2016年3月13日 (日)

■ティファニーでガンプラを。~私信、『アマガミ』SS、「Plastic Joy」に寄せて~ -更新第1048回-

オッスおらオイサン。

今日のお話は、とあるお友だちに読ませてもらった
『アマガミ』の、絢辻さんにまつわる二次創作・SSの感想なので、
細部に関してはご当人以外にはサッパリわかんないと思うけど、
久々に『アマガミ』や絢辻さんについて思うことなんかを書くので、
せっかくだからご本人の許可を得て、こっちに載せちゃうことにした。

  いえーい。  ← 何がだ

デ、読ませてもらったんだけど、
先ずは、感想が2年越しになってしまったことを素直にお詫びしておきます。
メンゴメンゴ。

受け取った直後にもちゃんと読んだのだけど、
公私ともに超忙しい時期でもあって(お会いしたのもすごい合間を縫ってお会いしたんだったと思う)、
キチンとした感想を返せずにおりました。
今回改めて読み返してみての感想は……
だからもう、2年前とは違う感想になってしまうことはご容赦戴きたいのだけど、

「愛」とは、斯くも尊く、斯くも無邪気で、そして斯くも気恥ずかしいものであったか!

……と、そんな風に感じ入るものだった。


「恥ずかしい」とは書いたが、きっと、多分、
その恥ずかしさは書いてしまった今なんとなく分かってもらえるものと信じて書いた。
2年前には恥ずかしくなかったかもしれなくて、
今は恥ずかしいかもしれない……そんな恥ずかしさ。

お話自体はシンプルで、
それだけに愛と「祝い」に満ちていることが伝わりやすい、暖かいものでした。
そこがまた開けっぴろげで、恥ずかしさに直結してしまってると思うのだけど。

この結末にたどり着いた絢辻さんが、ナカヨシから来たのか、スキBEST・スキGOODから来たのかは
アマガミの実プレイから遠退いてしまった自分には推し量ることも難しいが、
いずれにせよ、
幸せな結末に辿り着いた絢辻さんへの、溢れんばかりの「おめでとう」に
むせかえるようだった。

登場人物の殆どが二人の門出の式にやってきて祝辞を述べるシーンでそれはよく感じられて、
キャラクター全員を登場させるのは二次創作としてのサービス精神でもあったのかもなーと思いつつ、
「誰からも祝われるまでになった二人のそれまでの時間」がさりげなく表れているのが
個人的には印象的だった。
あーホントに佳き二人であったのね、という感慨……というか、
そうであって欲しいという書き手の願いが、なんかもうパンパカパーンでパンパカパーンで。



……けど、どうなのでしょうね?



こうして、ビターではあるけれどもダークではない、
ハートウォーミングになってしまった絢辻さんは、
あの厳格な絶対輪郭を保っていてくれるのだろうか?



絢辻さんは、ブラックホールを抱えていた。



胸の深奥に、ブラックホール……
「無」の頂点であると同時に重力と質量の権化であり「在」の極致であるところの
奈落を抱えていたからこそ、そこから先に何者の介入も許さないくらいの強い強い強い強い輪郭、
事象の地平面をともなって
ボクらが愛してやまない唯一無二の絶対輪郭・「絢辻詞」というカタチでいてくれたワケで。
それを感じさせなくなったいま、彼女の輪郭はどうなってしまうのだろうか。
それが心配でならない……。
久しぶりに、そんな気分に浸ってしまいました。

  まオイサンは、そういう輪郭の残る気配が多分にあったからこそ、
  オイサンは「スキ」よりも、
  「アコガレからのナカヨシ」が好きだったりしたのだけれど。
  ……となると、それが感じられないこのSSの絢辻さんは、スキ系列の絢辻さんなのかしら?
  と妄想をたくましくするところではある
  (お会いした時に直接そんな話を既に伺ってたらごめんなさい)。

そんな気分にさせるほど、幸せいっぱいの絢辻さんのお話だったね、
ということです。

単体の読み物として、ヒトツ率直な物足りなさを述べると、
冒頭で述べた通り良くも悪くもシンプルで、シンプルさがたたり、
イマドキのオンライン・オフライン関わらず蔓延する物語作品から見れば、
どうしても、どこかで見た、誰かの何かの作品と重なってしまうところがある――



――のだけれども、それがダメかと言われたら、そうでもない。
二次創作のSSってそのくらいでいいんじゃないかなという感触を、
今回読ませてもらって改めて持った次第。



確定的な類似ではなく、全体的な枠組みが
「ああ、なんかこんな話どっかの何かで見たなあ」
という程度のことだけど。
けど、ヘンに作り込まれ過ぎて端から端まで風呂敷が畳み込まれるようなものよりは、
オイサンはよっぽど好きだけど。
モ少し余韻があっても好みかなあ。

デそういう好き嫌いを除いたとしても、だ。



特に、『アマガミ』は過程のゲームだ。



ADVだから、本来は一つの結末にたどり着くための過程は基本的に限定的で有限で、
SLGのような広がりは無い、
ハズである、
にもかかわらず、
過程に肝を置くゲームだ。
と、オイサンは思う。

  間口の広さは普通なのに、懐は不可思議に深く、そして出口はない、という
  歪むのもここまで来るとキモチワルイな!(ほめことば)
  ……という異様な(ほめことば)姿をしていた。

システムとしては完全にADVなのだけど、プレイするうちにSLGの味がしみてくる。
それは濃いプレイヤーたちの中で呼び起される感情が同じテキストを読んでも通り一遍でなく、
同じ道筋を辿りながら、パーソナルなステップを踏み次の展開に対して納得を得ている。
そうした手続きの事実はプレイする本人の外からは観測できないハズのものであるにも関わらず、
同じ世界に触れるプレイヤーたちは同朋たちの中で何かが起こっているのを
ボンヤリ察してしまうから、
そこに発生し存在する、個人の数だけの分岐を知り、それがSLG的である錯覚を起こす……。

……まゲームにしろ音楽にしろ映画にしろ、
娯楽物なんてのは多かれ少なかれ受け手の経験と引き出しによって違う味がしみてくるものですが、
『アマガミ』は特に個人の個人的な核に、針の形をした爆弾を打ち込んでくるらしい
(そしてどうやら、殊に傷を持つ者たちにはよりそうであるらしい)。

そういう個を相手どるゲームの二次創作なのだから、
ちょっとやそっと、骨格や輪郭が似ていたってどうということはないのではなかろうか。
個人が個人の材料と思い入れで勝負することが大事で、
そのはしばしに埋め込むパーツで、自分だけの輪郭を与えれば良い……んじゃないかなあ。
そしてたいがい、何故かそこに「ゆがみ」が埋め込まれるのがまた、
『アマガミ』の面白いところではあった。

だから、
「『アマガミ』が受け手にそういう(こういう)物語を書かせてしまう」ことは不思議でもなんでもなく、
今回読ませてもらったお話はまさにそういう物だったなーと思う。

書き手のアナタ自身の中で、
 「いつか幼い絢辻さんが川に投げたというおもちゃの指輪と、
  『アマガミVA5』にあったアンソロジーのストーリーと、
  エンゲージリングと、
  Plastic・Joyの歌の歌詞に現れたdiamond ringと」
が重なって、!他ならぬ一人の書き手が!いてもたってもいられなくなった、という、
熱の高さや鳥肌の立ったような昂揚感のあることが良く伝わるし、瑞々しいと思う。
その時点でもう勝ちだと言っていい。

  フシギなもので、なんかそういう
  「あ、そういう遊び方をしてもいいんだ」と思った人が、
  結構いたみたいね。他の環境とも相まってね。

……しかしそれだけに、やはり「我がコトの様に恥ずかしい」わけでw
ムズムズするわいw

……あの、言っておきますけれども、
オイサンはいま物凄いエラそうにして書いていますが、
これもまたものすごい恥ずかしいコトをしているという自覚のもとにやっているので、
なんかもうスミマセンでした。




……と、そういうことをふまえて。




これがまた、その世界を何も知らない人が読んでも共感出来てしまったり、
なんとも言えない気持ちにさせてしまったりすることが出来れば、
それはとても鮮やかだとオイサンは思うので。
ここから先は、読者としての贅沢。

オイサンは、一度お会いしたきりの第一印象からで申し訳ないけれども、
書き手のアナタのことを大変に豪放磊落な人物だと思っている。
その上で、人から認められる頭の良さや周到さなど、
緻密な面もきっと持っているのだろう、とお聞きする話の端々に感じていた。

大概どこかしらが鬱屈していて、
新品の折り紙を袋から出したら何故かどの折り紙も全部四隅の一つがちょこっとだけ折れちゃってた、
みたいなところのあるTwitterを通じてお会いした30人近い輝日東住人の中で、
アナタは稀有なパーソナリティを発揮しておられた。
アンタだけだよ、あんなんだったのw

  そうは言っても、上で書いたみたいに
  「瑕を持つものに這い寄ってくる『アマガミ』」だけあって、
  アナタも不思議なくらい主人公にシンクロする事件を抱えておったのでしたっけね。

「僕ってどんなんなんスかw」ってお思いになると思うけども。
まあお会いした皆さん、それぞれなんがしかの面で「アンタだけのあんなん」なんだけど、
その矢印の向き方が誰とも違っていた。
その分オイサンも面喰らって腰が引けてしまったところもあるんだけど、
その時点でも十分面白かったし、ときどき会って話を聞きたい人だなあと思う。

だからもっと大胆に、書き手であるアナタの持ってた当たり前、
でも他からしてみれば「お前なんじゃソレ」って言わずにいられない当たり前を、
作品の世界にぶちまけてみても良かったんじゃないかなーと思う、
っていうか、そういうのを読ませてもらいたいって思いました。
それはまあ、読者としての希望。

パーツにとどまらず、欲望・願望に収まらず、
土台からして自分ワールド全開の、新しい、『アマガミ』らしい冒険を。
今回の画サッパリまとまっていたから、
もっともっと「書き手くさい」ものを読みたいです。

絢辻さんは、比較的「閉じてしまった」ところのあるヒロインなので、
自分らしさを盛り込んで広げることは……難しいと思うんだけどね……。
情報も少ないしね……イヤ、遊び辛いとは思うのよ、ほんと。

  だからこう、当時、公式にはもう少し……ね。
  広げて欲しかったなとは思うんだけど、
  それはそれで、オイサンが最初に絢辻さんに感じた「完成度」と相反するんだけどさ。

オイサンの思うアナタの像を思うにつけ、
もしもアナタの愛したヒロインが、より快活で、より開かれた、
中多さんだったり、森嶋センパイだったりしたなら……
という妄想が尽きなかったりするです。

今現在、『アマガミ』や二次創作や、お好きなアーティストたちの作品と
どういう距離感で生きておられるのか分からないけど。
そういう遊びも見られると楽しいなーと思います。



……ね。



どーなんだろ。



まだ自分たちの体に、『アマガミ』や絢辻さんは息づいているんだろうか?
そんなことを思い返す価値を感じさせてくれる作品だったと思います。




……以上が、あなたが書いて、私が読んだ、
PS2版『アマガミ』の絢辻さんSS、「Plastic・Joy」の感想だったワケです。
相変わらずナニ言ってっか半分以上わからない感想だけれども。
どーでしょうね。

謎多き絢辻さんの物語、
そこにどんな自分なりの解釈を加えるか、
どの絢辻さんを自分の一番好きな絢辻さんに据えるか。
なんかこう、ゲームの『アマガミ』の絢辻さんでSS書いちゃうっていうのは
オノズとそういうトコが出ちゃうんで。

やっぱりこう、この作品に関しては、
みんなに「おめでとう」って言われちゃう、そういう絢辻さんだったよね、
と言うところが全てだったのかなと思います。



「ポチャーンって、安物のくせにずいぶん良い音がしてたわ」



次があるなら、是非。
カナダの森で、インドネシアのジャングルで。
絢辻さんが一体どんな絢辻さんらしさに出会うのか。
そんな話を読みたいです!  ← 無茶を言うな

オイサンも未だに書いてます。
次は、梨穂子で。
誕生日に間に合うといいけど、無理だろうなw



マそんなんで。
またお会い出来る機会があったら、面白い話を聴かせてください。
ホント、2年もすみませんでした。

気長によろしく。
オイサンでした。



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2010年7月15日 (木)

■いとなみを空に映して・終 ~『アマガミ』・絢辻さんSS・七夕編 -更新第543回-



             ・
             ・
             ・


 風はそよそよとことあるごとに流れていったけれど、空を薄く覆った雲は
一塊の雨雲とは違って、どこかに運ばれ消えることはなかった。逆に、広が
るばかりのベールに空は覆われ、星はいつの間にか一粒も見えなくなってい
た。
「それに、知ってる? 七夕ってね、女性が針仕事の上達を願うお祭りでも
あったのよ」
「そうなの?」
「うん」
 絢辻さんは目論見がうまく運んでまだ少し興奮してるのか、鼻から一つ得
意げな息を吐き、人差し指を立てて見せる。そして、
「だから、まあ」
と、既に自分の手を離れ、僕の元に収まった銀色の包みに、心残りでもある
ように視線を送ってきた。
「……出来は、あんまり良くないんだけどね。その言い訳には利用できるか
と思ったのよ」
 慣れてないし、そんなに時間をかけたわけでもないから、と付け加えたそ
の調子は舌を出す笑いを含んでいて。それで、七夕の逢瀬をほのめかしたの
だということだろう。僕はもう、嬉しいのと自分の情けないのとで、多分声
はいくらか震えていただろうと思う。
「そんなことない。ありがとう、大切にする」
「大袈裟ね」
 そんな僕は、絢辻さんにはどう映っていたんだろう。絢辻さんは呆れ笑い
で、見事に半分だけ受け止めてくれた。
「いいわよ、雑に扱って壊しても」
「……そんなこと、しないよ」
「ううん。すぐ作れるのはわかったから、そしたらまた作ってあげる。次か
らは有料だけどね」
 材料費と人件費とで、二千五百円くらいかしら? と、また自分でオチま
でつけて、クスクスと笑い……。
 そのおしまいに絢辻さんは、ふ、と細い息をついた。
 それが果たして、肺に残った余剰を排気したただの息継ぎだったのか、何
かの疲れのようなものだったのか。僕には分からない。けれど、不思議なく
らい耳に残ったその一息が、僕の最後のきっかけになった。
「……ねえ、絢辻さん」
「なに?」
 そんな風に何者にも願わず、ぜんぶ一人でやってしまう絢辻さんに何かを
して上げられるのは、僕だけのはずなのに。僕は今日も、自分の望みにばか
り手一杯だった。ポケットの中、ごわごわとかさばるばかりで作りの荒い、
カタ抜きの残念賞が、僕の歩くのを邪魔している。
「やっぱり教えてよ。何か欲しい物はない?」
「フフッ、どうしたのー急に?」
 上機嫌、絢辻さんはころころと、まるで突然お手伝いを始めた子供をから
かうみたいに笑みを浮かべていた。事実、そんな気持ちだったのかもしれな
い。
「お返しを考えてくれるの? いいわよ、無理しなくても」
「む、無理じゃない」
 ……お返しをしようっていうのに、僕は何を剥きになっていたんだろう。
それが間違いなのはちょっと考えれば分かるはずなのに、
「無理なんかじゃないよ」
と、少し強めに言い切った僕の言葉をびっくりしながらも真正面から受け止
めて、絢辻さんはじっと僕の目を覗き込んだ。
「ふうん……」
「僕に、出来ることなら」
「お金っ!」
「えっ!」
 一切の衒いも、躊躇いもない。投げ込まれたまっすぐは僕の胸元をえぐっ
て、バットを振る隙も与えない。
「だめ? じゃあー……、株!」
「ちょっ……」
「土地! 金、ゴールド!」
「絢辻さん……茶化さないで」
「いたって真面目よ。あたしが常に欲しいもののトップ3」
 三球三振。それは多分、本気で、冗談で、ついでに遠慮でもあるんだろう。
ていうか、四つなかった? そんな突っ込みを入れる間もない。
「さっきも言ったでしょ」
 澄ましてまたトコトコ歩き出す、鉄壁の背中越しに「自分でやった方が早
いもの」という……今の僕には残酷な言葉が胸に甦った。結局、僕のその想
いは気持ち半歩分ずれていたんだと、あとあと気付くことになるのだけれど。
「そうねえ」
 絢辻さんは不意に、薄雲のたなびいた夜空を見上げた。輝日東は都会では
決してないけど、たとえ晴れていたって、あの空からあふれ出るような天の
川をくっきりと見通せるほどの清冽さがあるわけでもない。
「……天の川?」
 絢辻さんの視線を追って、僕も空を見上げてみた。けれど、星はやっぱり
雲に隠れて見えなかった。
「別に。見えないわよ。……ごめんなさい。やっぱりいいわ。今は、思いつ
かない」
 空を確かめ、足元を確かめて、絢辻さんはゆっくりと歩みを進めながら言
った。どこまでが本音で、どこまで遠慮や妥協なのかは分からない。分から
ないじゃいけないんだけど、それが今の僕だったし、僕と絢辻さんだった。
「そっか」
「今は、だけどね。多分そのうち、放っておいても色々言い出すから」
 考え考え歩く、先を行っていたはずの絢辻さんは気が付くと僕に並びかけ
ていて、細い腕がぷらぷらと、すぐ傍にあった。俯き加減の、大きくて吊り
気味の瞳の縁から真っ白な光が送られてきた気がして、僕はその手をそっと
握った。
「うん」
とだけ、絢辻さんは満足そうに笑った。
「満期になるまで、預けておくわ。今は思いつかない。やっぱり、さっきも
言ったけど……」
「え?」
 その続きを絢辻さんはとうとう口には出さなかったけど、さっき僕の肩を
鋭くえぐったのが信じられないくらい細く小さな手のひらで、弱弱しく、だ
けど確かな力で、僕の手を握り返してきた。それで僕は、逆らう理由を完全
に失ってしまった。
「……わかったよ。僕も、自分で考えてみる」
「あ、でも、一つだけ」
 ある家の前を通り過ぎたとき、カッ・チッ、とすわりの悪い音がして、防
犯用のセンサーライトが唐突に点った。それに押し出されるみたいに頭にピ
ーンと針金の弾ける音を響かせて、絢辻さんが声を上げた。
「な、何かあるの?」
 その可能性に、僕も思わず飛びついてしまったのだけど。
 絢辻さんが僕のその食いつきも折り込み済みだとばかり、ただ嬉しそうな
のとは程遠い……いつか見た、黒っぽい輝きの瞳で頬を緩ませたのを見ると、
僕の胸は良くない予感でズクリ、と張り裂けそうになった。
「……な………………なに……?」
 ふふっ、と一つ。割と久しぶりにお目にかかる、たっぷりと、ほっぺに悪
意をしみこませた本格派の含み笑いで溜めを作り、絢辻さんは……、
「ア・レ」
と、糸を引くくらいゆっくりと唇を動かした。
「『アレ』?」
「そ。アレ。アレだけ、貰っていくわね」
「アレって……あれ……え、えっ!?」
 絢辻さんはそれきり何も言わず、ふふっ、ふふふふっと、殆ど胸の底から
吹きこぼれたみたいに。何度も何度も、肩を揺するばかりだった。


