか。彼
の足なら、遠ざかる僕たちを、追って、追いついてくるこ
となんて容易く出来ただろう。しかしゴローは風わたる阿
蘇の夏草に巻かれる黒い岩の群のうちの一つにでもなった
ように高見から僕たちを見送り、遠く広がる空から流れて
くる、恐らく彼だけに感じる匂いを不思議そうに吸い込ん
でいるように見えた。
 風音さんの体に力は感じられなかったけれど、視界から
消えることのないゴローに結わえられた彼女の視線は、手
を引く僕が前へ進むことを、ときおり頼りない張力で拒ん
だ。
 そんなとき、風音さんは
「走って」
と、それしか言えなくなってしまったような、こわばった
調子で言った。
「お願い、走って」
 そんなに強い気持ちで叫べるのなら、自分で走ればいい
じゃないか。それなのに彼女の足は、僕が引いてやらない
と決して動き出そうとしなかった。僕の前にはレールもな
く、彼女に言われるまま、善し悪しもなく、本当の彼女が
どうしたいのかもなく、ただ言われたままに引いただけだ
った。もっと大きな、寛い何かにからめ取られるように、
風音さんの手を引いて、一面翠と青の、阿蘇の原野を駆け
た。とても必死だった、僕に頼みごとをするときの風音さ
んの目。あのときから彼女は、それがとても狡い手立てだ
と、言葉にはならないけれど――心のとても聡い彼女は―
―どこかで気付いていたのだ。確かな憂いを見知らぬ誰か
と分かち合うことがこんなに狡いことだと知って、強い風
と日差しの中、僕は少し興奮していた。発車時刻には、も
う間に合わない。

『このたびは特急ヴェガにご乗車戴きまして、誠にありが
とうございます。間もなく、博多。博多に到着いたします。
当列車は博多で二十四時間停車致します。お降りのお客様
は……』

 切羽詰まってこわばった風音さんの手が温かな気持ちが
にじみ出すように弛緩し始めたのを見計らったのか、柔ら
かな電子音をともなってアナウンスが割り込んでくる。ス
ピーカーがどこにあるか分からず天井を見上げた風音さん
の手に、僕は少し力をこめて返した。僕は、慎重に言葉を
選ばねばならなかった。
「降りる支度をしないと」
 僕にはそんなことさえ言う資格はないのに、風音さんは
ごめんなさい、とうわずった声で、僕の手を解放するとア
ナウンスが流れ終わるのを待たずにもう一度ゴローの頬を
撫でた。ゴローは小さく喉を鳴らして自分からザックの奥
へ帰っていき、その上からカムフラージュのための小さな
熊のぬいぐるみでふたをする。
「ごめんね」
 口を閉じたザックを背負い直す様子は気遣いに溢れて、
ザックの中でゴローがおんぶの姿勢をとっているのが透け
て見えるようだった。
「行きましょうか」
 困っちゃいましたね、とでも言うような調子と、少し元
気のない眉の彼女に促されるまま僕は立ち上がり、トコト
コと客車へ向かう後に続く。視線を、しょげた背中から窓
の外へ逃がすと、スローダウンを始めた窓の外には町の灯
りが目立つようになっていた。近くは素早く、遠くは緩や
かに。年をとると遠い記憶ほど鮮明に思い出すという話と
重なって、無数の灯りが全部、そこに暮らす誰かの日常の
記憶のともしびに思えてくる。列車を降りた風音さんの帰
る日常は、掛け替えのないものが欠け落ちていることを自
ら約束した日常で、灯りの落ちた名も知らない駅に置き去
りにされる不安とやるせなさをはらんでいる。町では、ど
れだけの人たちがどんな当たり前を営んでいるだろう。外
から見たら、夏休みの十五日間だけを走り過ぎて行くこの
特別すぎる時間は、せいぜい銀河鉄道のようなものだろう。
明日にはこのレールの上も保線員さんが歩き、摩耗し疲労
した軌道の音を聞くのだろう。カタン・コトン・カタンの
リズムに生じた狂いもまろやかに均されて、やがて心地よ
い眠りを誘う振動に溶け込んでいくに違いない。
 娯楽車と食堂車を過ぎると客車エリアに入る。にわかに
慌ただしくなった客車では見るからに一人旅の学生や、ど
ういうわけだかスーツ姿の男や子連れの家族、車内で働く
人たちもめいめい動き回っていて、僕たちが入ってきたこ
となど気にも留めない。僕たちもその中へ、歩調を合わせ、
道を譲り、譲られ、溶け込んでいった。
「博多ではどこへ行くか、もう決めたんですか?」
 売店のところで通路が少し広くなり、前を歩いていた風
音さんはごく自然に歩度を落としていつの間にか僕の隣に
並んでいた。この子は、こうした何気ないこなしが抜群に
上手い。
「うーん、それが、まだ決めかねてる。時間もそんなにな
いし、どこも面白そうで。風音さんは?」
 風音さんは答えなかった。
 もうすぐ終わりを迎えるこの旅の中で、僕は自分で決め
たいくつかのことで、小さな流れを変えてきたつもりでい
た。けれどそれすらも、さとみちゃんの言っていたように、
天にかけた祈りのその叶いに似て、どこからか返ってきた、
誰かの決めた答えの積み重ねでしかなかったと思う。
「じゃあ、中州なんてどうです?」
「中州? 別にいいけど、どうして?」
「ガイドブックに書いてましたから」
 こともなげに、風音さんは笑った。
「何か面白いことありそうじゃないですか? みんなも来
るかもしれないし」
「じゃあ、足を運んでみるかな? ああ、でもなあ。すこ
し考えてみるよ」
 決めきれないまま言葉を濁し、彼女と別れて自室へ戻る
と、小さなデスクの上には書きかけのレポート用紙と筆記
具が出したままになっていた。窓の外、列車は見る見る速
度を殺し、博多と書かれた駅名のプレートがぼんやりした
光に包まれながら至極ゆっくりすべりこんできて、奇妙な
揺り戻しと共に止まった。だらしのない足腰はその程度の
振動にも押し負けてふらついてしまう。僕は浮いてしまっ
た右足を、わざと強く、床にどしんと下ろしてやった。そ
のくだらない震動は地球の裏側どころかレールにすらろく
に伝わらず、がたんと小さく踊ったテーブルの、まだ真新
しい万年筆の向きを、少し転がせただけだった。
 
