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2016年4月 5日 (火)

■気になる掛川・千反田邸訪問~加茂荘花菖蒲園 -更新第1052回-

とある土曜日の夜、千反田さんに呼ばれた(ような気がした)


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千反田さんと言えば他ならぬ、豪農で有名なあの千反田家のご令嬢、千反田えるさんだ。

そのとき既に夜も11時を回っていたが、
明日、家に来て欲しいと言(われているよ)(な気がした)のだ。

なにぶん急だったので、お誘いを受けたものか、
千反田邸の場所もさだかではなく気楽に行って帰ってこられるものか分からず悩んだのだが、
調べてみると、家から3時間とかからず着けるようだ。



■千反田邸へ。
まず小田原まで出て、そこから新幹線で1時間強で掛川に着く。
掛川からは天竜浜名湖線というローカル路線に乗り換えて20分ほどで最寄駅の原田へ。
駅から15分も歩けば千反田さんの家に着くらしい。

これであれば、明日の早朝に出れば午前中には話の一つもして帰ってこられるとわかり、
お話をお受けして予定を組み、眠りについた。

翌朝、日も昇らぬうちから電車に揺られ、7時前には小田原へ着いていた。
新幹線のきっぷは駅ねっとで購入済みだったのだが、
そのきっぷ受け取ることの出来る券売機がどうも新幹線の小田原口に見当たらない。
駅員に尋ねたところ
駅ねっとはJR東日本のサービスなので、東海道線の窓口へ行って欲しい」
と教えられ、慌てて戻った。
なるほど、少し時間に余裕を持っておいて良かった。



■掛川、まどろみの町
小田原からこだまで小一時間、8時過ぎに掛川に着く。
途中、雨がパラパラと窓を叩き始めたときには慌てた。
昨晩の予報で天気は良いといっていたから、傘など持って来ていない!
それ以後は、特に降られることはなかったので助かった。

掛川駅のまわりも、少しくらいは寄り道して見て回ろうと、次の電車まで一時間ほど空けてある。


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……が、特に見る物もなかった。



千反田さんからは10時頃に着くよう言われ(た気がし)ていて、
昼過ぎまではいることになるだろうと思うから、何か軽くつまめるお土産があった方が良いだろう。
そう考えて、途中で調達していこうと考えていたのだが……
掛川の町は、まだまだまどろみの中だった。
曲がりなりにも新幹線の停まる駅である、
早開きのオサレブランジェリーの一軒くらいあるだろう……と考えたのが甘かった。

駅前に、ローソンが一軒だけあったのでそこで少しだけ食べ物を買っていく。

持て余し気味に駅前をうろついていると、駅前の広場のようなところに7、8人、
腰かけてコンビニコーヒーをすすったり、スマホをいじったりする人たちがいる。
なるほどここが掛川のハチ公前であるか。



■天浜線と原田のタコ焼き
乗り継いだ天竜浜名湖線――天浜線と略すらしい――は、なんとディーゼル路線だった。
一両編成で、整理券が出る。
ということは、無人駅も多いのだろう。
初めて北海道を訪れ、美瑛から旭川へ向かう富良野線に乗ったときのことが思い出される。
まさかここまで鄙びた場所だとは予想していなかった。
しかし乗客は多く、必要とされている路線らしいことはうかがわれた。

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なおこの路線、掛川から終着の新所原までは50分ほどで着くらしいので、
機会があったら最後まで揺られて踏破してみるのも楽しそうだ。
そのときは、帰りは東海道本線を使い、浜松から新幹線で戻れば良いだろう。

  ▼天竜浜名湖線
  http://www.tenhama.co.jp/station/
  webサイトもなかなか味わい深いセンスがある。

千反田邸の最寄である原田の駅までは約10分。案の定、無人駅だった。
その佇まいは、小諸のとなり、乙女駅を彷彿とさせる。

線路は山裾に沿うように走っており、駅が周囲よりほんの少し小高いところにある。
それで辺りを見合わすことができた。
と言っても、目に入るのは道と田畑、学校くらいのものだが。

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駅から下って道沿いに出ると、商店も何もない中に一軒、
赤いのれんのタコ焼き屋台が商っている。

