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2012年1月 3日 (火)

■a white day~ミューズの座布団・その三 SS『ひだまりスケッチ×☆☆☆』 -更新第742回-

◆a white day~ミューズの座布団 SS『ひだまりスケッチ×☆☆☆』
  その一 / その二 / その三 / その四 / その五 / その六 / あとがき 
 


 
     × ☆     ☆     ☆
 
 
 
 
 大急ぎで部屋を飛び出したにも関わらず、宮子の姿は部屋の外にも既
になかった。すぐ隣、彼女の部屋のドアが開き放しになっていて、そこ
から何やらゴソゴソと物を動かすこもった音が聞こえてくる。
 おじゃましますの挨拶もそこそこになずながサンダルを脱ぎ捨てて上
がりこむと、どの部屋にも備え付けになっている小さな収納スペースに
頭をつっこみ、突き出したお尻をるんるんと振っている宮子の姿があっ
た。
「ちょっと待っててねー」
 何をしているんですかとお尻に尋ねそうになり、なずなは一旦出かけ
た言葉を、口を噤んで鼻からのため息に変えた。嘆息のおつりで体に流
れ込んできた部屋の空気にはさまざまに色を感じさせる匂いがついてい
て、まぶたを閉じるとその裏にすべての匂いが渾然となって一枚の絵を
描くような気になる。中には決して快いばかりではない、上あごをヤス
リで擦られる様に錯覚させる鋭いものも混じっていたが、それもまた寿
司に乗るわさびと同じで、こころの釣り合いをとるための欠かすべから
ざるピースの一つなのだろうと自然に理解することが出来た。
 そんなの当たり前じゃないですか、と──さっき自室で、部屋の匂いが
ここだけ違うと断じられたとき、なずなは言いたかった。分かりきった
話だ。
 なずなの部屋には、他の五室には必ずあるものがない、それは画材だ
った。多種彩々、時には不要な物まで、ゆのが、ヒロが、沙英が、乃莉
が、画材屋やホームセンターで愉しげに買い込むなずなにはてんで謎の
物品の群れは、木、粘土、油、生き物の毛に紙、どれも皆独特の匂いを
持っていて、なずなにとっては一つのジャングルにも等しい。さらにそ
れらが持ち寄られ、混ぜ合わされ、ちょっとお醤油貸してと言う代わり
に取り交わされている当たり前の日常が、なずなの部屋にはないのだか
ら。もしかするとそれがない部屋というのはひだまり荘始まって以来か
も知れない。それを……今更敢えて、突きつけなくても良いではないか
と、強く反駁したかった。その時結んだ拳の力が、まだかすかに手の甲
に残っている。なずなはその手のひらと、待ッテテネー、アソーレ待ッ
テテネーと、能天気に歌う宮子のお尻をかわるがわる見つめ、もう一度
小さく拳に結んで、そのまま、胸にぐっと押し当てた。

