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2014年12月の7件の記事

2014年12月31日 (水)

■Obscure the border~境目を滲ませて~2014年のまとめ -更新第964回-


昨日、帰省中の奈良は白毫寺の石段でものの見事にスッ転び、
したたかにうち付けた尻がぶりぶり痛むオイサンです。

Dsc02785


皆さんはどのような年末をお過ごしでしょうか。
今年もお世話になりました。
来年もボチボチと『ゆび先はもう一つの心臓』をよろしくお願いいたします。



●○● ポニーテールは振り向かない2014 ○●○



しかしざっくり振り返ってみると、
まあ今年は……小諸に行ってばかりの年だった気がするなあ……
(初代『ときメモ』のED風)。

4月に銚子の仲間たちと訪れたのを皮切りに、
6月頭にひとりで2泊3日、
9月にまた仲間たちと1泊、
10月~11月にかけては、一人日帰りで2週連続で行った後に仲間たちと一泊で行って3週連続。
そしてまた11月末に一人で日帰りと、
計7回もお邪魔することになったワケで、まさに世は小諸元年と、このように申し上げてもなんら差し支えない。

  ちょっと後半の方は記事にも出来ておらず、
  色々巻き起こった面白いこともお届け出来てないのが申し訳ねえ次第です。
  書かないといけないんだけど。
  大町で出会った謎のダンシングラーメン屋とか、佐久海ノ口の素晴らしい紅葉の風景とか。

小諸、一年で回数行き過ぎたせいで、今年行き始めたとはちょっと思えない。
愛すべきヘンなキャラクターにたくさん出会ったのは全部今年の出来事なのだけど……
なんかもう、ずっと昔からの知り合いのような気がしている。

実は一昨日も行くつもりにしていたのを、色々考えた末見送った。
小諸の皆さんも色々お世話になりました。
来年もヒトツよろしく。
おやきとコーヒー、こもろっけ丼と水餃子を用意して待っていろ下さい!
あ、あとツルヤのドライフルーツ(リンゴ)な。
アレ、身内ですっごい評判いいので。



そんな2014年を大きくまとめると、「リアルに接することの多い一年」だった。



『あの夏で待ってる』の聖地としての小諸に多く触れることに始まって、
『ディーふらぐ』、『ヤマノススメ』の聖地へも出かけた。
作品と現実との懸け橋となる場所に接することで、
境目が曖昧になって思い入れが深くなる。

『ディーふらぐ』では、京王線沿いの駅、芦花公園とか千歳烏山。
高尾山に登ったのもその延長だったりする。
『ヤマノススメ』に持ってかれて飯能にも行った……高尾山はこっちにも片足突っ込んでるな。

それによって、作品をより正しく鑑賞できたかは別にして、作品の楽しみ方には幅が出た。
小諸なんかは逆転現象があって、
『あの夏で待ってる』という作品の方が小諸という土地のキャラクターグッズの様に感じている。

『ペルソナ3』の舞台を見に行ったりもして、生身で躍動する役者陣の迫力に圧倒されたり、
『ディーふらぐ』のイベントで、あまりにも素のままの若手男性声優陣の姿に驚いたり。
舞台は、自分が学生演劇でやってたのとはずいぶん趣が違っていて、
イマドキの舞台にちょっとびっくりさせられたりしつつ。

特にまた『ディーふらぐ』に関しては、
webラジオでパーソナリティをしていた小西克幸さん、伊藤静さんをはじめとする
中の人たちの熱、存在感がすごくて、改めて役者さんてすげえなと感じ入った。
皆さんいい加減ベテラン勢が多いので、すごく余裕が感じられる。
作品があって彼らがいるのではなくて、彼ら一人一人の存在感が作品ににじみ出ているなあと、
強く感じたのが『ディーふらぐ』だった。
若手が中心の作品って、作品の世界が役者を支えているように感じることがある。
まだ不安定な役者陣の頼りないところを、作品がしっかりすることで、
「ああ、こうすればよいのか」と役者に分からせているという風に。
役者の経験年数よりも、キャラクター、作家の人生経験の方が重厚な場合に
そういうことが起こるのだと思う。
作品・キャラクターがないとしゃべることが出来ないのか、そうでもないのか。
そんなことの違いだろう。

そういう意味では、webラジオでも、
作品に依らず、「我」でなんとかしてしまうものを好んで聞いていた気がする。

  ▼ラジオ シドニアの騎士~綾と綾音の秘密の光合成~
  http://www.onsen.ag/program/sidonia/

本編ほとんど見てねえけど『シドニアの騎士』のwebラジオが面白すぎて、今一番やられている。
なんだあの頭の良さと品の良さ、そしてノリは。完璧超人か。
今年の、個人的「中の人大賞」女性部門はあやねるに差し上げていきたい。
男性部門は小西克幸さん、稲田徹さんあたり。しぶいオシゴトなさるんですけどね。
あー、でも、女性部門では井口裕香さんも随分躍進なされている気がする。
マその辺は、オイサンの観測範囲に依拠する話だけど。

  ▼ヤマノススメ ラジオノススメ
  http://hibiki-radio.jp/description/yamanosusume
  ▼ティグルとリムの魔弾ラジオ
  http://hibiki-radio.jp/description/madan

  ▼ディーふらぐ!ラジオ製作部(仮)
  
   偏に小西氏・伊藤御前のしごとっぷりが素晴らしいラジオだった……。
   いい意味で、全篇「楽屋」っぽくて楽しめた。


生身の声優さんが演じるアニメ系ミュージックPVを見ることにもあまり抵抗がなくなってきた。
ちょっと前は、声優さんがキャラクターとの境目を消そうとすることに
あまり良い印象なかったんだけど。


▼悠木碧 クピドゥレビュー



▼Daydream cafe



他にも、『ディーふらぐ』のBDを、
伊藤さんと高橋さんが高尾山に登るっていう特典映像だけを目的に買ったりして。
そしてそれをダラダラダラダラ、ずーっと流していた……なにやってんのオッサン。
あっという間に人生終わるぞ。
けど、あのくらい……伊藤さん、小西さん、高橋美佳子さん、小清水亜美さん辺りの
ベテラン勢の仕事ぶりは見ていて気持ちがいい。

先日も、『ごちうさ』BD6巻のおまけについてたイベント映像を、
夜中にニヤニヤしながらずっと見てたりしたオイサンです。
まあ、面白くもなんともない場面も多々あるんだけど。

あとその、……なんですか。
やたらと部屋にフィギュアが増えたのも今年の特徴だな!
平面ではない、立体物という意味でも……リアルに深く接した一年と言えますね! 言いますよ!
最初はGJ部の部長だけだったのに、今もう6体だもんなあ……。
まいっちゃうよなあもう、モテちゃってモテちゃって。


 ▼聖地を巡る~『ディーふらぐ』、『ヤマノススメ』

聖地めぐりの延長で始めた山登りは来年も続けていきたい。
あまり難しいところとか遠くへは行かれないが、靴買ったり、ウェアを揃えたり地味にしていきたい。
年の初めに阿寒で雪山トレッキングなんてことをやっていたことと巡り合わせて、
丁度「あ、山、楽しい」と思えたことは、また一つ大きなきっかけになっていきそうだ。
山関連では色々欲しいものが一杯だ。

これとか。


これとか。



……これって「『けいおん!』見てギター買った!」みたいなお恥ずかしい系の行為だろうか……。
でも、アレを見てると出来そうな気がしてくるのよね。
「ああ、山小屋ってこういう感じ(雰囲気ではなく機能が)なんだ」って、
未知の世界も垣間見えるので安心感を与えてくれるというか。

そういうことって、まあミーハーに終わることも多いのだろうけど、
自分の世界の扉を開くきっかけとしては非常に優秀だと思う。
入門としてのガイドもあるし、仲間も作りやすそうだし。
そういう憧れや勢いでもないと、人間、ナカナカ新しいことを始めるのは難しいですしね。

ただ、山を登ることについては、目的を自分に求めてしまいそうで恐ろしいな。
ただのお出かけ、散歩の延長なんだけど。
世界一の山に登るような第一人者たちにさえ見つけられない答えを自分に見いだせるはずもないので、
風景さがし、被写体さがしということで納得がいけばいい。



■オタクカルチャー界隈



上でも書いた『ディーふらぐ』は、聖地めぐり、イベントまで行ったので、
今年一年では意外と一番濃く立ち入った作品だったんじゃないだろうか。
二期は……制作側の様子を見てるとなさそうだけど、期待はしたい。

あとはまあ、『ごちうさ』
ホント可愛いだけ、ただ偏にカワイイカワイイだけの作品だったんだけど……
なんかいろいろ、大事なものをぶっ壊していった。
あなたの心です(イキナリなんだ)。
他のことには目もくれず、「かわいさ」というパラメータだけを極限まで磨き上げるとこうなる、
という恐ろしき一点突破。
久しぶりにBDを全巻完走してしまった作品になった。
妄想がはかどるというわけでもないのになあ。
佐倉綾音の存在を意識し始めたのがこの作品ということになるな。

作品的に最も素晴らしかったのは『グラスリップ』。
正直、まだなんともうまく表現できないのだけど、
「やるならこうだな」という刺激をくれたのはこの作品だ。
ゆるさに逃げず、ハードなまま、受け手にストレスを与えずに描き切る、という、
イマドキの「描き方」という点で、もっとも先鋭的で、もっともエポックだったと思う。
ただ見て楽しむのと違う、創る方面でのインスピレーションをくれた。

他に印象深かった作品は、
『スペースダンディ』『ぼくらはみんな河合荘』『ろこどる』『未確認で進行形』、
などなど、ホント、アニメの平均クオリティって上がったよねえ。
すごいと思う。

今期はまだ見終えていないけども、『天体のメソッド』がイイ感じ。
『河合荘』の岐阜、『ろこどる』の流川(=流山)辺りには、また巡礼で足を延ばしたいところです。
特に岐阜は……非常に興味深い!



■これ以上は広がらないであろう、アニメ界隈の「我が世の春」



コンビニに行っても、地方へ行っても、どこもかしこも何らかのアニメキャラだらけで、
アニメのカルチャー的には今がきっともっともメジャーな我が世の春状態なのではないだろうか
(その割に、アニメの中の人たちの暮らし向きが良くなっているわけではなさそうなところに
この国の歪みを垣間見る気分だが)。
きっとこの先、10年後、20年後までこんな状態が続くことはあり得ないから、
その何十年先の未来に、過去の風俗シーンを振り返るテレビ番組で
(そんな何十年先に「テレビ番組」なんてものが生き残っていればの話だが)、
80年代にタケノコ族がはやったのと同列に、2010年代前半のアニメブームが語られるのだろうなあと考えると
今から既にモノ寂しく感じてしまう。



……マそんな感じで、
もうこれまでに書いてきたことばかりあんまり長く書くのもアレだからそろそろおしまいにするけども、
アニメはもう、いいだけ現実世界に広がって浸透したな、ということを
言わずもがなに感じた一年だった。
あとはこの状態をどれだけ持続させられるか、根付かせていかれるかが、
きっとこの先大事になっていく……とは思うけども、
まあ、流転する様々の中で、長いスパンの一過性のものとしてやがて消えてなくなっていくんだろうなあ、
細々と、本当に好きな人たちだけが続けていく世界に落ち着いていくんだろうと……
90年代後半、まさかコンシューマゲームの世界が今のように、
産業、遊びの表舞台から退き、うっすらとした存在になっていくとは夢にも思っていなかったオイサンは、
今から心の準備をしてしまう次第です。

まだまだ来年、再来年くらいまでは元気でいてくれると思うけど。
オタクが、調子に乗らない程度に、背中を丸めず胸を張って生きていけるくらいに
世の中に残っていってくれるとありがたいんだけどね。
オタクはすぐ調子に乗るから。



●○● 2014年 個人略年表 ○●○



■1月~3月

▼旅行・イベントなど
・新年、ペ氏と伊賀上野を訪れる
・1月17日~阿寒旅行。雪山登りがえれえ楽しい。山へのあこがれの目覚め。
・舞台『ペルソナ3』を見る(1回目・水道橋・シアターGロッソ)
・ペ氏と鎌倉散策、おやきをトンビにさらわれる(文字通り)
・都内で大雪。面倒くさがってタクシーで帰ろうとしたら死ぬような渋滞で数時間も閉じ込められ、
 結局ずくずくになりながら翌朝家に帰り着く事態に。
・『ディーふらぐ』の聖地、京王線沿いの駅をぽちぽちとめぐる。
 八王子、高尾、芦花公園、千歳烏山。
 ……ということは、白いギターを持った老人に話しかけられたのも今年か。

関係ないけど、先日東京に遊びに来ていた友人と夜にご飯を食べたとき、
とあるランチの美味しいという割烹の前で、果たして飲み屋モード全開の夜に入った物かどうか迷っていたら、
謎のおばあさんがやってきて、
「このお店、おいしいわよ? 入る?」
と、勝手に入口を開けられてしまい入らざるを得なくなってしまった、ということがあった。
後から店の人に聞いたところによれば、そのおばあさんは店の常連で、
もう96だか97だかになる、九段下辺りでは有名なおばあさんなのだそうだ。
そういう面白いキャラクターに声をかけられやすいんだろうなあ、わしら。

▼アニメ
・『ディーふらぐ! 』
  面白いアニメだった。年間ランキングでは、『ごちうさ』に次いで2位にランクしたい。
  なによりも中の人たちが楽しそうにしてたのがすごく良かったね。
  聖地が身近だったんで、割とその辺で思い入れも生まれたしイベントも行ったし。

・『未確認で進行形』
  見ているうちはすごいデキが佳くて面白くて、でもあまりに小奇麗にまとまりすぎて、
  終わったらすっかりサラッと忘れてしまった作品。
  トータルのデキとしては『ディーふらぐ』よりも上だと思うのだけど、
  2期を希望するのは『ディーふらぐ』。そんな感じの不遇の作品。
  同じ系統としては、あとで出てくる『ろこどる』がある。

・劇場版『モーレツ宇宙海賊』を見る

・劇場版『アイマス』を見る。

▼その他
ほむらちゃんがうちにくる。かわいい。
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■4月~6月

▼旅行・イベントなど
・4月、パパさんと横須賀にカレーを食べに行って散々な目に遭う
 いや、散々な目に遭ったのは主にパパさんの方だが。
・4月、小諸、初上陸。Twitterの隊長、テラジさん、よつさんと。
 ……よもやこのあと、一年のうちに小諸へ7回も行くことになるだなんて……。
・鎌倉をぶらぶらして道に迷う
 よく分かんない高台が楽しかった。あそこへはもう一度行ってもいい。
・フォロワーさんY氏と神保町でお会いする。
  次は鎌倉で。羽二重餅、超おいしかったです。
・岩男潤子さんのライブ in 横浜赤レンガ・MotionBlue
  新メンバー、クリスのパーカッションに度肝を抜かれる。
  毎年恒例・クリスマスライブは潤子さんの体調不良で延期になってしまいましたが、
  今年も大変楽しませてもらった。
・飯田橋で銚子メンバーとイタリアンを食う。
・6月、小諸訪問2回目。ひとりで2泊3日。