 
 
(終)
 
 
 

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■風韻軌道~過ぎ去りしあの夏のホーム~SS『お嬢様特急』より・前篇 -更新第1000回-

『心地よいリズムが否応なしに体に刻まれるから、列車の
旅は乗客たちに不思議な一体感を生む、と列車好きたちは
言う。それが本当なのかどうかは、生物学や、或いは心理
学の先生に譲るとして、いまはそのリズムに身を任せてい
たいと思う。
 レールの敷かれた人生の下らなさを誰もが声高に謳うけ
れど、一旦降りたホームで時間をつぶして、次の列車に乗
るもよし、特急列車に乗り換えて、前を行った列車を追い
抜くのも痛快なものだ。同じホームに立ったとき、いつや
ってくる列車に、どのドアから、どんな荷物を提げて乗り
込むのか、それは自分次第なのだから。そして、隣には誰
が座るのだろう。
 それもまた、答えを求めるまでのとても重要なプロセス。
人の一生は、きっと誰もが同じ一本道のレールの上だ。け
れど、力ある人はレールを曲げるし、知恵ある人はスピー
ドを変える。思わぬ事故。見たことのない駅。各駅停車、
特急列車、限られているそれらだとて、すべての選択肢を
目の当たりにする人がどれだけあるだろうか。決して完璧
な自由ではないけれど、人の手に余りあるほどの道が、そ
の一本のレールの上に広がっている』

 そこまで書いて、僕は万年筆を握っていた手を止めた。
伸びをして覗いた窓の外はもう暗い。山間の峡谷をいま、
この特急ヴェガは走っている。線路沿いに時折現れる集落
のともしびが、薄くガラスに映った僕の顔に重なりながら、
尾を引いて後ろへ後ろへ滑っていく。遠く山の上には、そ
れとは趣の違った星の光も見える。寄り添って立つはずの
木々の葉の一枚一枚はその鮮やかな緑色を闇に黒く塗りつ
ぶされていた。
 僕は凝り固まった首筋を押さえ、一つ浅く息を吸って喉
の乾き具合を確かめた。小休止の頃合いだ。ソファから立
ち上がり、もう一度、大きな伸びのついでに見回すこの個
室は決して広くはないけれど、ここまでの十日あまり、不
自由を感じたこともない。さすが、超豪華列車を名乗るだ
けのことはある。けれどこの旅も、もうじき終わる――ド
アを開け、なじみ始めた自分の部屋の匂いが、流れ込んで
きた通路のまだ真新しさが残るカーペットの匂いで薄まる
のに少し寂しさを覚えながら、僕は売店へと足を向けた。



    ×     ×     ×



 車内にある売店で、ちひろさんがイチオシだという缶コ
ーヒーを勧められるままに買い、客車の通路を縫って歩く。
展望車まで行って空を眺めようと思った。列車は瀬戸内海
を遠く臨んで走っている。広島を出、小郡を過ぎて関門海
峡に差しかからんとするばかりだ。山と谷、その隙間から
覗く海、その繰り返し。車内はどこへ行っても冷房が効い
て快適だが、窓ガラス一枚隔てた外の熱気は、日本の夏そ
のものだった。
 そういえば、この缶コーヒーとちひろさんを見て思い出
すのは、旅の始まりにペンケース一式を失くしたことだ。
稚内の駅に忘れたのか、移動の途中で落としたのか……は
たまた、ヴェガ車内のどこかにあるのかは分からない。と
もかく、出発駅の稚内から次の停車駅だった旭川までの間
にペンケースが自分の荷物から失せていることに気付いて
慌て、落ち込んだ気分を味わったのだった。先行きが不安
だ、やはりこんな列車での旅なんて、生来インドア派の自
分にはがらじゃなかったのだと、やたらな悔やみ方をした。
 そのペンケースには特別希少なものや大事なものを入れ
てあったわけじゃない。ケース自体も使い込んだ万年筆も、
個人的な親しみこそあるものの、どこにでも売っているほ
どほどの物でしかなかった。逆にその分、「どこにでもあ
るものだからこそ、しみ込んだ自分だけの時間が大切なの
だ」という、拗れた感覚のほうが厄介だったわけだが。
 旅のはじめからそんな後ろ向きな思いにとらわれている
僕を見かねてか、売店で車内アテンダントを務めるちひろ
さんが教えてくれたのがヴェガオリジナルの万年筆で、ヴ
ェガの運行を記念して作られた海外の有名な文具メーカー
の製品にヴェガ独自の意匠を加えたそれは、失くした相棒
にすぐとって代われるほど魅力的な品物ではなかったにせ
よ、その場をしのぐのと、万が一本家が見つかったあとに
もセカンドとして使い続けるのに十分な風合いを備えてい
た。