 そうして手持ちぶさたになってようやく、なずなの目にも、部屋の様
子が落ち着いて映り始めた。
 部屋の中央を広場のように大きく使って置かれたイーゼルと、そこに
鎮座ましますカンバス。そういえば、さっきなずなの部屋で宮子は、今
描いている絵を「なかなかいい」と言っていた。あのイーゼルとカンバ
スが、今この部屋の王様なのだとひと目でわかった。
 そしてまた、床に無秩序に散らかされたように見えるたくさんの画具
が、カンバスを中心として幾重かの同心円かあるいは歪んだ渦を描いて
いることにすぐに気付く。その航跡はまるで宮子自身がイーゼルの上の
絵に辿り着くための道のりと、たくさん時間を象徴した波紋のようで、
この部屋を天井から写真に撮れば、それだけで何か一つの作品になるよ
うな気もした。美術畑の同居人たちの影響か、最近すぐにそんなことを
考えてしまう自分を、なずなは少し恥ずかしく思っている。
「本当に、朝からずっと部屋にいたんですね……」
 なずなの口から、ぽつりと本音がまろび出た。
 朝からあまりに静かだった隣室にはてっきり誰もいないものだと思い
こみ、本人の口からずっと部屋にいたと聞かされても、なずなはまだ半
信半疑でいた。けれども、この、まだどこか新鮮さ……折り取ったばか
りの生木にも似た湿りを感じさせる匂いと、足下に巨大な渦を巻いた思
いの遺構が、静謐で濃密な宮子と絵との語らいの時間を物語っていて、
あのあり得ない静けさを疑う余地はもうなかった。
「えー? あー、うん。ごめん、ちょっと待っててね」
「絵……見てても、その……い、いいですか?」
「うん! どーぞー。えへへ」
 嬉しそうな宮子の声を背に受けて、なずなはその大切な渦を壊さぬよ
う、乱さぬように、そしてうっかり飲み込まれないようにと、孤に沿っ
た大回りでカンバスに歩み寄った。そして王様然と部屋の中央に鎮座在
す絵の尊顔を、やや斜め横から覗き込むように伺った。
 静寂。
 それまでごそごそと部屋の空気をくすぐっていた、宮子が収納を掘り
進む音の止む時間が少しだけあった。
「どーかな? うへへ」
 沈黙を破った宮子の声は、こもりながらも誇らしげだった。彼女の唇
の端が、緩くほころんでいるのが声だけでわかる。感想を求められて、
なずなは慌ててカンバスの正面まで回り込んでから、もう一度きちんと
絵を見つめてみた。
 カンバスにはまだ白い空き地が結構な面積広がっていて、黒く曖昧な
輪郭線だけの箇所も半分くらい残っていて、描きかけであることは分か
る。その状態にあって、それ以上の感想を持つことは、なずなには出来
なかった。
「ええと、あの、その」
「あはははは」
 宮子は、なずなが心に汗をかくのをお尻のセンサーで感じ取って高ら
かに笑うと、無理しなくていいよーといままでと違うリズムと軌道でお
尻を揺らした。
「あ、これかな?」
 ほどなくして、収納からじりじりとバックで這い出た宮子の手には、
B4サイズほどの小さな手提げがあった。稲穂色の髪をうっすらと埃で
染めたまま、宮子はその袋の口を広げて中を確かめ、うん、と一度力強
く頷いて顔を上げた。探し物が見つかったのだろう。
「ゆのっちもさ、『よくわかんない』って言うんだよね。ヒロさんも、
沙英さんも」
 絵のことを言っているのだと気が付いたのは、なずなを見る彼女の目
と頬に、普段よりも強い力が宿っているような気がしたからだった。手
提げに気を取られて、なずなには始め、なんの話か分からなかった。
「ああ……。ゆの先輩でも……ですか?」
「うん。吉野屋先生くらいだよ、良いって言ってくれるの」
 困ったもんだよねー。なんでかなー。まあでも仕方ないよね、とその
話題をぷつんと簡単に諦めると、宮子は床に散らかった画材やらなんや
らを、ほいほいと飛び越えたり、拾い集めたりしながらなずなの隣まで
やってきた。そして描きかけのカンバスを、一度子どもに高い高いをす
るみたいに取り上げて満足そうに微笑むと、
「君は、お留守番ね」
と手近な壁に立てかけてしまい、慣れた手際でイーゼルを畳むと鼻歌混
じりに小脇に抱えた。
「そういうものですか……」
 そういえば、自分はここへ何をしにきたのだったか。なずながそう思
い始めた頃、宮子は拾い集めた画材をナップザックにざらざらと詰め込
んで、畳んだイーゼルと、その前に置いてあった小さなパイプイスも畳
んでくくりつけると、
「じゃあなずな氏は、これ持ってついて来てね」
と、先ほどの手提げ袋を、なずなに向けて突き出したのだった。