▼アニメなど
・『ドリームクラブGogo.』
   美月ちゃんと結婚した。
・『ご注文はうさぎですか』
  このアニメの1話が放映された時点で、2014年は終わっていたんだということにもっと早く気付くべきだった。
  全てを破壊した破壊神。
・『ぼくらはみんな河合荘』
  岐阜に行きたい。2014年の花澤さん枠その2。
  珍しくアニメから原作に入って、継続して買っている作品でもある。パワーあるよね。
  あと岐阜行きたい。景色の綺麗なところですね。

▼その他
・かんなちゃんがうちにくる。かわいい。
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・ほむらちゃんが水着でうちに来る。えろい。
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・シャイニング・ティアーズの子がうちに来る。えろい。
 

■7月~9月

▼旅行・イベントなど
・8月、野水の咲いてない桜を見に行く。
・経堂で狐につままれる。
・9月、小諸訪問3回目。偽からまつ荘の陰謀に遭い、白馬へ瞑想。
 命からがらたどり着いた大町で、謎のダンシングラーメンを味わう。次は必ず水餃子だ。

▼アニメ
・『思い出のマーニー』を見る
・『ヤマノススメ』
  2期。主にここなちゃん。飯能は良いところだった。
・『人生』
  体育会系。
・『グラスリップ』
  2014年アニメ、俺的トータルランキング同率1位。
・『普通の女子高生がろこどるやってみた』
  唯センパイのことが好きだったけど相手にもされなかった。失恋。
・『少年ハリウッド』
  「いや、ネタでしょ?」と言われそうだけども、個人的な評価はとても高い少年ハリウッド。
  良いアニメでしたよ。

▼その他
・筒隠月子さんがうちに来る。クッソヤベェ。
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■10月~12月

▼旅行・イベントなど

・10月、イベント『ディーふらぐ』を見に行く in 代々木山野ホール
・10月、青梅・奥多摩へ。突然の渓谷や、コンビニで薪を売っているのにビビる。
・舞台『ペルソナ3』を見る。北千住にて。
・10月、小諸訪問4回目、5回目。
  どちらも日帰り。日帰りできることに味を占めて毎週行くようになる。やりすぎだ。
・11月、小諸訪問6回目。
  1泊2日、佐久海ノ口泊。野辺の電波天文台とか、アカデミックな寄り道をする。
  雲海に大はしゃぎ。
・11月、小諸訪問7回目。日帰り。
  何やってんの。

▼アニメなど
・まだ見終えていないものが殆ど。
 唯一『ヤマノススメ』を見終えて、ついで『ガンダム』『ぐぐれコックリさん』『甘ブリ』
 『天体のメソッド』くらい。
 飛び抜けたパワーの持ち主はいない様に感じる(『ガンダム』はなんか違うモノなので除外)。
 他の期に比べると、ちょっと谷間かなという気はする。


●○● Closing ○●○


マそんな感じで。
やっぱり、発信が少ない一年だったなあというのが大きな反省。
別に大層なことを書くわけでもないんだけども、
そこを忘れてしまうとホントに、生きてんだか死んでんだか、自分でもよく分かんなくなってしまう。

何かを発信する・出来るってことは、何かについて知ったり感じたり、
感動したり出来ていて、そこを面倒がってしまうと何も残らない。

ただ、その、年齢的に、ことさら強く自分の感動・感激、
その時の感情を、強い形にして世の中に出してしまうということについて、
いくらかの照れもあるわけで、
なぜそこにテレが出るのかと言われれば、その感情や感動が、年齢なりのものでない、
年齢に伴う社会的な立ち位置に適当なものでないと、
何処かで感じて躊躇してしまっている自分がおるわけです。

何がふさわしくて何がふさわしくないのか、
或はそれは、発する人間の立ち位置に依るものではなく、
誰に向けて発するものであるのかに依るのかも知れないので、
その辺についてもう少し自覚的に、やっていく必要があるのかも知れぬなあと思う今日この頃。

皆さまいかがお過ごしでしょうか?(今それをきくのか)


……まあ、なんつって、悩んでるふりをして見せたところで、
どうせ明日にはまた「じゃきんと賀正」なんつってるオイサンですんで、
来年も変わらずこの調子でお付き合いいただけると
お互いラクでいいんじゃないですかね。

そんな感じで、今年もお世話になりました。
来年もよろしくです。

以上、
『ドリームクラブGogo.』、美月ちゃんシナリオで結婚に至るココロの動きを学ぶオトコ、
オイサンでした。

P9060024
「ヒロさんはスプーンおばさんみたいですね!」「誰がおばさんじゃ殺すぞ」

ハァーッハッハッハ!!
残り2時間、せいぜい良いお年をお過ごしになりやがるんだな!!

 
 

 

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2014年12月30日 (火)

■ここがあたしのB.C(ベースキャンプ)~オッサン、飯能へ行く(後篇) -更新第963回-

ハイどうも、オイサンです。
今回は前回の続き、
12月初頭に『ヤマノススメ』の舞台、飯能のまちへ遊びに行った時の話の続きです。
 
飯能にやってきて天覧山に登り、続きで多峯主山(とおのすやま)まで落として
下山するところからです。

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■帰り道
 
 
 
駅でもらった観光地図によれば、
元来た道を戻らなくてもこのまま進んで山を下り、入間川沿いに出れば、
吾妻峡というちょっとした峡谷気分を味わえる場所に出る模様。
それをたどって戻れば、どうやら駅の方に戻れるらしい。

なによ、いいじゃないの、飯能。小旅行気分じゃないの。

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下りは急峻。とても急。転げ落ちたら、ちょっと大変なメに遭うと存じます。
そんな途中に現れる、謎のお色気うっふんオブジェクト。

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山男を誘惑するには十分すぎる魅力です。山男なめんな。

ここで、謎の登山オバアサンに遭遇。ご挨拶と小粋なトーク。
「上からの眺めはどうでした?」とお尋ねになるので、
「ああ、よく見通せて富士山もバッチリ見えましたよ」とお答えしたのだけど、
「東京は? 東京は見えました?」と返ってきた。
なるほど、このご婦人は、富士山よりも東京の眺めをご所望か。
東京に、憧れとか、好きな人でもいるのだろうかしら。
なんだかハッとさせられるやりとりだった。
脚のちょっと悪そうなご婦人だった。

サテ急峻な斜面を下ってしばらく歩くと、林の向こうに道路が見える。
ようやく人里に返ってきたか。
そこに現れる、ピンク色のお城……むう、人の営みの罪深さよ。
……どーせまたラブい宿泊施設だろう、と思って道路に出たら……


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幼稚園だった……。
ごめんなさい。
てっきりラブい宿泊施設かと思ったのに、
ラブい宿泊施設での行為の結果、生まれ出づる者たちが通う場所だった(よけいなおせわだ)。

……まあ、ラブい宿泊施設での行為の結果生まれ出づる者たちもいずれ
ラブい宿泊施設での行為にいたるのだろうけど(ゲスい勘繰り)。
いたらない奴らもいるけど(お前や)。



■吾妻峡



そこから申し訳程度の道路を渡って垣根もない住宅街の合間を迷いながら縫っていくと、
吾妻峡入口の看板が。
正直すごく分かりにくい。
ちょっと油断するとすぐ人の家の敷地に迷い込むのでスリル満点です。
そんなスリルは求めてない。皆さんご注意を。

そこから5分も歩かず、木立の中をくぐっていくと……
うわお。なんだ、立派な川じゃないか。

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ビックリだな、入間川。
こないだの青梅も突然渓流になってビックリしたもんで、
飯能はあそこほどダイナミックではないけど、
景観を楽しんだり、川遊びをしたりというには十分な迫力。
ちょっとした異空間。
自然豊富だなー、飯能(ほめことば)。
はやくここなちゃんという大自然の神秘を堪能したい(ひわい)。

しかしこの渓流が、あしもとの石のゴロゴロ具合がこれまた本格的で、
一応若干のハード仕様とは言え、フツーのスポーツシューズを履いてきてしまった足ではちとつらい。
景観は掛け値なしに美しいので、皆さんもぜひどうぞ。

  ……と思ったら、この吾妻峡も普通に聖地だった……。
  2期7話でめっさ来とった……。水着回やった……。
  ひなたじゃないけど、夏場のここは涼しげで楽しかろうな。
  暑いかもだけど。埼玉だから。

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■町への帰路



あとは、川の流れに沿って下って行き、適当なところで上のクルマ道へ上がり、
道なりに歩いて橋を渡ればそこはもう飯能駅前の市街地。
現在、11時チョイ前。
7時過ぎに到着して、小さな山を二つ上り下りして、川を眺めて、約3時間半。
なかなか好ましいサイズ感。いいね。飯能、いいね。

お昼にはまだ早いので、どこかでお茶でも飲んで一息つきたいところ。
駅前にンドゥール(=ドトール)がありますが、
せっかくなので、まちの鄙びた個人経営喫茶店と行きたいところ……なのだが、
何か知らんけど、この飯能という町の飲食店は、かなりの割合で11時にならないと開店なさらないご様子。
まじでかー。

どこか良さゲなお店がないかと歩いてみるも、
たった一軒見つけた美味しそうなコーヒー屋さんはやはり開店前。

  ……やあここなちゃん、こんなところにいたのか。

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  ……お隣の、怖そうなシャッターの人たちはお友達かい?

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  飯能、カオスやな。

すると一軒、店の前に『ヤマノススメ』をディスプレイしてる珈琲館さんが目に入ったので、
マこちらもチェーンには変わりないけど、あんまり馴染みがないのでこちらで一休み。
ちょっとお腹が空いてどうにもならんので、ゴハン前だけど、ホットドッグを

……むう、お店の前に『ヤマノススメ』のガチャがあるぞ。
結構キアイ入ってんな。
なんというか、『ガルパン』の大洗のように町ぐるみで気合入れてます! っていうイメージでもなかったので、
町なかにこういうPOPなんかがあるのを見かけるとちょっとびっくりする。
さっきのここなちゃんもね。
案外、頑張ってやってるんだなあ。

店に入ると……こんなPOPや、

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こんなマグカップつきのコーヒーなんかも出してくれているらしい。
おお、本当に頑張ってるなあ。
大洗ほど盛り上がってはいないようなものの、やってみよう、という気はあるらしい。
うーむ。
実際オイサンも、キャラグッズを買ったり、ザ・聖地巡礼! みたいなことはあんまりやるつもりがなく
なんとなくここまで来てたんだけども、
ここに来て、こうやってフィーチャーして色々盛り上げようとしてるのを見ると
なんだか嬉しくなってしまって、買うつもりのなかったマグカップとか買ってしまった。

  ……ただ最近になって、
  「もしかすると自分は潜在的にものすごい『ヤマノススメ』好きだったのかも知れん」
  と思い始めてもいるけど。

あと、ここなちゃんプリントのLEDライトと、和紙に印刷されたキャラクター千社札。
なんか結局、3000円近く使ってしまった……。
あとね、言っとくけど。

  このキャラグッズ、作りが雑だよ!!
 
マグカップのプリントはザラザラだし、LEDライトもやっつけ感がヒドイ!
やるならしっかりやろう!

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コーヒーとホットドッグは『ヤマノススメ』関係なく普通に美味しかったです。
これは珈琲館さんの実力ですね。



■飯能の町並み~お昼ゴハン・ひだまり山荘



お昼は、前もって調べておいたおそば屋さん。
焼いたキジ肉の乗ったどんぶりがあるというのでそれに引かれてきた。
おいしかったです。
また食べたい。

あと、朝到着したときに真っ先に気になったのが、
駅ビルの中に入っている山アイテム屋さん。
名前が『ひだまり山荘』。

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お、おおう……なんか狙い澄まされているような、間違っているような。
丁度ウェアを探していたので覗いてみたけど、
『ヤマノススメ』グッズを扱ってる以外はごくごく普通の、ちょっとこぢんまりとした
山用品屋さんでした。



■『ヤマノススメ』と飯能と



マそんな感じで、とことん気まぐれに無計画にやってきた飯能だけども、
随分と堪能してしまった。
原作がどういう基準で舞台を飯能に据えたのか分からないが
(多分原作者さんのなじみの土地なんだと思うけど)、
山との距離感という意味ではもってこいの町であったように思う。
天覧山へ至る道のりと、その入門編ぶりといったらすばらしかった。
この距離感、サイズ感は、『ヤマノススメ』の作品が持ってるサイズ感そのものだなあと実感する。

正直、『ヤマノススメ』って、
もとが5分アニメ、今期も15分ということもあって、
無意識にちょっと、フルサイズアニメに比べて軽く見ていたところがあった。

  マ15分でも2クールだから、トータルで見れば1クールの30分番組と変わらないんだけど
  (毎回OP/EDで削られるから厳密には同じではないが)。

お話はすごく、手堅いというか、教科書通りの印象があったので、
そんなに思い入れてたワケでもない。
5分・15分という長さもあって、なんか独特のテンポで進む作品だな、と感じていた。

そんな、あまり思い入れのない『ヤマノススメ』だったのだけども、
webラジオが面白かったり、
実際にこうして飯能へやってきて見たままの風景が作中にポンポン出てくる様を目の当たりにしたりしてるうちに、
随分と愛着が湧いてきてしまった。

最近のアニメにはありがちだけれども、
ほぼほぼ、実際の風景が本当にそのまま画面に出てくるので、
ちょっとドキッとするくらいの既視感というか現実感、垣根を越えた感覚を味わうことになった。

物語も、中盤以降に差し掛かって俯瞰してみると、
伏線を張り、それを回収することに時間を惜しまない、
地味だけど真面目な作品だなあという印象が強まって、じわじわと好感度が上がっていった。

1話が5分・15分ていう時間の都合上、まるまる伏線だけの回が生まれ、
そういう伏線のためだけの回が回を惜しまずにぽこぽこ挟まれたりするから、
なんか「変なテンポ」に見えてしまってたんだなあと、俯瞰してみると分かった。
逆にその、「へ? 今回なんだったの? 山登れよ!」
みたいな回が謎めきを生んで、ちょっと面白かったりもした。

タイトルを『ヤマノススメ』としていながらも、実はこの作品の主戦場は、
あおいたちを取り巻く家族や、町や、身の回りの出来事といった日常にあると感じている。
本当は山に登るコト、山での出来事、山から端を発する様々な感情、
それを下界に持ち帰ることが物語をドライブしてはいるのだけども、
山という非日常を際立たせるための日常パートの重み・厚みが、作り手の意図を超え、あまりに大きい。
山での出来事を持ち帰った下界がメインフィールドなのだと思う。

これはきっと、原作者の……意図的にやっていることかどうかは分からないけれども……
持っている「山」観、登山観がそっくりそのまま投影されてこうなっているのだろう。
つまり、
「山はあくまでも非日常の場であって暮らしの場ではなく、
 土台となる日常の上にそびえているものだ」
という観念の現れであるということだ。
それは街に暮らす自分たちには当たり前のことのようだけども、
逆に当然、そうではない観念の持ち主もいて、山こそを日常・山を生活の場として
(都会に仕事を持って暮らしのベースがそこにあっても)とらえている人たちもいる。
ただ、この作品・作者の観念はそうは謳わない(それは一目瞭然だけれども)、謳えないということだ。
……と、見ていて感じるに至った。
そういう構造の物語だった。

