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2012年8月21日 (火)

■心と雨戸とシャッターと。 -更新第801回-

アメリカンショートヘアよりも、ジャパニーズロングヘアが好きです。
オイサンです。


あれはまだ、オイサンがカメラを持ち始めて間もない頃。

  オイサンの最初のカメラは、
  オマケのものならパナソニックのD-snap SV-AS10ですが、
  ちゃんとしたカメラはRICOHのCaplioGX8です。

こいつを持って、
今でもよく歩くとなり駅までの道をテクテクと歩いておりました。
恐らく……その道を通るのも、初めてではないにせよ、
まだあまり慣れていなかった頃ではないかと思います。
職場の寮を出され、今の住居に越してきて、ようやく慣れ始めた頃のお話。

その日はよく晴れていたので、
坂の上から見るとなり駅のビル群が空によく映え、
ああでもないこうでもないと、
今ではごく当たり前にこなすことの出来るカメラの、
当時まだ扱い慣れなかったマニュアル設定を色々いじり回しては
シャッターを切っておりました。

そのとき、背後から、オイサンに声をかける影がありました。

振り返ってみれば、八十の坂は越えようかという見た目のご老人が立っていて、
写真ですか、と尋ねかけてくる。
そのとき自分がどんな風に受け答えたのか……
正確に憶えてはいませんが、ばか正直に、ええまあ、みたいなことを言ったのでしょう。

そこから会話が始まり、ご老人もオイサンと進行方向が同じだったようで、
二人してとなり町のビル群に向かって坂を下って歩き出しました。

その時の会話の内容は、正直さっぱり憶えていません。
確かご老人の、この近辺に古くから住んでいるという話に始まり、
昔と今の風景の違いのようなことを聞かされて、
オイサンはそれに相槌を打つばかりであったと思います。
今でも人と話すことがあまり得意だとは言えませんが
当時輪をかけて人とのコミュニケーションが不得意だったオイサンに
何か面白いことを出来るはずもありません。

駅より手前、しばらく行ったところにコーヒーショップがあって、
その前でご老人は言います。

「ちょっと一緒に、コーヒーでも飲みながらお話はどうですか」

……人馴れしないオイサンは、
ありていに言うとそのご老人のことを若干いぶかしんでおりましたし、
その歩く速度の遅いことにももどかしさを感じていました。
貴重な休日、
面白かったり面白くなかったり、浮沈の激しい老人の話はいつ終わるのか、
このあと一体どれくらい相手をさせられてしまうのかとそんな恐れを覚え、
ちょっと行くところがあるので、と見え透いたうそをついて、
オイサンはご老人の誘いをお断りしました。

多分、それがうそだったことや、オイサンが少し不審がっていることも
そのご老人には伝わってしまっていたと思います。
だってまあ、コミュニケーション不全の若者と、
老いたとはいえ人生の熟練者ですからね。
年季が違います。

ご老人はもう一度、念を押すようにお誘い下さいましたけれども
やっぱりオイサンはその気にはなれず、
それでは、とご老人はそのままコーヒーショップに入り、
オイサンは駅の方へと歩いて、別れ別れになりました。

ご老人が杖をついていたかは思い出せません。
ついていたような気も致します。

その後、そのご老人とは何もありません。
勿論お会いしてませんし、すれ違ってももう、オイサンは顔も覚えていません。
あちらはどうだかわかりませんが。



ただそれだけのお話。



今考えると、無駄でも怪しいでも何でも、
もう少しお話くらいはしてみれば良かったなあと思います。
おトシヨリの話し相手になってあげる、ではなくて、
何か面白い話が聞けたかもしれない、自分のために。
町なかのコーヒーショップで、いきなり取られる命でもないでしょう。

せいぜいこんな、山も谷もない小噺で終わらせるのでなく、
もっと大きなお話のタネに出来るドラマティックを、
彼の御仁の長い人生航路の中から聞き出せたかもしれない。

マそれも今となり、
あの頃よりは日常のなんでもなさの中に潜むささいな毛羽立ちやさざなみに
触れることの出来るようになった自分がいる
……と、自分では思っている……
からこそ、そうも思えるのでしょうけれども。
詮無きことでござったかな。

あれから多分、六、七年。
ご老人がオイサンの見立ての通りの御歳であったなら、
もう彼の人の身に何が訪れていてもおかしくはありません。
はてさて、どうされていることやら。

今でも時々、同じ坂の上でカメラを構えて、
また声がかからないかなーと思い出すことがあります。

その坂を下りきったところには立派な日本家屋が建っていて、
いつも前を通るたび、オイサンはそのあるじを羨ましく思います。
昔ながらの重たげな瓦屋根に巡り廊下まで設えた、
絵に描いたような日本家屋です。
かっこいい。
羨ましい。
住みたい。

近所にはその家の表札に刻まれたのと同じ苗字の家が点在し、
近くの墓地にも、同じ苗字の墓石だけが並ぶ一画があるほどで、
なるほどこの辺りの、古くからの地主か資産家の家なのだとうかがえます。

あのときのご老人はもしかして、と、
カメラをおろし、
坂を下って、
晴れた日に開かれる、鎧戸と障子戸の向こうの
広々とした和室と、めぐり廊下を横目に眇めながら思うのです。




オイサンでした。
ばきゅーん。





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 ▼MITメディアラボ石井裕副所長インタビュー [ クーリエ・ジャポン ]
  http://courrier.jp/blog/?p=9690

 ▼石井裕先生の研究室 [ ほぼ日刊イトイ新聞 ]
  http://www.1101.com/mit_ishii/



 

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