       ×     × 


「こんが……」
 そんないきさつを経て、今、なずなの手にはその楽器の収まった手提
げが下がっている。立ち止まって袋の口を広げ、浅く日焼けした革の打
面に呟きかけてしまう。
 なずなは戸惑っていた。
 宮子は「ご飯を食べに行こう」と言った。この身支度が必要な食事と
は、果たしてどんな場なのだろう? 皆目見当がつかないものの、ある
意味で畏まった席であるような気もしてくる。「路銀が尽きた」と言っ
た宮子は論外、自身の懐具合も怖くなって、なずなはぶんぶん重い手提
げ袋に引きずられるようにして、小走りに宮子に並んだ。
「あ、あの、宮子せんぱ……」
「ぼんごだよー」
「え?」
「それ。コンガじゃなくて、ボンゴなんだって。コンガはもっと大きい
んだってさ。それもお土産物で、本物じゃないんだけどね」
「ぼんご……」
 なずなの呟きを拾った宮子の回答はまたしても頓珍漢だったが、なず
なはいま一度手提げの中を覗いて、頭の中でぼんご、ぼんごと、次は間
違えないように繰り返し唱えた。
 お兄ちゃんが、外国で買って作ってくれたんだーと始まった宮子の話
は、いわく『外国』がどこなのか、買ってきたのか、それとも買ってき
た材料から拵えてくれたのか表面が曖昧だったが、彼女の兄がいかに嬉
々としてそれを妹に贈り、またその打ち方を伝授したかを、シルエット
の軌跡とともに伝える豊かさがあった。
「お上手でしたよね、宮子先輩」
「えへへ、そう? ありがとー」
 部屋でボンゴを捜し当てたあと、宮子はなずなに、試し打ちをして聞
かせてくれた。
 ちょっと見ててね、とベランダに出、宮子は自分の頭より先にボンゴ
の埃をはたいて清めると、木筒二つを繋げた形のその楽器を、両足の真
ん中に抱き込むようにしてあぐらをかいた。
 演奏は、やにわに始まった。
 ほんの少し前までは絵筆を握っていた筈の、まだ色とりどりに汚れた
ままだった宮子のゆび先は乾いた木の葉が蝶に化けたように強く反り返
ってひらひらと踊り、そこから繰り出される音符はあの単純なつくりの
楽器を奏でていることが信じられないくらいさまざまで、数多の鳥が羽
を休める熱帯の木々の魂がそこに込められている様を思わせる。
 音色も、なずなが思い描いていたのよりも、カンカン・コンコンとず
っと高く鋭く澄んでいて
、それなのにその音の表面には一つも角張った
ところがない。丁寧に面取りのされたまろやかな曲線が、耳の奥で波を
打つようだった。もっと鈍さのまさる音がするものだとばかり思ってい
たなずなは素直に驚いた。
 演奏は短いもので、宮子がどんなメロディを思い浮かべてそのリズム
を刻んでいるのかまでは分からなかった。
「宮子先輩は本当に……何でも、出来ちゃいますね」
「そんなことないよ。お父さんとお兄ちゃんに教えられて、結構練習し
ましたからなあ」
「お兄さん……。そういえば、さっきの歌も……」
「あれは、お父さん」
 出がけに宮子が口ずさんだ、あの歌のことだった。ともすれば惨めな
境遇をあっけらかんと歌う様がアンバランスで記憶に残る。うっかり乃
莉と一緒の時に、風呂で口ずさんでしまったりしないようにしなければ
と今から余計な心配をした。
「やさしいお父さんとお兄さんなんですね」
「そーでもないよー? 結構スパルタでさあ」
 意外な言葉が飛び出して、なずなは足が半歩遅れた。そうなんですか?
となずなは言葉以上に恐ろしいものを想像し、宮子はじわりと西に傾い
た日に向けて下唇を尖らせた。
「変なところで厳しいんだよね。二言目には、ひとりでもやっていける
ようにってさ」
「ひとりでも……」
 宮子の家庭に関しては、色々と不可思議なエピソードも聞いていた。
風呂に困らぬようにと、一人暮らしのお供にビニールプールを持たせた
両親の話はもはや現役にして伝説だ。やんちゃアパートの逸話の一つと
して先々と語り継がれるに違いなく、テントウムシに好かれる娘の引っ
越しを、本人不在で勝手にやってしまう程度の両親では、話の飛躍とい