  そんな風に見たオイサンの、作中で最も心に残った場面、セリフは、
  あおいとひなたと、あおいの母とひなたの父とで霧ヶ峰に登る回で、
  雄大な霧ヶ峰の景色を眺めながらあおい母(CV:久川綾)がしみじみと漏らした一言、
  「……あの子、こういう物が見たかったのねえ……」
  でした。
  いやあ、泣けた。
  全国のおとーさんおかーさん、そんで全国の人の子全部に噛みしめてもらいたい良い場面だなあと
  涙を流しながら見てました。
  この場面をまだ見ていないそこの久川綾ファンは今すぐお電話下さい。
  BDに焼いて渡しますから。先着9名様まで。

  ちなみに印象深いセリフ第2位は、
  ここなちゃんのお誕生日(前日)回の、
  「開け……ちゃいます!」
  でした。可愛いですね。いたずらっ子ですね。
  ここで変に我慢しちゃわない辺りが、ここなちゃんの天使たるゆえんですね。
  ここで我慢しちゃうようではまだまだです。並です。

デ、飯能。
そういう「物語の主舞台」であり、山での「出稼ぎ」の成果が全部帰ってくる場として、
この小さな天覧山という山を抱いたこの町は、なかなかに象徴的だなあと感じた次第。
『ドラクエ7』におけるグランエスタード島のような、世界の中心の存在として。

山を舞台にした作品は多々あれど、その多くが「山に生き、山に死す」類のものになってしまっている。
「生きて帰るために登る」ことを標榜していても、
登る理由が日常にあり、登って持ち帰ったものを日常で消化している作品は珍しいんじゃないかと思う。
そういう意味で、『ヤマノススメ』は特殊だったし、新しい流れの作品だったんだな、と……
いうことに、この町に来てみて、気付くことができたと思います。

  主人公が大人の男じゃなくて女の子だっていうのも重要なポイントかつ
  結果的に必然性のある設えであったかも知れないね。

その主舞台の風景に深く接してしまい、かなりガツンとやられた感がある。
ものの5時間ほどのだったけど、とても楽しい町でした。
ぜひもう一度、遊びに来たいと思うオイサンでした。
 
 
 
 
 

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■ここがあたしのB.C(ベースキャンプ)~オッサン、飯能へ行く(前篇) -更新第962回-

イヤもう世間はすっかり冬でして
めっきりと冷え込みの厳しい日々が続きますが皆さんいかがお過ごしでしょうかね。
オイサンです。

  マもう年末なので当たり前なんだけど。
  年末なのに夏だったら大変ですからね。オーストラリアですからね。

もう一月近く前になるけども、どうやら日本中やたら寒かったっぽい12月最初の土曜日、
「小諸にでも行くか!」(またか)と企んでたんだけども、雪が降るらしいと聞いて二の足を踏んだ。
北海道大好き人間の自分としては、雪自体は全然ウェルカムなんだけども、
電車が動かなくなって帰ってこられなくなったりするとエライコトなので、
ちょっと今回は様子を見た。

  結果的にはほど良い降雪で、行けば多分見たことのない景色を拝めたのだろう。
  惜しいことをした……が、まあ致し方なし。
  大丈夫だ、俺には次がある。

デ代わりに日曜日、昼過ぎくらいに帰って来られる範囲でどっか行かれないもんかと考えていた。
それで候補に挙がったのが、飯能。
『ヤマノススメ』の主舞台。
ここなちゃん発祥の地。


Dsc01966


『のんのんびより』の小川町再訪も検討してたが、
丸一日使うならともかく、日の高いうちに帰ってくるにはちょっと遠かった。
だったら中間くらいで面白いところがないかと八高線を辿っていたら、目についたのが、飯能。
八王子~小川町の、ちょうど真ん中くらいにあるのね。知らなかった。
おお、こんなところにあったのか。
段々、関東近郊の位置関係が分かってきたぞ。 ← 関東在住17年目に突入。



■飯能へ行こう!



計画は……特になし。
家で飯能周辺のGoogleMapをざっと眺めて、ちょっと景色の良さそうなところを見つけて、
じゃその辺でのんびりするか、というくらい。
地元の案内所でガイドらしきモノがあれば、それを入手して考える。
なので当初の候補は、飯能駅から入間川を渡って西へ少し行った、あさひ山展望公園。
あとはお昼を食べる店を探した程度でおしまい。

……けども、ちょっと考えれば、
飯能周辺でも天覧山とか、聖地らしい場所があんだろって分かるはずなんだけどね。
アニメ本編に如何に興味がないか、如実に分かる事例です。

「ここなちゃんが半生を過ごした生家」とか、
「ここなちゃんが浸かったお風呂」
「ここなちゃんの残り湯が湧き出る湧水」とかがあれば行くんだけどね(あるかそんなもん)。


  というかまあ、この人これだけここなちゃんここなちゃん言ってて、
  実はここなちゃんがそんなに好きなわけでもありません。
  自分は最初、楓さん贔屓だったのに、
  ラジオの方で井口があんまり唯ちゃんカワイイカワイイ言うから段々ここなちゃん寄りになってきて、
  そうなってくると最初はガラッパチ美人だった楓さんが最近オバサンにしか見えなくなってきたので
  人間の認識ってヒドイなあと思ったりする。

  ついでに言えばここなちゃんも自然発生的に好きになったというよりも、
  好きだ好きだ言ってるうちにすごい好きな気分になってきただけで
  実際どこが好きなのかとか言われたらちょっと分からぬ。

ちなみに、飯能という土地については、『ヤマノススメ』以外で飯能が出てきた作品というと、
『じゃじゃ馬グルーミングUp!』で、駿平の実家が飯能だったなあ、というくらいの印象しかない。
結構な田舎なんだろうな、ということは認識している。



■往路



毎度の如く4時台に家を出、八王子から八高線に乗ってのんびりゆらゆら数時間。
東飯能についたのが7時半くらい。

Dsc01892 Dsc01901

八高線の窓から、真っ白に雪化粧をした富士山が見えてテンション上がる。

Dsc01909

ここからさらに奥へ行かれるのか、結構なアルパインスタイルの人がおおい。
壮年の方もいるけど、ほぼジイサン・バアサンの部類。
本格登山スタイルの人たちは、ここからどの辺へ向けてアクセスなさるんでしょうな。奥秩父と呼ばれる方面ですかね。



■東飯能~飯能駅



東飯能から飯能まではすぐなので歩いて移動。
方向感覚もほとんどないまま、大体あっちの方だろう、人も歩いていくし、みたいな感じでちょう適当。
ちゃんと着いたけど。

Dsc01913


  ちなみにこの東飯能の駅前の風景も、最終話でしっかり出ていたね。

駅に観光案内所があったんで覗いてみる。

飯能市のサイトには『ヤマノススメ』巡礼マップもあったんだけど
ここには置いてないみたい。品切れだろうか。
なので、普通の案内マップを眺めてみると、ははあなるほど、
アニメの最初の方で登ってた、天覧山ってすぐ近くにあるんだな( ← 今気付くことか)。
中盤でも登ってたし、そこから続きで登ってた多峯主山(とおのすやま)へも行けそうだ。



  よし、じゃ予定変更。そっちいこ(あっさり)。



そうしてマップを物色してる背後に流れる観光VTRで、
ときどき聞こえてくる『ヤマノススメ』のBGMやらキャラボイスやら。
衝動的に振り返ってしまいそうになるのをこらえるのが難しかった。
だめだ、振り向いたらやられる!

ハイキング程度の山ということだし、そう警戒したものでもないだろうけど、
一応山頂でのご褒美用にあんぱんと、水分だけは買って行く。
あんぱんは飯能駅の中にあったパン屋さんで買いました。
7時からやっててくれて助かる。



■飯能駅~天覧山登山口(能仁寺)



天覧山の登山口のある、能仁寺まではごくごく普通に町の中。
入間川が近くを流れていて、起伏が結構ある。
川があると、そこで町が分断されたり、起伏が感じられたりして風景の面白味が増す。
これと言って変わった道を歩いたりしたわけではないけど、
大きな道を逸れるとすぐちょっとした森の中に入ったり、道が変な曲がり方してたり、
中心地からそう離れていない大きな道の脇に、ででーんと大きなお寺が構えていたり。
ものすごく特殊というわけではないけれども、
川が横たわっていることが独特の気配を生んでいる。良い。

まあ町なんて、どこも「独特」なんだけど。
あまり整理され過ぎない、山と川が近くにドン・ドンとあるせいで
人の都合だけで整理しきれていない感じがあり、かつそれでもまだゆとりのある感じで良い。
風景が、上下方向よりも横方向に広がってるのが良いです。

  自分の感覚があってるか分からないけど、ちょっと「宗教くさい」町だった気がする。
  寺がデカイ。

そんな中をとことこ歩いていくと、右手にコンビニ、左手にお寺の庭みたいな公園のある十字路に出る。
そこが能仁寺の入り口、天覧山の登山口。

Dsc01934 Dsc01937


  まだ行ってはいないのだけど、多分、
  あおいが落っこちて高所恐怖症のきっかけになったというジャングルジムは
  このすぐ手前の中央公園あたりにあるのではないだろうか。

あとで家に帰り、『ヤマノススメ』2期の12話を見て気が付いたんだけども、
ここのコンビニはそのまま出ていた。
……なんか変わったコンビニだった。
店内には『ヤマノススメ』コーナーがあって、巡礼ノートなんかも置いてあった……だけど、
なんか、全体的にどんよりしてた……。
時間帯が悪かったのかなんなのか、
店が変に散らかっていて、そのくせ品物が少なく、薄暗かった……。
うーむ……なんか……こういうの見ると、凹むぜ。



■天覧山~多峯主山(とおのすやま)



気を取り直して(そこまでへこんだのか)天覧山ハイキング開始。
……と、その前に、入り口にある公園をチラ見。池が凍っておる……。寒かったもんなあ。
それを見て、奥の方の池ではょぅじょがキャイキャイと戯れています。
いつくしむ目。やあお巡りさん、僕です! 逃げて!

Dsc01941 Dsc01948


サテょぅじょもおびやかしたことだし、ハイキング再開!
山頂!(早

だって……なんもねえぜ? すぐです。少なくとも中段まではあっという間。
しかしその割に、山らしさはすごく残している。

Dsc01957 Dsc01971 Dsc01977


木々は鬱蒼としてるし、足元は、積もった落ち葉と土の感触が柔らかい、
かと思ったら突然現れる石に足の裏を抉られる感触が有ったりして、
ちんまいのにしっかり山している。
ユルいハイキングスタイルでも登ること自体は全然可能だけど、
個人的にはちゃんとした登山靴を履いた方がいいと思った。
登山靴の何が良いって、足の裏とつま先を守ってくれるトコがいい。

山の地面の何が恐ろしいって(ガチの岩山・冬山は別として)、
突然足の裏やつま先に襲い掛かる尖った物・固いものの感触が結構なストレスなわけです。
この山は高さこそ優しいものの、そういうモンスターはきちんと飼ってるので
ケガしたくなければ、足元だけはちゃんとした方がいいと思った。
あと手袋ね。

  2度目の天覧山であおいちゃんがサンダルみたいなんで登りに来てるの見て、
  よくつま先イワさなかったな、と若干びびった。
  さすがにあそこまで無防備だとつま先血だらけになりそうなもんだが。

そんなわけで、山らしさを残しつつ手軽に登れるとして、
確かにこの天覧山はビギナー向けにはすごくいいと思う。
日常の延長すぎて、「なんだ、こんなもんか。これならわざわざ山なんか登るほどでも」
なんて退屈で興味を失わせるでもなく、さりとてガチ過ぎて
「こ、これで初心者向け! これ以上なんて無理だ!」
などと、ドン引きさせるわけでもない。
いやあ、あおいちゃんの初登山先にここを選んだひなた、なかなかやるなあ。
策士だなあ。

自分が登ったのは、あおいが富士山登頂敗退後に、ひとりで散歩に来た時のコース。
石仏とか眺める、ちょっとだけハードな方のコースね。
マそのことにも、この飯能行から家に帰って、チラッとアニメを見直してみて初めて
「あ、俺と同じコースだw」って気付いたんだけど。
ホント、巡礼らしい下調べ何にもなしだ。

サテ山頂(ぽてちん)。

Dsc01998 Dsc02006 Dsc02000


ちょっとした展望台があるだけで、あっさりしたもんだ。
アニメで描かれてたまんま。
あおいとひなたが腰かけてた場所も、ホントただのコンクリ打ちっぱなし。
こ、ここにあおいとヒナタのケツが触れたのか……!

  頬ずりしようかと思いましたけどここなちゃんのおケツじゃなかったのでやめといた。

朝の電車で見えた、雪化粧の富士山もしっかり見える。天気に恵まれたなー。
では一休みしたら、次は引き続き、多峯主山(とおのすやま)を目指しましょう。

Dsc02014


この天覧山~多峯主山コースがまた良いのは、プチ縦走気分が味わえることだね。
山の頂から頂へ、下界へ降りることなく尾根筋をたどって歩くわけですが、
これがまた気分いい。マ実際は一回そこそこ下るんだけど。

  あー、また高尾山行きたくなってきた。陣馬山まで。今度いこう。
  やばいなー、山。楽しくなってきた。

多峯主山の山頂へ向かう途中で気が付いた。
……ハンケチもってねえ。
タオルどころかハンケチすらw 完全に山を舐めてる。いや、油断油断。危ない。
いったん下って、見返り坂を上ってしまえば、あとはなんてことはない。

天覧山よりは、いくぶん眺めがいいかな、って程度。
けどやっぱり、日常の風景ではないよね。ああ、山に来たんだなって感じはある。
マ高尾山とそんなに違うかって言われたら、そんなに違わないんだけど。

Dsc02024 Dsc02035
 
 
 
……といったところで、ちょっと長くなってきたので一回分けよう。  
 
 
 
 
 
 

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2014年12月20日 (土)

■SS『のんのんびより』 あやとりのソラ、夏海のストーン・ヘンジ(4) -更新第961回-

 


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    ☆    ☆    ☆
 
 
 