「ね? これもなにかの縁ということで、一本いかがです
か? いまならこの缶コーヒーもオマケしちゃいます!」

 そのときは、捌ききれない記念グッズをていよく押しつ
けられた気がしないではなかったけれど、ちひろさんの人
となりを知ったいまではそれが本当の親切心から出たせめ
てもの提案だったのだろうと反省する。それとは別に、彼
女自身、陰気な顔の男がいつまでも車内をうろついている
ことに耐えられなかったのかもしれないと、新しい勘繰り
にほくそ笑んでしまうことはある。
 ケースとそのほかの筆記具については、旭川の文具店で
調達してしまった。店のことは、僕と同じで稚内から乗っ
ていた桜井真美さんに教わった。些細なことがきっかけで
知り合った彼女は、絵を描くのが趣味だというだけあって
画材などの事情に明るく、東京で降りてしまってもう会う
こともないだろうけれど、機会があればもう一度きちんと
お礼をしたいと思う。
 結局車掌さんが連絡を取ってくれた稚内の駅にペンケー
スの遺失物は届いていないというし、旅が終わりに近いい
までも車内を歩くときは気をつけているけれど、そうして
旅が始まると同時に手にすることになった筆記具たちは、
いまやすっかり僕の鞄の中に居ついてしまっていた。とも
あれ、そんな思いにほだされたり、救われたり、まんまと
一杯食わされたりしながら……僕は、こんなところまで来
てしまった。次の停車駅は博多だ。
 小一時間に、小郡で三十分の小停車があった。日が落ち
る寸前の時刻に、ほんのしばらくホームに降りただけであ
っという間にシャツが汗でずくずくになるほどで、西日本
の熱を僕は初めて肌で知った。
 そのホームで、名古屋から乗ってきた風音さんに頼まれ、
僕はカメラのシャッターを押した。ファインダー越しに見
た、駅名の看板と土地の少しの景色をバックに、手のひら
で斜陽を遮る彼女の笑顔が、それまでの晴れ晴れとした明
るさを映しながら物憂げな色を帯びていくのを見るのは、
夏の短い黄昏がそんな色をしているせいだけでないことを
知っている僕には少しきつかった。



    ×     ×     ×



 目指す展望車は、四号客車のあとにさらに食堂車があり、
娯楽車があり、そのうしろに連なっている。その最後尾の
二両を繋ぐデッキの手前でお尻のポケットで携帯が震えた。
未だ使い慣れないそれを、缶コーヒーを取り落としそうに
なりながら捕まえて、早足でデッキへ駆け込んだ。
 一体誰からだろう? 家族には、旅情をそぐからよほど
のことでもない限り鳴らしてくれるなと家を出るときに念
を押してあった。持ち始めたばかりの電話の番号を知る友
人も多くはない。液晶の表示を確かめ、ボタンを押す。我
ながらわざとらしいと自嘲しながら。相手は一人しかいな
い。
「あ、もしもし。あの、私、千歳です。いま、大丈夫?」
 それは、広島でこのヴェガを降りた友人からだった。半
日以上かけてようやく埼玉は上尾にある実家に帰りついた
という報告だった。
 ヴェガに乗ってしまったことで、結果的にとはいえ推薦
入学を蹴ることになってしまった彼女への、周りからの、
殊に家族と親類からの非難は強く、さすがに何から何まで
万事円満と言えるほど上手くはいっていない様子だったけ
れど、それでも、今の彼女なら多少の反発にめげてしまう
ようなことはないだろうと思う。
 彼女は答えを見つけた人だった。目の前に停まっていた、
始めから終わりまでレールを敷き切られ、その上を走るこ
との出来る時間さえ限られた、哀れな……ひと連なりの列
車。十分なお金も、宛もないままに飛び乗っていい筈がな
いことは、聡い彼女には当然分かっていたはずだった。明
日からのことがある。昨日までの自分もいる。右にも左に
も進めない、進みたくない、そんな瞬間に、目の前に開い
たヴェガの白い扉が何かを語りかけてきた、そんな風に思
ったのだという。
「いまにして思えば都合のいい妄想だし、ただの逃避だっ
たと思うんだけど。本当、そこに電車が停まっててくれて
良かったわ」
 控えめに笑い、ちょっと怖い冗談を挟む余裕さえある。
選択の余地も何もない、一本のレールの上をたった一度き
り走るだけの、この列車がどんな風なのか、その先に何を
見ているのか……それを知りたかったし、もしかするとそ
こに覚悟みたいなものがあるんじゃないかと思ったのだと、
彼女、千歳さとみは話してくれた。
 そして彼女は答えを見つけた。列車が運んできたのは新
しいものではなくて、降りるために乗るという、ほんの些
細な時間のずれをこしらえるためのきっかけだった。それ
まではどこにも見あたらなかったそれを自分の中から作り
出し、旅に出てしまったことから終わらせることまでを一
つの解答にして、彼女は列車を降りることで体現して見せ
てくれた。ヴェガの旅から帰り着いた郷里の町は、今まで
見たことがない色をしていただろう。昨日まで、その町に
確かに居座っていた明日は、もう目の前からなくなってい
たはずだ。
 そんなことを言ってもね、と彼女は続けた。
 全部が全部を、自分一人で作り出したわけじゃない。列
車が停まったときそれぞれの駅にあったもの、空気の肌触
りとか、山から聞こえてきた音とか、ごはんの匂いとかが
積み重なって、ちょっとだけ無茶をしてみようという気分
にさせたのだと、だから強いわけでも、偉いわけでもない
のだと、
「本当、ただの偶然なのよ」
と、まるで背中の真ん中でも痛いみたいに、ひどいでしょ?
と笑って話を締めくくった。
「じゃあ、そろそろ切るね。旅行、この先も気をつけてね」
 電波に乗ってやってくる彼女の声はデジタルに変換され
ても思いを損なわず、しっかりと僕の耳の奥に届いて消え
た。まるで自分が励まされているような。ただ無責任に、
ふわふわと勝手なことを言っているだけの楽な自分に。
 一口、二口と缶コーヒーに口を付け、一日ぶりにその強
さに触れ、僕は列車を去ろうとする彼女の言葉を思い出し
ていた。