             ・
             ・
             ・


「ねえ、絢辻さん……それは勘弁してもらえない?」
「だめよ。あたしはアレが欲しいの」
「そ、そんなあ……」
 絢辻さんは僕の嘆きを受け流し、雲を薄ぼんやりと黄色に染める、月の位
置を確かめた。さらに空いた左手の腕時計に目をやると、
「さて、そろそろ帰って勉強の続きをしなくちゃね」
と、僕の手から自由になって、ぐっと大きく伸びをした。そこからはもうい
つもの絢辻さんだ。
「え、もう帰っちゃうの?」
「ん。休憩時間はおーしまい。当初の目的は果たしたでしょ? いつまでも
遊んでるわけにいかないからね」
「それはそうだけど、せっかく……」
 河原で待ち合わせて、お願い事を書いて。神社へ上り、降りてきた。その
時間は家からの道のりをあわせても、長い針が一周するかしないかだ。だけ
ど絢辻さんは
「牽牛と織女が引き裂かれた理由まで、知らないわけじゃないでしょう」
と、またもズバリと、僕の未練を一刀のもとに断ち切った。これじゃあ絢辻
さん、織姫なのか、天の帝か、わからない。
「う……」
「そういうことよ。天帝がへそを曲げる前に、自分たちの仕事をさっさとや
るやる!」
「わ、わかったよ……痛っ」
 絢辻さんはたたっと小走り、後ろに回りこんで何をするかと思えば、硬い
サンダルのつま先が僕のお尻を、厳密に言えば尾てい骨を、過つことなくガ
ンガンガンガン刺激する。
「いちゃいちゃは、あとからいくらでも出来るわよ。ほらほら」
「え、いちゃいちゃ!? い、痛い! 分かったから蹴らないで!」
「あら、足で押してるだけよ。きびきび歩く! ほらほら! あはっ! あ
はははっ!」
 こうして。
 てっきりあとで返してもらえると思っていた二つの願いの書かれた短冊は
晴れて絢辻さんの所有物となり、僕はまた一つ絢辻さんに対して弱みを増や
すことになってしまった。契約、更改。
 けれど、
「今はね」
と言った絢辻さん、
「そのうち」
と言った絢辻さん。
 僕はアレに『ずっと』と書いたから、絢辻さんは「そのうち」が来るのを、
安心して待つことが出来るのだろう。絢辻さんにとっても大切な、終身保険
になったのだということが、あのとき握った手のひらからは伝わってきた。
彼女がアレを欲しがった理由も、それを思えば納得出来た。僕は僕の役割を、
果たすことが出来たのだろうか。
 その二葉の短冊が、このあと一体どんな扱いを受けるのか。それは聞かせ
てはもらえなかった。……けどまあ、あの様子だと、多分。部屋の机の引き
出しか、あるいは枕の下にでも大切に保管されるのだろう……されたら良い
なあと、僕はまた。
 自分にはどうにも出来ない想いを、雲の上に預けたのだった。
 
 
 
                            (おしまい)
 
 
 

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2010年7月14日 (水)

■いとなみを空に映して・三 ~『アマガミ』・絢辻さんSS・七夕編 -更新第542回-



 
 
          *   *   *
 
 
 
 結局、絢辻さんは健康祈願と運気向上、合わせて二枚の短冊を。僕は健康
祈願の一枚だけを……大笹に吊るしていいことになった。
 僕らがたどり着く頃には、大笹の手の届きそうな低い枝にはもう他の短冊
や飾りが一杯にくくりつけられていたから、脚立を借り、それよりも少し高
いところにある枝に、何故か絢辻さん自らが上がって短冊をくくりつけてい
た。
 その三枚をつるし終えたとき、
「はい」
と絢辻さんが、僕に向かって手を差し出したのだった。
「え? なに?」
「短冊よ。もう一枚あるんでしょ? 一緒に結わえちゃうから、こっちにち
ょうだい」
 最初、僕は絢辻さんが何を言ってるのか分からずにポカンとしたのだけど、
そういうことか思い当たると、パッと両手を開いて見せた。
「もう無いよ。その一枚と、さっき没収された二枚で全部」
「そうなの? あなた、書くとき四枚持っていかなかった?」
 絢辻さんは少し驚いたみたいに、ポンと両眼を見開いて見せた。僕の一挙
手一投足まで、本当によく見ているから油断が出来ない。
「三枚しか書け……かなかったんだ」
 そうだ。先に書き終えてしまった絢辻さんを追いかけて、僕は四つ目の願
いを諦めた。その内容はただのおねだりで、大して気にしていなかったから
事細かな説明は伏せておいたのだけれど……絢辻さんは、その場面を思い出
したのか、そしてまさかあとの二枚まで没収することになるとは思っていな
かったからだろう(そりゃあ普通は思わない)、ちょっとだけしおらしく、
高い位置から視線を地面に落とした。
「それは……悪いことしたわね」
「ううん、いいよ、別に。自分で何とか出来るお願いだからね」
「そう?」
 絢辻さんは人の気持ちを読むのが本当に上手で……もしかすると僕が特別
分かり易いだけなのかも知れないけど、それがごまかしなのか本音なのか、
するっと読みとってしまった。だから僕が笑うと、いくらか気持ちもなごん
だのだろう、表情を和らげて
「そうね。大体あなたは、他力本願が過ぎる傾向があるものね」
と、露払いに呟くと、するすると脚立を下った。
「じゃあちょっとだけ、屋台を冷やかして帰りましょうか?」
 そうして、二人して大笹を見上げて合掌、一礼。僕はもうさっきのトンネ
ルに向けて半歩踏み出していたのだけれど、絢辻さんはそう言って、明るく
賑やかな、橙と朱色の光が円を描いて幾重にも混ざる参道を指差した。ラジ
カセから流れる祭囃子が、わざとらしくてあたたかい。動きを止めた僕に、
絢辻さんは無言で、差した指先を上下に軽く揺らして見せた。
「う、うん! そうだ、カタ抜きだけやらせてよ。僕、ちょっと得意なんだ」
「え? カタナシ?」
 絢辻さんはいつも、僕が駆け寄ろうとするともう歩き出しているから、追
い抜くことはすごく難しいけど。
「ちがうよ、カタ抜き」
「ノウナシ?」
「カ・タ・ヌ・キ! 元が変わってるよ! わざとやってるでしょう!」
「ちがうわよ、人聞き悪いわね。あたし、お祭りなんて殆ど来たことないん
だもの」
「それとこれとは……!」
 短冊にお願いを書いて吊るすのは確かに七夕の醍醐味ではあるけれど、多
分それは一番の目的じゃない。あの短冊はもしかしたら、自分が本当に欲し
いものをただ確かめるためにあるのかも知れないな、なんて僕は柄にもなく
ぼんやり考えた。それは、空の星みたいに望んだって実は手に入らないかも
しれない。けれど自分はそれを望んでいるんだと、誰にも与えることの出来
ないそれを間違いなく手に入れたいんだという、無茶で、無邪気で、まっす
ぐな気持ちを静かに叫んでも許される夜。だからそこに書くのは目標ではな
くて、願いなんだろうと……絢辻さんを見ていて思ったのだった。
 僕の思い描いた四つのお願いはまだまだ自分で出来ることだらけで、ひと
先ず空に預けはしたけれど、もう一度考えてみようと思い直す……だけど、
それなら、絢辻さんは?
 流れくる人波の、複雑に絡み合う潮目がまるで読めるみたいに、右の屋台、
左の見世物、ぴくぴくと、猫の瞳を走らせながらどこにも吸い寄せられずに
すいすい渡っていく涼しげな背中を見ていると、もっと無茶で、横暴で、傍
若無人なお願いを……誰に気兼ねのあるでなし、空にくらいは投げてもいい
んじゃないか、今みたいな自分を、絢辻さんは本当は望んでいないのかも知
れないと、……思うことも、僕にはあった。


             ・
             ・
             ・


 屋台に挟まれた参道を抜けるのには、絢辻さんのおかげでさほど時間をと
られずに済んだ。僕と梅原で来ていたら、それこそ最後の屋台のおじさんが
悲鳴を上げるまでかかったに違いない。
 僕は宣言通りカタ抜きに挑戦して見事に玉砕、その崩れたカタを、遊び半
分につついた絢辻さんが僕よりよっぽど上手に抜いて見せるという……あま
りにもお約束な、カタナシのノウナシぶりを見せ付けることになった。
 絢辻さんの
「なあんだ。あたしの言った通りじゃない」
という……ミもフタもない一言に胸をえぐられた傷跡と、残念賞としてもら
った、見覚えのあるようなないような外国産のネズミと似て非なるマスコッ
トだけが僕の手元に残った。
 そうして、人ごみを抜けて表の石段を下り、中途半端に時間が経って、エ
アポケットのようにひと気の失せた家への道を歩いた。
 遊びやお祭り、楽しい話題が尽き始め、話がそろそろ学校や勉強のことに
および始めたとき、
「そうだ、ねえ」
と、絢辻さんが少し不自然な話の切り方をした。どこまで歩いても、祭囃子
の高い笛の音だけは僕らのあとをついて来た。
「ん?」
「四つ目」
「え?」
「最後のお願い。今、あたしが叶えてあげましょうか」
 僕の隣を歩きながら、絢辻さんは歩調もトーンも変えないまま、ただ左手
をこっそりパンツのポケットに忍ばせただけで、そんなことを言った。
「……そんなこと出来るの?」
 四つ目のお願いを、僕は絢辻さんには話していなかった。それに、その内
容は単なる物欲で、今この場で叶えることはおろか、言い当てることも出来
るはずがない、これまでの三つの願いごとの延長で、絢辻さんが自身にまつ
わることと思い込んでるんだと僕は高をくくっていた。
「はいこれ」
 けれど、絢辻さんのポケットから出てきたのは、文房具屋でも売っている
ようなプレゼント用のラッピングバッグで……僕をどきりとさせるのに十分
な大きさと形をしていた。
「……これって……」
 手に丁度収まる幅と厚み、鉛筆よりもちょっとあるくらいの長さのそれに、
僕はまさかと、期待と、ちょっと怖いのとで息を呑んだ。
「良かったら使って」
 絢辻さんはその包みを渡すだけ渡すと、思わず足の鈍った僕を半歩置き去
りにしながら歩いていく。あ、開けてもいいの? ええどうぞ。そんな当た
り前のやりとりももどかしい。僕は包みを破らないように、慎重にテープを
はがして中の物を取り出した。……まさかとは思ったけど、ペンケースだっ
た。本当に。
「ど……どうして?」
 驚きのあまり僕が立ち止まっても、絢辻さんは止まってくれない。肩越し
に浅く振り返った、唇の端に浮かべた満足げな笑いだけを残して、夜と街灯
の闇の中を一人で歩いて行ってしまう。わずかな黄色い明かりを頼りに、僕
がその贈り物を眺めながら小走りで半歩後ろまでたどり着いたところで、絢
辻さんは一言だけ、見当違いな質問を返してきた。
「お気に召さなかった?」
「そ、そんなわけないよ、ありがとう!」
 絢辻さんがくれたのは、丈夫そうな、厚手の布でつくられたペンケースだ
った。濃いクリーム色のシンプルな下地に、緑、赤、黄色、そして白と黒の
ラインが入った、ちょっとシャープなデザインのもので、形も、大きさも、
まるで誂えた様に、僕の毎日にすっと馴染んでくれそうな佇まいをしていた。
数日前、父さんの買ってる大人向けの情報誌で見かけた高級品に、色合いこ
そ違えよく似ていて、僕は驚きと同じくらい興奮した。
「……すごくかっこいいし、僕が欲しかったのとよく似てる……どこで探し
てきてくれたの?」
「作った」
「え?」
 絢辻さんはツンと澄まして言ってのけ、「前見ないと危ないわよ」と付け
加える。実際、興奮気味だった僕は一度蹴躓いてつんのめった。
「わっとっと……。つ……作った? 手作りなの?」
 その勢いでまろび出た街灯の下、僕が貰ったばかりのペンケースを明かり
に透かしてしげしげ眺めると、さしもの絢辻さんも立ち止まって振り返り、
「ちょっと、やめてちょうだい」
ところどころ失敗してるんだから! と非難がましい声を上げた。
 そのとき絢辻さんの姿はもう随分遠くて、髪や瞳、体の端々が夕闇に溶け
始めている。僕は慌ててペンケースを包みにしまい直すと、走ってその影に
追いついた。
 いつもよりちょっと得意げに、愉しげに歩く絢辻さんは、そうは言いつつ
もそれなりに手ごたえを感じているのだろう。今日にタイミングを定めて計
画的に仕上げてきたことは想像に難くない。誇らしげに伸びてリズミカルな
背筋は、それを完遂して作戦を成功させた嬉しみを物語ってる。僕が追いつ
いた瞬間、細い鼻歌が、その切れ端だけ聞こえてきて消えた。
「で、でも、どうして?」
「そんなの、見てればわかるわよ」
 ようやく追いついて並びかけ、もう一度、はじめと同じ質問をした僕に、
絢辻さんの答えはシンプルだった。
「あなたこの間、ファスナー壊して大騒ぎしてたし、そのあと雑誌で高そう
なペンケース見て溜め息ついてたし」
「あ、うん……」
 それは、確かにその通りだった。でも、僕は普段、僕のそばにいない絢辻
さんをそんなに見つめて暮らしてるだろうか? 決して気にかけていないわ
けじゃないけれど、欲しいものを言い当てたり、困っていたら駆けつけたり。
昨年の冬だってそうだった。絢辻さんが一番大変な時期に自分が何をしてい
たのか……それを思うと、申し訳ない気持ちばかりが先に立ち、
「忙しいのに……大変だったんじゃないの?」
そんな言葉しか浮かんでこない。本当に下らない。
「別に。そうでもないわ。勉強の合間の手慰みよ。ゆび先を使うから、頭は
冴えるし、休まるし。ちょうど良いのよね」
 ……そして、それを簡単に認める人でもないことは、僕にも分かっていた
からそれ以上は何も言えず、そっか、と情けなく、また次の言葉を捜すこと
しか出来なかった。
 どこまでもついてくるものだとばかり思っていた山の上から聞こえてくる
贋物のお囃子の音は、住宅街に踏み込むなりヒョロヒョロと弱弱しく、ドジ
ョウのしっぽみたいにしぼんでいく。振り返っても、山はちょっと背の高い
くらいの建物に阻まれて、もうそのともし火も見ることは出来なくなってい
た。
 