 家に着く頃にはあたりはすっかりたそがれて、玄関の前に立つ
とすり硝子から漏れてくる黄色い光が、ちょっと尾を引くくらい
だった。カラカラパシンと戸を引くと、奥からはテレビの声が聞
こえてくる。ただいまを言ったんだけど反応がない。テレビに夢
中の姉ちゃんには聞こえなかったらしい。再放送のドラマがそん
なに面白いかね。
「ただいまってば」
「あれ? お帰り……早かった……ね?」
 うちの顔と壁の時計を見比べながら、姉ちゃんは複雑な顔をす
る。分かる。一本あとのバスで帰って来たにしては微妙に早いと
思ってるんだろう。バスの時間を把握してたら、その顔になるの
は分かる。
「歩いてきたの?」
「んーにゃ。カズっちゃんに乗っけてもらった」
「そうなんだ。良かったね」
 テレビに映っていたのは、昨日も姉ちゃんが見てたドラマの再
放送だった。今日うちがバスに乗りはぐる原因を作ったやつだ。
話はたぶん先週分だろうけど。おのれ。お前のせいでうちは、ニ
ューヨークスタイルのバーベキュー串にありつけてしまったぞ。
ありがとうございます。
「みんなは?」
 取り残されたうちをどう思ったか気になって聞いてみたけど、
もうテレビの世界に帰った姉ちゃんは、んー? とうちの話なん
かには興味なさそうだ。
「別に、普通だったよ。ほたるがちょっと心配してたかな」
「そっか。れんちょんは」
「何にも」
 さすがだな。
「なんだよ、みんなもっと心配してくれてもいいんじゃないの?
 道に迷って、遭難して飢え死にしてるんじゃないか、とかさ」
「そんなわけないじゃん。大体アンタ、食べられる草とか虫とか、
いっぱい知ってるし」
 姉ちゃんにまでそんな風に言われ、軽トラの荷台で言われたこ
とが、あながちこのみちゃんの個人的な感想でないらしい事実が
じわりともたれ掛かってくる。やっぱうちは、このすり鉢の底み
たいな世界ではそういうキャラなんだろうか。ていうか虫は食べ
ねえよ。ちょっとだけだよ。
 テレビの光と声が少しトーンダウンしたと思ったら、短いニュ
ースと天気予報が挟まった。五分くらいのローカルニュースだけ
ど、それだってうちらの村からは随分遠い、まちの話ばかりお知
らせしてる。
「あした、また雨だね」
 姉ちゃんが残念そうに言うけど、それは相当間抜けな一言だっ
たと思う。確かに天気予報はそう言ってるけど。
「だね。でも、そんなもん……」
 制服のベストを脱いで、うちは人差し指を立ててみせる。どこ
を指したわけでもない、それは別に天井を指してるわけじゃなく
て、今うちらのいる空気に指を突き刺した、そんな意味だ。
「この声聴きゃあ一発で分かるでしょ」
 家の外から響いてくる、ものすごい数のカエルの大合唱だ。う
ちらの周りの空気はいま、すごい勢いでゲコゲコ揺れてた。ゲー
ッ、ゲーッ、ゲーッ、ゲーッ。ゲーコ、ゲーコ、ゲーコ、ゲーコ。
カエルの合唱っていうのはなにか柔らかいでこぼこしたもので外
から家をこすられてるみたいに感じる。家の中にいるとは思えな
いくらい、空気が丸々カエルの声で緑色になってるみたいだった。
「まあね」
 しばらく耳を済ませた後、姉ちゃんは苦笑いした。耳をすませ
なくたって聴こえないわけじゃないけど、やかましすぎて、とい
うか当たり前すぎて、ゲコゲコ成分は意識からとんでるから、一
度それを引き戻さないとカエルが鳴いてることを忘れちゃうんだ
な。うちのただいまが聞こえなかったのも、これのせいもあるの
かも知れん。
 帰ってくるまでの道みちも、カエルの鳴き声はそりゃもうすご
かった。ゲコゲコゲコゲコあんまりうるさくて、車の前が見えな
くなるくらいだったんだから。

 あのあとカズっちゃんは、駄菓子屋の駄菓子屋に……ややこし
いな、つまり加賀山楓さん宅に荷物をおろしに寄って、うちのこ
とも家の近くまで送ってくれた。
 駄菓子屋で「さっきの肉に含まれてる」と押し切られて荷下ろ
しの手伝いまでやらされ、やれやれと車に戻ろうとしたら、なぜ
だかこのみちゃんは車に乗ろうとせず、やっぱりにこにこしたま
まうちらに手を振っていた。
「乗らんの?」
「あたしは、洗い物とかその他もろもろまでひっくるめてバイト
代だから。帰りは、楓ちゃんに送ってもらうからへーき」
「そーなんだ」
 その辺は駄菓子屋とカズっちゃんの間でも話のついてることみ
たいで、このみはあたしがバイクで帰しますんで、と話すのが聞
こえた。結構な重労働バイトだなあ。一体どんなバイト代なんだ
ろう?
 とにもかくにも、駄菓子屋とこのみちゃんに見送られ、晴れて
うちは助手席を奪還することが出来た。駄菓子屋が勝手に下げた
シートがもどかしかったけど、レバーを探すのも面倒くさい。
 そうして走り出すと、シートの位置のせいか、それとも立って
動いて座った拍子にポケットの塩梅が変わったせいなのか、さっ
きの石が太ももにちくちく擦れて仕方がないから手のひらでころ
ころやっていた。
「なんだそれ」
「それって、これ? なんだろうね」
 ひょいと視線を投げてきたカズっちゃんの目は、細すぎてどこ
を見てるか読みとれない。けど多分、うちの手のひらを見てたに
違いなかった。いい加減いきさつを説明するのも億劫で返事もそ
んな風になるけれど、おざなりにしたつもりもなかった。さてさ
て、この石ころをどうしたものか。
「どれ、見せてみ」
「前見てよ」
 想定外の食いつきの良さで片手を差し出してくるから、ベタと
は言え、さすがの夏海ちゃんでもそこは突っ込まざるを得ません
よお姉さん。そうしたらカズっちゃんは「そかそか」といつもの
調子で、わざわざ車を、さして広くもない農道の、あぜ道に半分
突っ込むみたいにしてまで車を停めた。
 そうして、
「ほい」
とドヤ顔(推定)で、年齢よりちょっと年を感じさせる手のひら
を差し出してくるから、そこまでされたら鑑定をお願いするしか
ない。ああ、うん、と曖昧に答えて、石をぽとりと、薄い結婚線
の上に落とした。
 お日様は山際でずいぶんねばってたみたいだけど、車はヘッド
ライト点灯の時間帯にきていた。山ももう緑じゃなく、黒い影の
塊になってる。灯した車内灯に、カズっちゃんが石を透かして眇
め、うちは窓の外を、まぶしい赤のラインにふち取られた黒い山
塊を眺めてた。この瞬間、山はちょっとだけ日蝕の時の太陽みた
いだなって思うことがある。いつだったか、れんちょんはあやと
りで宇宙を作ったことがあったなあ。このみちゃんの言うことを
真に受けるわけじゃないけど、あれを二人で確かめに行くのも面
白いのかも知れんね。
 カエルの声に気付き始めたのはこの辺からだったと思う。この
ときはまだ、静かな中に近くの水路からケロケロ、ころころと聞
こえてきてただけだったから、ああ鳴いてんなーくらいにしか思
っていなかった。
「こ、これは!」
 突然、カズっちゃんが緊迫した声をあげる。
「な、何か分かった!?」
 一応乗っかっておこう。多分小ボケだろうけど
「石だねえ」
「ですよネ」
「ジュンイチと名付けよう」
「却下です」
 がんばった方だ。
 カズっちゃんは仕上げにもうひと睨みして、ほぁーんむ、と分
かったんだか分からないんだか分からない声を上げ、ほいよ、と
特にコメントもなく石をうちに返して寄越すと、車の発進操作の
準備を始めた。これは、分からなかったんだな。ひとつ分かった
ことがあるとすれば、君んちの妹さんのアレなネーミングセンス
が、半分はお前のせいだということだ。
 軽トラが、きゅきゅきゅ、ぶぉん、と馬だってもう少し静かに
発進するよってくらい余分な空気を吐き出してうなりを上げる。
「なんだった?」
「さあてねー」
「はあ」
 何か分かると期待したわけじゃなかったけど、車まで停めてこ
れだけノーリアクションだとさすがに少し、残念なわけでも、腹
が立つわけでもないけど、胸のあたりでぎゅっとなっていた気持
ちを持て余す。自分でもびっくりするくらい乱暴にシートに背中
を預けたうちの頭を、カズっちゃんがポンポンと撫でたのはその
ときだった。
 日の落ちた農道を、車は慎重に走り始めた。カエルの声は、あ
っちの水路から、こちらの溜め池から、はじめはそれぞれソロで
聞こえていたくらいだったんだけど、その声が二匹ずつなり、さ
らに数匹重なり、三分も走る頃には全方位から重なり合って響い
てくるゲコゲコいう声で前が見えなくなるほどだった。家の中と
は桁が違う。
「うはー、うるせえー」
「こりゃまた雨だね。夕焼けもあんなだったし、間違いないかな。
明日、朝晴れててもかさ持ってきなよ」
「あいよー。姉ちゃんの鞄に入れとこ」
「君という奴は……」
 明日と言わず、今すぐ降り始めたって不思議はないし、これだ
けのゲコゲコサウンドに晒されていたら、もう豪雨の中にいるみ
たい錯覚してくる。ほたるんが村に越して来たての頃、雨の夜、
やっぱり今日みたいな大合唱を家で聞いたらしくて「こんなにも
のすごい合唱、聞いたことなかったです。押しつぶされそうでち
ょっぴり怖かったです」って、次の日の学校でそれは嬉しそうに
びっくりしてた。ほたるんは割となんでも嬉しそうに話すからい
いよね。うちがもっとうんと小さかった頃、こんなに大きなカエ
ルの声だったらきっと町まで届くに違いないって思っていたこと
もあったんだけどそんなことは全然なくて、どこまで聞こえるか
とわくわくしながら山まで登ってみたらすぐ聞こえなくなってが
っかりしたっけ。そのあと雨が降り始めて、ずぶ濡れになって随
分怒られた。あのときも兄ちゃんが探しに来てくれたんだったか
な。あのときも思った。この村には全部がある。だからうちらは、
あのお日様が西の山の影に消えてしまったら、もう布団にもぐっ
ちゃって良いんだと思う--。
「一穂お姉さんの、耳より情報のコ~ナ~」
「お、なんすかなんすかお姉さん」
 あしたの雨のことを考えてちょっとぼんやりしていたら、とな
りでなんか始まった。
「だいたいの種類のカエルは、海水に浸かると死んでしまいます」
「げ、そうなの?」
「らしいよ」
 いつもの教室のリズムのまま、うちは言葉を失う。姉ちゃんや
れんちょんがいれば、ここですかさず突っ込みか合いの手が入る
のだけど、うち一人でそれは賄えない。仕方なしに、車内には大
きな気泡みたいな、井戸に投げ込んだ石がチャポンと音を立てる
までの間みたいな間が生まれた。
「耳より情報の~、コ~~ナ~~で~し~た~」
「それのどこが耳寄りなんですかね、お姉さん」
 うちの突っ込みに怯むこともなく、田舎の女教師は満足げなド
ヤ顔を崩さない。姿勢を正面に戻したうちが気になってるのはそ
んなことじゃない。カエルどもの雨を待望する鳴き声は勢いを増
すばかり。うっすら残った日の光とヘッドライトに照らし出され
るのは、ほとんど逃げ場のない、農道という名の生活道路だ。
「カエル、踏んじゃわないかな……」
「うっ」
 ばふんっ、と軽トラのエンジンが変な音を立てて車体に大きめ
の衝撃が走った。うちの言葉で、カズっちゃんが変なアクセルの
踏み方をしちゃったんだろう。こころもちスピードが緩んだけど、
ゆっくり走ったところでカエル諸氏が首尾良くよけてくれるとも
思えないし、踏まれたカエルが軽傷で済むわけでもない。
「きみ、いやなことを言わんでくれるかね」
「ごめん」
 カズっちゃんの訴えも尤もだ。うちは素直に謝って、ぐっとお
尻の穴に覚悟を込めた。だってもうこんなもん、どんな犠牲を払
っても、うちらには進むよりほかに道がないんだもの。
「南無三」
 カズっちゃんはとろとろ運転のまま、ハンドルにかぶりつくみ
たいにしてカエルのステレオ大合唱のトンネルをくぐり抜けてい
く。アマガエル一匹踏んだくらいじゃ、さすがに軽トラの足裏の
感覚は伝わらない。踏んでいないことを祈って、あとは知らない
振りを決め込むだけだ。うわー、あした、ここ通るのやだなー。
もし何か見つけてもれんちょんには知らない振りしよう、うちら
がやったと知れたらどんな目で見られるか分かったもんじゃない。
せめて何か違うことを考えよう。カエル、カエル。海、海。海か。
「海、今年は行けるかな」
「そだねえ。ほたるんもいることだし」
 海に行けるか、行かれずに夏を終えるかは、その年の前半戦を
占う大きな分水嶺だと、そうでもないと他に大きなイベントがな
いからうちは勝手に思ってる。ラジオ体操、お墓参り、みんなで
やる小さな花火に、神社の小さなお祭り。ほたるんの知ってる海
はまた、うちらの知ってるのとは違うんだろうか? 海くらいは
世界に一つなのかも知れない、うちらの海とほたるんの海が同じ
だったらいいのにと、少し思う。うちらよりも全然色々知ってる
くせに、何でもないことですごく嬉しそうに笑う、不思議なほた
るん。寺のじーちゃんとこにスイカを持って一緒にお使いに行か
されたときも、初めて使った井戸の水に、冷たいです、おいしい
です! ってやたら感激してたっけ。こっちが見とれちゃうくら
いだったよ。ほたるんの海を見たら、うちらも帰りたくなくなっ
たりするんだろうな、きっと。

 雨がそんなに心配なのか、姉ちゃんは縁側に出て、庭の向こう
の、生け垣の向こうの、道路の向こうの田んぼの向こうの、一本
桧の丘の西のお隣さんの家の道路の畑の、そのまた向こうの、山
の上の空を見ていた。カエルの声がより一層、古い家の湿った木
でも大きくなって反響した。そうすると雨の気配が部屋にまで忍
んできて、うちと姉ちゃんを包み込んでいくのがうっすら見えた。
姉ちゃんも、何か思いだそうとしてるのかも知れない。
 テレビを消すついでにチャンネルを一回りさせてみたら、なん
だか昨日見そびれたのと同じような、モアイとかピラミッドとか、
地上絵、そんなのの近くで漫才師が漫才をやる番組の宣伝がぴた
りと目に付いて手を止めた。
「それ、昨日の再放送?」
「んー、なんかちがう番組みたい。こういうの流行ってんのかな」
「今日は夏海、好きなの見て良いよ」
 雨戸を閉めながら姉ちゃんは珍しくそんなことを言ってくれる。
ストーンヘンジだっけ、いつ、誰が、何のために作ったのかわか
らない石を無造作に並べたような変な遺跡、そこには宇宙から不
思議な力が集まるとかで、それの力で漫才の面白さを引き上げよ
うって言う番組らしい。うちはもうそれだけでおかしくなって、
声を立てて笑ってしまった。大人ってときどき、子供よりバカな
こと考えつく。
「それ、そんなにウケるとこ?」
「あはははは。ああ、うん、まあ、気が向いたら見るよ。でも姉
ちゃん、見たいのあったら見て良いよ」
「そう?」
 姉ちゃんはうちの笑いのツボが分からなくて呆れ気味だ。笑い
すぎて、姉ちゃんの歪んだ眉毛を涙で滲ませながら、うちは何と
なく、あやとりのとり紐一本で宇宙を再現して見せたときのれん
ちょんのドヤ顔を思い出していた。