 不思議だわ。人に迷惑をかけているのに、自分が間違っ
ている気がしないの――。

 しばらくの間、携帯電話の液晶画面に点滅する通話終了
のメッセージを見つめ、それをポケットに押し込むと、ず
っと反対の手に握っていた缶コーヒーが少しぬるくなって
いるのが、やけに敏感に感じられた。僕は――。



    ×     ×     ×



 カタン・コトン・カタン、カタン・コトン・カタン、と、
デッキでは列車のリズムがよりダイレクトに感じられるし、
窓の外を風景も、客車で見るより速く、飾り気無く過ぎ去
って見えた。もたれていたデッキの壁を背中で蹴るように
して弾みをつけ、半歩踏み出すと、ちょうどいい速さで開
いた自動ドアの向こうから流れ込んでくる冷気で全身が洗
われるのを感じた。展望車の室温は、デッキより一、二度
低くしてあるらしい。
 連結部をくぐると、外の世界の光景がほとんど丸ごと、
目に溶け込んでくる。車両の外に投げ出されたような錯覚
に陥って足がぴくりとすくんだ。デッキから展望車へ移る
ときはいつもこうなる。展望車はいわゆるロビーカーで、
壁と天井はガラス張りの部分の方が多いのではないかとい
うくらい視界が広いせいだ。ここへ来れば、列車がいまど
んな場所を走っているのかを、どんなアナウンスより正確
に知ることが出来た。旅の始まりに北海道の夜を走ったと
きは、その天然物のプラネタリウムの幻想的なことに圧倒
され、東北の山並み、見慣れたはずの東京の風景でさえ、
横へ、後ろへと絶え間なく流れていくこの窓から眺めると
まるで一つの絵巻物を見るように新鮮に思えたものだった。
僕の日常は、この窓からだったらいくらかはましに眺める
ことが出来ただろうか。
 この特急ヴェガの始発駅、北海道の稚内から僕は乗って
いる。僕はいわゆる「鉄」ではないし、旅行好きというわ
けでもない。九州の南端に「夢の崎」なんていう専用の終
着駅まで設けて、八月の十五日間を一度きり日本を縦断す
るヴェガのことも、テレビや駅のチラシで少し知っている
くらいだった。奇跡のような確率でこの特別列車の搭乗権
を引き当てた鉄道好きの伯父を見舞った「のっぴきならな
い都合」とやらが、僕にその権利を譲り受ける機会を運ん
で来でもしなければ、他の誰かに眺められる立場で、この
窓の外にいたことは間違いない。伯父ののっぴきならない
事情というのも、簡単にまとめれば「断れない仕事が入っ
た」ということにおさまるのだけど、仕事の原因がふた月
ほど前に地球の裏側で起こった大きな地震にあり、本来受
け持つはずだった職場の後輩はその地震に恩のある先生が
倒れたために伯父に代打を打診してきて、断ろうとしたが
その後輩の奥さんというのが伯父の奥さんが若い時分に患
った大病から命を救ってくれた人の娘さんであったことが、
地震で起きた津波で沈みそうになった船にふられていた識
別番号がきっかけで明らかになり、その病気の話が伯父と
奥さんを引き合わせた大きな契機になっていたこともあっ
たのだが、しかしそれでも今回ばかりはと渋る伯父の息の
根を止めたのは、仕事の発注元の更に先にいた顧客が今回
のヴェガ計画の大口スポンサーでもあって、次回の企画が
持ち上がったときには優先的に口を利いてもらえるという
条件だった。
 ここまでくるともう何が何やら、偶然と必然の三十八度
線を巡る争いがいつ終わるのか皆目見当もつかないけれど、
ともあれ、僕が譲り受けたのは権利のみで求められる最低
限の費用や旅先で必要になる負担は自分で支払ってここに
いるのだから……我ながら、いま身を置くこの時間に、不
確かながら魅力をかぎ取るくらいの衝動は持ち合わせてい
たのだろうと思う。そう、衝動だ。どうしてそこまでして
この列車に乗ろうと思ったのか、確たる思いにおぼえがな
い。強いて言うなら、ほかに使い途を思いつかなかったの
だ。見栄か、ファッション。自腹を切ったことまでひっく
るめ、この二週間を切り抜いて昔の友だちに見せびらかす
くらいしか、改札をくぐる前の僕には思いつけなかった。
列車を降りたら、なにごともなくその二週間を差し引いた
だけの昨日の続きの明日を始めるつもりで、僕もいた。そ
れだって、ひとの営みの鮮やかな一形態だと思っていたし、
大きな変容の種が心に兆したいま、尚のこと強くそう思う。
 