店主はいかにも昔気質の、がっしりした壮年の男で、
そのまま『じゃりン子チエ』の世界から抜け出てきたような風体をしている。
さすがに関西弁は操らなかったが、浅黒く日焼けした肌に、剣道袴のような色のTシャツが男らしい。
年季の入ったナイロンののれんが風にはためく。
ちょうどこの前日、Twitterで知人とタコ焼きの話をしたばかりだったこともあって、
吸い込まれるように一つ所望した。
店主は

 「今日は早めに開けてて正解だった。いつもより1時間くらい早いよ」

と、読みの当たった嬉しさを隠さず笑った。
何か催事でもあるのだろうか? 
曰く、店は土日にしか開けないらしい。
毎年、近くにある大きな神社のお祭りの日には多くのお客がやってくるのだが、
そうして来てくれた客が味を覚えていて、休みには遠くから来てくれることもあるのだという。

紅しょうががたっぷり混ぜ込まれた生地のたこ焼きは十分に大きく熱々で、
味や香りだけではない、「タコ焼きを食べる」ことの喜びに満ち満ちていた。


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それをつつきながら、水がたまって春を待つ枯れた畑と
いまどき珍しい、プールが外から丸見えの中学校の間を抜けてゆけば、
やがて住宅と田畑が入り乱れる区域に入る。
空は薄い雲が垂れ込め、吹く風にはまだ十分な冬の水分を感じさせた。

道に起伏はない。
視界は広かった。

家々には垣はなく、道沿いを流れる川にも柵などない。
その代わりにではないが、土手に太く育った欅の枝からタイヤを吊るした即席の遊具が拵えられていて
奔放なたくましさがあった。
常暮らすまちの風景とは異界の趣きがある。
茂みから、低レベルモンスターの一匹も飛び出してきそうだ。
てってれー。



■加茂荘 花菖蒲園 花鳥園
千反田邸までもう一息、という橋の上で立ち止まって一服する。
河川敷のゲートボール場で元気な老人たちと、
小さな変電施設に生えた大きなメタセコイヤの樹がグレー基調の景色に彩りを添えていた。

そしてそこからはもう、千反田邸の、長い、白い壁が見えていた。

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田んぼの向こうにのびる長く白い壁と、静かなおごそかさを備えた瓦屋根を目指して歩いて行くと、
正面入り口らしき壁の切れ目の前に導かれる。
しかしここは入り口ではないらしい。
敷地の中を通りがかった年のいったご婦人に「入り口にお回りください」と案内されてしまった。


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約束の十時ほぼちょうどに着いたのだけれど、
門をくぐった先に広がる庭園には庭師が数名いるきりで、私の来訪を気に留める者もない。
庭園は時期が時期だけに花もなく、少しさみしいように思える。
なるほど、もう少し暖かくなって花が咲けば、見応えのある庭になるだろう。
冬の少しぶり返したような寒風の中、たくさんの鴨が羽の中に嘴をうずめて休んでいる。
私がそばを通っても、身じろぎしないふてぶてしい者もおれば、そそくさと歩き出して水に泳ぎだす者もある。

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しばらく庭園をふらついて、
なんとなく頃合いがこなれたのを見計らって母屋へと向かった。

母屋の入り口では、書生らしきメガネに天然パーマのイカニモな感じの若者
スマートフォンをいじりながら応対してくれた。
話し方がモゾモゾしていて非常に分かり辛いがここまでくるとある意味わかりやすく、
私のような人間としては好感すら感じる。
私には嘗て、彼に実に――生き写しと言っても良いくらい――よく似た後輩がいた。
彼はイロイロとアレなナニがあって職を離れてしまい、
今は郷里に帰ったと聞くが杳として連絡もつかず、その後どうしたのか知れない。



■潜入! 千反田邸!
サテ屋敷に上げられたは良いようなものの……どこへ向かえばよいのやら?
当の千反田さん、えるさんはどこにおられるのだろうか??
千反田家は近隣でも有名な豪農、名士でもあって来客は多いと聞いていたが、
今日は自分の他に訪うひともないらしく、しんと静まり返っている。

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玄関の土間から中庭に面した縁側のある部屋まで、
果たして間がいくつあるのか……すべてのふすまが開け放たれて繋がっている、
その広がりの中に物音ひとつない。