    ☆    ☆    ☆



 一日おいて、うちはれんちょんと二人で、駄菓子屋のバーベキ
ューセットを片づけた河原に来てた。例の石をお土産だって言っ
てれんちょんに上げたら思いの外テンションが上がってしまって、
引っ込みがつかなくなっちゃったんだ。
「ほられんちょん、またあったよ」
「おおー! やっぱりなっつんは石見っけの天才なん!」
「……どいつもこいつも」
 人を、使いでのない技のデパートみたいに言いやがって。もし
かして、こういうのを器用貧乏っていうのかな。うちは見つけた
石をれんちょんにやさしく投げ渡して、またちょっと、河原を歩
いてみた。
 昨日はカエルの予報が的中して一日雨だった。それを受けて川
の流れは今日もやっぱりちょっとだけ速い。その前のときみたい
な鉄砲水が出るほどではなかったけれど、外で遊ぶことは出来な
くて、うちらは一日、教室に閉じこめられてた。
 その休み時間、窓から校庭の水たまりを不思議そうに眺めたれ
んちょんが机に戻って例の図鑑を開くのを見て、うちは石のこと
を思い出した。
「そうだ、れんちょんにお土産があったんだった」
「おみやげ? なんなん? なっつん、いつの間に海外旅行行っ
たんな?」
 いや、海外なんて言ってねえよ。国内だよ。てか村内だよ。
「へえ、夏海先輩どこ行かれたんですか?」
「か、海外!?」
 やっぱりほたるんは冷静で、行ったことがあるのか話が具体的
だ。まあ間違ってるんだけど。一番ヤバいのは姉ちゃんだな。な
んで驚いてるんだ。ずっと家に一緒にいただろ。
 あの石は、確かあのあと、手頃な紙っぺらがスカートのポケッ
トから出てきたからそれで包んで鞄にしまい直した筈だった。あ
の紙はなんだったっけ? かーちゃんがお使いの時に寄越すくら
いの丁度いい大きさで助かったんだけど。
 などと、要らないことを考えながら探していたら、覚えていた
とおりの紙に包まれた姿で、石は鞄の底から出てきた。
「ほい」
 包みごと手渡すと、受け取ったれんちょんはもじもじと身をく
ねらせ、上目遣いでうちを見る。なんだ気持ち悪い。
「どしたん」
「あ、開けても、いいのん……?」
「そういう小芝居いいから。どこでおぼえんの」
 誰が教えるか知らないけど駄菓子屋に殺されるぞ。
 包みっていっても、おまんじゅうみたいに紙で覆って、四隅を
合わせてぞんざいにねじってあるだけだ。重さと感触で中身だっ
て大体分かる。もちろん、それが触りなれた石だったらっていう
条件付きだけど。
 がさがさと乱暴に解かれた包みからは、例の石ころがころりと
転がり出る。ごく当たり前に。
「こ、これは……!」
「石、ですか?」
「だねえ」
 年長二人の反応は大体想像の通りだったのだけど、思っていた
よりれんちょんのリアクションが大きい。石を、開いた例の図鑑
の上に置いたまま、眩しそうに、わなわなと身を震わせている。
なんだなんだ、またおかしな小芝居を身につけたな。
「これは……なんか、スペシャルな石なんな! うちには分かる
のん!」
「おお、さすがれんちょん。分かってくれるか!」
「何か特別な石なんですか?」
「んーにゃ、別に。ただ、この辺じゃちょっと見ない石だなって。
アレじゃないかな、こないだの大雨で、山の方から流れてきたん
じゃないのかなって」
 姉ちゃんとほたる、あと遠くの方にいた兄ちゃんは、あー、う
んうん、と普通にそれとなく納得してくれたのだけど、れんちょ
んだけは反応が違った。目を……否、全身をなんだかきらきらと
漲らせて、言葉に詰まっているみたいだった。正直、これは予想
外だ。最悪、れんちょんにも大したリアクションをもらえずにひ
としきり道化を演じることになるかもなーと、そんな風に考えて
いたくらいだった。それをどうしたことか、触ることさえままな
らないという真剣な面もちで石を見つめてて、むしろその期待以
上の反応を持て余す。
「……う」
「う?」
「宇宙なん……?」
「はい?」
「宇宙から落ちてきた石なんな!? 流れ星なん!」
 一瞬、教室の空気が固まった……けど、うちにはすぐ合点が行
った。あれだ、こないだの流星群。幾筋も幾筋も、ほんの数分の
間だったけど絶え間なく光の尾を引いて、ちょうどれんちょんの
図鑑に載ってた星空の連続写真を、ぱっと夜空に開け放ったみた
いな時間がうちらにあった。そのおしまいに訪れた、山のすぐ向
こうに落ちたみたいな一際まぶしいひと雫。れんちょんの、あや
とりよろしく、一本の糸を様々に繋ぎ替えるいろんな余地を残し
た真新しいのうみそは、どこから来たか分からない一風変わった
この見知らぬ石を、あれの関係者だと思ったらしかった。
「そうなんな!? 流れ星なんな!!? 流れ星なーん!!」
「ちょ、ちょっとれんげ」
「れんちゃん、落ち着こう? ね?」
 机をつかんで大興奮、がたがたと揺すっていたかと思ったら、
今度はイスの上に立ち上がって謎のポーズを決めるれんちょんに
二人はちょっと慌ててるけど、灯台みたいになってるれんちょん
を見上げて、うちはケタケタケタと笑ってしまった。さすが、う
ちの相棒はひと味違う。一足飛びに成層圏も突破して、ケチな垣
根なんかどこかへやってしまった。
「あっはっはっは! なるほどなるほど! そうかもね!」
 外は、しとしとと雨。流れ星のかけらを河原へもっと見っけに
行くん! と意気込むれんちょんも、カズっちゃん先生の「危な
いから今日はだめ。明日にしな」という鶴の一声でおとなしくな
らざるを得なかった。いやはや、びっくりだ。
 ところで、ほどいた石の包み紙をれんちょんが投げ捨てたのを
見た兄ちゃんが拾ってくれてたんだけど、なんかショック受けて
たみたいだったな。どうかしたんかな?

 そんなことが昨日あって、ようやく今日、こうやって河原にや
って来た。例の石は、川縁まで寄れば結構簡単に見つかった。水
が冷たくて流れがちょっと速いからあんまりれんちょんを水に近
づけさせて上げられないけど、それでも幾つかは自力で見つける
ことも出来て、すっかりご満悦だ。この調子でいくと、このみち
ゃんの言うがままで癪だけど、次の日曜あたりには山登りになる
気がする。
 ちょっと雨がふるだけで、見たこともないものがこんなに流れ
込んでくるんだな。カエルの大合唱の力も案外侮れないと思った
けど、別にカエルが雨を呼んでるわけじゃないんだよね。なんか
そんな風に見えるけどさ。
「おっと」
 薄べったいゴム靴のそこに変な感触があると思ったら、やっぱ
りまたあの石だった。あの日はもう日が傾いていて気付かなかっ
たけど、こうして明るいお日様の下で見るとこの石は、ギラッと
いうかつるっというか、つんつん尖ったフォルムの縁に妖しい光
を滑らせる。光の角度や強さで色や太さが変わる。もしれんちょ
んの言うことが本当で、これが宇宙から流れ星に乗ってきたのだ
ったら、この光もなにかのメッセージなのかも知れないね。匂い
も、ちょっと変わってるかな。味は……怖いから、さすがに舐め
ないけど。
 その石を手に、うちはなんとなく西の山を見上げた。まだ日は
高い。まだまだ日は高い。まだうちらの時間だ。
「なっつん、また見っけたんなー? これで十個目なーん!」
「だーめー! これはうちの分ー!」
 遠く背中から呼びかけるれんちょんに言って、うちは目一杯、
ちょっと無理なくらいに腰を落として腕を振り、出来る限りのサ
イドスローで石を、川面に向けてほうった。
「おおおっ」
 れんちょんの驚く声が上がったから、きっとそれなりに良い形
で投げられたんだろう。けど、結果は散々。投げる時に体を沈め
すぎたみたいで、石はするする流れる固い水面に弾かれるように
大きく大きく、大きく跳ねて、段数をあまり稼げないまま向こう
岸まで渡り切ってしまった。
「あちゃー」
「いまいちなん……投げ方だけはプロみたいだったん」
「うっさいな、見てろ! 今度はこっちの石で……」
 悔しくなってしまって、うちはもう次の石を探す。握り慣れた、
いつもの丸くて平たいのを探す。
 ぴん、ぴん、ぴん、と、宇宙の不思議なエネルギーでうちらの
川をたった三歩で渡りきったあの石も、カチン、と独特の澄んだ
音を立てて向こう岸で他の石と混じったら、もうどこに行ったか
分からない。あの石の混じった河原は、タイヤで踏んだらどんな
風に鳴るのかな? また今度、知らない誰かがここでバーベキュ
ーをやることがあって、車に乗せて来てもらうことがあったら。
ちょっとだけ気をつけて聞いてみようかねえ。
 
 
 
                    (おしまい)  
 
 
 
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2014年12月19日 (金)

■SS『のんのんびより』 あやとりのソラ、夏海のストーン・ヘンジ(3) -更新第960回-

 

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    ☆    ☆    ☆
 
 
 
 通学路を逸れ、カズっちゃんは車を土手の上を走る川沿いの道
に入れた。どこ行くんだ? この先には車が河原へ降りるための
道があって、川遊びとかキャンプとか、バーベキューなんかも出
来る遊び場がある。五分と走らずそこが見えてくると、見覚えの
ある直立した背中が一つと、その脇に座り込んだ影が見えた。そ
のすこし尖った背中が、ゼンマイみたいな車のエンジン音に気付
いてこちらを振り返る。腰まで伸びた、手入れなんかどこへやら
っていう長い金髪は駄菓子屋だ。隣で丸まってる黒髪はこのみち
ゃんかな。駄菓子屋っていうのはカズっちゃん先生の後輩で、そ
の名の通りもう働いてる。駄菓子屋というか、村のなんでも屋さ
んみたいなことをしてるけど、よく成り立ってるなーと思う。こ
のみちゃんは、うちのお隣さん。高三だ。
「先輩、遅いじゃないっすか。どこ行ってたんです?」
 スロープから河原におりた軽トラのタイヤが、まだ石をゴロゴ
ロ踏んで止まらないうちから、駄菓子屋は開口一番、運転席に向
かって待ちくたびれたっぽい調子で言う。どうでもいいけど、う
ちは自動車のタイヤが河原の石を踏む音が好きだ。
「悪い悪い、ちょっとねー」
「どうせ忘れてたんでしょう」
「なにをばかなことをいうんだね君は」
 駄菓子屋は何もかもお見通しだ。それはそうだ、学校からまっ
すぐここへ向かったら、車はうちらが来たのとは反対方向から近
付いてくる筈だもんな。駄菓子屋が背中を向けて立ってたのはそ
のせいで、うちらが行き過ぎて回り道したのはバレバレだ。
「ちーっす」
 助手席から降り立ったうちを見て、駄菓子屋はあからさまにあ
りがたくなさそうな顔をする。
「なんでお前がいるんだ。またなんか悪さしたのか」
「なにをばかなことをいうんだね君は」
「先輩、こいつぶっ飛ばしていいですか」
「ちょ」
 カズっちゃんに許可を求める駄菓子屋のトーンが本気だから、
うちは身構えて距離をとる。その瞬間カズっちゃんは、我が意を
得たりと言わんばかりにこう言った。
「うん、つまりだね、夏海を指導してたら遅くなっちゃって。つ
いでに乗っけてきた」
「んなっ!?」
 言うに事欠いてカズっちゃんは! なんか難しい顔をしてると
思ったら、遅れた上手い言い訳を考えてたのか。……車の中でし
た話を百歩譲って相談事だとするんだったら、まるっきり間違っ
ちゃいない、とは思うけど。
 駄菓子屋がちらりとこちらを見る。ああハイハイ、もう面倒だ。
今さら一つや二つ、駄菓子屋相手に傷が増えたってどうってこと
ない。自然とため息が漏れた。
「……もういいよ、それで」
「分かってるよ。お前も大変だな」
 うちが色んな物を丸飲みにしたのを察して、駄菓子屋はすれ違
いざまにうちの頭をぽんぽん撫でた。さすが、よっぽど長くカズ
っちゃんと付き合ってるだけある。
 そのやりとりがおかしかったのか、このみちゃんがいつものよ
うに、あはは、あははとお日様に吸い込まれるみたいな声で脳天
気に笑った。カズっちゃんと駄菓子屋が、本題とは関係のなさそ
うなとなり近所の話をし出していたから、うちはその笑い声の方
に引き寄せられていった。
「笑いごっちゃないよ」
「やほー夏海ー。災難だねー」
「やほー。まあね。何してんの」
「うん、バイト半分」
 河原にはバーベキューの残り香が仄かに漂ってて、他には釣り
竿やら網やら川遊びの残骸と、紙皿にコップ、ペットボトルや瓶
なんかのゴミをまとめた袋が目についた。なにごとだ? 晩ご飯
も近いこの時間帯、この焼けたお肉とタレの匂いは体に毒だな。
まさかこの二人でこれだけの飲み食いをやらかしたわけでもない
だろう、聞こえてくるカズっちゃんと駄菓子屋の立ち話とこのみ
ちゃんの話をまとめると、町の方から遊びに来た人たちにバーベ
キューセットとか川遊びの諸々を駄菓子屋がお世話して一儲けし
たって話みたいだった。なるへそ。
「ふーん。色々やるんだな」
「たくましいよね」
 このみちゃんの感想もわかるけど、そんなことでも稼ぎになる
んだ、っていうのがうちの正直な感想。隣町の高校を出て、それ
からあとは村に戻って実家の仕事を継ぐというコースも、うちら
の周りを見る限り最近は減ってはいるみたいだけど、ちょっと上
の年齢の人たちを見てるとそう珍しいもんじゃないっぽい。けど
それは、家が山や田んぼを持ってるとかそういう規模の仕事があ
る家の話で、大概は大学にも行って、町の会社に就職するってい
うのがお定まりパターン。駄菓子屋の、実家の商売をそのまま継
ぐっていうのはあんまり見ないケースなんじゃないかと思う。な
んで駄菓子屋がそんなダイナミックな決断を下していまここにい
るのか……そんなこと、正面から訊いたってまともな答えは帰っ
て来ないだろう。けど、なんとなくの答えは想像がついてる。駄
菓子屋はきっと、れんちょんがお嫁に行くまでここから離れない、
離れられない気持ちでいるだけだ。駄菓子屋はれんちょん大好き
だからな。なにか勝手に、将来にまで責任を背負ってる雰囲気さ
えある。お前はれんちょんのなんだ。乳母か。もしかしたらそれ
とは別に、先代の駄菓子屋のばあちゃんとなにか約束でも取り交
わしているのかもしれないけど、その手の話を突っ込んで聞いて
もあまり愉快な結末が待ってるもんじゃないから下手に突っ込ま
ないに限る。
「で、カズっちゃんはその後始末を頼まれて、今日は軽トラ出勤
だったってわけか」
 そうして色々事情がわかり始めると、散らかったゴミがぱちぱ
ちと繋がっていくパズルのピースみたいに見えてくる。
「そーゆーことだ。おら、せっかく来たんだから手伝っていけ。
そこらのゴミ、荷台に積んでくれよ」
 話の終わった駄菓子屋が、手に持った大振りのタッパーでどす
んとうちの後頭部を小突いてくる。なにすんだ。バカになったら
どうすんの。
「やだよ、なんでうちが」
 こんなことでも手伝っておくと、あとあと村の寄り合いで請け
負う仕事がちょっと楽になったり、おかずが一品増えたりする。
このみちゃんの言う「バイト半分」だって、お駄賃に毛が生えた
程度か、聴き古したCDをもらうとかそんな程度のことだと思う。
まあたとえそうだと分かってても、そんなボランティア、うちは
お断りだ。遊び半分で報酬ありのこのみちゃんが目の前にいるの
に、うちだけただ働きなんて納得いかない。
「そう言うと思った。ホレ」
 駄菓子屋が、いまうちを小突いたタッパーをパカッと開けた途
端、周囲のいい匂いが強まった。出てきたのは一本、まだ湯気を
たててる串。それはさながらアーサー王の宝剣のごとき、気高き
オーラを放っている! おおう、ピーマン・肉・シイタケ・エリ
ンギ・肉・タマネギ・肉・ホタテ!
「こ、これは……! 近代バーベキューの父、トーマス・マッコ
イ提唱のニューヨークスタイル、黄金配列! 駄菓子屋、どこで
これを!?」
「お前はマンガの読みすぎだ。これやるから働け」
「……食べ残し? アーサー王の?」
「はあ? なに言ってる。さっき片づける前に、余った材料ちょ
っと焼いたんだよ。どうせ帰ったらすぐ晩メシだからな」
「美味しかったよー」
 ここでもまた、へらっと笑うこのみちゃん。おのれ。目の前に、
あたかもうちの魂をプライドごと貫くべく突き付けられたフェン
シングの切っ先のようなバーベキュー串と、辺りに散乱する浮か
れた遊びの残骸を、うちは何度か見比べた。
「どうした、いらないのか? 食いたくないのか。その、なんだ、
グレコローマンスタイルなんだろ」
 ピーマン、肉、シイタケ、エリンギ、肉、タマネギ、肉、ホタ
テ。最後の以外はきっと、全部この村で種から育ったものばっか
りだろう。タレなんか要らない、ふわふわと漂う草いきれみたい
な匂いに、完全この村メイドのうちの胃袋は逆らえない……。
「分かったよっ」
 乱暴に、駄菓子屋の手から串を奪い取ると、先端のピーマンと
肉をいっぺんに口に入れる。ああもう! 川を眺めながら食べる
バーベキューは、なんでこんなにおいしいんだ!
「このみちゃん、ご飯ない!?」
「さすがにそれはないよー」
「おまえ、やっぱり馬鹿だな。しっかり働けよ」