 
 
    ×     ×     ×
 
 
 
(続)
 
 
 

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2015年4月 4日 (土)

■お漬け物の家~SS『ヤマノススメ』・ここなちゃん編 あとがき -更新第979回-

どうも、オイサンです。
またしても突然の『ヤマノススメ』SSだったわけですが、いかがでしたでしょうか。

これを書こうと思い立ったのは今年のはじめ。
きっかけは……何でもいいから、2000字くらいの短めで一本書いてみよう、
というのが、その……当初の目標でした。
「当初の」ね。当初の。

前回の『のんのんびより』SSがあまりに長く、
Pixivの方でも、多分ほとんど読まれていないように思えたので、
Pixivで他の人の作品をざっと眺めてみたところ、
だいたい2000字~6、7000字くらいが多いみたいで、
10000字を越えるのはそんなに多くないようでしたんで、
少しそういう方面に近寄ってみたものは書けないだろうかと思ったから、でした。

結果的には15000字近くになったけどな。
仕方ないだろ。
それだけ必要な話になったんだから。

最初はたくあんおいしい!だけの話だった。
鳥じゃねえのかよ。
デあまりに『ヤマノススメ』関係なさ過ぎるだろってんで、
鳥の話が出てきてこうなった……。

デキがどうなのかっていう評価は、読んで下さった方に勿論委ねるコトになるでして、
私の口からは自分がどう思っているかについてよう言いませんけども、
思いついたこと、
持ち込んだものについては、全力を傾けられたんではないかと思うし、
他はともかく、一点、書き終えた後に、とにかく美味しいたくあんが食べたい、
美味しいたくあんでゴハンを一膳ん食べたい、と思えたので、
そこだけはとりあえずマシだったんじゃないかと思っておるです。

やっぱり長くなってしまったことと、
最後の最後がひなたの話になってしまったことは反省材料だなあと思っておるです。

目指したもの、憧れたカタチには及ばざるコト山の如し(間違い)なのでアレだが、
その辺は次があったらもうチョイうまくやれる気がしておる。

マそんな感じなので、
ご意見、ご感想、ここなちゃんの残り湯などございましたら、
コメント・メール、宅急便なんかでお送りいただければ幸いです。
抽選でなんか上げるかも知れない。
抽選ですらないかも知れない。

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2015年3月29日 (日)

■お漬け物の家~SS『ヤマノススメ』(後篇) -更新第978回-

 (前篇はこちら

 
 
     △    △    ▲
 
 
 