 
 
                       (つづいてしまった) 
 
 

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2010年7月11日 (日)

■いとなみを空に映して・二 ~『アマガミ』・絢辻さんSS・七夕編 -更新第541回-



 
 
          *   *   *
 
 
 
 そんなことがあって、僕らは裏道を使って山の上の神社へ向かうことにし
たのだけれど。
 踏み入れたその道は、思いのほか整備が行き届いていた。石段は、さすが
に表の参道ほどは大きくもきれいでもなかったけれど、滑ったり、歩きにく
かったりすることはあまりなく、それどころか、雨を吸った木々と土があた
りの空気を冷やして心地良い。時折風が抜けると肌寒いくらいで、僕と絢辻
さん、互いの気配がそれで分かるくらいだった。屋台が並ぶ参道の人いきれ
の悲惨さは去年までの経験でよく知っているから、この選択は案外正解だ。
ただ明かりだけは心許なくて、先を行く僕が一歩一歩、段の位置や幅を確か
めて、後続の絢辻さんに知らせながら、ゆっくり登っていくことになった。
 そんな薄闇の森の中、次の石段を踏みしめながら、僕は思い切って訊いて
みた。
「それで、短冊には何を書いたの?」
「ん? 世界征服」
「せ」
「うそよ。健康祈願」
「……」
 ……もう、驚く間をくれるつもりもないらしい。絢辻さんは一瞬でオチま
で終わらせて、
「世界なんて手に入れたって、管理するのが大変じゃない。手に入れるまで
の苦労と、維持と。それを考えたら、見合うだけのリターンがあるなんて到
底思えないもの」
と、涼しい声で付け足した。ああ、それも具体的に検討した上での選択なん
ですね……。にしても。
「……それだけ?」
「そうよ? 他に何かある?」
と、あっさりだ。
 昨年、一昨年、そしてさらにそのまた前の年の分まで遡ってお願いの請求
をしようとした僕としては、いささか拍子抜けするお答えが返ってきた。
「あとは、多少、運のめぐりが良くなりますように。かな」
 そう付け足された絢辻さんの答えを訊いて、僕は戸惑っていた。これは…
…どっちなんだろう? リアリストの絢辻さんらしいのか、ゴーツクバ……
ごほん、あらゆるものを求めて止まない、飽くなき探究心の持ち主である絢
辻さんらしからぬ態度なのか? ここは一つ突っ込んでおこうと、僕はさら
に言葉を捜す。
「そうなんだ? もっとこう……合格祈願とか、何か欲しいものがあるとか
は……」
「別に。具体的な話で、わざわざお空の星に叶えてもらわないといけないよ
うなことは、今、何もないもの。自分でやった方が早いわ」
と、その答えはなるほど、前者だ。背後から聞こえてくる言葉の中に、リア
リストで実力主義者の絢辻さんが、凛と背筋を伸ばして見えた。
「そっか。絢辻さんならそうかもね」
「だから、自分の手の及ばない様なこと。運とか、縁とか。そういう要素が
ものをいうことに限るわね、お願いをするなら」
 そんな風に付け加える。
「ははっ、そっか」
「うん。そう」
 表の参道よりも幾分急でワイルドな石段に、僕も絢辻さんも、息は徐々に
あがり始めていた。お互い、返事も少し切れ切れに、熱気をはらんだ吐息が
言葉に混じり、気のないようになりながらも、僕は、確かにおみくじとか占
いとか、およそ他力本願の匂いのするものには近づかないきらいが絢辻さん
には普段からあったことを振り返る。さすがだなあと感心もする梨穂子や薫
に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。
 そうして会話が途絶え、一段、二段と上ったところで……
「そういうものが、一番、ものを言うことについては……ふぅ、もう……片
付いちゃったから」
「そうなの? ははっ、それは良かったね」
 僕はいい加減、頭も回らなくて。絢辻さんの言葉が指す先を、ろくに追い
かけもせずに返事をした、それがいけなかったみたいだ。
 僕の後ろで、ザシッ、と絢辻さんの編み上げサンダルの底が湿った石段の
砂を踏みつける音がひときわ大きく響いたと思ったら、その続きが聞こえな
くなった。
 僕はそれにも気付かずに、もう一段。そしてさらに次の段に右足をかけた
ところで異常に気付き、ようやくあとを振り返った。絢辻さんは、立ち止ま
ってしまっていた。一段分余計に空いた距離が、暗がりと乱れた呼吸とで、
変に遠近感を狂わせていた。
「絢辻さん?」
「……」
 青黒い空と、雲の紗幕を通したほんの少しの月明かり。それがさらに藪の
隙間に濾過されて射すわずかな光を受けて、絢辻さんの黒い目が、闇の中で
ぽっちり赤く怒っている。
「むぅ……」
 顔のほかのパーツは殆ど見えないけれど、釣り上がった目から大体の想像
がついてしまう。これは……さっきの件も合わせてなのか、かなりの不機嫌
だ。
「ど、どうしたの?」
「またそうやって、他人事みたいに……」
 ぼそりとこぼれた呟きと、絢辻さんのさっきの言葉が重なる。運とか、縁
とか。……巡り合わせって、もしかして……。
「……ああ」
 僕がはたりと手を打つ頃には、絢辻さんはもう動き出していた。数段分の
アドバンテージを一息に、ざしざしと登り詰めてくると、
「前、代わって。あたしが先に行く」
と、押しのけるような視線で僕を見上げた。
「ご、ごめん。気をつけるよ」
 狭い狭い石段の上で一度、ほとんど抱き合うみたいにして場を譲り合い、
絢辻さんを先に立たせる。その入れ替わりざま
「次すっとぼけたら、承知しないわよ」
と。
 脅しのように、少し寂しそうに。
 絢辻さんは、僕の喉元にポツリと囁きを落としていった。
 もちろん、とぼけたわけではなかったけれど。
「ごめん……」
 弾むように上り始めた絢辻さんのおしりに、もう一度小さく謝っておいた。


             ・
             ・
             ・


 隊列を変えて石段を上り始めてすぐ、
「で? そういうあなたは?」
と、絢辻さんが訊いて来た。短冊のお願い事の中身のことだろう。
「僕のは……そのまんまだよ」
「わかりません。説明して頂戴」
 ……まだまだ、機嫌は直らない。ぶつりとちぎれる語尾が、湿って折れた
木材みたいにけば立っていて触れるのにすごく神経を使う。……これで機嫌
が良かったら「世界平和だよ」とブツける事も出来たのだけど、今それをや
ったら、怒って帰ってしまい兼ねない。
「一つは、絢辻さんと同じだよ。健康祈願。僕と、家族と、友達と。……絢
辻さんが、ずっと元気でいられますようにって」
「そ。まあ、月並みよね。ずっとは難しいでしょうけど。それで?」
 反応もやっぱりそっけない。まあこの内容で食いつけと言われても、それ
はそれで無茶振りの範疇だとは思う。美也だって顔をしかめるだろう。
「もう一つは、『絢辻さんと同じ大学に受かれますように』」
 一段、二段、三段。僕が言ってから、結構な間がおかれた。前を行く絢辻
さんの息は、ふっ、ふっと弾んではいるけれど、話が出来ないほどじゃない
はずだった。何か考えているんだろう。
「……そう。それにはまだまだ、努力が足りないかしらね。今からお星様を
頼りにしてるようじゃ、怪しいんじゃない?」
 励ましと、憎まれ口。絢辻さんなりの葛藤が見え隠れしているようで、お
かしくて、僕は荒くなった息に密かに笑みを混ぜた。はっ、はっ、ははっ…
…。
「ちょっと! 今なにか笑ったでしょう!」
「わ、笑ってないよ!」
 すごい速さで振り向かれてすごい速さで否定する僕! な、なんでバレる
んだろう、怖い!!
「……。じゃあ、次」
 促され、まだちょっとドキドキしながら僕は三つ目のお願い事を思い出し
て、そこで黙り込んでしまった。それを見逃す絢辻さんでもない。
「どうしたの? あたしに言えない様なこと?」
「ち、違うけど」
「だったらさっさと言いなさい」
 別に都合の悪いことは何も書いていないけど、今のこの雰囲気で言ったも
のか、躊躇われた。
「……『あ』」
「うん」
「……『絢辻さんと、ずっと一緒にいられますように』って……」
 ご機嫌とりや、冗談のつもりはない。今、手に持ってる短冊には言ったま
まのことが書いてある。見せろと言われて隠すつもりもなかったけれど、音
読させられることは想定していなかったからさすがにちょっと恥ずかしかっ
た。
 それと、怖かった。
 もしかしたら、絢辻さんにその場しのぎのおべんちゃらだと思われてしま
うかも、という躊躇いがあったのだけど……さすがに、そこまですぐバレる
嘘をつくほどの馬鹿だとも、お追従で場を取り繕える器用人だとも思われて
はいないみたいだった。
「……そう」
 絢辻さんから返ってきたのは、短く、けれどどこかあたたかな、沈黙にな
りそびれた言葉の切れ端だった。僕の言葉そのままを受け止めてくれたのだ
ろう。見上げるとその背中には汗が滲んで、体は……受験勉強で運動不足な
のかもしれない、左右に大きく振れていた。その向こうには、トンネルの終
わりが見え始めていた。
「けど、それだったら……」
と、絢辻さんは何か続けようとして。そして、それとはまたさらに違った何
かに気が付いて、ぱたりと足を止めた。
「……って、待ちなさい」
 ざしり!
 サンダルで砂をすりつぶす音を勢いよく響かせて、絢辻さんは急反転、
「あなた。まさかそれ、人目につくところにぶら下げるつもり!?」
と、興奮気味にまくしたてた。
 境内がもうすぐそこだ。トンネルの出口と木々の隙間から射す祭りの灯に
照らし出された絢辻さんの面差しは。……その光が提灯や屋台のものだとい
うことを差し引いても、あまりに赤かった。
「え? そ、そりゃあ短冊なんだからもちろ……あ……」
 そのことの意味を、僕はあまり深くは考えていなかったのだけど。
 言われて、考えて。
 気が付いて、僕が気が付いたことに絢辻さんがまた、気が付いて。
 その間、ずっと黙って、にらまれて。
 やがて。
「……」
「……」
「没収」
 シンプルなコマンドとともに、絢辻さんの手のひらがにゅっと僕へと突き
出された。
「ええええ! そんな、イヤだよ! せっかく書痛たたたたた痛い痛い、絢
辻さん痛い!」
 石段一段あとずさり、短冊を守るように身をよじって逃げた僕の肩に、絢
辻さん自慢の鋼の爪が、逃がすまいよと食い込んだ。
「もっとよく考えなさい! この町に絢辻なんて苗字の家が、一体何軒ある
と思ってるの!」
「さ、三軒くらい……? 痛たたたたたたた!」
「う・ち・だ・け・よ!! いい恥晒しじゃない、それだけは絶対に認めら
れません!」
「だ、だって!」
「だってもヘチマもな・い・で・しょ! いいからそれを寄越し・な・さ・
い!」
 言葉を強く区切るたび、僕のTシャツの肩に爪痕が深く刻まれる。それが
純粋な力なのか、何かの経絡の力なのか!? 経験したことのない痛みが肩
から入ってつま先に抜けていく……それでも、僕は!
「い、や、だぁ~!!」
「な、何をそんなに必死になることがあるのよ!?」
「だ、だってこれは……! 僕の!」
「往生際が悪い! わかってるわよそんなこと! 大体、その二つだったら
……!!」
 狭い石段から体半分乗り出して……一体、踏ん張りの利かないその体勢か
らどうやって力を生み出してるんだろうか。絢辻さんは力任せに僕に自分の
方を向かせると、そこからさらに、僕の顔を覗き込んできた。困って、怒っ
て喜んで、八の字になったきれいな眉と、キラキラした絢辻さんの瞳がもう、
目の前にあった。
「……あたしが、何とかしてあげられるから! お願いだから黙って渡して
頂戴……!」
「……」
 静かに、風とも呼べないくらいかすかに空気が動いた。濡れた空気の中を、
目の前に迫った絢辻さんの体温が伝わってくる。そんな風に、彼女に頬の熱
まで伝えられてしまったら……
「………………………………はい」
逆らえる男が一体、この世界のどこにいるっていうんだろう?
 
 
 
                             (つづく
 
 
 

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2010年7月10日 (土)

■いとなみを空に映して・一 ~『アマガミ』・絢辻さんSS・七夕編 -更新第540回-


 

 
「こ、この道を使うの!?」
 
 
 
 はじめはまだ遠かったお囃子の音が少しずつ近づいて、その力強さや愉快
さのふちどりが、耳の奥でくっきりとし出す頃。
 僕は昂ぶる気持ちに誘われるまま、祭りの熱気、人々の声……そして屋台
の食べ物の匂いに釣られてフラフラと、神社の参道の方へ吸い寄せられてい
くところだったのだけれど……。
「こーら。どこへ行くの? 境内まで行くなら、こっちよ」
と絢辻さんがゆび差したのは、藪木が天然のゲートを作る、苔むした石段の
登り口だった。こんなところに裏道があるなんて、子供の頃から遊び慣れて
いた僕でさえすっかり忘れていた。

 今日は、七夕。
 僕は三枚、絢辻さんは二枚。願い事をしたためた短冊をそれぞれ手にして、
里山の中腹に鎮座まします輝日東神社へ向かうところだった。そう。絢辻さ
んが手帳を焼いたり、二人で雨宿りをしたり……僕らにとっては何かと縁深
い、あのお社だ。
「境内の裏手に行くのなら、ここを使った方が早いわよ」
「だ、だけど、せっかくの、お祭り……」
 絢辻さんは何食わない調子で言うけれど、正直、僕は愕然とした。参道の
方からは、温かな音と光が絶えることなく溢れてくる。このとき僕は、お預
けを食らった子犬みたいな顔をしてたに違いない。参道の方向と、絢辻さん
の顔を交互にチラ見して訴えるけれど……絢辻さんはまたしても、腕組みに
溜め息を一つ。険しい眉で切り捨てた。
「あんな誘惑の多い道! 境内までたどり着くのに、一体どれだけ時間がか
かると思うのよ? それに大体、人が多いったらないじゃない」
 それはそうだ。お祭りなんだから。だけど、それがお祭りの醍醐味じゃな
いか。
「でも……」
 食い下がる僕に、
「これ以上文句を言うなら、あたしもう行かない」
……絢辻さんは、バッサリと。そんな風に切り札を切られては、僕もこれは
だめだと判断する。本当にイヤがってるって分かったから、交渉も抵抗も諦
めないわけにいかなかった。
「……分かったよ。ごめん」
「そうそう。帰りにでも気が向いたら、少し覗いて行きましょ」
 僕が素直に謝ると、絢辻さんも少しだけ譲歩してくれる。いつもの僕らの
パターンだ。僕が薄く苦笑いを浮かべると、絢辻さんも得意げな笑みで返し
てくれ、その空気が嬉しくて、屋台はもう、半分どうでもよくて。
「そうだね。 それじゃあ行こうか!」
と僕は先を切り、名も知らない雑木が象るトンネルへと、足を踏み入れたの
だった。



