« ■底抜けインディアAmazin'!~本日は、カレー気分で~・2・放課後・カレーで寄り道編 -更新第601回- | トップページ | ■Fで歌えば -更新第603回- »

2010年11月23日 (火)

■底抜けインディアAmazin'!~本日は、カレー気分で~・Epilogue~帰り道 -更新第602回-

-1- / -2- / -3-
 
 
 
     *     *     *
 
 
 
店おじ「はい、これは食後のサービスね」
絢 辻「あ、ありがとうございます。すみません」


  食事のシメには、頼んでもいないコーヒーがついてきた。
  絢辻さんと一緒にいると、こういうオマケに事欠かない。
  もしかすると、支払った額面通りにモノゴトが終わったときの方が
  少ないんじゃいないかと思えるくらいだった。

  でも絢辻さんはそのコーヒーを飲み終えると、
  お店に入る前に宣言していた通り、


絢 辻「さて、それじゃ帰りましょうか」


  と、息をつく間もなくさっさと荷物をまとめてしまったから、
  僕も慌ててあとに続いた。


絢 辻「それで、どうだった?」
主人公「どうって?」


  店を出ると、来た時にはまだ辛うじて暮れ残っていた夕陽もすっかり落ちて、
  辺りはとっぷりと夜の底。
  街灯の、幾つ目かの光の輪をくぐったとき、
  絢辻さんが先を行く背中越しに尋ねてきた。
  僕にはなんのことか、すぐには分からなかった。


絢 辻「……怒るわよ。カレーに決まってるでしょ?
    あたしの好きな味を知りたいって言うから
    連れて来て上げたんじゃない」
主人公「あ、そうか。うん。
    なんていうか、普通のカレーよりもきっと手は込んでるんだけど、
    頑張れば、家でも作れるんじゃないのかな」
絢 辻「……あんまり、おいしくなかったってこと?」


  そのときの絢辻さんが肩越しに見せた表情は、……なんだろう、
  心細そうに見えた。
  一体何がそうさせたのかは分からなかったけど、
  僕がその先をきちんと応えるのに、
  言葉を選ばなければならないくらいには、繊細な感じがした。


主人公「そ、そうじゃないよ。特殊なものじゃないっていうだけで、
    おいしかったよ。とっても。
    ……ああそうか、味や辛さは真似出来ても、
    あの香りは難しいかもしれないね」
絢 辻「そっか」
主人公「うん……」


  そのあとの沈黙も、特別なものではなかったと思う。
  絢辻さんの鼻腔からもれる息遣いは鼻歌のようでもあったから。
  夜の絢辻さんは……外気との境目を曖昧にするから、なんだか難しい。


主人公「か、カツはどうだった?」
絢 辻「美味しかったわよ。
    でも、カレーをかけて殊更美味しくなるものだともあまり思わないわね」
主人公「そ、そっか」

絢 辻「美味しかったけどね」
主人公「それは良かったよ」


  美味しかった、を繰り返したのがどうしてなのか、
  なんとなく気遣いが伝わってきたから、僕も少しだけ得意になってそう返した。
  そうすると絢辻さんは、弾むように数歩先を行っていた踵を返すと、
  僕に並んで歩き始めた。そして悪戯っぽく笑った。


絢 辻「じゃあ、にんじんはどうだった?」
主人公「お、美味しかったよ。思ってたよりは、だけど」
絢 辻「フフッ。無理しなくていいわよ」
主人公「む、無理じゃないよ。自分ひとりだったら、まず食べてないからね」
絢 辻「それもそうね」


  白い息と一緒に、絢辻さんは笑みをこぼした。

  それは僕から絢辻さんへのご返杯だった。
  二人だから出来たこと。
  別に相手は絢辻さんじゃない、他の誰とでも出来ることだけれど、
  誰とでも出来ることを絢辻さんとしたことが大事なのだと、やっぱり思う。