 山頂での休憩を終えて下山ルートに入ると、周りはじきに雑木に覆
われて展望がなくなり、距離は長いが緩やかだった登りと裏腹に短く
急峻な斜面の断続になる。急激に下っては短い平坦、下っては平坦、
の繰り返しだった。時に岩場で四つん這いにもならなければならない
ような下りを、楓さんを先頭に、ここなちゃん、あおい、ひなたと列
を作って、時に手を貸しあいながら下っていった。
 小一時間も下って膝と背中にそれなりの疲れがこごり始めたあたり
で、道は比較的なだらかな林の道にさしかかった。足もとは、いつも
ほんのりと水を含んでいそうな土の地面がどうにかひと二人すれ違え
る程度に顔をのぞかせて道をつくり、右手と左手には緩やかな斜面に
青白いブナの幹が立ち並んで、遠く視界の奥まで天然の格子柄を作っ
ている。
 ここなちゃんの前を行っていた楓さんが足を止めた。それを察して
ここなちゃんも耳を澄ませてみると、忘れもしない、先週テレビで聴
いたのと同じ、チュクチュクというさえずりが視界の先に幾重にも重
なる林の奥の木の陰の、そのまだ先から聞こえてきた。
「楓さん、これって」
「そうみたいね。あおいちゃん、ひなたちゃんも」
「はい、わかりました」
「任せて! 見つけるよ、あおい」
 さえずりは右と左、林の両側どちらからも聞こえているように思え
た。もしかしたら山と木々の響きの加減で、本当は片側からだけで鳴
いているのかも知れなかったが、あおいとひなたは右側を、ここなち
ゃんは楓さんと同じ、左側に生い茂るブナの林の根本からてっぺんま
で、幹を避け葉をかわして、奥の、奥のさらに奥まで、あの青い小さ
な体を見落とさないようにと視線を走らせた。
「近くではないわねえ」
 普段と変わらず平らかな楓さんのトーンが目の前の木立の海をより
広く深く感じさせて、どこに注意して目を凝らせば良いのかわからな
くなる。だまし絵のように、縦に、横に、木々が縞模様を描き出し、
青い鳥の声は渦を巻きながら少しずつ遠ざかっていってしまっている
ように感じられてきた。
 そうだ、双眼鏡。
 さっと胸元へ走らせた手が空を切る。登りの間中首から提げていた
双眼鏡を、さっきお昼を食べたときに背中のザックにしまいこんでし
まった、そのことに気付き、ここなちゃんは小さな体を素早くひねっ
てストラップの片側から腕を抜くとザックを体の前に滑らせ、双眼鏡
を探した。
「あれかしら」
「え、いたんですか?」
「どこどこ?」
 楓さんの息を殺す一言にひなたとあおいが色めき立つ。双眼鏡はす
ぐに見つかり、ふわふわの髪を器用に逃がしながら首に提げ直したま
では良かったのだけれど、コンパクトにたたまれたそれを広げて自分
の目の位置と合わせ、楓さんのゆび差す方へ視界を動かしながらダイ
ヤルを回してピントを合わせる……その間に、声はまた、どこからも
聞こえなくなってしまった。風が木々の葉を揺らす音と、まばらなメ
ジロの鳴き声……町や道からはなれ、さほど名の知れた訳でもない森
は、ひと気もなく静まりかえった。
「楓さぁん」
 最後列にいたひなたがすがるような声を上げてからも、楓さんはふ
た呼吸ほどの間、眼鏡の奥の瞳を固めて耳を鎮めていたが、やがて長
い息とともに姿勢をゆるめて肩をすくめてみせた。
 そのニアミスを最後に、この日の登山でルリビタキに出会うことは
とうとうなかった。「登山道入口」の立て札の背中を見つけた楓さん
の、はい到着、みんなおつかれ、という「もう一山、オカワリいこう
か?」とでも言い出しかねない溌剌とした声は、やはりいつもと変わ
りがない。
 麓に温泉のある様な山でもなかったので最寄りの町に見つけておい
た銭湯で汗を落として電車に乗る。その銭湯で湯船に浸かりながら
「ここなちゃん、ちょっといい?」
と、不思議な鼻をきかせてきたのはやはりあおいだった。
「あの双眼鏡って、誰かから借りたの?」
「あ、はい、そうなんです。わかっちゃいますか?」
 山頂で一休みしていたとき、景色を見たいと言うひなたとあおいに
双眼鏡を貸した。モスグリーンの鏡筒にちょこちょこ迷彩のような斑
紋の入ったその双眼鏡はどっしりとした重量感があり、しっかりと構
えればその重みは安定感に変わって取り回し易いのかもしれないけれ
ど、女の子が首に提げて歩くにはいささか重すぎたし、ダイヤルも、
折り畳むための機構も、ゆび先や手首などの力の入りづらいところに
力を要した。あまり使い込んだ風ではないものの、どことなしに油臭
さを感じさせる風合いとデザインのそれを、あおいはいちいち、重っ!
 とか、固っ! とか分かりやすい悲鳴を上げながら一頻りいじり回
して楽しんでいた。
「うん、なんかね、ここなちゃんっぽくないなーって」
「やっぱりですか。クラスの友だちが貸してくれたんです。私、ああ
いう道具は持ってないですから、鳥を見るなら要るだろって言って」
「ふーん。……男の子……だよね?」
 まだ、日が傾き始めて間もない。きっとこの町と同じくらいの年齢
であろう、昔ながらのタイルを敷き詰めた古めかしくも広々とした浴
場には、自分たちを除いては、湯気の向こうに腰の曲がったシルエッ
トが一つか二つかすんで見える程度で、広い壁面をいっぱいに使って
威風堂々と描かれた時代物の富士山も、半ば貸切だった。持て余した
ような空間のどこかで天井から水滴が垂れて、ぴちょんと細い音が響
いた。
