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2012年7月 5日 (木)

■勢い -更新第785回-

朝、一人の女の子と目が合った。



道幅にして六歩か七歩、
大きな神社の裏手にあたる、歩行者用の信号もないその小さな交差点を渡るとき、
私は、明るい黄色のカバーをかけたランドセルを背負い、
時代がかった学校指定のセーラー服にストローハットをかぶった姿で
対岸の歩道を歩いてくる彼女の姿に、これといった注意を払ってはいなかった。

それよりも、
自分の進行方向に一致する車両用の信号が、
最初の一歩を蹴り出す一呼吸前に青から黄色に変わったことを眦で拾い、
一瞬躊躇っていた。



けれどもそのままの勢いで、
一、二、三、四、五、六、七。



最後のつま先が対岸の歩道にかかるかというところで
光がパッと赤へと移ったのをほとんどこめかみで確認し、私は注意を前方よりに戻した。
そのときようやく、私の目は彼女をまともにとらえた。

彼女も、丁度歩道のふちまでたどり着こうとしていたところで、
時速四キロに満たない勢いをまだ手足の短い体にいくらか残したまま、
はるかに背のある私に向けて、ふっと視線を上げた。



──。



ひと二人がどうにかすれ違うことの出来る広くも無い歩道を、
たいてい五、六人で塊を作りながらめいめいが流れ星のように歩いてくる
この近所の女子高に付属するその小学校の女生徒たちは
私にとっては常からわずらわしい存在だったのだけれども、
その中に、まれにまったく群れに属さない空気をまとって歩く子がいて、
彼女はまさにその位置を持った子だった。

前の団体からも後ろのグループからもあるやなしやの距離を保った彼女の
ハットのつばの影から覗く目は三白気味のやぶにらみで、
ふてぶてしく、値踏みをするように、
或いは何か確信を得つつ敢えて問い質すように私を捉えている。

黒い瞳のふちが、ぐる、ぐると渦を巻いたような深みを持っていて、
その印象の強いあまり、彼女が眼鏡をかけていたかそうでなかったかが思い出せない。
鼻の印象は薄く、口元は、ものの由来を疑う古道具屋の親父の結び方をしていた。

私は勿論、立ち止まることはしなかった。

ただ、数歩、彼女の瞳が私から何を探ろうとしたのかが気になった。
そしてそれはすぐに見つかった。
すれ違いざまの彼女がちいさなちいさな体に残していた、
前のめりの、
背中の影がわずかに尾を引くような勢いがそれを教えていた。
躊躇ったのだ。
そして誰とも知らない、
ただその時たまたま向かいから歩いてきただけの一人の大人がそれを咎めるか、
窺ったのだ。

……私には、何の構えもなかったから、
そのとき彼女の気持ちに見合う表情を作ることが出来なかった。
ただ自分が渡った時のことを思い出し、右にも左にも車両の影がなかったことに頷いた。
私は振り返らなかった。



あの直後、彼女は道をわたっただろうか。






 

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