う面において太刀打ち出来ない。逆に、娘の留守に荷物をすべて運び出
してしまうくらいでなければ到底かなわないだろう。そうして出来上が
るガランとした部屋、誰ひとりいなくなってしまったアパート。その中
で自分は、耳を刺す静けさにかまけることもなく、ただ一人自分の、自
分だけの信じる思いの渦の中心に向かって、全速力でゆび先を走らせる
ことが出来るだろうか。そしてたとえ筆を奪われても、いきいきとコン
ガを打つこともをやめずにおられるだろうか。ひとり。ひとりで。
「あの」
「うん?」
 遅れが半歩から一歩になり、二歩になった。宮子は、なずなとの距離
に気付きながらも、まだ足を緩めたりはしない。少し離れた後ろから見
上げるパーカーの肩はまた秋の空に触れ、境目を失おうとしていた。
「ゆの先輩は……今日はひとりの日だって、言ってましたけど……」
「へ? 何それ。ゆのっちが? 会ったの?」
「え!? だ、だってさっき、宮子先輩が、そう……」
「ああ、そういうこと。うん。多分だけどね」
 確かに、ヒロの部屋の前で。宮子がそう言ったのをなずなは聞いたは
ずだった。さすがに宮子も驚いたのか足を止めてなずなを見たが、その
目はいつも通り、つるんとした光が透けて嘘がない。ただ自分で言った
ことを忘れていただけだと分かってなずなはほっとした。
「それ……何なんでしょうか……?」
「あたしが勝手に、そう言ってるだけだけどね。よいしょっと」
 宮子は一度軽く沈ませた膝を跳ね上げて、ずれ落ちかかっていたトー
トとナップザックの位置を背負い直した。
「ゆの、たまに一人でどっか行っちゃうんだ。スケッチブックとか持っ
て」
「絵を……?」
「うん。なーんにも描けずに帰って来ちゃうことの方が多いけど。あは
は」
 なずなが小走りになってようやく並びかけることの出来た横顔は、カ
ラカラと笑っていた。一体、何が可笑しいのだろう? 歩く早さを急に
変えたせいで手提げの振幅が不規則にずれて、コンガの角がゴツンと一
度、脛を打った。その拍子に、切りそびれたままの右足の親指の爪がま
た肉に浅く食い込んでしっくと痛み、我知らず、小さく顔をしかめてし
まう。
「先に教えてくれることもあるし、黙って行っちゃうときもあるし。何
がスイッチなんだろねー」
 宮子は首を傾げたが、なずなには、ゆののその振れ幅が分かるような
気がした。振幅に差こそあれ、きっとそれが普通なのだ。宮子ほど、始
終高いレベルでハイな感情を保つのにも体力が要りそうだと思うが、ゆ
ののように頻繁に、高空と低空を繰り返し飛行していたのでも、具合を
悪くしてしまいそうだ。かといって自分のように、いつも雨の前のつば
めみたいな高さを飛んでいるのも、人を不安にさせやしまいかと、びく
びくしている。
「そういえば、昨日の晩ご飯も……」
「夜中になんか食べてたみたいだよ。あのあと、遊びに行ったら慌てて
た。あはははは」
 昨晩は、明日が打ち合わせで時間がないという沙英と、それに付き添
ったヒロを除いた下級生の四人で集まって夕食をとろうという話になっ
ていたのだが、気分が優れず食欲もないというゆのの申し出から中止に
なった。だったら食後のお茶だけでも、と三人だけで集まり、ゆのさん
どうしたんですかねー? と尋ねるともなく言う乃莉と、んー? んー。
と曖昧な返事を返すきりの宮子の会話を、なずなはやはり外野から、お
茶をちびちび舐めながら伺っていた。
 宮子が言っているのはそのあとのことで、ゆのは深夜になって体調が
戻り、お菓子かおにぎりか、ぱくついていたところに宮子の襲撃を受け
たのだろう。その様子を想像して、なずなは笑ってしまった。
「だから多分、今日はこうなるかなーって」
「え?」
「結構、ダメージ受けてたからねー。学校でさ。あったのですよー」
 宮子の言葉は断片的すぎて、学科も違うなずなには推し量ることも難
しかった。川面の飛び石を渡るように、そのしなやかなふくらはぎ同様
ひゅんひゅんと跳躍する思惟は「突」「拍子」「もない」という言葉が