見取り図があるでなし、順路が示されるわけでなし。
薄暗く、広々とした屋敷のそれこそ異界の佇まいに飲み込まれ、
天パ書生は、土間のかまどの前にがっしりと陣取って、
何がそんなに面白いのかスマホに夢中であるし
――とは言いつつも、広い屋敷の中にときおり高く「パキリ」と響くのは、他ならぬ、
  薪が火に爆ぜる音で、彼はどうやらその番をしているらしい――
私はあてもなく立ち尽くす……。


しかし、いつまでも立ちすくんでいるわけにいかない。
招かれた以上、そしてそれに応えた以上、会いにゆかねばならぬのだ。



意を決し、私は靴を脱いで畳に上がった。



部屋は可能なかぎり広く、廊下はひとがすれ違えないほど狭く。
とりあえずいくつも続くふすまをくぐり、畳の上を進む、進む。
イ草のなめらかな感触が、靴下越しにでもしっとりとした水分を感じさせる。
板張りの廊下も、ほとんどヨーロッパの上等な家具のような肌触りだ。
きしみ、たわみこそするが、ささくれやひずみによる引っかかりに煩わされることはなかった。
薄暗いのに、ところどころに光の艶を白く走らせていて、ただの廊下が神秘的ですらある。
通り一遍の木材でつくられたフローリングやコンクリートの床に慣らされた私には、
これだけでも過ぎたもてなしであったように思う。

ときどき自分の居場所を確かめるように見回せば、小壁には日本画や槍がかかっていて、
ますます自分がどこにいるのか分からなくなった。
肝心のたずね人、千反田える嬢は人を呼びつけておいて一向に姿を現さない。
ある部屋では小壁にぼんやり浮かび上がった人影に肝を冷やし、
まさかえる嬢かと思ったが、大変よく似た女性の肖像であった。母君であろうか。

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ここはもしや下手に動かない方が向こうから見つけてもらえるかもと考え、
池と石灯籠のある庭に面した縁側に腰を下ろしてしばし待つことにした。
縁側からの眺めはこれまた水を打ったように静謐で、この時期、この時間に訪れて正解だったと喜んだ。
花の時期も、それはそれで良いだろうけれど、自分の求めたものは今日にこそあった。

すると、この庭だけの池だと思っていたのはどうやら表とも繋がっていたようで、
さらに奥の建屋の陰から、鴨たちが悠々と泳いでやってくる。
水の中には大きな鯉も泳いでいるのだが、互いに争ったりおびえたりする様子もない。
なかなか不思議な光景に、いっとき千反田嬢のことは忘れて心を奪われていた。


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大きな火鉢のある部屋まで行き着くと、もう屋敷の行ける範囲に探せる場所はなくなっていた。
探し忘れや見落とした部屋がないか、丁寧に見て回ったが、
やはりその揺るぎない静謐と、何もかもの手触りの上質さにため息が漏れるばかりで、
千反田嬢のあの、きらきらした気配を見つけることは出来なかった。
もしかすると彼女もこの静けさの中では常とは違う顔をしているのかも知れないから、
その気配を宛に探したのが間違いだったのかも知れない……ムッ!!
背後に千反田嬢の気配が! そこか!!




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<にゃー



なんだ猫か……。



■彼女の影
次に再び土間の前に戻ってきたとき、
初めに案内してくれたスマホボーイが奥の茶室で茶をふるまってくれるという。
屋内といえ、広い中を小一時間もうろうろしていくらか疲れもあったので、
一度土間におりて靴を履き、離れた茶室へ向かうことにした。

そこに、いた。
千反田嬢がではない。
ミミズクがである。
アフリカワシミミズクの朱雀くんです。

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いやいやいや。
「朱雀くんです」やのうて。おかしいおかしい。
暗がりにおかれた丸木の台座におとなしく爪を立てて、
見開けば黒々と深いであろう目を、眠そうな半開きにしばたたかせていた。

……まさか、館の主人の呪いでこんな姿に……!?