          *   *   *



 ものの五分ほど前のことだ。
 絢辻さんが少し濃いブルーの短冊に筆を走らせて、
「まあ、こんなものかしらね」
と、これといった感慨もなさそうに小首を傾げるのを見て、僕は慌てた。
「えっ? もう書き終わっちゃったの?」
 三枚目をようやく書き終え、四枚目に掛かろうとしていた僕は、さっさと
机を離れてしまおうとする絢辻さんを振り返る。
 遠く神社の方からはお囃子の音が、……多分、テープか何かで再生されて
いるだけだろうけど、聴こえてくる。僕らはそのお祭りのメイン会場から少
し離れて設けられた、河原の願掛けブースで短冊に願いを書いていた。音の
方を振り返れば、小高い里山の中腹よりちょっと上、お社の辺りだけがぼん
やり赤く、提灯みたいな光を宿していた。
 辺りの土手や河原には、ほどほどの背の高さをした小さな笹が二十本近く
並べて立てられていて、集まった人たちは用意された長机で短冊に願いを書
き、思い思いにぶら下げていく。
「どれに下げてもいいのよね?」
 そんな人波に紛れて、絢辻さんともあろう人が、せっかくの短冊を無造作
に笹に括りつけようとするから……
「ああ、待って待って。そうじゃないよ」
と、僕は慌ててそれを制した。
 何よ、と絢辻さんはもう、短冊を枝に結わえようと背伸びの体勢。かかと
を半分浮かせた格好で、なんだか子供みたいに振り返った。そんな姿勢のま
ま待たせるわけにも行かない。僕はええいと、四つ目の願い事は諦めて、書
き上げた三枚だけを束ねて掴むと机を離れた。
「上まで行こう? そこに、一番大きな笹があるはずなんだ」
 上、っていうのは神社の境内のことだ。
 そう、それは、輝日東神社の七夕祭りに古くから参加してきた僕らには公
然の秘密。笹はこうして河原にも用意されていて、短冊もここで書くから大
抵の人はここに願いを下げていってしまうのだけど……実は、大本命の大笹
は神社の境内、しかもその裏手にひっそり立ててある。それでも知る人は知
ってるから、結構な数の短冊や飾り物が、毎年下げられていく。
「……それで?」
「その大笹の先端に下げた短冊は、願いの成就率がなんと通常の五割増し!」
「……」
 ……なんていう……。僕の熱のこもったセールストークも、案の定。絢辻
さんには通じない。冷たい目で僕を睨み付けると、はぁ、と一つため息をこ
ぼした。色々と突っ込みたいところもあるけど、と半ば怒りの気持ちを圧し
殺し、
「……わかった。とりあえず、その大笹に願掛けが出来れば気が済むのね?」
「えっと、はい……」
 なんかもう、相手にするのも面倒くさいといった風情だ。お祭りなんて、
本人のノリが大事だと思うんだけどなあ。


             ・
             ・
             ・


「だけど驚いたよ」
 しゃら、と風に笹の葉が鳴って、僕らは河原の道を歩き出す。まだ梅雨明
け宣言の出ない七月初頭の風と空気はジットリと肌にまとわりつくけど、今
日は少し風がある。天気は生憎良くはなくて、空には薄い雲が幕を引いてい
た。
 話し出しても絢辻さんからは反応がなかったから、僕は勝手に続けた。
「絢辻さんから、『七夕をやろう』って言ってくるなんて思ってなかったか
ら」
「議長。今の陳述は事実と異なります」
 ツンと澄ました思いがけない反撃に、僕は軽くつんのめる。
「そ、そうだっけ」 
「そうよ。あたしは『七夕、やらなくていいの?』って訊いただけじゃない」
 前を行く絢辻さんは後ろ手に組んだ手の指に、ひらひら、ひらひら、二枚
の短冊を躍らせて、僕を呼び寄せるみたいに歩いていく。……何が書いてあ
るんだろう。目を凝らして見ても、時刻は夜の八時をとっくに回っている。
夏だといっても町はとっぷり夜の底にあって、近づいたってそうそう見える
ものじゃない。むしろその……健全な高校生男子の僕としては、手の向こう
の、七分丈のパンツのおしりの方が、その……僕を誘っているようにも見え
るわけでして……。
「そういうことには積極的なあなたが。珍しく何も言わないから、気を遣っ
て上げたんでしょ? 勉強の息抜きも兼ねてね」
 それは、そうなんだけど。夏を目前にして、僕らの受験勉強もこれからい
よいよフルスロットルだ。だからそこは心得て、僕も敢えて黙っていたのだ
けど。……まあ、イザどうしても行きたくなったら梅原でも誘って行けばい
いやという腹はあった。
 だけれど、そもそも……。
「毎年やってたんじゃないの? あなたの家では」
「うん。といっても、随分子供の頃だけどね」
「あら、そういうもの?」
「さすがにね」
 そう。さすがに、高校生にもなって笹に短冊はやってない。こうして短冊
に願いを書き付けるのは四年ぶりくらいになるだろうか。それで四年分……
四枚くらいは書いても罰はあたらないと踏んだのだけど。
「その割には随分、欲をかいたわよね」
と、僕が手に重ねて持った三枚の短冊を見て、絢辻さんは意地悪く眉根にし
わを寄せて笑う。
「はは……積み立てた分が、今年で満期になるんだ」
「なあにそれ?」
と僕の切り返しに、変なの、とさすがの絢辻さんも呆れて苦笑い。また風が
吹いて、今朝まで降ってた雨に冷やされた空気が僕らの笑いを運び去った。
 
 
 
 
                             (つづく) 
 
 
 
 

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2010年7月 1日 (木)

■クラス委員長の日記・一日目~『アマガミ Precious Diary』感想 -更新第535回-

よろしくない。
7月です。
オイサンです。


 ※アニメ『アマガミSS』の感想やなんかについては、
   まだ放映の始まっていない地域もありますんで
   また別記事にして載っけることにします。

   つか、現時点ではまだ放映されてねえけど。

   後ろの方にマンガ版『アマガミ Precious Diary』の感想を書いていますが、
   あくまでマンガの感想だけなのでご安心下さい。
   ここは愉快で素敵なインターネッツです。
   つか、『Precious Diary』の感想を見たくない人はご安心されると困りますけど。




■いらいら。



うーん。
なんだろう。
今日は朝からすごくイライラが募ってしまって、良くない気分。
どうしようもないな、こういう時は。

ゆんべも寝落ちして、睡眠が短時間に分断されてしまったとか、
フツーに暑いとか、
そういうことの積み重ねが原因なのだと思いますが。
いらいらいらいら。

解消しようとカラダを動かすにも、
動かすことも、そもそも動かそうと考えること自体も億劫で、
億劫がってる自分にまたイラついてみたりする。

マそこで黙って動かしてしまえば
あらかた改善されることは分かっているんですけどね。

甘いものを食べてみたり、ちょっと寝てみたり、
音楽を聴いてみたりと緩い方法で解決を試みるもダメ。
余計イライラする。

そんな気分でサテどうしたものかとシゴトバに続く道を歩いていると、
前を行くオニーサンが、
道すがらの空き地から歩道まで飛び出して生えている背の高い雑草を、
ところどころ、ひと撫で、ふた撫でしながら歩いてお行きになる。
それを見てふうんと思い、ちょっと真似をしてみると、
これがなかなか具合が良く、ちょっとだけ気分が落ち着いた。

うーん。
文字通り、緑に触れるとか、何かに触る、
触感から何か刺激を入れるというのは物によってはそれなりに
何かの解消になるみたいだ。

結局このあと、
軽くストレッチをして気分はすっかり晴れたんですけど。
こういうとき、ネックになってるのは大概、
首周りの凝りとか血流の悪さなんですけどね。
分かってるんだけど。
気分が良くないと、それも素直に受け止めたくないとかあって……
バカだねオイサンは。

これで草で手でも切ってればもうどうしようもなかったと思うのだけど。

あと、「こういう時、絢辻さんはどうやって解消してたんだろうなあ」とか、
やっぱり考えてしまう程度にはご病気。
……生理のときとか。

……その辺は別に、「生理だから」でいいのか。
当たり前のことだもんな。
そういう日がない方がむしろ気持ち悪いし。
……ていうかオイサンは高校が男子校だったものだからその辺の感覚は分からんが、
共学だとフツーに生理で具合の悪い子が同じ教室にいたりするんだなー。
それは……男子としてはどんな気持ちがするモンなんだろうか。
中学ン時は共学だったから、いたはずだけど。

  気にしないオイサンみたいのには関係のない話だってことか。

というワケで、食べてみた甘いものは
ただの余剰カロリー摂取になってしまいました。
美味しかっただけでした。
ぽてちん。



■素敵なアウトラインプロセッサが欲しい。



いきなり、全ッ然関係のない話をしますけど。
……オイサンは、Microsoftのメールソフトである、
Outlookをメモ帳代わりに使います。
使うのが好きです。
大好きです。

些細なメモをとるのに、いちいち
「ファイル名を決める・ファイル名をつける・
 格納するフォルダを探す/考える/決める・どっかのフォルダに保存」
という面倒な手順を省くことが出来るので、便利なんですね。

  この手順、意外とダルいんだよねえ。

Ctrl+s一発でサラッと保存が出来、
ソフトさえ起動してしまえばどこに保存したのかすぐに探し当てられるので
メモを見失う心配もない。

この点においては、このソフトはワリとスグレモノだなあと思って使っております。
……ただ、肝心のテキストエディタとしての機能がお粗末なので
あくまでメモ用ですけど。

このblogのネタや荒書きなんかは、
かなりの割合でOutlookで書いてたりします。
そういう動作の出来るテキストのエディタ+文書管理ツールがあってくれると
なお良いのですけどね。
探すと、アウトラインプロセッサというものになってしまうみたいですな。

ちなみにテキストエディタはMKEditorを使ってます。



■『アマガミ Precious Diary』一巻



ヤングアニマル本誌の連載をずっと追いかけてきた、
東雲太郎先生の『アマガミ Precious Diary』。
その感想です。

アマガミ 1―Precious diary (ジェッツコミックス) アマガミ 1―Precious diary (ジェッツコミックス)

著者:東雲 太郎
販売元:白泉社
発売日:2010/06/29
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原作『アマガミ』の絢辻さんシナリオを、
時折場面をミックスさせたり、ルート交錯をさせたりという工夫や味付けはありつつも、
ほぼ忠実にトレースしてきた本作。
ポンサクレックではなく。

今回、めでたく単行本化されたのでモチロンヌ購入。
アタマから読み直してみました。

基本的な感想は今まで書いてきたことと変わりませんが、
改めて気付いたことが何点かあったので
それについて書き留めておこうかなと思います。

 ▼1. ポケットアヤツジサン 白/黒

改めて、絢辻さんにときめきました。
よく出来た、普通の高校生としての絢辻さんに。

「絢辻さん」といえば、
猫かぶってて、裏では色々腹黒いことや薄汚いことをたくらんでいて、
超ハイスペックでSっ気があって……という面がクローズアップされ、
そこがお話のメインになってはくるのですが、
本作ではむしろ絢辻さんの「白い面」、すなわち、
「猫をかぶった状態でいるときに表面に出てくる本音の部分」
が強く描かれてるよなあ、と感じました。

どーいうことかと申しますと。

オイサンは、絢辻さんには「白い面」と「黒い面」があって、
そのどちらもが絢辻さんの本音であると思っています。

  ……というか、
  「そのどちらにも、絢辻さんの本音は浮かび上がって来る」
  と言った方がより正確なのですが。

要するに、
絢辻さんには何か成したい一つ(かどうかは分かりませんが)のコトがあって、
それを完遂するために絢辻さんは、
「絢辻さん・白」と「絢辻さん・黒」を使い分ける必要がある。
「白」がウワベ、「黒」がホンネというのではなく、
胸の奥底に眠るヒトツ本音を実現するための道具立てとして
「白」と「黒」を用いている、と解釈している、ということです。

ゲーム本編ではその「黒」の面がクローズアップされて描かれるのですが
(絢辻さんの物語自身の中でその部分が大きなウェイトを占めるので
それはそれで当たり前ですが)、
『Precious Diary』では、「白」の絢辻さんが大活躍してるな、
と思いました。

  そもそも、絢辻さん・白(ポケモンみたいになってきたな)の
  ヤルことナスことなんてのは、地味なんですよね。

創設祭の実行委員に立候補する場面にしても、
遅くまで残って委員の仕事をする場面にしても、
ワリと「すぐ隣にもいる、真面目な女の子」に見え、
絢辻さんが本来持っている(とオイサンは思っている)
実直さ・不器用さの魅力を際立たせて、
「委員の仕事を、遅くまで残って黙々とやっている女の子」
として映り……、
黒い面も知っているオイサンとしては、
そのいじらしさ・自律性の高さに改めて胸をときめかせてしまった、
とまあこういうワケです。

連載開始当初はなぜかそのことに気付くことが出来ず、
「黒っぽさが足らず物足りない」と感じていたのですが、
マこれについては、
連載開始時点でオイサン自身が「絢辻さん・黒」の挙動に
期待・注視しすぎていた、ということが大きく影響しているのでしょう。
本編で見えづらかった部分を補完して欲しい、という思いが強かったがゆえに。
多分、まっさらな状態で読んでいれば、
「あ、絢辻さんてそういう普通の優等生なんだ」
と思えたのだと思います。
出されたものに対して素直になりきれなかった、オイサンのミスです。

 ▼2.ぼくのかんがえたあやつじさん

デ、じゃあなんで今作ではその
「クローズアップ・白」が起こっているのかなーと考えてみたのですが、
……この話の中での絢辻さんは、あんまり超人っぽくないんですよね。
派手さやカリスマ性が、あんまり感じられない。

  ひと先ず一巻に収録されている時点まででは、ですけど。

しっかり比較したわけではないのでキチンとはわかりませんが……
絢辻さんの超人性やカリスマ性を描くイベントが
薄味なのかはたまたカットされているのか、
もしくは量的には同じなのだけどゲームとマンガという媒体の差が、
同じ情報量でも伝達する印象に差異を生じさせているのかはわかりませんが、
『Precious Diary』の紙面からは、
絢辻さんの持つ良い意味での「派手さ」、
「華」の部分がかなり殺がれていると感じます。

  クラスの真ん中にいる子、というイメージではない。
  ゲームの『アマガミ』でもクラスのど真ん中にはいませんが、
  それでも中心付近に位置しているようには見えます。
  『Precious Diary』ではそれもない。

ただ、絢辻さんに課せられる課題の大きさは変わらなく見えるので、
読者のオイサンからは
「少ないパワーで大きな問題に立ち向かおうとする」絢辻さん、
つまり、真面目で、一生懸命で、そして控えめな女の子として、
描かれている印象を受けたのだと思います。

  えーと、この辺で誤解がありそうなので補っておくと、
  それがアカン・失敗だというわけではないですよ、モチロン。
  上で書いたみたいに、
  「違う印象の絢辻さん」を生み出すことに成功していると思う、
  という話です。

 ▼絢辻さんを揺るがすもの

……マかといって、それによる弊害が全然ないワケでも勿論なくて、
「超人性」と同時に「孤独」の部分も弱まり、
また「何故猫をかぶるのか?」という謎についても
言及しづらくなっているように思います。

絢辻さんの物語の出発点としては、
「家族をどうにかしたい(見返したい/見切りたい)」
という原点があり、
その上に「目標」が成立し、
そのための努力として「超人性」を獲得してかつ「猫をかぶる」わけですから……
超人性が弱まると、それに引きずられ物語全体に漲るはずの「力の量」のトーンが
ワンランク下がってしまうのでしょうね。

なので全体的には、ちょっとおとなしいなーと。

ゲーム本編でも本作でも、絢辻さんが抱いている「強い気持ち」の部分は、
それこそマンガの強みを生かして大ゴマでガッツリ描かれ印象的ではあるんですけど
(「見たのね」のシーンとか、
「あなたが今いる日常を、あたしに頂戴」のシーンとか)、
その派手さ・印象の強さと、
絢辻さん自身の持つ能力の発露の弱さ(=華のなさ)とのアンバランスな感じが、
どうしても拭えないんだな、ということに改めて気付いた次第です。

  ……連載時の感想の中に、
  「アンチヒロインとしての最強絢辻さんではなく、
   悪ぶって強がってる、ドジっ子優等生くらいに見える」
  というのは、突き詰めたらこのことだったんだなと
  今、自分でもようやく納得していますですハイ。

上でも書きましたが、「孤独」の要素も若干トーンダウンしているもんですから、
図書館で泣きつくシーンは少し唐突に感じます
(その分「フツーの女の子のフツーの弱さ」として魅力的ではありますが)。

「超人性」「猫かぶり」「その動機」とが揃って初めて、
絢辻さんという「アンチ正統派ヒロイン」としての悪の華が咲くワケで、
現時点ではそれが見えていないために、
絢辻さんの物語としては、まだ不完全だなーと思う次第です。
マお話もまだ途中ですから、その辺はこれからでしょうね。

デ、オイサンが一つ思ったのが、
それを補助する役割として、主人公が
「絢辻さんはどうして猫をかぶったりしてるんだろう?」
と、至極当然の疑問を口にするシーンが挿入されても良かったのではないか、
ということです。

ゲーム本編とは、その話題に触れるタイミングが若干前後することになりますが、
物語の序盤~中盤にそれがあると、読み手としては主人公と一体化しやすく、
物語に参加しやすくなる気がします。

オイサンら原作体験組は……マ中身を知ってますから問題ないワケですが、
一見さん組を、物語の観察者としてではなく、
参加者としての没入を促すことが出来たんではないかなあと。
マンガとゲームの参加性の差異については、敢えて無視したのか知らん?