これ以上ないくらいに相応しく、きっと誰をも振り落とす。さっき部屋
で見た大渦も、その中心まで溺れずにたどり着ける人間はほんの一握り
で、ゆのはおろか、沙英やヒロでさえも道のり半ばで前後不覚に陥るだ
ろう。唯一、吉野屋だけが渡りきることが出来たのだ。
 なずなは大慌てで人差し指を下唇に添え、自分に届く最短距離で、上
目遣いに宮子の言葉のあとを追った。
「えと……お友達……とケンカとかですか?」
「ううん。絵」
 踏み石を一つ間違えたらしい。何か授業で、美術のことで落ち込まね
ばならないことがあったのだろう。宮子はゆののその様子を知っていて、
ゆのが今日にも一人で行方をくらますことを、これまでの経験との足し
算でなんとはなしに感じていたということだ。
 美術科の授業では、しばしば作品に順位付けをされて講評を受けると
いう話を、なずなは乃莉から聞いていた。
「これが結構堪えるんだよ。人前でさー。あたしはまだ、一番下の方に
されたことはないんだけど──」
 そう話す乃莉はおどけ半分でトントン肩を叩いて見せたが、それでも
実際参っている内心が滲んでいた。比較的図太い乃莉をしてこう言わし
めるのだから、あのひときわちいさなゆのをその刃が襲ったのだとした
ら、臓器の一つや二つ、傷ついていてもおかしくないとなずなは思った。
「じゃあ夕べは、部屋で何かお話……」
「んーん、別に。隠れて一人でお菓子食べてたから、太るよーって脅か
したら半分くれた!」
 にっかと笑ってブイサインを突き出す、魚釣りゲームの魚みたいな並
びの歯にはそのとき食べたお菓子の残りかすが挟まる隙間もない。カチ
ンと音の鳴るくらい、あまりに真白く光っている。
 その笑顔になずなは言葉を失ってしまった。空腹のせいだろうか。そ
れとも、わけも聞かされずに連れ回されているせいだろうか。じわじわ
と、足の肉に食い込む爪の、鈍くて重くて、疼々としたわだかまりが胃
の辺りまで無言で這い上がってきたような気がする。伸びた爪がお気に
入りのソックスを突き破ってしまわないかとハラハラしている自分と、
いっそそれを口実に、頭を下げてアパートまで逃げ帰ってしまおうかと
いう自分とが、心の中で、せめぎ合うでもなく、ただ道を譲り合ってい
る。
「あの……宮子先輩」
 おずおずと、果たしてそのどちらの自分が先に折れるのか分からない
まま、しっかり閉じることの出来ない自分の口から言葉が漏れるのを止
められない。これもいつものことだった。
 なにー、と宮子の調子は変わらない。いつもの宮子のままだ。
「の、のり……」
「え?」
「の、乃莉ちゃんは……宮子先輩の絵、なんて、言ってましたか?」
「乃莉すけさん? おー。そういえば」
 前を行く宮子は軽く空を仰ぎ、思い出すための間があった。乃莉すけ
さんにはまだ見てもらってませんなー、というあっさりとした答えに、
なずなのなで肩がまた一段下がった。
「あ、そう……ですか」
「また今度聞いてみるね。えっと、ここ右だっけ」
「え? 公園行くんですか? ……はい」
 道は、なずなが地元だ。行く先こそ分からなかったが、ここを右に折
れることを意識するなら目的地はそれしか思い当たらなかった。以前、
アパートの皆に手軽に遊びに行ける広場を尋ねられて教えたのがそこだ
ったのを、宮子も覚えていたのだろう。けれど、どうして。昼ごはんの
話はどこへ行ってしまったのか。
 お昼と、ボンゴと、公園。三つを結んで星座を作りなさいという出題
に、果たして、吉野屋だったらどう答えるだろうか。答えられるのだろ
うか。その疑問も晴れぬまま、
「はい、とうちゃーく」
と、最後まで揚々とした宮子の声に導かれ、なずなは緑地公園の、大樹
が象るアーチをくぐったのだった。
 

 
 
     × ☆     ☆     ☆
 

 
 
                            (続く)
 
 
 
 

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