    ☆    ☆    ☆



「それにしてもさ」
「うん」
 川の水は滔々と音をたててる。今日の音は、うちが知ってるよ
りもちょっとだけ忙しない感じだった。っていうのも、先一昨日、
結構まとまった量の雨が降ったからだ。もっと上流の山の方では、
規模こそ小さいけど鉄砲水も出たらしくって、大人たちの間がほ
んの一瞬騒がしかった。
 空き缶やら紙皿やら、詰め込まれたゴミ袋の隣には釣竿が何本
かと、水遊び、川遊びの道具もまとめて置いてあったけど、川が
こんなじゃ水が冷たくって遊べたもんじゃなかったろうし、魚だ
って釣れたかどうか。うちの感じだと、雨上がりでこのくらいの
流れになると、魚の動きが鈍るんだよね。
「ああ。連中、ほとんどバーベキューだけやって帰ったよ。おか
げでこっちが用意した肉やら野菜やらが余らなくて助かった」
「やっぱね」
 駄菓子屋が、うちの言いたいことを先回りする。まあ普段川遊
びなんかしない人たちにはそんな川の事情なんて分からなくて当
然だ。東京に出て行ったひか姉が帰ってきた最初の休み、「目の
前で電車が出そうになったから慌てて飛び乗ろうとしたんだけど
駅員に止められて! そしたら次が二秒で来た!」ってやたら嬉
しそうに話してたけど、うちらにそんなのが分かりゃしないのと
同じだ。ちょっと喩は違うけど。けどそこ、喜ぶとこか? あと
二秒はさすがにウソだろ。
 川の水は、濁りはなくなってたけどやっぱり普段より速く見え
た。うちは口の中のホタテをまだ咀嚼しながら、適当な大きさの
石を見つけて、サイドスローで水面めがけて投げつけた。石は、
ピッ、ピッ、ピッと水面を蹴り、最後の方は水の上を転がるみた
いになりながら流れに吸い込まれていった。跳ねた段数、合わせ
て八つ。
「いえーい、こころぴょんぴょんっ!」
 自己ベストの十一段には及ばないけどまずまずだ。このみちゃ
んもぱちぱちと小さな拍手をくれた。水切りをやるには水面は穏
やかな方が良いっていう人が多いけど、うちはちょっとくらい流
れが速いときの方がいいと思ってる。なんかこう、弾いてくれそ
うじゃん?
 もう一投いこうと次の石を拾い上げたとき、なんだろ、掌にち
ょっと馴染みのない感じが残った。なにかおかしなものを拾った
かと思ったけどそれは確かに石で、ただ表面のざらつき加減とか、
角の掌に刺さる感じとか、大きさと重さの釣りあいとかが、うち
が今までこの河原で拾ったどの石とも感じが違った。一風変わっ
た石だった。
「おーい、食ったんだったら働いてくれー」
「あいよ、分かったよー」
 そこで駄菓子屋に呼ばれた。食べちゃったもんは仕方ない。

 荷物はもうあらかた分けてまとめられてたから、荷台に上げる
のは大した苦労じゃなかった。ニューヨークスタイルのバーベキ
ュー串一本だったら十分お釣りがくる。「このみちゃんの代は男
手が少ないから、力仕事が大変だ」って、村のお年寄りから言わ
れることがあるけど、そんなに違うものかな?
 お年寄りたちはよく、近い年齢でひとくくりに誰々の代、って
いう言い方をする。うちらと年の近い中で一番の年長がこのみち
ゃんだから、お年寄りから見たらうちらは大体「このみちゃんの
代」になるんだけど、人によってはカズっちゃんや駄菓子屋まで
うちらと同じ代にくくる人もいたりしてまちまちで、どっちにし
ても男はうちの兄ちゃんだけなんだけど、そんなに力仕事に威力
を発揮するタイプでもない。力だけならほたるんの方が強いんじ
ゃないかな。そんな「誰々の代」っていう括られ方が不思議に思
えて、いったい何でそんな風に言うのか聞いてみたこともあった
けど、言う方は言う方でどうしてそんなことに疑問を持つのかが
分からないらしく、なんだか喧嘩になりかけたから諦めた。
 積み込みが終わるとカズっちゃんは再び運転席に陣取り、それ
じゃあうちも、と思ったら、駄菓子屋のやつがちゃっかり助手席
のドアを開けようとしてるから、うちはその安っぽいスタジャン
の背中をつまんで止めた。
「ん、なんだ?」
「なんだじゃないよ。そこはうちの席」
「じゃあ、あたしはどこに乗るんだ」
 うちが何も言わず、親指で背中の荷台を差したら、駄菓子屋は
当たり前のように眉を吊り上げた。
「はあ? なんであたしが!」
「あんたの商売道具でしょうが!」
「お前なあ。お友だちを見ろ、文句も言わず、荷台に乗ってるだ
ろ」
「お友だち?」
「やほー夏海ー。結構楽しいよー?」
 見ると荷台には、なにがそんなに楽しいんだって……うちでも
不思議になるくらい、にこにこ顔のこのみちゃんが体育座りで手
を振っている。
「見ての通り、荷物はバイト頭に任せてる。友達だろ、付き合っ
てやれよ」
 もうこの話は終わったとばかり、固まってしまったうちを無視
して駄菓子屋は助手席に乗り込んだ。もうひと噛みくらい噛みつ
いてやっても良かったんだけど、段ボールやらゴミ袋やらの隣で
嬉しそうにしているこのみちゃんを見ていたら、それも面倒にな
ってしまった。荷台が面白いのも本当だろうし、
「しょうがないな」
どうせ一度はバスにも見放された身だ。うちは後輪に足をかけて、
鉄錆びのざらつく荷台の壁をよっこらしょとまたいだのだった。
いま後ろに誰かいたら、パンツまる見えだったかな。

 車が走り出すと荷台にしっかり座ってるのは思いの外大変で、
最初は前へ転げそうになったり、ブレーキの勢いで頭をぶつけた
りしたけど、背中の方からやってきて前の方へ流れていく風景は
いつもと同じいなか道なのにちょっと新鮮だった。お尻にゴトゴ
ト感じる起伏も初めて走る道みたいで、うちはついうっかり「お
もしれー」と声を上げてしまった。目線が普段より高いせいもあ
るかな。景色が遠くまで見える。
 このみちゃんは、やっぱりただにこにこしながら、まっすぐに
前を……この場合、車から見たら後ろだけど……前を見つめてい
る。いっつも楽しそうなんだよな、この人。なんか、おかしな物
が見えているんじゃないだろうか。
「遊びに来た人たちってどんな感じだったの?」
「うんとねー、楽しそうにしてたよ? みんな働いてる人かなあ。
男の人と女の人が三人ずつ」
「そっか。よくこんなとこまで遊びに来るよね」
「楓ちゃんの、同級生のお友だちなんだって」
「ああ、町に出て行った? なるほど」
 楓ちゃん……ああ、駄菓子屋か。また忘れてた。それを聞いて
合点がいった。やっぱりここへ来るのは、なにかのついでの通り
がかりか、でなければ村の誰かの知り合いの知り合い、そんなも
んだ。こと遊びに関しては、この村で出来ることはよそでだって
いくらでも出来る。川遊びにしたってこの村ならではものがある
わけじゃないから、ここでないとならない理由なんかどこにもな
い。最近はドラマとかアニメで舞台になった場所へ行くのが流行
ってたりするってテレビで言ってたから、そんな場所でもあれば
別だけど聞いたことない。ここにあるものなんか、どこにだって
あるんだ。まあここにいるうちらにはそれで全部だから、そんな
ん関係ないんだけどね。
「そだ。ねえ、さっき河原でなに拾ってたの?」
 突然このみちゃんが、一段高くした声で言う。河原で? うち
が?
「とぼけちゃって。はい、出して出して」
「うわっ?」
 言うが早いか、このみちゃんはうちのスカートのポケットに手
を突っ込んできた。しかもそれが、このみちゃんとは反対側のポ
ケットだったもんだから(目聡いことにこのみちゃんはそんなと
ころまでしっかり覚えてた)、投げ出したうちの膝の上に覆いか
ぶさるみたいにして、無理やりだ。何するにしてもホント強引だ
な。
 そうまでしてうちのポケットから探り当てた獲物に、このみち
ゃんは不思議顔だった。そりゃそうだ。出てきたのがただの石こ
ろだったんだもん。
「なんで、石?」
「んー……さあ」
 うちにだって分からない。多分、さっき水切りの最中に呼びつ
けられて、持ってた石ころをうっかりポケットに入れちゃったん
だ。わざわざそうした理由はうちにだってよく分からん。咄嗟に、
っていうだけだと思う。強いて言うなら、その石のいろんな雰囲
気が、うちの知ってるあの河原の石と違ったから何となくってい
うだけだと思う。それにしたって、こないだの大雨と鉄砲水で普
段表に出ない山肌とか岩肌が削られて、上の方から押し流されて
きただけだろう。うちがれんちょんくらいだったら、キラキラし
たものとか変な形の石とか、持って帰って宝物にするってのもあ
りなんだろうけど、さすがに中一女子がそれじゃあ、色々マニア
ック過ぎるし痛すぎる。
「れんちょんにおみやげかなあ」
 本当にそうなんだ。べつにあの瞬間、河原に捨てて来てたって
全然惜しくなかったはずだし、今でもこのまま荷台に置いて帰ろ
うかなって、ちょっと思ってる。このみちゃんもピンとこないみ
たいで、ふーん、としげしげひと眺めしたら、
「お返しします」
と、くそ丁寧に差し戻してきた。デスヨネ。ここでテンション上
がられたら、うちでもちょっと引くわ。あー、ポケットに入れて
ること忘れないようにしないと、このまま洗濯に出したらまた母
ちゃんに大目玉だな。気を付けよう。
「でもさ、夏海ってそういうこと詳しいよね。いま、村で一番じ
ゃない?」
「はっはっはー。そんなはずないでしょ」
 このみちゃんがしれっと一言、心外なことを口にする。うちを
この年で村一番の物知りばあさんにしてくれる気か。
 そもそもうちが知ってることなんて、所詮誰かから聞いた話ば
っかだもん。そりゃ自分の足で稼いだ情報が無いわけじゃないけ
ど、そんなん役にも立たない与太話がほとんどで、天気の話や食
べ物の話、山や川の話なんかは全部、村の爺ちゃん婆ちゃんから
教えてもらったものだ。
 そう話したら、このみちゃんは首を傾げてちょっと唸った。
「でもそれって、バラバラの人から聞いた話でしょ? それを集
めて持ってるんだったら、やっぱり夏海がいま一番色んな事知っ
てるって思うなー。さっきの石が変わってるかどうかなんて、あ
たしは言われたってピンとこないもん」
「……どうあっても、うちを村の生き字引にしたいみたいだね」
 そりゃあそれでも構わんけどさ。ただ、けど、そんな話は全部、
この村にいてこそ役に立つようなことばっかりだ。ここじゃなき
ゃならない理由のない村の、ここでしか使えない知恵の知恵袋。
それを一体なんて呼んだらいいんだろう? でも、でもさ。
「博物でもやったらいいんじゃないかなー」
「白面の……なに?」
「……は・く・ぶ・つ・が・く。白面の者は民俗学の分野だと思
うよ」
 このみちゃんの言ってることはときどき難しくてイマイチよく
わからんかったけど、なんかそういう、石とか、草とか、そうい
うもののことを専門に扱う勉強も世の中にはあるってことらしい。
そーなんだ。みんな暇だね。
 このみちゃんは三角にたたんだ膝を大事そうに抱えた。案外し
っかりした膝してるな、とうちは思うともなく思う。
「ためしに探してみたら? あの石が、どこから転がってきたの
か。それは地質学とかかも知れないけど」
 上流まで行ったらなにか手掛かりがあるかもよ、とこのみちゃ
んが、山の方を見ながら言う。あの川を遡って行くとしたら、そ
っちじゃなくて、スカンポ寺の向こうになるんだけどね。
「まあ、気が向いたらね」
 そんなうちの流し気味の返事にも、このみちゃんは怯まない。
またもにぱっと笑顔の花を咲かせて、うん、そうしてみなよ、そ
れが良いよと、何が良いのか分からなかったけど、こんな風に笑
われたんじゃ放って置くわけにもいかない気がしてくるから恐ろ
しい。うーん、学校で彼氏とか出来てないのかな? マンガとか
だと、こんな風に笑われたら男の子って大概イチコロなんだけど。
うちのボンクラ兄貴は眼鏡で跳ね返すだろうけどさ。
 がたがた、ごとごと、このみちゃんは田舎の軽トラの荷台に座
ったまま上半身だけうーんと高く伸びをした。一仕事終えた! 
みたいに晴れやかな息を吐いて、
「じゃあ決まりだね。なんか面白いことあったら聞かせてね! 
あ、でも、あんまり危ないことしちゃダメだよ。あと、あたしに
言われて行ったとか、大人には言っちゃダメだからね」
と付け加えることを忘れない……。おねえさん……どこまで本気
なのか、ホントよく分かんないんだよなあ。
 帰りのバスを取り逃したときにはまだまだお昼の場所にいた太
陽が稜線に近付き始めていた。ぐいぐいと、お日様のフチが山を
押す音の聞こえてくる時間帯だ。あのお日様はうちだけのもので、
他の誰のものでもない。けど、村の人たちのものでも、町に住む
人たちのものでもあって、うちもそれはわかってる。毎日ってい
うのはそういう物だと思ってたから、うちがわざわざどこか違う
場所であの夕陽を眺めることはないと、ただ当たり前に思ってた
だけなんだ。ほたるんはびっくりしてたな。「夕陽が大きい!」
って。ビルの何十階だかから見る町に沈む夕陽も、こんなに大き
くはないけどとっても綺麗なんですよ! って目をキラキラさせ
てたっけ。うちはその時、つい「へぇーそうなんだ、見てみたい
ね」って言っちゃったんだけど、実はそれも、そんなに興味があ
るわけじゃなかった。丸きりウソってわけでもないんだけどね。
でもさ、キリないじゃん。ほたるんはその両方を知ってるんだけ
ど、知らずに済むならそれでもいい。そんなにたくさんのお日様
の色を、うちはきちんと心に留めて誉めて上げられる気がしない
んだよね。だってさ、昨日と今日とで、もうこんなに違うんだよ。
自分ちのお日様の色がさ。
 