  マそれをやるとまた、
  橘さんが若干賢くなり過ぎるきらいも出てくるので
  それを避けたかったのかも知れませんが。

 ▼絢辻さんには背中が良く似合う

あと、小さい部分ですけど改めて気付いたことの最後。
ワンコからのご返杯くらって、絢辻さんが主人公におんぶしてもらうシーン。

……絢辻さんが、家族を「見限りたい」のか、それとも「見返したい」のか、
解釈は分かれるところだと思いますし、
絢辻さんの中でもまだまだゆれている部分だと思うのですが、
オイサン的には

 見限りたい:見返したい = 3:7

くらいかと思っていて。
これはまあ、ほぼ印象論なのですけどね。
詳しくは
 「手帳の中のダイヤモンド 第三部・家族の章
  ダブルギアは回らない。 ~分断に関する記述2」
の項をご参照のこと。

  ▼手帳の中のダイヤモンド -10- 第三部 -更新第216回-
   http://ikas2nd.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/-10---216--27ec.html

絢辻さんは、自分が背中を見せるシーンも多いですが、
主人公の背中に縁がある。

  マンガでは描かれませんが、
  ゲーム本編・<シリアイ>でのアタックイベントや、
  屋上で主人公と和解するシーンなど。
  ワリと、ことあるごとに背中を借りてます。

マこれはオイサンの単純なノーミソの思い描くところでしかありませんが、
やっぱり背中といったらお父さんなワケで、
そこには絢辻さんの、温かな父性へのアコガレのようなものと
無縁ではないのかなあと思うのです。

デ今回『Precious Diary』を読み返していて、
そーいや、このワンコご返杯イベントでも主人公に背中借りるよな、ということに改めて気付き
(今までは「あなたの脳みそ腐ってるんじゃないの!!?」という
素敵な台詞にすべてを持ってかれててアタマが回らなんだw)、
改めて、やさしいお父さん(や、温かな家族)に対する憧れを持ち続けているのかもなあ、
と思った次第であります。

……マそのワリには、このイベントは必須でもないし、
そういう直接的な描写もないので、甚だ怪しくはあるのですけどね。
でも、あのはしゃぎっぷりはちょっと異質な感じもする。

 ▼マそんな感じで、今後も応援していきますよ、というシメ。

連載時の感想では色々不満も述べていて、
その辺については変わっていないのですけど、
こうして絢辻さん・白の部分だけを強く受け止めるように意識して読むと……
いや、ときめくわ。コレ。

絢辻さん可愛い。
ていうか、絢辻さんカワイイ。超カワイイ。
白にせよ、黒にせよ、絢辻さんはガンバル女の子であって、
そのガンバル部分が強調されて見えて。
なんかもう、大好きですオイサン。
イケイケガンバレ、って思います。

絢辻さんは、やっぱりすごいしちゃんとしてるし可愛いなあと、
オフトゥンの上でものっすごいニヤニヤゴロゴロしながら
思ってしまったオッサンです。
イエイ(?)。

ですけどコレ、お描きになるほうは大変でしょうね。
キャラクターの動機が分からない/見せられないまま、
読み手を引っ張っていかなきゃならないって。
オイサンだったら、なんかオナカがゴロゴロしそうです。
ホント、大変だと思う。



……。



マそんなことで、
今後も不満があれば言いますし、つけられるケチはつけますけど。
人物も、背景も。
これだけ密度のある絵を描ける作家さんがイマドキ稀有だということを
身に染みて感じていますから。

  マ王とか、コンプエースとか読んだ後だと、特に……。
  だって……ねえ。

最後まで、そして最後を迎えても応援していきたいと思います。
是非最後まで、頑張って戴きたいと願う次第です。
そして、さらに願わくば。
東雲先生のフルスクラッチ。
オリジナルで描かれる作品を、是非とも読んでみたいなあと思うのでした。



オイサンでした。



 補遺
  本当は記事タイトルを「詞☆ダイアリー」にしようと思ったのですが、
  なんだか色々とエラいことになりそうだったので、
  やめた! さすがにマズイ!
  何がどうエラいことなのかは、分かるオッサンだけ分かればよろしい。
  知りたいアナタは、お兄さんかお父さんに聞こう!

  ……瞳さんにもオイサン、お世話になったモンですがねえ……。



 

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2010年6月 4日 (金)

■タソガレテラス~猫も歩けば核弾頭~『アマガミ』SS -更新第514回-

主人公 (さて、校内も一通りぶらついたことだし……。
     アップルジュースでも飲んで帰るか)



  ちゃりん、ちゃりん。
  ビー、ガタン。
  ぴりっ、ぷすり。


主人公 (ちゅるちゅる……。
     ♪~。
     帰ったら何をし・よ・う・か・な、っと……)



棚 町 「あ、いたいた。おーい」
主人公 (薫? うるさいのに見つかったな……)


棚 町 「おー、美味しそうなもん飲んでるじゃなーい。
     あたしにも一口、よこしなさいよお」

主人公 「……。
     ふぃふんでふぁえよ」



棚 町 「……。
     ストローくわえたまんま喋っても、何言ってるかわかんないわよ。
     ほんっっっとにケチねー。
     自分で買えるなら、始めからそうしてるっての」

主人公 (なんだ、通じてるじゃないか……ちゅるちゅる)


棚 町 「まあいいわ。ヒマでしょ?
     ちょっと話、付き合いなさいよ」

主人公 「ゴクン。飲み終わるまででいいならな」


棚 町 「てんきゅ、それでじゅーぶん。
     アンタにちょっと、聞きたいことがあってさ」

主人公 「聞きたいこと?」
主人公 (ちゅるちゅる……改まって、なんだろう……)



棚 町 「結局のところさあ、どうなの? 絢辻さんって」
主人公 「どうって……どう?」


棚 町 「結構な猫、かぶってっしょ? あの子」
主人公 「ぶっ!!」
棚 町 「汚っ!」


主人公 「げほっ、げほっ……
     お、おまっ! なっ! そんなこと!」

棚 町 「わかり易すぎて涙が出るわね……」


主人公 「……。
     そ、そんなこと、知らないよ。そうなのか?」

棚 町 「何よ、そんだけ慌てといてさあ……。
     今更隠せると思ってんの?」

主人公 (こいつ……どこまで本気なんだ? カマかけてるだけなのか?)


棚 町 「……誰にも言いやしないわよ。
     あんだけ必死に隠してるんだから、何か事情があるんでしょ?
     それを言いふらすほど子供じゃないって」

主人公 「……」


棚 町 「それとも何よ。口止めされてる?
     弱みでも握られてるとか?」

主人公 (弱み……それとはちょっと違うよな……。
     ちゅるちゅる……ちゅる……ず、ずずっ……)



棚 町 「だんまりか……」
主人公 「……」
主人公 (ずずっ、ずっ……ずごー)



棚 町 「……あたしもね、面白半分で訊いてるわけじゃなーいの。
     その辺、心配してんのよ」

主人公 (なくなっちゃったか……)
主人公 「……その辺、って。……心配?」



棚 町 「そ。最近、一緒にいること多いでしょ? アンタと絢辻さん。
     楽しそうにしてるから、別に構わないとは思うんだけど……」



主人公 (……薫)
棚 町 「……やっぱりさ、ちょーっと不自然に見えるところもあってね。
     人のいいアンタのことだから、もしかしたら……って思ったの。
     あんた、分かってんでしょ?
     絢辻さんが、『あのまんま』の子じゃないって」

主人公 (脅されてとか、ってことか……)


棚 町 「だ、大体さあ、ほら。
     接点ないじゃん? アンタと絢辻さんじゃ。
     向こうは優等生だし、美人だし?」

主人公 「らしくないな」
棚 町 「……え?」


主人公 「薫らしくない。友達のこと、そんな風に勘ぐるなんて」
棚 町 「う……」
主人公 「……」


棚 町 「……あたしも、そう思う……。
     ……だけどさ!」

主人公 「まあ、お前の言うこともわかるよ」
棚 町 「え?」
主人公 「接点、ないもんな。自分でもそう思うよ。ははっ」


棚 町 「そ……そーでしょ!? だから、ね?
     どうなのよ!?
     誰にも言わない! 悪いようにもしない!
     何もないなら……もう……。
     口出しも、しないから……」

主人公 (……薫……)
棚 町 「ね……?」


主人公 「聞きたい話ってのはそれだけか?」
棚 町 「ちょ! どこ行くのよ!!? まだ話は……!」
主人公 「落ち着けよ。ゴミ捨てるだけ」
棚 町 「あ、そ、そう……」


     ・
     ・
     ・


棚 町 「……それで、どうなのよ」
主人公 (こいつなりに、まともに心配してくれてるってことか)


  ……ことん。


主人公 「ホントのこと、一回だけ言うから、よく聞けよ?」
棚 町 「……。
     ……うん」



主人公 「絢辻さんは…………」
棚 町 「……。
     ……絢辻、さんは……?」

??? 「……」


主人公 「絢辻さんは、いい人だよ」
棚 町 「あ……」
主人公 「みんなの知ってる通り、素敵な人だよ」


棚 町 「……。
     ……そっか……?」

主人公 「うん。お前が心配してるようなことは何にもないから、
     安心して」



棚 町 「……そう。ん、わかった。
     ごめんね、つまらないこと聞いて」

主人公 「いいさ」
棚 町 「あと、それからね」
主人公 「わかってる。絢辻さんには言わないよ」


棚 町 「あ……。
     フフッ。さすがね」

主人公 「お互いな。長い付き合いだから。ありがとな、心配してくれて」
棚 町 「ふ、なーに言ってんのよ」


主人公 「あと、それと」
棚 町 「んー?」
主人公 「ごめん」


棚 町 「……」
主人公 「……」
??? 「……」


棚 町 「……。
     うそよ」

主人公 「あ?」
棚 町 「うーそ。心配なんて。
     ヤジウマ根性バリバリに決まってんでしょ!?
     だーれがアンタなんかの!」

主人公 (薫……)


棚 町 「あーんまり不釣合いだから、
     そうだったら面白いのになーって思っただけよ!
     あーあ、本当だったら、明日早速恵子にでもバラして、
     クラス中で大ヒーバー祭りにしようと思ったんだけどな……ん?」

主人公 「おいこらお前! ちょっと待て!」


棚 町 「あー……。そうだ。ねえ。あの、さ」
主人公 「ごまかすな!」
棚 町 「じゃなくて。前言、撤回するわ」


主人公 「撤回……何がだよ」

棚 町 「言っても、いい。絢辻さんに」
主人公 「え!? いいのか? でも、なんで……」
棚 町 「いいから! そんじゃ、そういうことで!」


主人公 「あ、おい! 本当に待てよ! 帰るなら、一緒に……」
棚 町 「バーイート! じゃーねー……!」

     ・
     ・
     ・

主人公 (……)


主人公 (薫……)


主人公 「……騒がしいヤツだなあ、まったく」

??? 「本当ね」
主人公 「そう、本当に、って……ぎっ!!?!??!?」


??? 「はあ~い」
主人公 「あ、あ、あ……!」
??? 「偶然ね」


主人公 「絢辻さん!?!??!???!?!?!」
絢 辻 「そ。その絢辻さんです。
     こんな時間まで、校内見回りご苦労さま」

主人公 「は、はあぁ~い……」


主人公 (偶然じゃない、絶対に偶然じゃない!)



絢 辻 「……」
主人公 「……」


絢 辻 「……。
     ふぅ……」

主人公 「あ、あの、絢辻さん?」
絢 辻 「ん?」
主人公 「一体、いつから、そこ、に……?」
絢 辻 「うん。あなたが、帰宅後のロクでもない予定を考えてた辺りからよ」
主人公 「……」


主人公 (ぼ、冒頭からか……。それに、口に出してはいないはずなのに……)



絢 辻 「あたしもまだまだね。
     ううん、この場合は棚町さんを褒めるべきかしら。
     あなた、どう思う?」


主人公 「は、はは……。どうだろうね……」
絢 辻 「何よ、ハッキリしないわね」
主人公 「ご、ごめん……」


絢 辻 「まあいいわ。あそこまで攻め入られても
     約束を守ろうとはしてくれたみたいだし。
     勘弁してあげる」

主人公 「そ、それはどうも……。でも、思った通りを言っただけだから」
絢 辻 「!」

主人公 「あ、あれ? 絢辻さん?」
絢 辻 「……それは、どうもありがとう……」
主人公 「え、いえ……どういたしまして……」


主人公 (た、助かった……!
     弱気にならなくて本当に良かったー!!)

絢 辻 「た、ただし!」
主人公 「え!」
主人公 (ギクリ!)



絢 辻 「一つだけ減点」
主人公 「は、はい」
主人公 (減点!? な、なんだろう!?
     僕、なんかまずいこと言ったかな!?)



絢 辻 「抜けてたわよ」
主人公 「抜……? え? 何が?」


絢 辻 「大事なフレーズが」
主人公 「フレーズ?」
主人公 (な、何? 何の話だ!?)