それで私に助けを求めて、昨夜救いのメッセージを送ってきたというのk
イヤイヤ落ち着け私。そんなハズがないだろう。

もし本当にそうなのだとしたら、その呪いを解くには間違いなく「ラーの鏡」が必要だ。
そしてそんな物がこの先必要になるのだとしたら、
あのタコ焼き屋の主人が私になにがしかのヒントを与えているに違いない。
なぜなら、ここに至るまで、そのようなヒントを与えうる機会を持っていたのは彼だけなのだから。

だからきっと……このアフリカワシミミズクの朱雀くんは正真正銘、
ただのアフリカワシミミズクの朱雀くんであって、
呪いによって姿を変えられた哀れな千反田える嬢のなれの果ての姿ではない、と
断言できる。
なんと理論的な説明であろうか。完璧だ。針の穴ほどの破綻もない。

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部屋の番人のように鎮座する朱雀くんの許しを得て部屋に入ると、
そこも先ほどの縁側の部屋同様窓が大きくとられており、他に比べると圧倒的に明るくて開放的だった。
敷居があり、靴のまま上がって良いものか躊躇ったが、どうやら問題ないらしい。

窓からは先ほどまで休んでいた縁側から見たのと同じ石灯籠が見える。
なるほど、池越しに見えていたのはこの茶室であったらしい。
お茶が運ばれてくるまで、しばし所在なくしていたのだが、
……どうだろう、この静謐は……。
鳥の声と葉ずれの音、少しばかりの水音。
こんな時間があるのだな。
否、常日頃、私たちがけたたましい音の海の中で息をしている時にでも、
この時間は並行してここに流れているのだ。同じ速度と重さであるものなのだ。
そう考えると不思議で仕方がない。
明らかに、ここに流れる時間の方が、粘度が高く、ゆるやかであると感じる。
ミミズクに見張られる時間……(そっちじぇねえわ)。


そんなこってりとした空間で、身の置き所にもようやくなれてきた頃……
ふと、ここにも自分以外の生き物の息吹があるのを感じた。

私が腰をおろした窓側のテーブルとは部屋のちょうど対角の、
障子で陰になっているところに、誰か……否、何かがいる。
もしやえる嬢が先に来て、私の来るのを待ちかまえていたのだろうか。



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クロワシミミズクのジェレミーくんです。




いやいやいや。
いやいやいやいやいやいやいや。
知らんがな。
「ジェレミーくんです」て。当たり前みたいに、そんーな。
ないわー。
二段鳥オチ。どんだけトリ好きなんジブン。えー?
ジェレミーくん? あらそうー。
ジェレミーくん。あなたが。こんにちわー。



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うっさいわウインクすんなボケ。



まあまあまあまあ、冗談ですよ? ジェレミーくん、可愛かったです。
しかしちょっと怒らせたらエラいメに遭わされそうですけども。
フラッシュ撮影はくれぐれもご遠慮下さい。
あと撫でたりしても噛まれるかも知れないそうです。こっわ。
指ぐらいソッコー千ン切られかねないクチバシしてるのでちょっかいかけないように。

ほどなくして、お茶とお菓子が運ばれてきた。
運んできたのは、やはり例の天然パーマスマホボーイで、
「ここで、満を持してえる嬢のサプライズ登場とかワンチャンあるで」と踏んでいた私の期待はたやすく裏切られてしまった。
自分がいったい何をしにここに来たのか、いよいよわからなくなってきた……

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まあ、える嬢に呼ばれた、というのも、そもそも私の妄想やも知れぬ。
取り乱したところで良い方向へは進まないだろうと茶をすすっていたら、
部屋の隅に文机があるのが目に入った。
青空文庫的なものもあるようだ。
せっかくだから今日はゆっくり本でも読んでここで待ち、
会えずに仕舞ったらそれはそれで、また訪ねれば良かろうと考え始めた。

こうして一度訪れてしまえば場所との縁は結ばれる、と、私は考えている。
来方も、来るために費やさねばならないものの大きさも分かるようになれば、
……案外、どのくらい遠くても人は訪れるようになるものだ。
その場所を気に入りさえすれば、だが。
幸い、私は今日ここへ呼ばれ、私ごときがおこがましいようではあるが、
この家に限らず、土地をいたく好ましいと思った。
ならばもうすべての目的を今日果たす必要はないのだ――

そんなことを思いながら文机に歩み寄り、その上に並んだ品々を見て――私は言葉を失った。

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……なんだこれは。
なんだこれは。
こんな風に物の並べられる光景を、私は見たことがあった。
知人が、まだ幼かったお子さんを亡くしたときだ。
そう、これではまるで思い出の品の数々……故人を偲ぶための空間ではないか。
まるで、生前の彼女を忘れずにおくための……忘れられないが故の。
どういうことなのだ。
そういうことなのか。
そして、机のほぼ中心に据えられた決定的なものに気付く。
もしかすると初めから気付いていたのかも知れなかった。
意図的に意識から遠ざけていたのかも知れない、臆病者の私は!