「はい、そうですよ」
「ほ、他の山のことも教えてくれたっていう?」
 正直なあおいの瞳の中に、きらきら、というよりぎらついた輝きが
芽生えて勢いを増してくる。上気しているのも、鼻息が荒いのも、ど
うやら湯あたりなどではなさそうだ。困ったことになったなあ、と思
いながらも、ここなちゃんは「はい」と正直に答えた。
 貸してくれたのは、あの図書室の小峯くんだった。つい昨日のこと、
小峯くんは日直の仕事をしているうちに移動教室に出遅れて教室にひ
とり残っていたここなちゃんを見つけ、席までやってきた。小峯くん?
 次、生物室だよ? 移動教室遅れるよ? そう返したところへ手渡
されたのがあの迷彩柄の双眼鏡だったのだ。小ぎれいな百貨店の紙袋
に入れられ、添えられていたのは「鳥、見るなら使うかと思って。も
う持ってるなら持って帰るけど」という、やはり木訥な一言だけだっ
た。違う山へ行くことになったと告げたとき、小峯くんの瞳に差した
影の色が、南中を前にした教室のほの暗させいなのか、落胆とかそう
いう気持ちのせいなのかはわからない。悪いことをしている様な気に
なりつつも、必要なことは確かだし、話をしてから三日も経つのにわ
ざわざ持ってきてくれた、そこにふわりとはさまった不思議な緩衝地
帯のような気持ちの正体に触れてみたかったから、その道具は素直に
借り受けることにしたのだけれど。
「なーるほどねー? なんかゴツいからお父さんのかなーって思って
たんだけど、そういうことかー」
 眼鏡を外し、長い髪をタオルにまとめているから別人のように見え
るけれど、そのさっぱりした口調はやはり楓さんだ。あおいは興奮気
味にひなたのところへ戻り、ほらやっぱり! やっぱり男の子のだっ
た! と、いくぶん潜めた声で報告しているが、壁に描かれた富士山
に反響して丸聞こえだ。
「そうなんです。だから余計、会えたら良いなって思ってたんですけ
ど。仕方ないですね」
 ちいさな手のひらに湯を掬ってぱしゃりと顔をすすぐ。くったりと
背中をタイルの壁に預けると余分な力が抜けて、ただ水道水を温めた
だけの湯でも、肩や腋や膝、体中の色々なすきまから入り込み、使い
古したものを運び出してくれるような心地よさに包まれる。長い息が
漏れた。
「また来ればいいんじゃない? あの山にいるのはさっきので大体分
かったんだし、もう一つ、アテもあるんだしね」
「はい、そうですね。今度は……」
「ねえここなちゃんここなちゃん、飯能に帰ったらさあ、あのお漬け
物のお店教えてよ。あたし、あれ気に入っちゃった。買って帰りたい」
「あ、それいいわねえ。あたしも買って帰ろう。いい?」
 ひなたはお漬け物の方に興味津々のようで、さっきのここなちゃん
の話ですっかりスイッチが入ってしまったあおいのコイバナに辟易し
たのか、ざぶざぶと湯船を泳ぐようにして割り込んできた。
 もちろんです、お店のお婆さんも喜ぶと思います。振り返って答え
たとき、壁に広がる富士の裾野に画面の端から退屈しのぎみたいに張
り出して描かれた梅の木の枝に、これまた小さく小さく、一羽の鳥の
描かれているのが目に入った。
「ああ、これもメジロね。この辺、メジロで有名なのかしら?」
 三人を置き去りにし、お湯をかき分けて顔を寄せて見るここなちゃ
んに、眼鏡を外した楓さんが眉をしかめて言う。その小鳥はくるっと
丸い体に鮮やかな苔のような緑色をしていて、少し驚いたようにも見
える愛嬌のある面差しは、見間違いようもなくメジロだった。
「そうかも知れませんね……そうだ、メジロと言えば、ひなたさん」
「ん、なに?」
「今日たくあんと交換してくれた、『冷めると余計においしい目玉焼
き』の作り方、教えていただけませんか? 黄身にしっかり火が通っ
て、固くなってるのに味が残って濃厚で。お母さんに作ってあげたい
んです」
「え、い、いいけど……ここなちゃん、メジロからそれを思い出しち
ゃうんだ……」
「え、あれ? お、おかしいですか?」
 最近のお母さんは仕事の時間がときどき不規則で、夜半を過ぎて帰
ってきたかと思ったら翌日は昼からの出勤、などということがままあ
った。そんなときは先に起きたここなちゃんがお母さんの分まで朝ご
飯を作り置いて出かけるのだが、卵焼きならいざしらず、目玉焼きだ
とどうしても、作り置いておくと美味しくなくなってしまうのがここ
なちゃんの目下の悩みの種だったのだ。今日、ひなたがお弁当に入れ
てきていた目玉焼きは、その名に恥じず、驚くくらいみずみずしい味
わいを残していた。
「別におかしかないけど。いいよ。帰ったらメールする。忘れてたら
言って」
「じゃあじゃあ、今度はそれをお弁当に持って、ルリビタキにリベン
ジだね! またその男の子に、双眼鏡借りてさあ」
「あおい……あんたホント、そういうの好きだね」
 瞳をときめきで輝かせ、我がことのように割り込んでくるあおいに
ひなたがまた憎まれ口をたたき、いつもの漫才が始まる。
「ここなちゃんの家は、お母さんととっても仲がいいのね」
 さて、と豪快に、楓さんが頭のタオルをほどいていつもの姿に戻り
ながら湯船に立ち上がると、四人の中の誰よりたくさんの曲線を有す
る体のラインの上を、水の帯が滑り落ちていく。女らしいのに頼もし
い。はいっ、と銭湯に響いたここなちゃんの声の大きさに、絵に描い
たメジロの目が、いっそう大きく見開かれて見えた。