絢 辻 「『裏表のない』素敵な人……でしょ?」
主人公 「あ……」
絢 辻 「フフフッ」


主人公 「えっと、その……。
     ……ごめん」

絢 辻 「一応そこは指摘しておくわね。
     この際、言い忘れたのか、
     意図的に省略したのかは聞かないでおいて上げる」



主人公 「あ、ありがとう」
絢 辻 「どういたしまして。
     サ、もう何もないなら帰りましょ?」

主人公 「え? 今日はもういいの?」
絢 辻 「ううん。本当はまだやりたいこともあるんだけど……」


主人公 「うん。けど?」
絢 辻 「せっかく、気を回してもらったんだしね。
     さすがに無には出来ないわ」

主人公 「え?」
絢 辻 「鞄、取ってくる。ここで待ってて」
主人公 「あ、ああ。うん……」


  タッタッタッタ……


主人公 (気を回して、って……そんな)
主人公 「薫……」



     ・
     ・
     ・


主人公 「……。
     ……まさかな……」

 




と、いうわけで。





ハイどうも。
シゴト中に、何故か突然絢辻さんのスキBADモノローグが脳内再生されて
胸が刺すように痛む、ビターでメロウな34歳、
オイサンです。

うーん……。
オイサンは……三点リーダの乱用はあんまり好きじゃないのですけどねー。
見栄えは悪いですしねー。

でも、自分のイメージした通りの時間の経過や
キャラクターの呼吸の間を表現するには、
句点、読点、三点リーダ。
あとは改行を駆使するくらいしかないワケで、
勢いその嵐にならざるをえないのですねー。

だから本来は、出来るだけ地の文を使って、間や時間経過は描き出したい。
この話も一度、地の文ありの本家SS形式で、書き直してみたいです。

このシナリオは絢辻さんルートなのか、はたまた薫ルートなのか?
恐らくは、絢辻さん vs 薫の<スキBAD>並走をしたときのワンシーンだろうと思います
(いい加減)。
というわけで、こんな大事っぽいシーンも
思いつき一発で一気に書き上げてしまう、
それもまたオイサンクオリティ。

絢辻さんスキBADで何か書いてみようかとも思うのだけど、
意味が分からな過ぎるのと、絶望的過ぎるのとで手のつけようがない。
オイサン的な解釈が固まっていないことはないのだけれど、
だからといって話らしい話に出来る気もしない。

絶望を深めるだけの話にしてもしょうがないし、
安易に救われる話にして良いわけもない。
やるとするなら、『Ein Hander』のエンディングのような話になるだろう。
絶望999、救い1、くらいの。


■アインハンダー 最終面~エンディング



それはそれで……
多分、書き出しさえすれば面白がれそうな予感はあるんだけども。



オイサンでした。




 

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2010年5月30日 (日)

■手帳の中のダイヤモンド・特別編 スキGOOD・BAD・ソエン考 -更新第511回-

いくつかの可能性がある。


オイサンは以前にもちょっと書いたように、
<ソエン>やら<スキBAD>やらは、
ADVである『アマガミ』においてSLG的にプレイヤーのあらゆる行動・選択に対して
結論を用意しようとした結果実装された、
物語の壮大な分岐の結末の一つである、と思っています。



……えーとね、ちょっと待って下さいよ。
そうだな、最初に言っておこう。



  『アマガミ』における、メインのルートはナニなのだろう?



ということが、今回の記事の最大のテーマです。
「メインのルート」の「メイン」が指し示すところはいくつか考えているのですが、
いくつかあるとお話が発散してしまうので
ちょっと小ずるく言葉を広げてまとめてしまうと、

 「その結末に辿り着いたらひとまずそのゲームを終わらせたことになる、
  『そのゲームが語りたかったことを受け取った』ことになる、
  あるヒトツの道筋」

のことです。

  たとえば『FF』や『DQ』なら、一通りの物語を辿って
  ラスボスをやっつければ「終わらせた」と言えるとオイサンは思っています。
  クリア後のお楽しみとして、神様とかアルテマウェポンとか居たりしますけど、
  大体フツーはいわゆる「表のラスボス」で「終わった」って言うよね、
  というセンです。

  『ぷよぷよ』だったら……なんだろうか。
  NORMALくらいの難易度で、
  まずはストーリーモードをクリアすることじゃないですかね。
  何人かのキャラクターでね。

『アマガミ』における……その道筋・結末というのは、果たしてナニなのだろう、
作り手の想定・設定したものはどんな感じなんだろう?
ということを、ちょっと考えておきたいなーと思うのです。



■明示されているもの



最初にぶっちゃけてしまうと、まずは本編中には仕込まれているものとして、
「カーテンコール」と「全エピローグコンプリート」がありますね。

  あるんですよ。
  オイサンまだ見てねえけど(オイ。
  「カーテンコール」は……メインヒロイン6人全員の、
  <スキBEST>と<ナカヨシ>と、隠し二人のルート、だったかな?
  で、「全エピローグコンプリート」は文字通り、
  全ヒロイン分の<スキBEST/GOOD><ソエン>まで含めた全エピローグを見れば、
  確か流れるんだったと思います。

正直、後者は「そこまでやらないと終わったことにならないの?」
という疑問もわくレベルなので、
マ二段構えとして、
その第一弾がカーテンコール、第二弾が全EPコンプとしましょう。
まずは、それだと思うのです。

一先ず

 「メインヒロイン+2名、全員の、幸せ(?)な結末を見届けること。
  そしてそれをすることで勢い明らかにされる、
  主人公のトラウマの真実と、背後で起こった事件の顛末に触れること
  (+出来れば、その出来事の意味を自分の中でキチンと考えること)」、

そしてさらに+αとして、

 「悪い結末まで含めたあらゆる結末を見届けること」

なのだと思います。



■深彫りしてみる



デここまでは「浅い」部分のお話で。
上で書いた「いくつか考えている」、その「幾つか」について
……つっても二つだけなんだけど……
お話しておこうかなあと思います。

 ▼商品としての物語が抱える二つのテーマ

テレビゲームの世界で、表現力が大幅に向上して以来取り沙汰されている問題として、
「テレビゲームは商品か? 作品か?」
というものがあります。

簡単に言ってしまえば、
「買った人間が全員が、常にお金を払っただけの満足を得られなければならないもの」
であるのか、それとも
「内容によっては買った人間でも満足に至らない可能性があるもので、
 買う側に能力が求められ、責任を持って選別しなければならないもの」
であるのか、と、そんなことです。

  「受け手主権・作り手が、受け手を見て作る(=商品)」のか、
  「作り手主権・受け手が、作り手を見て買う(=作品)」のか、
  と言い換えても良いでしょう。

もちろん、
「必ずどちらか100%である、というわけではない」ことは言うまでもありませんが。
性質としてどっちよりか、ということです。

そしてどうあがいても、
テレビゲームソフト(に限らず商業映画なんかもですが)が一定以上の割合で
「商品である」ことは否定できませんから、
たとえ作品性を持ち、重視しようとする作品でも、
必ず以下のような二つの幹を背負わさます。

 1) 「商品として、これを遊べばひとまずお客さんが満足してくれるだろう」
   という、商品としての背骨の部分

 2) 商品の体裁としての1)を保持しつつ、それとは別に、
   作り手がもっと、最も訴えたいテーマ


本来、1)と2)は商業作品において大きく分離していることは望ましくないのだけれど、
2)があまりにも、商品の幹として……
  ……つまり、
  「お値段分払えば誰でも手に入れられて、お値段分の価値を手に入れられますよ」
  なんていう前提……オイサンはそんなモンウソッパチだと思いますが……
  のもとに頒布されるモノの幹として
……相応しくない場合、つまり
その「満足」という機能を果たしえないものであるときに、
ひとまず表向きの1)をたてて、その影に2)を仕込み、
どうにか受け手と送り手の満足を両立させようとするという目論見がなされます。

つまり、作り手の一番の目的・意図(= 2))が万人に満足を与え難い場合、
満足させるためのダミーの要素( =1))を与えて目をくらまし、
その影で、分かる人間にだけ本来の意図を与える、というやり口です。

マそのくらい、オトナだったら考え付きますよね。



■サテ、話を『アマガミ』に戻します。



『アマガミ』における1)は、
基本的には人それぞれであることは当然ですが、あえて客観的なセンを引くとしたとき、
上で書いた通り、「全EPコンプ」か、「カーテンコール」、
或いは幾人かのメインヒロインの、<スキBEST><ナカヨシ>。
そんなもんでしょう。
「そのくらいやればモトはとれますよ」くらいのハナシですよね。

  ……正直オイサンの感覚では「全EPコンプ」はハードルが高い気がします。
  良くて「カーテンコール」、
  プレイヤーの大多数の皆さんは、メインヒロイン何人かの、
  幾つかのエピローグを見ておしまいにしているんじゃないでしょうか。

では、『アマガミ』に、2)はあるのか? あるとしたら何なんだ?
という話になります。
よーするに、『アマガミ』において、1)とは別に、作り手が一番
「ここを見てくれよ! ここに触れてくれよ!!」
ってところは、何か特別にあるのかな?
それはどこなのかな?、って話なんです。
冒頭に戻りましたけど。


  オイサンは、それは「特にはない」、とお見受けしています。


1)の要素、すなわちフツーの恋愛ADV・SLGとして、
甘く切ない(そして紳士的な)物語を、革新的なシステムと語り口で堪能する、
それも幾通りかの物語で、幾種類かのタイプのヒロインで、
という、ある意味で従来的でスタンダードな作風を
大きく拡大したものが、『アマガミ』が提供するサービスの全てであり、
受け手に触れられるべき一番の要素なのだと思っています。

  無論、幾つかの目新しいシステムや
  突拍子もないエピソード、物語の語り口など、
  物量的・多様的な拡大の仕方はしていますが。

ただ……やっぱり、ちょっとした引っ掛かりはあります。
そう、やつらの存在です。
厄介なあの方々が。

  <ソエン>と<スキGOOD/BAD>です。
  奴らの主張は……いるだけで強烈過ぎる……
  そう「見えて」しまうきらいがあります。

けれどもオイサンは、基本的にはこの二つの「一種異様な」エピローグについても
他のエピローグとフラットな位置にあるものと見ていて、
冒頭で書いたように
「恋愛ADVとして、あらゆる行動選択肢に対して、結末を物語的に提示する」
ための設えのうちのひとつであるとのみ捉えています。
何か、特殊なメッセージを負うものではない、という解釈です。

  ……そらまあ、全ッ然まったく何もないってことはないと思いますが、
  それもまた程度の問題でね。
  たとえば<スキ>と<ナカヨシ>に差があるように、
  それらと<スキGOOD/BAD>にも差がある、という程度のもので、
  1)から分離して2)として配置されるほどの大きさと重みを負ってはいないだろう、
  くらいの解釈です。
  なんか、言いたいテーマくらいはあるとしても。

ところが、上記で述べた
「カーテンコール」と「全EPコンプ」の差分となっているのが、
<スキBEST/GOOD><ソエン>なわけです

そう考えたとき、上では「カーテンコール」と「全EPコンプ」を、
1)の第一段階と第二段階と書きましたが、もしかすると
「カーテンコール」が1)にあたり、
「全EPコンプ」が2)に当たるのではないか、
という仮説に行き当たります。

しかしながら。そこで素直に、
<スキBEST/GOOD><ソエン>が作り手のもっとも訴えたかった部分なのかなあ、
と思いを馳せたとき、そこには大きな違和感が横たわりもするのです。



■違和感と不足感



それは、
もしも<ソエン><スキGOOD/BAD>が2)にあたるものなのであるとしたら、
何故作り手は、もっとそこへ行きやすいように、
プレイヤーをゲームの中で、あるいは外で、誘導することをしないのだろう、
そこに行き着きやすいゲーム性を提供しなかったのだろう?
という疑念です。

  最も伝えたいことのだとするならば、
  何故全く、そこへの道筋を示すそぶりさえ見せないのか。

本編からはその意図が読み取れないのです。
多くのプレイヤーにとって、情報は本編がその概ねであるのに。
「ここやって!」「ここいじって!!」
という、製作者のエッチなおねだりが聞こえてこない。
プレイをしていてもそこへ導かれていかない。

  むしろ取説には、<ソエン><スキGOOD/BAD>に必須である二股を阻害するような、
  「ヒロイン一人に絞って追っていけば良いよ」的なことすら書いてある。

  ……マそれは、『アマガミ』の1)が
  「ヒロインとのハッピーな物語を楽しむことにある」
  ということの証明でもあるのでしょうが。

  そしてところがどっこいその下には、
  二股プレイの可能性をほのめかす記載があることに、
  若干の味わいを感じますけどもねw
  いいですねえ、この躊躇い。
  薄汚い。
  実に良い薄汚さです。褒め言葉ですよ。いとおしい。

マ<ソエン>はね。
フツーにやってれば、何人かのヒロインは自然とそこへ向かっていきますから、
狙ったヒロインのハッピーエンドを回収する傍ら、
あとでLOADして見直せば拾えるので、
さほど到達しづらいというわけではありません。

問題は<スキGOOD/BAD>の方で、
……やっていてもね、作り手が、そこへ誘導しようという意図を感じられないのです。
正直、フタマタとか、狙ってやっても結構難しい。
成立しない組み合わせとかもありますし。
拒んですら、いるように見える。
マ中身が多少キョーレツなこともありますし、
表の顔と比してアンバランスですから、
そこに躊躇いがあったことも想像に硬くありません。

  でも。
  そこで迷うなら……ほな始めからすなよと……
  オイサンは敢えて思い、言ってしまいます。
  やるならやる!……で、その匂いは出して欲しかった。
  こっちだ! ……と、言って欲しかった。
  その個人臭を徹底して消すスタンスは潔く、うらやましくはありますが。

これは、オイサンの好きなゲームデザイナー、桝田省治氏の言葉を借りるなら、
「伝えたいことが、ノイズに負けている」
といわざるを得ない状態。失敗です。

もちろん、2)を1)で覆い隠すという目的もあるものですから、
そこは成功していて、ただもう少し、もーーーーーーーー少しだけ、
二股が成功しやすいとか、ヒロイン二人がバトルになりやすいとか、
そういう仕組みにしておく必要があったのではないか。
本当に、そこに触れてほしかったのなら。

  そこでオイサンが真っ先に思いつくのが、『リッジレーサー』シリーズでした。
  特に『4』。『R4』。
  あのシリーズはうまいもので、プレイヤーがそこそこ上達してくると、
  各コースの一番シビアなところで、
  ライバルカーとの競り合いが起こるように作られています。
  ホームストレッチ直前のヘアピンとか。
  コースに必ず盛り上がりどころが用意されていて、
  そこで、敵車をかわすのか、インをついて弾き飛ばすのか、
  そこはプレイヤーの力量と気持ちヒトツで選択自由ですが、
  バトルはそこで起こる。そういうデザイン。

  オイサンはレースゲームやSTGの「コースレイアウト」というのは
  シナリオだと考えていて、
  『リッジ』のやっていることは、
  シナリオの最も盛り上がるところでライバルと激突が起こりやすくする、
  もしくはそう誘導する、ということだと思っています。

なので、もしも本当に、<スキGOOD/BAD><ソエン>に
作り手の何らかの意図が、想いがこめられているのなら、
そういう構成、そういう誘導、そういうゲームデザインを、
何故作り手はしなかったのか。
そこに疑問がありますし、
同時にその迷いや躊躇いを美しい、愛おしいと思いますし、
やっぱり同時に、惜しい、残念だッと、歯噛みするほかないわけです。
やりたいと思うなら、やれば良かったのに。
見たかった。
彼らが本気の牙を剥いたギャルゲーを。
恋愛ADV・SLGを。

「<ソエン>って何なんだ、<スキGOOD/BAD>って何なんだ。
 なんでこんなものを、作り手は用意したんだ?」
……ということが、ワリと重たく取り沙汰されることの原因は、
1)に含まれるようには見え難く、2)であることも明言されていない、
つまり
「ゲームの目的として居場所がないのに、
 (受け手によっては)強いインパクトを受けすぎる・主張が濃すぎる」
という、
そのせいなのだろうなあと、オイサンは思います。



■……まあね。



こういう話をすると今度は、前作であった色々が持ち出され、
「それら色々を払拭するため」であったり、
「尖りすぎることを嫌ったため」であるなど、
なかなかフクザツな経緯を踏んできているので一筋縄では語れないところはあるのですが、
そこには「程度」というさじ加減含め、いくらかのやりようはあったと思うのです。
それに、やるならやるで、そんなことまで慮ってる場合ではない。
どちらかに絞らなければならなかったのではないか。

デ結局、そこを迷った挙句に両方詰め込んで、
匂わせるべきところで一歩引いてしまった。

  少なくともオイサンには、
  「それが実装されていること」以外にその意図を感じとることが出来ず、
  「実装されている」ことの理由としては、
  <スキGOOD/BAD><ソエン>が、<スキBEST><ナカヨシ>等々と、
  見た目フラットに配置されていることから、冒頭でも書いた
  「あらゆる行動へのレスポンス・結末を用意すること」という動機に解釈することが
  自然で無難であると思ってしまいました。
  それだって、かなりなチャレンジですからね。
  そうであっても不自然ではないと、思えるのですよ。

その時点でもう、
「<スキGOOD/BAD>に特別な意味をこめたことを伝えたい」
というエゴの大部分を放棄したのだと、オイサンは受け止めました
(<スキGOOD/BAD>が作り手にとって2)に当たる、
ということが事実だったと仮定した場合の話、ですよ。くどいようですが)。