 
 
    ☆    ☆    ☆
 
  
                         (続)  


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2014年12月15日 (月)

■SS『のんのんびより』 あやとりのソラ、夏海のストーン・ヘンジ(2) -更新第959回-

 
 

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    ☆    ☆    ☆
 
 
 
 かしゅきゅきゅきゅ、ぶうぉんと、軽トラックがいかにもな唸
りをあげた。そこまで張り切らなくたって、これから載せるもの
はそこまで重たくないんだよ。そう言い聞かせても古い軽トラは
手加減なんか出来ないみたいで、うぉんうぉんうぉんうぉんうぉ
んうぉん、とおもちゃみたいな軽い音で震動しながら白い排気ガ
スを噴き出し続ける。不器用だよなあ。
 軽くよじ登るみたいに高い車高の助手席に乗り込んでベルトを
締める。内装のどこも白っぽく粉を吹いてるみたいなのは、農作
業にかり出されるものの宿命みたいなもんだ。家と畑、ときどき
学校を行き来するためだけにカリカリのチューンを施されたスペ
シャルマシン……それがこいつなのだよ。実を言うと、うちも少
し運転したことがある。いたずらなんかじゃなく、ちゃんと大人
についてもらってね。

「そういえば、昨日、珍しくひかげが電話かけてきたよ」
 走り出して、まだスピードが乗り切らないくらいのところでカ
ズっちゃんがそんな話をし出した。ひか姉……ひかげっていうの
は、カズっちゃんの妹で、れんちょんのお姉さん。うちより三つ
上の高校一年で、東京の学校へ下宿して通ってる。普段向こうか
ら電話してくるなんて滅多にないはずなのに、珍しいな。カズっ
ちゃんが話さないだけかも知れないけど。
「へえ。ひか姉、なんだって?」
「なんか、おなかこわしたんだって」
「そうなんだ。……そんだけ?」
「そんだけ」
 家で、腹痛の時にどんな薬を飲んでいたか聞くために電話して
きたらしい。
「本当はそんなことどうでも良かったんだろねー」
 はっはっはー、とカズっちゃんは笑った。ひか姉はすぐ得意に
なるけど、根が小心者だから心細かったんだろう。らしいといえ
ば、らしい。そんな些細なことで凹むくらいなら、わざわざ遠く
の学校へなんか行かなきゃいいのになと、うちは正直思った。高
校だったら、ここから通えるところもいくつかはあるんだ。
「ひか姉、なんで東京の学校行ったんだっけ?」
「さあ? なんでだっけ……」
 カズっちゃんの答えはいつも明快だ。明快すぎて役に立たない。
興味ないのか。
「理由とか聞かなかったの?」
「こまちゃんといっしょだよ。前々から外に出たいって言ってた
からね。ちゃんとした理屈もなんかあったかもだけど、どのみち
高校から上はここにはないんだし」
 それは、確かにその通り。村にあるのは中学まで……って言っ
ていいのか、うちらの通う分校で無理矢理中学まで教えてるだけ
で、それより上は村の外にしかない。通うことは出来るけど、そ
れ以外の学校を望むんだったらもう、本当に村を出て行くしかな
いんだね。
「同じ出て行くならいっそ思い切り遠くに、ってのはまあ、ある
んじゃないかー?」
 カズっちゃんは、あそーれらったったー、とでたらめな鼻歌ま
じりにハンドルを切る。小石の上を選んで走ってるんじゃないか
っていうくらいに、いつも乗ってるバスと違う、軽トラの小さく
て軽い車体は些細なでこぼこでもガコガコ揺れた。
 そうだった。さっき帰り際に「引き裂かれる恋人ごっこ」なん
かを始めたのも、姉ちゃんが夕べ見たドラマをあんまり良かった
良かったと繰り返すもんだからついからかいたくなって、うちが
主人公、れんちょんがヒロインで、その場面を再現してみたのだ
った。結果、演技にも熱が入り過ぎてうちとれんちょんはバッチ
リ引き裂かれてしまったわけだけど。町へ出て行くヒロインに、
姉ちゃんはやたらと感情移入してた。
「そうなんだよなー。姉ちゃんはなー」
「こまちゃんは、出てって戻ってくるタイプだあねー」
「え、そうなの?」
 カズっちゃんはまた「はっはっはー」と笑ってごまかしたけれ
ど、全然ごまかしになってない。これは相当確信がある時の笑い
だ。顔を覗き込んでもカズっちゃんはそれ以上口を割りそうにな
い。シートベルトに逆らった姿勢をとるのも楽じゃないから、う
ちはまた、誰かのお尻と背中のかたちに合わせてへこんだシート
に無理やり背中を押しつけて、何年後かの出戻った姉ちゃんを思
い浮かべてみた──。

『東京ー? アンタ、あんなとこ行きたいの? あたしも暫くい
たことあるけど、ゴミゴミしてるだけだってー。いいことないよ
ー? あんなのに憧れてるようじゃ、まだまだお子ちゃまだねー』

「あっはっはっは! い、言いそう! 超言いそう!」
 誰にたれてる説教か分からないけど、今と大して変わらない背
丈で言いながら縁側で干し柿をしばる姉ちゃんのビジョンは見て
きたみたいにリアルだった。あんまり可笑しくて、うちはもう堪
え切れずに笑ってしまった。
「何を一人で笑っているんだね君は……」
「いやいやいや……あっはっは、ゴメンゴメン。でもそうだね、
ほんとそうだわ。なんだろね。なんでそこまで外行きたいんだろ」
「夏海は、出て行きたくない派か?」
「そういうわけでもないけどさー……あーおかしい」
 まだお腹がひきつって、涙をがこぼれた。帰って姉ちゃんの顔
見たら吹き出しそうだ。
 空はほんのりオレンジだけど、まだ全然明るい。うちの村は西
側に一番高い山があるから、日が隠れるのは早い方なのだけど、
この時期はまだまだ外で遊んでいられる。太陽は山の頂点からも
離れたところにあるけど、なんだか少し大きく見えた。
「進路ってさ、もうこんな時期に決めにゃならんの?」
「ん?」
 カズっちゃんはまっすぐ進行方向をにらんだまま、ちょっとの
間無言で、うーん、となんだかよく分からない呻き声を漏らす…
…なんだなんだ、ここ、悩むところか?
「夏海。これは秘密なんだが」
「お? お、おう」
 誰にも言わないと約束出来る……? そう念を押され、うちは
息をのみながらでも頷かざるを得なかった。なんだろう、進路指
導って、教育委員会とかでそんなに厳重に決められてることなん
だろうか。カズっちゃんはたっぷりと貯めを作り、ゆっくりと口
を開いた。
「正直、どういうタイミングから始めるモンだったか忘れたから、
兄ちゃんにはこないだてきとーに渡したんだ、進路票」
「おい!」
 人んちの長男、なにカンで指導してくれてんだよ!
 カズっちゃんは、でへへへへとだらしなく頭をかきながらこっ
ちを見る。前、前! ……と叫ぼうかと思ったけど、まっすぐな
田舎道の先にはベコ一頭見あたらなかったからもう突っ込まなか
った。
「いやいやいや、大丈夫だよお。去年もやってるし、こないだチ
ラッと聞いたら、変わってないみたいなこと言ってたし」
 カズっちゃんはヘラヘラ取り繕うけど、大丈夫だろうか? ま
あ兄ちゃんは頭いいから何とでもなるかも知れないけど、うちや
姉ちゃんなんか、油断してると取り返しつかなくなったりしない
かな。……まあ、そのときはそのときで、いいようにするしかな
いけどさ。こっちだって、無きゃ無いでどうにかなるくらいのも
のでしかないんだ。少なくとも、うちに限っては。高校だって入
れなかったら入れなかったで、この村で暮らす分にはきっと大し
た不自由はない。
 けどまあ、いい加減にやられたんじゃたまったもんじゃない。
うちの疑念は晴れない。
「ほんとに大丈夫かなあ。れんちょんからも言ってくれるように
お願いしておこう。『真面目にやれ』って」
「うひー。それは堪忍してもらえませんかね」
「だめです。厳しく叱ってもらいます」
 うちが仰々しくふんぞり返って、カズっちゃんがうなだれる。
一呼吸おいてカズっちゃんが吹き出したから、うちもつられては
っはっはーと声を上げて笑ってしまった。
 ひとしきり冗談をやったらちょっと安心したんだけど、あの紙
っぺら……いつも母ちゃんから渡される買い物のメモくらいの、
兄ちゃんの進路票を見つけたときに思った「またか」っていう気
持ちが、胸に詰まった。
 姉ちゃんはもう、きっといくらか調べたり考えたりし始めてる
のだろうけど、うちにはまだ全然何も知らないから、あれに書か
れてたことが何を示すのか、正直さっぱりピンとこなかった。
何になる気なのかとか、そのためにどこへ行く気なのかとかは、
知ったところでうちには多分あんまり関係のない話なんだろうな、
ということだけよく分かっていた。そもそも頭の出来が違うんだ
し、男だったり、女だったりってのもある。
「眼鏡の兄ちゃん、どっか行っちゃうか気になるって?」
「いや、そうじゃなくってさ」
「ちがうのかよ。気にしてやれよ」
 うちが急に、……柄にもなく、と思ったんだろう、そんなこと
を言い出したもんだから、カズっちゃんも気を回したのかも知れ
ないけど、慣れないことはするもんじゃないね。そんなこと、う
ちはどうでも良くってさ。どうでも良くはないけど、仕方のない
ことだってわかっているつもりだ。
「あ、スカンポだ」
「おお、きみは本当に興味がないんだね」
 助手席の窓にひじを突いた、うちの視線の先にはスカンポなん
かなかったけど、遠くに見えたお寺の屋根の、逆光でほとんどシ
ルエットしか見えない黒いかたまりが、ちょっと前にれんちょん
と二人であの近くを歩いていて見つけた茂みを思い出させてそん
な風に口走らせてた。それ以来二人ではその茂みのことをスカン
ポ茂みって呼んでいた。お寺のそばだからお墓もすぐ近くで、多
分れんちょん一人ではあそこに近付くのはまだちょっと怖いだろ
う。深い緑と、いつでも雨の後みたいな焦げ茶色の木の幹と土と
森の影、あそこの墓地はうちでも時々怖い。知ってる人も入って
るし、うちは直接知らなくても、今はそこに眠っているうちの知
ってた人達のまた知り合い達が入ってるのかと思うと、あそこの
空気は妙にリアルに感じるんだ。そこに詰め込まれた時間を思う
と、それこそ、町に憧れる隙間なんか、うちの心にはないなって
思えてくる。そりゃあ、たまに遊びに行きたいとは思うけどね。
「姉ちゃんはさあ、いーっつもテレビ見ながらさ、町に行きたい
町に行きたい、ここには何もないっていうんだけど、そんなこと
ないよねえ?」
「えあー?」
「ちょ、カズっちゃん起きてる!?」
 その返事があんまりとろけ気味だからうちは怖くなった。けど、
別に寝てたわけではなかったようだ。当たり前だけど。……当た
り前なんだけど、ときどきその当たり前が通用しないから、この
人怖いんだよなあ。
「起きてるよ。あんだって?」
「ここにはなんにもないって話。そんなこと、ないよねえ。全部
あるじゃん」
「全部?」
「そ、全部。町と一緒だよ。……寺のじーちゃん、もう結構トシ
だよねえ」
「じーちゃん? ああ、ご住職? そうね、九十近いはずだね」
「じーちゃん死んじゃったらさあ、そのあとお葬式とかどうすん
の? うちのかーちゃんとか、うちらとか……あ、それ以前にじ
ーちゃん自身の葬式とか! お坊さんも死んだらお葬式やるんだ
よね?」
「本職がやらんでどうするんだ……。そんときゃ息子さんが帰っ
てくるか、隣かそのまた隣の村の寺か、どっかから人が来るでし
ょ。お寺の世界もいろいろ決めごとがあるらしいよ。つながりと
かナワバリとかさ」
「そっか。そうなんだ」
 車がカーブを過ぎてお寺を里山の影へ追いやると、今度は白く
て四角い診療所の建物が、ちょっとだけ道に近いところへ見えて
くる。町から若い先生が来たときは噂になったもんだけど、病気
さえしなけりゃ用なしだし、ここ数年は騒ぎになるほど誰かが大
きな病気をしたなんて噂もとんと聞かない。食えてんのかな?
 そのずっと遠く、山のほんとに裾にある家からは白い煙が上が
っていた。あの辺りになると、ガスは一応通っていても未だに薪
でお風呂を焚いてる家が残ってるから多分その煙だろう。不便そ
うだけど、そういう家には井戸があったりして、それはちょっと
いいなあって思うことはある。まああったって、普段は水道で済
ませちゃうんだろうけどね。けど、かっこいいじゃん? 井戸。
「全部かあ……」
「ちがうかな?」
「全部……全部って、なによ」
「わかんないけど……」
「わかんないんだ。ははは」
 カズっちゃんは笑った。笑われるとは思った。けど、それはあ
たしの本音、うちなりの感触だったから、まあ仕方ないかなくら
いにしか思わない。けど、カズっちゃんは短く笑っただけで、
「そだね」
と、受け止めてくれた。全く同じ考えではないのは分かってるか
ら、それで十分だった。けど、じゃあなんで笑ったんだよ、くそ
う。
 ここには全部ある。ここにある全部が、全部ある。ここにない
ものは、そりゃないんだけどさ。それじゃあダメだって理由が、
うちにはまだ見つからないだけなのかも知れない。
 お日様と山が落とす影が、目の前の一本きりの農道に落ちてい
る。うちらの乗った軽トラは、ただ黙ってその影の中に入ってい
った。
「おっと」
 陰がじわっと一段階濃くなったのと、遠くの十字路の横道から
コープの車が曲がってきて、ボンネットにはねた光が白く景色を
横切ったのが大体同時だった。その光に、間にいた自転車にまた
がった駐在さんがあぶり出され、カズっちゃんは小刻みにハンド
ルを切って、あぜ道の分だけ申し訳程度に広くなった農道の路肩
に車の片足だけを乗せる格好で寄せ、駐在さんの自転車とコープ
の車を、ども、どもーとやり過ごした。駐在さんは、うちが敬礼
して見せたらピッと敬礼を返してくれてノリがいい。まあ向こう
も退屈してるんだろうね。事件があるわけじゃないけれど、面倒
ごとがあるとかり出されてる。お巡りさんっていうよりも、大岡
裁き兼何でも屋みたいなことが大体だ。
 診療所の若先生も今の駐在さんも外から来た人だけど、なんだ
かんだでうちらにはもう、村の中だか外だかって見分けはつかな
いくらい、ここの人になってるなあと思う。
「おんなじだと思うんだよね。ここも町もさ」
「夏海くん、そりゃあいくらなんでも」
「なんて言うのかなー」
 シートに背中を大きく預けたら、一瞬目の中がぼんやりして、
天井全部がはっきりと目に入ったみたいになった。
「おんなじって言うか、あー、そういう毎日もあるよねーって、
そんな感じ。そんなん当たり前じゃん、って思ってたんだよ。う
ちがうちなんだから、そりゃよそはよそであるでしょ、みたいな。
うちんちと、カズっちゃんちだってもう全然違うじゃん」
「そうかい?」
「そうだよ」
「そーかな」
「そーだよ。カズっちゃんちでは、トマトの味噌汁やんないじゃ
ん?」
「あれはないわ」
 起きる時間も、歯を磨くタイミングも、お風呂の入り方も、れ
んちょんを家に呼んだり遊びに行ったりする度に、階段をひとつ
踏み外したみたいにドキッとする。まだほたるんの家へお泊まり
したことはないけど、きっとうちも姉ちゃんもれんちょんも、ど
きどきして寝付けないくらいに違うんじゃないだろうか。ひか姉
が居るとやかましそうだから居ないときを狙ってやろう。兄ちゃ
んは当然留守番。
 けど、そうやってれんちょんの家に泊まって、ちがうご飯、ち
がうお風呂、ちがう布団で眠っても、次の日うちは遅刻もしたし、
宿題もやんなかった。みんなと遊んで、家に帰ったらいつもと同
じ順番でトイレに入ってたし、うちだけじゃない、れんちょんは
うちと同じように大きくなって、今年からは一緒に一緒の学校だ。
見た感じ、使ってるドリルも変わってない。……それがいいのか
どうかは分からないけど。うちと姉ちゃんとれんちょん、それに
ほたるんカズっちゃんに駄菓子屋、きっと若先生も駐在さんも、
住職も。細かいところは色々ちがうけど、食べる寝る、大きくな
る、そんな大筋に違いがあるとは思えない。
「だからなんていうか……同じだなあって。選んだりするもんで
もないなってさ」
「だっはっはっはっはー。そりゃまた、スケールのデカい話だね」
「そーかな……おかしい?」
「おかしかないよ。合ってるよ。ふつーではないけどね」
 カズっちゃんは、とことこと走る軽トラのハンドルをどこかぼ
んやりと握って、バス道とそうでない旧道の分岐で、軽くふっふ
っと左右にリズムをとったあと、ほいさっという掛け声とともに、
旧道の方へ車を向けた。多分、どっちへ進むか考えたんだろう。
この道って歩いててもちょっと考えるんだよね。距離も大して変
わらない、眺めと道幅が違うくらいで、しばらく歩けばまた同じ
通りに合流するからどっちへ行っても変わらず家には帰れるし町
にだって行ける。バス道の方は、ただバスを安全に通すためだけ
に新しく敷かれたんだったと思う。
「ふつーはさ、一回よそへ行ってみて、ようやくそういうのが分
かったりするんだよ」
「ふーん……けどさあ、それもなんか違くない? なんつーかこ
ー、七転八倒というか、粉末弁当っていうか」
「……本末転倒、と言おうとしているね?」
「似たようなもんじゃん」
「大づかみすぎる……。粉末弁当とは……」
 うちの話がよっぽどセンセーショナルだったのか、カズっちゃ
んはハンドルにかじり付いて悩み始めてしまった。よそ見や居眠
りされるよりはましだけど、考えすぎて運転がお留守になられて
も困るな。ちょっとほぐしとくか。
「まあ、何が言いたいかっていうとさ、あんなんでもうちの嫡男
だから、少しは真面目に付き合ってやってよ」
「あいよ。わかってるよお。てか、嫡男の意味分かってる?」
 カズっちゃんの返事がちょっと畏まっていたのは、まださっき
の寸劇の余韻が残っていたからなのか、うちの母ちゃんの顔でも
思い出したのか……それとも、もっと他にまだ、なんか理由があ
んのかはわかんなかった。突っ込みは無視する。
「夏海も、どっか外に出ることがあったら、ついでにれんげも連
れてってやっとくれよー」
「れんちょん? ああ、いいよ。おっけーい」
 カズっちゃんの持ち出した交換条件は奇妙なものだったけど、
そんなの悩むまでもない。れんちょんはうちの大事な相棒だ。う
ちからお願いして借りて行きたいくらいだ。うちがそんなになる
頃、れんちょんがどんな風に大きくなってるかはやっぱりわから
ないけど、お互いどんな曲がり角に差し掛かったときも、曲がる
方向は違っても、きっと似たような曲がり方を選ぶんだろうから
何も困ることはないだろうなって思った。
「随分簡単にオッケイを出すね……。不安になってきた」
「え、なんで? れんちょんでしょ? 問題ないよ。あ、でも」
 リュック一つ背中に背負って村を出ようとするうちらの姿を思
い描いたとき、その後ろを泣きながら恐ろしい形相で迫ってくる
一つの人影がよぎった。長い金髪に、ツンツンつり目のニクイ奴。
「そんなことしたら、駄菓子屋が泣くね」
 駄菓子屋ってのはカズっちゃんの後輩で……名前わすれた。と
にかく、村で駄菓子屋という名の何でも屋をやってる、うちらよ
り随分年上のお姉さんだ。れんちょんがまだ赤ん坊だった頃、カ
ズっちゃんが家を出てたこともあってその代りじゃないけどわり
と頻繁に面倒を見てた。そのせいか、よくなついてる。間違えな
いで欲しいんだけど、駄菓子屋がれんちょんになついてるんだ。
れんちょんが、じゃないぞ。
「楓? ああ、泣かせとけ泣かせとけ。あいつはぼちぼち子離れ
しないとだ」
「わはは。んじゃ、万事解決だね」
 そうだそうだ、駄菓子屋の名前は楓だった。加賀山楓。あのヤ
ンキーくずれにはかわいすぎる名前だと思うけど、案外あのキン
キンに染めた金髪は、楓の木の紅葉を意識してるのかも知れない
な。
「そうそう。だいたい楓は……あ」
 その時、何かを思い出したようなカズっちゃんが急ブレーキを
踏んだ。そうしてまるで、嘘か誠かレーサーだったという二代前
の村長でも乗り移ったみたいに、ハンドル、アクセル、サイドブ
レーキをずばずばっと操ると、軽トラの貧弱なタイヤが傾いでも
のすごい砂煙を巻き上げる。強い遠心力がうちのか弱い体を襲っ
て、窓の柱にしこたま頭をぶつけた、痛い! そうして、あり得
ない勢いで百八十度向きを変えた車は間を置かずに加速して、元
来た道を猛烈な勢いで走り出した。
「か、カズっちゃん! 痛い! 危ない! 逃げちゃダメだ! 
誰か轢いたんだったら、現場に戻ってちゃんと駐在さん呼んで……」
「ちがう、忘れ物。ちょっと急いで戻るよ!」
「忘れ物!?」
「思い出したよ、すべて……! どうして今日、軽トラで学校へ
きたのかも……!」
「どこ行くの、ちょっとカズっちゃん! でもちょっと厨二っぽ
い! かっこいい!」
 