     ▲    ▲    △




 それから少し経った何度目かの休みの日、空は抜けるような快晴で、
それなのにあおいとひなたはそれぞれの自室におり、なぜ自分たちが
この佳き日を持て余しているのかについて「あたしは遠出しようと誘
ったのにあおいが渋ったから!」だとか「ひなたがいつまでも電話に
出ないから!」だとか、電話越しに責任をなすりつけ合っていたのだ
が、そこへブーン、ブーンというお定まり小刻みな振動を伴ってここ
なちゃんからのメールが届いた。
「今日もダメでした~」という件名に涙マークをあしらったそのメー
ルには、ルリビタキさんまた会えませんでした、というシンプルな本
文に一枚写真が添えられていて、どこかの山の頂上なのだろう、今日
の青空とそれに負けないくらいどこまでも連なる緑の山の遠景をバッ
クに、片想いの相手に巡り会えなかったとは思えない笑顔でここなち
ゃんがブイサインを作っていて、その首からは、水色の、いかにも彼
女にぴったりな、小さな双眼鏡が下がっていた。
「ひなたひなた、この写真!」
「あー。ここなちゃん、双眼鏡買ってもらったみたいだねー」
 またぞろ鼻息の荒いあおいに、ひなたはわざと芯を外した打球を返
したのだが、その山なりの球も何やら大きくあさっての弧を描いて写
真の青空に吸い込まれていったような錯覚を覚えて、スマートフォン
の空にぐぐっと顔を寄せた。放った打球の消えていった辺りだけ、ぽ
っちり一点、何かが横切っているようにぶれて、空の色が違っている
気がするのだった。
 もー、ホントひなたは分かってないなー。そうじゃないでしょ、こ
の写真。自分で撮った写真じゃないじゃん! 誰かと一緒だったんだ
よ、誰かなあ? あの男の子かなあ? そうだよね、絶対!
「ああはいはい、そうかもねえ」
 その違和感の正体が気になって、画面を見る角度を変えたり、明る
さをいじってみたり……思いつくことを試してみても、不自然に色を
変えた空の理由は分からない。似た色の鳥が横切っているのではない
か--。それは真っ先に思いついたことではあるけれど、口にするこ
とはなんとなく憚られた。
 それにしてもこの写真は、見れば見るほど、山と空と、丁寧にフレ
ームに収められた木々の枝、写真に興味はないけれど、とても大切な
おもてなしのために部屋をしつらえ、料理を運ぶときに磨き上げた廊
下をすべるつま先と同じ繊細な高鳴りを秘めている。額装を思わせる
巧みさで画面に呼び込まれた幾本かの枝のひとつに、あの日の大きな
双眼鏡がこっそりと、しかしわざとらしく引っ掛けてあるのも見つか
って、ひなたはへへへと声をひそめ、やるじゃん、と笑った。あおい
の腐ったようなコイバナもあながち間違っていない。なるほど気持ち
を少し足して見てみれば、ここなちゃんと木々と雲と稜線に囲まれて
切り取られた空の青は、鳥のかたちと思えなくもない……。
 画面をゆび先でつまんで拡大してみても、そこだけ色の違う空の理
由はやっぱり見えてこず、それは光の加減かもしれないし、携帯のカ
メラのいたずらなのかもしれない。ただの目の錯覚。勘違い。『もし
かしてこれ、鳥なんじゃない?』とあてずっぽうを口にすることは、
ここなちゃんを糠喜びさせるだけかも知れないけれど、それならそれ
で、別に構わないではないか。
「ひなた? もしもし? どしたの?」
「べーつに。あおいは相変わらず、肝心なとこが見えてないなーって
思ってさ」
 そんなやりとりのところへ、同じ写真を受け取ったらしい楓さんか
らもメッセージが届いた。
『ここなちゃん、またほっぺにお弁当つけてないw?』
 改めてみればなるほど、ここなちゃんはにっこり微笑んだ唇の端に、
またあの刻んだたくあんの粒をくっつけている。この写真を写し手は、
その肝心なことに気付けなかったのか、それとも、気付いていながら
それを言い出すことが、まだ出来なかったのか……。
 あのたくあんよっぽど気に入ったんだね、さすがの女子力モンスタ
ーも食欲にかかっちゃ形無しだねと笑い合い、青空に粒と滲んだ朝露
の様なルリビタキの幻と、舌先をのばせば届く先にある、糠がほどよ
く香る黄色い粒の喜びを、いつか取り替えっこする日も訪れるのだろ
うかと考えたけれど、お母さんに買ってもらったばかりの双眼鏡では、
口元についたたくあんに気付く日はまだ少し遠いのかもしれない。
 それじゃあびっくりさせようと謀り合い、『ここなちゃん、口元に
たくあんついてるよ』と文面を揃えたメールの送信のボタンを三人同
時にタップしたあと、ひなたはベッドを飛び降りた。お父さん、ちょ
っと出かけてくる。お漬け物買ってくるから、夕ご飯和食にしてよね
……。
 あの日から、倉上家でも例のお漬け物は定番になりつつあった。歩
き飽きた飯能の道を駅に向かって歩きながら、思い出すだけで十分に
反芻できる歯ごたえと糠の風味にほくそ笑んだ自分を、ひなたはちょ
っと、お爺ちゃんみたいだなーと思った。
 
 
 
 
 
 (終わり)
 
 
 
 
 
 

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