なので、
<スキBEST><ナカヨシ>は1)の要素として、フラットに君臨し、
<スキGOOD/BAD><ソエン>は、やはりフラットではあるのだけれども、
ちょっとこう……中二階的な高さにある、けれども特別な何かでもない、
幾つかのエンディングのひとつに過ぎないと考える次第なのです。

各ヒロインごとにEPコンプ的な目印が用意されていれば、
その<スキGOOD/BAD><ソエン>の二つが作り手のメッセージであったという風に
解釈しやすくもなると思います。

しかし『アマガミ』ほどの規模に膨れ上がった物語の中で、
その結末全部を網羅して初めて、
2段階ある大結末の差分の部分が印象として強く浮かび上がってくるかと言われると、
……オイサンの感覚の話にならざるを得ませんが……
受け手の感覚としてはそれは弱く、
「それがメッセージである」という受け止め方をするには、なかなか至らないように思います。

第一段階で示された結末(<スキBEST>+<ナカヨシ>)が第一義とされ、
第二段階で加えられるものは、ボーナス的な扱いか、
良くても他の結末とフラットな位置にあるもののように見えると……
実際に絢辻さんの<スキGOOD/BAD>、そして他ヒロインの<ソエン>を集めてみて、
オイサンは感じるのです。



■えーと、だからと言って。



<スキGOOD/BAD>や<ソエン>を、
ことさら重たく受け止めるのがおかしいとか、
そういう話でも決してないことは、お分かり戴けると思うのですが。

だって、上でも書いた通り、全ての結末は「フラット」なのです。
平地。
平ら。
<スキBEST>だろうが<ナカヨシ>だろうが、
<スキGOOD>だろうが<スキBAD>だろうが、
プレイヤーのとった行動が反映されて導かれた、その過程と結末、
そのどれを最も重く受け止め、価値のあるものであると自らの胸のうちにしまい、
現実に持ち帰るのか、
それはもう、プレイヤーの自由なのだと思います。

  もちろん、「それだけが最重要、それが全て!」
  という判断を、周りに押し付け説いて回る向きがあれば、
  それはやはりおかしなことだと思いますけどね。
  そういう人もいる、そうじゃない人もいる、
  それは、……たかがギャルゲーごときで大袈裟な話になるのは好きじゃありませんが、
  それぞれがこれまで歩んできた人生の中で拾い集めてきたものの、
  どんな窪み、どんな出っ張りに、
  『アマガミ』で、ヒロインが、サブキャラが、そして橘さんが、主人公が……
  ……語ったでこぼこな物語の凹凸が、
  うまくはまったかってことだけなのだと思います。

作り手が本当に見せたかったもの、届けたかった想い、
実際のところそれらの要素がどういう配置で位置づけられているのかは、
今のところ公式の発表にはなかったと思いますが、
……そんな風にね。
彼らが最終的に作り上げ、オイサンらの前にポンと置いたものからは、
読み取れてしまいましたよと、思った次第です。

  そうそう、冒頭で持ち上げた「メインのルート」の話、
  ここまでのお話で大体分かっていただけたと思いますけど、
  「全EPコンプまでの道のりで手に入れる、
   自分の納得のいく、自分にもっとも響くエピローグと、そこに至るプレイ」
  ってことになりまさあね。
  毒にもクスリにもなんねえけど。


      ・
      ・
      ・


まオイサンがこういう結論に至った一つの理由と言うか
経緯をご説明申し上げますと、
オイサンはこれまで、育成恋愛SLGをメインに遊んできたわけです。
そういう世界では、恋愛ADVや、ADV的なSLGとは違って、
<スキGOOD/BAD>や、<ソエン>的な展開も、至極当たり前に起こる事でした。

それは『アマガミ』ほど物語寄りに、ドラマチックに描かれはしませんでしたが、
オイサン扮する主人公の行動や選択によってヒロインたちに降りかかった
不幸な結末に思いを及ばせるにつけ、心は痛みますし、
胃をやられたことも一度や二度ではありません。
そうした結末に対してプレイヤーが心に重いものを感じることで
ある意味一つの責任を果たすということも、一切合財、全然特別なことではない。
そう思うのです。

  そこに発生した不幸を己の身に照らし合わせ、
  同一化し、
  深く感情移入することは、ある意味日常的なことでさえあった。

そんなことから、<スキGOOD/BAD>や<ソエン>の置き場所に困ったり、
必要以上に扱いに困ったりすることに、割と違和感を感じており、
今回、それらに対する解釈を明らかにしておこーと、
記事にまとめるにいたった次第です。


マそんな解釈で、
オイサン的にはあらゆる選択が等価の意味を持つ『アマガミ』の世界では、
そこに重みづけをするのはプレイヤーの仕事であって、
「テレビゲームはプレイヤーに遊ばれてこそ初めて完成する」という、
遠い昔にゲームの神様が言ったオコトバを、
奇しくも体現しているように思うのです。

そしてそこに遊び、
独自の答えを見つけて今日も元気に頑張ってるプレイヤーの皆さんは……
なんだかやっぱり、いいんじゃない?
それってオトナじゃん?
みたいなね。

そういうステキなゲームの世界ですよねってことを、
改めて感じ入った次第でありますことよ(詠嘆)。

マ皆さんのね。
なんつーか、物の考えの一つの題材とか、
酒のつまみの一つにでもなればと思うですよ。



オイサンでした。


 

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2010年5月18日 (火)

■彼女・終 ~『アマガミ』絢辻さんSS~ -更新第500回-

◆「彼女」~『アマガミ』絢辻さんSS~  一  二  三  終 
 
 
 
        *     *     *



「ただいまー」
 ドアを開けると、玄関の三和土には既に小さな靴が脱ぎ散らかしてあって。
「まったく……」
「あ、ほかへりにぃにー」
 それを拾って揃えているところに、キッチンから、アイスを口に咥えた美
也がひょっこり顔を出した。
「た・だ・い・ま! お前、靴はちゃんと揃えて脱げって、母さんに……」
「遅かったねぇ。また、絢辻先輩とでぇと?」
 人の話も聞かないで、にししししと幾ら言っても直らない笑い方で冷やか
そうとしてくるけれど。……さすがに、もう三ヶ月近くなると、いちいちフ
レッシュな反応をする方が難しくなってくる。寧ろ。
「ん? ああ、まあ……」
 デート……になるのかな。絢辻さんと一緒に帰ること、そのついでにちょ
っとした寄り道をすること。そんなことはいつの間にか当たり前になってい
て、それにデートと特別な響きを与えてしまって良いものか、ちょっとした
躊躇いがあった。
 その隙を不審に思ったのか、余計なことにばっかり鋭いうちの座敷猫は、
ん? と、髭をピピンとしならせた。
「ちがうの?」
「いや、違わないよ。デートだな。それとあと、来週末もデートだ」
 強気に言い切ったのが意外だったのか。美也は
「お……。おぉぅ、にぃに、や、やぁるねぇー!」
と、軽くつっかえながら盛り上げてくる。大きな釣り気味の目が、なんだか
ちょっと曇って見えたのは……多分、気のせいではないだろ。兄弟だから、
そのくらいは分かる。
「おう、やるぞ。やってやる。やりまくりだ」
「それは、どうかと思うけど……」
「お、おぉ……。すまん、言い過ぎた」
 さすがの鋭い突っ込みにしおれて見せると、美也ははははと今度は普通に
笑って……ふぅ、と息をついた。表情を落ち着かせ、少し下がった眉で、静
かだけど、その目は揺らいでいた。
「うん。にぃに……いいね」
と、寂しげだけれど、何かを心に決めたような。はっきりとした口調で言葉
を切った。
「お、うらやましいか? モテる兄が」
「そーじゃないよ。茶化さないで」
 年明けからこっち。美也とは一度も一緒に学校に行ってない。帰りも、三
十分一時間の話だけど、以前に比べたら遅くはなってる。休みもいないこと
が多くなった。他にも、着る物、テンション、電話の回数。最初の二週間で
完全に感づかれて、僕はある朝、あの落ち合い場所で、美也に改めて、絢辻
さんを紹介した。そのときの美也の驚きようは、今思い出しても、ちょっと
笑えて、ちょっと泣ける。
「みゃーはさ。にぃにが元気になって、ちょっとオシャレにもなってさ。嬉
しいんだよ」
「悪い」
 その朝はそのまま三人で登校した。初めの十分、美也は絢辻さんを相手に
質問で串刺しにした。けれどそのあとはぱたりと黙り込み、僕と絢辻さんの
交わす言葉の後ろをただ黙ってついて来て……最後に下足場で言った
「じゃあ、美也はこっちだから」
という言葉が、何故か今も耳の奥に残ってる。
 それきり、朝起こしに来る美也の口から「今日は一緒に行く日!」という
突然のワガママを聞くことはなくなった。
 なに謝ってんの? にしししし。
 僕が靴を脱ぎ、廊下に上がって並ぶと僕の妹はとても小さい。生まれたと
きより、小学校の頃より、僕と美也の背丈の差は、縮まるどころか広がるば
かりで。
 僕は美也に歩み寄ると、その手からアイスを奪った。
「あ」
 しゃく、と一口、口の中で爽やかにほどけたのは、あの夏と同じ、いんち
きなソーダ味。齧ったアイスをまた、ん、と美也の手に突き返した。美也は
戸惑いながらそれを受け取り、不思議そうな面持ちで僕を見上げていた。
 返す手で。
 あんまり撫でやすい位置にあるもんだから。
「ごめんな、美也」
 僕は、美也の頭をポンと撫でた。
「だから、謝ることじゃないよ」
 にぃにとみゃーは兄妹なんだからさ、と、ポツリ呟いて。おかしいよ。も
っと喜んだら? デートなんでしょ? いいこと、あったんでしょ? そん
な風に、どこかガランとしたこの家の、不思議な隙間を言葉で埋めようとす
るから、僕はもうたまらなくなった。
「美也もさ。そろそろ彼氏、見つけろよ」
「にぃに……」
 頭に置かれた僕の手を払い除けるように、美也はふるふると首を振った。
指に絡まる短い髪は絢辻さんとは違う感触だったけれど、滑らかさでは負け
てなかった。美也もそれなりに、気を使ってるのかもしれない。
「だいじょうぶ。にぃにはさ、いつまで経ってもにぃにだもん」
「美也……」
 「にしっ」と短く、美也は手にしたガソガソ君を齧るふりで、笑いを区切
った。そしてその口から出た言葉は、こともあろうに。
「どーせまたすぐ、フられるに決まってるよ!」
「んなっ……!!」
 そして、美也は駆け出した。それは本当に目にもとまらないスピードで、
「だーって、にぃにはにぃにだもーん!」
 そういう意味かよっ!
「それにー、絢辻先輩、あんなに綺麗じゃん! 頭いいじゃん? 人気者じ
ゃーん!」
と、僕の周りを、三周半。アイスを口に咥えたまんま、トタタタタタタっと
四つ足の獣みたいに階段を一気に駆け上がった。
「ちょ、待、おい美也っ!」
「ひょーひに乗んな、ヴァカにぃにっ!!」
 二階の吹き抜けから憎まれ口を浴びせられ、バタン! と、……ドアの閉
じる音がして、僕は、それを最後に静まり返った家の、廊下の真ん中に取り
残される。
「まったく……いつまで経っても」
 リビング、キッチン、バスルーム。階段下の収納。不思議と、意味合いを
変えたように見える家の中を見渡すと、美也が取り込んでくれたときにこぼ
したのだろう、廊下の隅に落ちていた洗濯物のランチナプキンを見つけて拾
い上げた。
 そのとき何故か、リビングで光っている電話機の、充電中の赤いランプが
目についた。電話、しておこうか。絢辻さんに。特に話すこともないけれど。
 何を言おう。何してる? ちゃんと帰れた? 受話器の親機を手に取って、
話の中身を考える。
『さっきまで一緒だったじゃない』
『当たり前でしょ? 子供じゃないんだから』
 何を聞いても、多分ちょっと不機嫌で、ちょっと嬉しそうに返してくれる
に違いない。そう思って最初のナンバーを押したとき、……でも、何を言っ
ても、今は必ず聞かれるだろうな。そう思って、手を止めた。
『そんなことより、ちゃんと誘ったの?』
 空いた右手で制服の内ポケットを探り、絢辻さんから授かった二枚のチケ
ットを取り出した。二つに折られたそれは……輝日東ランドの無料招待券。
再来週から有効な、園内の乗り物が全部半額になるという株主優待の特典が
ついたスグレモノだ。
 カフェでの会話が、絢辻さんが、頭の中で再生される。
『これが……参加資格?』
『そう。これで美也ちゃんを遊びに誘うこと。それがあたしとのデートの、
参加資格よ』
 今からほんの三十分ほど前、絢辻さんが提示したのはそんな不可解な条件
だった。
 美也?
 絢辻さんが、一体どうして?
『言っておくけど、遊びに行くのはもちろんあなたと美也ちゃんだからね。
本人からの話も聞くし、証拠の記念写真も提出してもらうからごまかそうだ
なんて夢にも考えないこと。いい?』
『う、うん。そんなこと思わないけど……』
 でも、一体どうして? 一番の謎、疑問、クエスチョンはやっぱりそこだ。
それをどう尋ねようか、僕が語尾から先の結び目を迷っていたら、……絢辻
さんも、この企画が不自然であることは重々承知だったのだろう。りんごジ
ュースの残りを一息に吸い込んで、軽く勢いをつけて言った。
『今はまだ……「敵に回すのは得策じゃないな」っていう考えなんだけどね』
 美也を……だろうか? そんなの、絢辻さんの智謀をもってすれば美也ぐ
らい、黙らせるのは簡単なはずだ。こんなご機嫌とりみたいな真似をする理
由は、やっぱり僕の頭では、世界のどこにも見つけられない。
『でもね、近いそのうちにきっと、「仲良くしたい」に変わると思うのよ。
ううん。変える。変わらないといけないと思うから』
『絢辻さん……?』
 タンブラーを抱いた絢辻さんの両掌はするする伸びて、僕の手に辿り着い
た。テーブルの上で重ねられ、やがて、少し強く、何かの意志を持ってぎゅ
っと僕の手を包み込んだ。
『あたしは、こんなやり方しか思いつかないから……』
 そこから流れ込んでくるもの。溢れてくるもの。俯き加減の絢辻さんは前
髪の奥で、どう表現したらいいかわからない、そんな瞼と眉毛の形で唇を噛
んでいる。
 そうか。そうだね。そうだったよね。
 絢辻さんは、僕の彼女になったばかり。僕は、絢辻さんの彼氏になったば
かり。これから先、僕らがなるもの、目指すもの。僕は掌を、絢辻さんの掌
の下から逃がし、そっと上に重ねた。
『わかった。任せといてよ』
 そのとき顔を上げた絢辻さんは……一度だけ、今までに一度だけ見たこと
がある表情をしていた。創設祭の夜、忍び込んだ校舎で、あの教室で。心底
ほっとしたように肩まで柔らかくしたのを見て、僕は手をチケットに移した。
『じゃあ、これは預かるよ』
『うん、よろしく。しっかり遊んで来て上げて』
『分かっ……あれ? でもこれ、再来週からだね』
 受け取ったチケットの但し書きに目を通し、僕はその有効期限に違和感を
覚えた。開始期限は、再来週。絢辻さんとのデートは来週末だからこれとい
って不都合はないけれど。これって、ただの偶然かな?
 僕の一言に絢辻さんの肩がピクリと動く。余計なことには気付かなくてよ
ろしい、なんだかそんな気配を漂わせていたけれど、さすがに突っ込まれて
は放置するのもプライドが許さなかったんだろう。
『別に。万が一にも、バッティングしたり、あなたがそっちを優先させたり。
……そんなことが起こらないように、用心しただけよ』
と、重みを増したながらも華やかな感情を隠さずに、絢辻さんは言い切った。
『え……それって』
『何よ、文句ある!?』
『な、ないです、はい!』
 それは多分絢辻さんのささやかな……けれど、最重要のエゴイズム。
 意味するところは、「あたしが先。こればっかりは譲れない」。
『フンだ』
 本当に余計なことばっかり……そんなぶちぶちとした言葉とともに絢辻さ
んは、さっき二人で空にしたりんごジュースの抜け殻を、ストローでからか
らかき回した--。
 で、今。
 指に挟んだ二枚のチケットにそのあまりにかわいらしい絢辻さんの面影を
透かして、僕は一人でほくそ笑む。そうだな、電話はそのあとだ。
 そう決めて、手にした親機を充電台に戻すとき、手首に巻いた腕時計が鈍
く光った。今朝のこと。二人であわせた腕時計の時間は、充電台の液晶に映
る時刻より、一分ちょっと、早かった。
 僕は、それきり。充電台に受話器を戻すと、おーい美也、晩ごはん何がい
いんだと、二階に向かって大きな声で呼びかけた。
 