 
 
    ☆    ☆    ☆
 
 
 
                       (続)  


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2014年12月14日 (日)

■SS『のんのんびより』 あやとりのソラ、夏海のストーン・ヘンジ(1) -更新第958回-

 

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 学校からの帰り道、調子に乗ってふざけていたら、うちだけバ

スに乗りはぐれてしまった。

 次のバスまで二時間ちょい。うちの足だったら、それだけあれ
ば家まで十分歩いて着けたけど、バスを待って帰るのとどっちが
先に着くか微妙なセンだったから待つことにした。夕暮れの校舎
で、うちみたいな美少女が一人で黄昏てるってのも絵になるじゃ
ん?
 かといって、一人では学校のどこへ行くあてもない。ぶらぶら
いつもの教室に帰って、なにか暇をつぶせる物がないか物色した
結果、じゃじゃーん。れんちょんのロッカーに寝かせてあった、
大きな図鑑を拝借することにしました。
 星や宇宙について書いてあるその図鑑は、子ども向けだからか、
やたらでかくて分厚い。とても立ったままじゃ読んでいられなか
ったんで、手近にあった兄ちゃんの机のイスを蹴っ飛ばし、腰を
下ろして開いた中身はさすがにうちには簡単すぎてちょっと退屈
だった。けど、そうかそうか。そういえばれんちょんは、一昨日
の晩、運良くみんなで見られたナントカ流星群にいたく感激して
たっけ。多分これはその余波で、星についてもっと見てみたくな
ってどこかから探してきたんだろう。れんちょんはそういうとこ、
勉強熱心だよね。感心、感心。今朝になったらもう流れ星のこと
なんかきれいサッパリ忘れて、ゆんべのドラマのことしか頭にな
かった姉ちゃんとはえらい違いだよ。……まあ、そのドラマの真
似ごとしてて、バスに乗りはぐったうちが言うことじゃないんだ
けどさ。それには一つ言い訳があって、そもそもうちは、ホント
はその裏でやってたピラミッドとかモアイとかにプロレス技をか
ける番組の方が見たかったんだよね。ジャンケンに負けちゃあ、
まあ仕方がない。
 けど、一昨日の流星群は本当にすごかったんだ。うちらの家の
周りはど田舎中のど田舎で、普段でも星はよく見える方だけど、
あんなにいくつもいくつも、間をおかずに星が尾を引いて消えて
いくのはさすがに見たことなくて飽きなかった。その最後、ひと
きわ大きな明るい粒が山のすぐ向こうへ落っこちるみたいに流れ
たときは、まるで花火みたいだってみんなから歓声が上がった。
天気にも恵まれた。その分その次の日、つまり昨日はバカみたい
な大雨で一日つぶれちゃったんだけど。
 さて、そんなどデカい図鑑もあっという間に読み終えてしまっ
ててきとーにロッカーに返したら、もう本格的にすることがない。
なにかないかと勢いで兄ちゃんの机を漁ってみたところ、なんか
色々出てきた。どーして学校の机から、ニッパーやらガラムマサ
ラやら出てくるんだろう? こんなの、どこで買ったんだ?
 するとそのさらに奥から、さして大事なものでもないみたいに、
ヒラッと滑り出た紙が一枚。お使いのときにかーちゃんに渡され
るメモくらいのそれには、名前を書く欄と三つの枠が印刷されて
て、確かに兄ちゃんの字で書き込まれてた。さてさて、これは一
体何でしょう? 名探偵夏海ちゃんの暇つぶしの時間だよ。
「あれ……。ほーい夏海ー、まだ残ってたのか? 閉ーめーるぞ
ー」
 みしみしと湿った廊下から足音が近付いてきたかと思ったら、
顔を出したのは案の定カズっちゃん先生だった。そりゃそうだ。
うちらが帰ってしまったら、ここには他にはヒト、おらんよね。
違う人だったら怖いよ。時計を見たら、いつの間にか小一時間が
過ぎてしまっていたのさ。
「ああ、カズっちゃん。ん、わかった」
 あれでも急かしてるつもりなのかなあ。いつもののんびり調子
でカズっちゃんが言うから、うちも引きずり出した兄ちゃんの
机の中身を適当に押し込み戻してぶらっと立ち上がる。戸締まり
なんてしなくても誰も入って来やしないし、取る物なんか何もな
いから放っといたっていいんだろうけど、さすがに学校はそうは
いかないんだろうか。カズっちゃんは教室の窓をほっそい目で確
かめながら教室を一回りして、遠回りにうちのところまで巡って
きた。
「一人とは珍しいねえ。他は? ケンカでもしたかあ?」
「んーにゃ。うちだけバス乗りはぐっちゃったんだよ……。ま
さか『転校前の最終日、バスに乗って別れ別れになる恋人ごっこ
』をやってたら本当に自分だけ置いて行かれるとは……」
「何をしとるのかね君たちは……。楽しむのはいいけど、周り巻
き込むんでないよ」
「ねえ、あのバスって田舎のバスのくせに、なんでああ時間にシ
ビアなんだろうね? どーせ次なんて、毎度三時間四時間あとな
んだから、ちょっとくらい待ってくれたっていいじゃんか。あの
運転手め、顔は覚えたからな」
「ブッソウなことは先生に聞こえないとこで言いな。仕事が増え
るでしょー。向こうだって、アンタらの顔くらい覚えてるんだよ。
アンタらの都合に合わせてたらキリないってわかってんでしょー」
 カズっちゃんは色々いい加減なくせに、たまに大人みたいなま
ともなことも言う。まあ大人だから当たり前だけど。それでも、
うちの覚えてるカズっちゃんの一番昔の姿は高校に上がるか上が
らないかくらいのはずなんだけど、あまり今と変わらなかった気
がする。
 それに、とカズっちゃんは続けた。
「そんな遊びしてたんなら、引き裂かれた二人は気分も盛り上が
ってちょうど良かったんじゃないの? 運転手さんも、気ぃ利か
せたんかもよー」
「その発想はなかったな……」
 大人のくせにたまに子どもよりも子どもっぽいことも言うから、
まあバランスもとれてるんだろう。そうか、あの運転手もノリノ
リだったのか。仲間に入りたいならそう言えばいいのに。
「そんなことより、忘れ物ないかい。そういうことなら乗っけて
ったげるよー」
「え、マジで。ラッキー」
「アンタ残してひとりで帰れんでしょーが」
 黒板を拭いたり、チョークの残りを確かめたり、教壇の中を覗
いたり。意外とまめな動きをしながらカズっちゃんは、今日だけ
だかんなー、と念を押した。
「そして今日は軽トラなのだが……それ、進路票?」
 振り返ったカズっちゃんは目ざとく……といっても、カズっち
ゃんの目はいっつも寝てるみたいに細くって見たこと無いけど…
…うちが指にはさんでた、さっきの紙っぺらに気付いた。
 そ、さっきの紙は進路票。三つの枠は第一から第三までの志望
を書く欄で、兄ちゃんのそれは、第一と第三は書いてあって、な
ぜか第二が空欄だった。
「ああ、うん。兄ちゃんの机漁ってたら……拾った」
「キミね。それは拾ったと言うのだろうか」
「なんか書きかけみたいだから、持って帰って渡しとくよ」
 うちは別におかしなことを言ったつもりはなかったんだけど、
カズっちゃんが「そ。お願いね」と返事をするまで、なんだか変
に間があった。変な溜めと、いつもよりも噛んで含めるような間
延びした言い方はどこかで聞いたことがある。面白い物を見つけ
たり、なにかが上手に出来なかったれんちょんに言葉をかけると
きはこんな感じじゃなかったかな。
「てか今日、軽トラなん? なんで?」
「うん、それなんだが。……なんでだろう。なんか理由があった
ハズなんだけど……」
「おいおい」
 普段は普通の車のはずだから、今日に限って軽トラなのには何
か理由があるんだろうと思って尋ねてみたらカズっちゃんの動き
が止まってしまった。そしてどうしても理由が見当たらないらし
く、しばらく首を傾げたままだったけど、「ま、走ってりゃ思い
出すでしょ」と威勢良く、ポケットから、いつもと違うキーホル
ダーのついた鍵を取り出すと歩き出してしまった。
「帰るよ」
 大丈夫かなあ。教室を出ていくカズっちゃんについて行きなが
ら、ちょっとだけ不安になる。まあうちは、最終的に家に着きさ
えすりゃあなんでもいいんだけどさ。
 
 
 
    ☆    ☆    ☆


                       ( 続 )





                
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