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千反田える嬢の、遺影……。

だとすれば、昨晩、私に呼びかけてきたものは果たしてなんだったのか。
彼女がいつこうなってしまっていたのか、私は知らない。
彼女が何を伝って、何を伝えたくて、私をここへ呼びつけたのかも分からない。
しかし、ことここに至って、ある一つのことは明白となった。


ここに彼女はいない。否、恐らくもう、地上のどこにも。



私は文机から一冊、彼女のアルバムとも呼べる青春の記録を一冊手に取り、
テーブルへ戻ると、その意味を探るようにゆっくりとページをめくっていった。

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■帰路、原谷の駅。
それから先のことはあまりよく覚えていない。
ひとつ、茶器をさげに来た天然パーマスマホボーイに

「あの、すみません。千反田さん、千反田えるさんは……?」

とお尋ねしたことは覚えている。
彼はハッと気まずそうな様子になり、決して私と目を合わせようとせず
小さな声で、しかし確かに一言
「そ……そのような方は、ここにはおられません……」
と言った。
それだけ聞けば、もう十分だった。

帰りの列車にはまだ早すぎた筈だったが、私はフラフラと屋敷を出てしまった。
それからどこをどう歩いたのか、
来るとき使った原田の一つ隣りの駅に当たる原谷に辿り着いていたから、
どうやらひと駅余計に歩いたらしかった。
そのせいで、だいたい列車の時間に丁度よく着いたようだ。

原谷の駅のオリジナルキャラが、ユルいを通り越して完全に雑の域にあったとか、
駅キャラですらない謎のカカシ的オブジェクトもまた、
雑を取り込んでファンタスティックになっていたことなども、私は覚えていなかったのだ。
覚えてなかったんだってば。

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そうこうするうちに、来るときに乗ったのと同じ一両編成のディーゼル車がホームに滑り込んできた。
しかし何故か、一向に乗降ドアが開かない。
田舎の鉄道にありがちな手動開閉式かと思ったがどうやらそうでもないようで、
見れば「貸し切り列車」と書いてある。
なるほど、どこぞの団体の貸し切りで、私含め一般客は乗れない特別運行であるらしい。


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車両は数分間、思わせぶりに停車したのち、私をひとりホームに取り残し……
ギシリと車体を軋ませて、ゆっくり、ゆっくり、線路の先へと滑り出していった。

次第に小さくなる列車が視界からすっかり消えたあと、私はハッとなった。
もしかするとあの列車は、世を去った者を乗せ、
此方と彼岸とを結ぶ幽霊列車だったのではあるまいか……。
そういえば、ジイサン・バアサンを満載したさながら老人会の様相の車内に、
ひとり似つかわしくない、黒髪の、細面の美少女の面影を見たような気がする――。

しかしそれもまた、今となっては真実を確かめるすべもない。
何もかも、
……える嬢の存在そのものさえ、私の妄想の産物だったのかもしれないのだから。

私は胸に去来するさまざまな思いを振り切るように、
その後にやって来た列車に乗り込んだ。



  ――この地を訪うことも、二度とあるまい。



胸に芽生えた、決然とした思いを抱いて。





……。




と思ったんだけど、
先に行ったその貸し切り列車は、オイサンが乗った列車が
15分ほどあとに掛川に着いた時もまだ駅に停まってて、乗客と思しき老人軍団がホームに残っていた。

老人軍団、グッタリしてるか、妙にハイかの二極化していて、
改札には救急隊員が2、3人。
……何があったか、マ推して知るべしなんだけど。

その天国と地獄絵図をしり目に改札をくぐると、
出てすぐのバス乗り場で、
革ジャン姿に、耳やら鼻やらピアスをジャラジャラぶら下げた若者が
数人たむろしている。


  ジャラジャラ1「なに? 駅、なんかあったの?」

  ジャラジャラ2「なんかw?
            ジジイが電車ン中でどんちゃん騒ぎしててツブれたみてえw
            ウケルww」


  ジャラジャラ3「なんかぁ,
改札出ようとしてぇ,ふらついてスッ転んで
            救急車呼んでんのw 
うぜえw」

  
ジャラジャラ1「なにそれジジイwww あたまオカシイじゃんwww」



……。



ご老人たち。しっかりなされよ。
馬鹿にされてる場合じゃないぞ。



 

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