主人公「そうだ、ねえ絢辻さん」
絢 辻「なあに?」
主人公「お昼の話を聞いてて思ったんだけどさ。
    それじゃあ絢辻さんは、カレーを作ったことは、あまりないのかな?」


  ……なんだか、そんな気がしていた。
  家で作る機会がないとなると、あとは学校のイベント、野外活動だとか、
  文化祭だとか。そうでもないと、
  カレーを作る機会なんてそうそうないだろう。
  だから。


絢 辻「作ったことがないわけじゃないけど、あまり真面目に、
    工夫をしたり、考えて作ったことはないわ」
主人公「今度、うちで作ってみてくれないかな」
絢 辻「……む」


  さすがに唐突だったろうか。
  思ったよりも反応が険しくて、僕は怯んでしまう。
  唇がとがったりはしないんだけど、真意を量りかねる、という程度には、
  ギワクめいた眼差しを頂戴してしまった。


主人公「あのお店の味を再現してみる。……っていうのは」
絢 辻「……」

主人公「……ダメ……かな……?」
絢 辻「別に、かまわないけど。
    要望がなんだか厚かましくなってる気がするわ」
主人公「はは、そんなことは……はは……」

絢 辻「……。フム。そうね。やっぱり、やめておきましょう」
主人公「ええ!? ど、どうして?!」


  勢い込んで訊ねた僕に絢辻さんはさっきお店で見せたより、
  輪をかけて含みありげな眦でほくそ笑んだ。


絢 辻「先々とね。それは、あなたの仕事としてとっておくわ」
主人公「僕の……シゴト?」
絢 辻「そう」


  絢辻さんは満足げに笑うけれど、当の僕には今度こそ、
  サッパリ意味がわからなかった。


主人公「カレーが?」
絢 辻「うん。カレーの日は、あなたが夕飯を作るの」
主人公「僕が……夕飯?」
絢 辻「そ・う・だって言ってるでしょ? 何よ、不服?」


  あんまりしつこく僕が確認するものだから、絢辻さんもいい加減、
  イライラしてきてしまった。
  でも、でも、ちょっと待って欲しい。
  それには一つ大きな前提が必要なはずだった。


主人公「そ、そうじゃないけど……」
絢 辻「けど、なに?」
主人公「それって、さ。僕と絢辻さん、
    一緒に暮らしてるって……前提、だよね?」
絢 辻「……」


  僕の問いかけに、絢辻さんはとぼけるように唇を空に向けた。
  あわよくば気付かれないで終われるし、勘付かれるならそれでもいい。
  そんな風に考えていたに違いない。
  『そっちにいったか』。
  それはそれでまんざらでもなさそうな気配が、
  上目遣いの瞳の隅に見え隠れするのを僕は見つけた。


絢 辻「……そうね。まあ、いいじゃない。
    あたしは、あなたが作ったカレーを食べたい」
主人公「……。そっか」
絢 辻「それだけ」

主人公「わかった。じゃあ、少し研究してみるよ」
絢 辻「うん。お願いね」


  ……こうして、絢辻さんお気に入りのお店でカレーを食べた。
  よし、次は自分で作って、絢辻さんに食べてもらおう!

 
 
 
                        (おしまい)
 
 
 

|

« ■底抜けインディアAmazin'!~本日は、カレー気分で~・2・放課後・カレーで寄り道編 -更新第601回- | トップページ | ■Fで歌えば -更新第603回- »

[創作 SS]」カテゴリの記事

アマガミ」カテゴリの記事

ゲーム」カテゴリの記事

創作」カテゴリの記事

絢辻さん」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/55967/37802262

この記事へのトラックバック一覧です: ■底抜けインディアAmazin'!~本日は、カレー気分で~・Epilogue~帰り道 -更新第602回-:

« ■底抜けインディアAmazin'!~本日は、カレー気分で~・2・放課後・カレーで寄り道編 -更新第601回- | トップページ | ■Fで歌えば -更新第603回- »