 
 
 
                            (おしまい)

 
 
 
 
恋をして、彼女になって、かわいくなって、
ちょっとだけ弱くなって強くなった絢辻さん。

「『恋人同士』になり始めのこの二人っていうのは、
 学校という場ではこんな感じだろうな」
ということだけを書きたくて、
これといったストーリーラインやプランは全くなしで始めたのですが、
絢辻さんが動いて、
主人公はそれに合わせてはいはい言いながら動いてくれて、
美也も出してくれと騒ぎ立てて、なんか、こんな風になりました。

読んで戴ければ大体「どのへん」の絢辻さんかは
お解かり戴けると思うのですが、
果たして「そのへん」の絢辻さんがこう ↑ であることが、
皆さんの心やイメージに馴染むかどうかは、正直わかりませんし、
オイサンの解釈は若干特殊みたいなので、
あんまり「皆さん」に馴染む自信もありません。

ですがオイサンは、こと絢辻さんに限っては、
最後には必ずひとつの姿に帰着するという確信があるので
(ソエンやBADは除きますが)、これでいいと思いますし、
間違っていないと思っています。
……もちろん、ほかの誰かが考えた絢辻さんだって、
決して間違ってはいないと思います。
『アマガミ』はそういうゲームだと思いますから。

  ……つか、『アマガミ』に限らず、
  ビデオゲームの物語ってなキホンそういうモンだと
  オイサンは思ってやってきましたけどね。

構想10分、実執筆時間、約15時間?くらい?
もっと短時間で収まるはずで最後でちょっと手間取りましたが……
ほかに比べりゃ全然です。立派立派、満足満足。

もう一個(二個か。未発のもの入れたら三つだけど)の方を
キチンと終わらせてから書かんかい、とお叱って戴けそうですが、
ここまで長くなるつもりでもなかったのです。

あ、ちなみに、オイサンの書く絢辻さんは、
日常のシーンにおいて一人称は基本、すべて「あたし」です。
何か特別な意図をこめるシーンでない限り、
たとえ<スキBEST>を辿ったあとの絢辻さんでも「あたし」です。

本編中で絢辻さんが「あたし」「わたし」「私」を使い分けていた
(というか、それぞれに違う自分を住まわせていた)としても、
何か特別なことが起こって、
その特別が常態化した日常の絢辻さんは「あたし」なのであろうと、
あの六週間の絢辻さん、常に「あたし」であった絢辻さんとその日々を
「偽者」に堕とさないための解釈として、
その時々の日常の一番の本当の姿の代表が「あたし」であると考えて、
そのようにしています。

なんというか……
オイサンにとっては日常こそがまず第一のリアルで、
絢辻さんの日常は「あたし」だという解釈です。

だから、<スキBEST>以降、絢辻さんが常に「私」や「わたし」なのかというと
……そう思わないでもないのですが……
日常は、その「私」「わたし」を住まわせた「あたし」で生活をし、
特別な何かを表出するときにだけ、「私」なり「わたし」になるのではないかと、
そんな風に思っています。
面倒くさいオトナですね、オイサンは。

オイサンの思い描く絢辻さんが、皆さんの繋いだ先の絢辻さんに
少しでも繋がるところがあれば嬉しい感じです。

以上、オイサンでした。


 
 
 
 

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2010年5月17日 (月)

■彼女・三 ~『アマガミ』絢辻さんSS~ -更新第499回-

◆「彼女」~『アマガミ』絢辻さんSS~  一  二  三  終 
 
 
 
        *     *     *



 そろそろ、だろうか。
 夕暮れの屋上、体育館。プール、テラス、グラウンドといつもの巡回を終
え、いい頃合いになったのを見計らって僕は図書館へと向かった。するとビ
ンゴ、丁度廊下の真向かいから、ひと抱えはある書類を両手と胸に積み込ん
だ絢辻さんがやってきたから、僕は先を急いで扉を開けた。
 絢辻さんは驚いて、
「あれ? なんであなたがいるのよ」
と、扉をくぐるのも忘れて訊いてきた。
「いいから、ほら」
「あ、ああ、うん。ありがとう……」
「足元気をつけてね」
 少しふらついた絢辻さんが扉をくぐり、後に続いて僕はバタンと扉を閉め
る。そして僕はまた先回り、絢辻さんの抱える書類の上半分をパッと攫って
横に並んだ。
「あ、ありがとう……ねえ、なんでいるの?」
「絢辻さんが待ってろって言ったんじゃないか」
 いつもの意地悪のつもりだろうか。それにしては捻りがないなと逆に不安
になりながら、僕は怖々反論する。けれど、いつもと様子が違った。絢辻さ
んは上目遣いに記憶をたどり、そんなことないないと首を横に振った。
「あたしは、そんなこと。遅くなるから先に帰ってって確かに言ったわ」
「で、でも、悪いわねって」
 お昼の記憶。遡ってみても、議論は平行線を辿るばかりだ。絢辻さんの言
ったのは「遅くなるから」「悪いわね」。傍目で量れば、それだけだ。
 ああだこうだと言い合いながらいつもの作業場所にやってくると、僕らは
何の合図も必要なく、図書館独特の長机に、ドスンドスンと書類を積んだ。
 そしてやっぱり何の合図も無く、どちらともなく、ぷっと吹き出した。
「ふふっ」
「ははっ」
「ふふふっ」
「ははははっ」
 しばらく、けたけたと、ひと気の絶えた図書館、その蔵書のページの隙間
に、僕らの笑い声だけが沁みこんで行く。次に誰かが開いたときに、飛び出
てこなけりゃ良いけれど。
 呼吸も整い、絢辻さんは勢いよく鼻から息をつくと、書類の山を見下ろし
た。
「……あーあ。じゃあ、せっかくだから。早いとこやっつけて一緒に帰りま
しょうか。手を貸してもらえる?」
「そうだね、勿論だよ!」

 それからわずか二時間ばかり後、僕と絢辻さんは駅前の小さなカフェにい
た。
 思いがけず早く片付いたわ、と満足げな絢辻さんに、僕も少しは役立った
ろうかと誇らしい。
「あなたも随分手際が良くなったわよね」
と、いつもは紅茶一択のところを今日は珍しくアップルジュースをストロー
でかき混ぜて、絢辻さんはストローをくるくるいじる。
「そりゃあ、まあね」
「上司の仕切りが良いと、部下の成長も促進されるってことかしらね」
 ……。
「……ソウデスネ」
「冗談よ。感謝してる」
 口をへの字にした僕を肴に、絢辻さんはりんごジュースをひとすすり。だ
ったらたまには、オチ無しで褒めて戴きたい。まあ、結局は絢辻さんの指示
通りに動いているだけだから、言われる通りではあるのだけれど。
「ありがとう。助かったわ」
「ははっ、なら良かったよ」
 どこかで聞いた様なセリフを口にして、僕は椅子にもたれかかった。
 僕と、絢辻さん。少しだけ顔と顔の間に距離がひらいて、そこに何か、見
えない静けさのようなものがぽわんと挟まって僕らは黙った。
 今日は朝から一緒だし、お昼も結構話をした。作業をしながら雑談もこな
して、何かほかに話せることがあっただろうかと、僕は視線でテーブルの上
を一撫でした。アイスコーヒー、アップルジュース。紙ナプキンに、お冷の
グラス……。
 絢辻さんがゆび先で、クルクルとストローの吸い口をいじっているのが、
何だか妙に目に付いた。
「……珍しいね」
「何が?」
「今日は、りんごジュースにしたんだね」
「……うん。たまにはね。なんだか酸っぱい物が欲しくって」
 ……それって……。
「中途半端な知識だけで、短絡的なことを言わない方がいいわよ」
 沈黙の幅と、喉の動き。そんなものだけで僕の脳みその中身を殆ど正確に
読み取って、絢辻さんは眉間に皺を寄せた。
「な、何も言ってないよ」
「まだ言ってないだけでしょ」
 ……どうしてわかるんだろう……。
「今日は、頑張ってくれたものね。気も回してくれたみたいだし」
 絢辻さんはストローをいじる指を止め、まだ自分の頭の中にしかない何か
を話し始めた。とりあえず、褒めてくれている。落っことされそうな気配も
無い。
「だから」
 すっと身を乗り出し、僕のアイスコーヒーに刺さったストローをひょいと
摘み上げる。何をする気だろう、そんなことを尋ねる間もなく、僕のストロ
ーから落ちる黒い滴をコップのふちでとんとんと払い、挙句に、その濡れた
先端をひょっと持ち上げてちゅるっと吸った。
「あ、絢辻さん? 何するの?」
 僕がようやく追いつくその頃には、そのストローは……絢辻さんのりんご
ジュースにちゃぽんと浸かり、先客のストローと、仲良く混浴露天風呂。
「ごほうび。……検証、しないといけないんでしょ?」
「け、検証? 一体何、あ……」
 同じグラスに、ストローが二本。

 --どちらがよりィ、ストロンーグッ! ……だと、思ゥ?--

 ……出来れば、こんなロマンチックな場面ではあまり思い出したくなかっ
た野太い声が、僕の脳裏にこだまする。ケン、もう少し遠慮してくれないか。
 でも目の前には、頬をちょっとだけ赤くして、ぐっと前傾姿勢の絢辻さん
がこちらを見ている。お店には……他にも、お客はいるけれど。幸いなのか
絢辻さんの意図的なのか、僕らを見える位置に、人はいない。それでも、い
つ誰が割り込んでくるか分からない。新しいお客かもしれない。店員さんが
通るかもしれない。以前の絢辻さんでは考えにくい、リスキーなシチュエー
ションの選択だった。
 けれどくるりと見開かれた目には『さあ、どうする?』と書いてある。時
間はないわよ、と。そんなの、決まってる。
 僕は後ろに寝せていた上半身を腹筋総動員で起こし直すと、テーブルに肘
をつく格好で……絢辻さんに瞳を合わせて、それに応えた。二月の空気と店
の暖房、唇が渇きを増していて、僕は舌先でちょろりと湿らせた。絢辻さん
はリップをなじませる時の面持ちで、上下の唇をもむもむ合わせていて、お
互いその仕草を見つけて、見つめあって、ちょっとだけ照れ笑い。
 そして二人ほぼ同時に周囲の様子を改めたとき、ガラスの外に一人、今に
も店に入ってきそうな背広姿の影を同時に見つけて慌て気味にストローに口
をつけた--。
 僕の目の前で、絢辻さんの唇の隙間からきれいな歯先と舌が顔をのぞかせ
る。でもそれはほんの一瞬で、唇はすぐにかぷりとストローを咥える。僕も、
同じように咥える。そこで一呼吸の緊張。上目遣いの絢辻さんが、無言で『
早く吸いなさいよ』とプレッシャーをかけてきて、僕も無言の『お先にどう
ぞ』を返してみる。
 結局せーので、お互い胸の奥の気圧を変えると、鋭く冷たく、甘酸っぱい
りんごジュースが、喉の奥へと落ちていく……。
 硬い筈のプラスチックの感触は目の前の唇と繋がっているようで、僕は嬉
しくなってその小さな丸いふちを舌でなぞってみる。キスだってもう何度も
しているのに、それとは違う、遠くて近い、同じ液体の中に、まるで裸で浮
かんでいるような。……そうして神秘的なものが、僕と絢辻さんの中で交換
され、混ざり合っていくのを、痺れる瞳の裏で実感していた。
 ちるるるると吸い上げたのは、実際はほんの二口三口。それでも細身のタ
ンブラーに満たされたりんごジュースは驚く早さで水位を下げて、いらっし
ゃいませー、の声が聞かれる頃には、底から三センチほどを残すのみになっ
ていた。
「……どう……だった?」
 さっきのスーツの人は案の定、店にやってきて僕らの隣に腰をおろした。
彼がやってくるまでにはもちろん僕はストローを回収して、自分のコーヒー
に差し戻していた。……ちょっとだけりんごジュースの味が混ざって、おか
しな味になったけれど。
 そのおかしな味のコーヒーを啜っていたら、絢辻さんが遠慮がちに尋ねて
きたのだった。
 正直、思いがけずすごかったのだけれど……絢辻さんの『あ~ん』と、ど
っちがよりストロングかって問われたら……。
「……ごめん。よくわかんなかったよ」
「そうよね?」
 あんなに大慌てじゃね、と絢辻さんは隣に聞こえる声で言い、僕らはまた
顔を見合わせ吹き出した。弾かれたように、あははははっと声をたてて笑っ
た。
「あー、おかしい。……さてと、それじゃあここから本題ね」
 え、本題? 目じりに溜まった涙を指で払いながら、絢辻さんは切り出し
た。今のはオマケだったのか。
「この続きを来週やらない? もちろん、それだけじゃなくって」
と絢辻さんは財布から二枚、なんだか上等そうな紙に刷られたチケットを取
り出して、テーブルの上に滑らせた。
「あなたの好みに合うかはわからないんだけど、クラシックのコンサート。
夕方からだから、昼間は、どこかで」
 買い物でも良し、お茶をするも良し。なんなら勉強だって構わないわよ、
と絢辻さんはぱちんと財布のボタンをかける。
「本当は、明日か週末にでもしようと思ってた話なんだけどね」
 せっかく一緒に帰れることになったから、と付け加える。
 絢辻さんが取り出したチケットの、表面に印字された作曲家の名前は中学
生でも知っている有名な字面だったけど、曲目は交響曲の何番の何楽章とか、
似たり寄ったりで区別はつかない。指揮者がなんだか有名な人らしいことは、
絢辻さんから解説を聞いて初めて知った。
「へえ。面白そうではあるんだけど、でも」
 正直、起きていられる自信もないけれど。
「でも?」
「それ、随分高そうだね……」
「ああ、そんなこと」
 心配はそこだった。チケットの金額は僕の小遣い二カ月分だ。払い出すの
も辛いけど、絢辻さんにもたせるわけにだっていかない。その上、お支払い
はどうしたってローンになる。
「貰いものだから心配しないで」
 絢辻さんはチケットを回収しながら言い、どうする? ともう一度確認し
た。
「好き嫌いがあるから、そこは遠慮しないで言って頂戴? 当然あたしは…
…」
「そういうことなら、もちろん喜んで。絢辻さんの好きなものなら、僕も聴
いてみたいよ」
 絢辻さんが言おうとする何かを言わせまいと、僕は自分でも珍しいなと思
いながら彼女の言葉を自分の気持ちで遮っていた。するとやっぱり、嬉しそ
うに。絢辻さんは要らなくなったその先を喉の所で止めて、ため息みたいに
微笑んだ。
「そ。じゃあ決まり……」
「うん。空けとくよ」
「……と言いたいところだけど」
「まだ何かあるの?」
 今度は、僕が尋ねる番だった。絢辻さんはもぞもぞと鞄をあさりながら、
「そのデートにはね? 参加資格が、あるのよ……どこにしまったかしら」
と、耳を疑いたくなるようなご通達。
「さ、さんかしかく?!」
「ああ、あったあった。これね」
 そんなデート、聞いたことがない。やっぱりあれだけ格調高そうなコンサ
ートともなると、聴く人間を選ぶのだろうか……。戦々恐々とし始めた僕に
絢辻さんが再び提示したものは……さっきのとよく似た形の、けれどこっち
は随分と可愛らしい……。
「絢辻さん、これって……」
 絢辻さんはまた二枚の長方形の紙を僕に渡すと、照れくさそうに、きまり
悪そうに。居住まいを正して、上目遣いに僕を見たのだった。
 
 
 
 
                             (つづく)
 
 
 
 

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