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2010年11月23日 (火)

■底抜けインディアAmazin'!~本日は、カレー気分で~・1・休み時間・放課後の約束編 -更新第600回-

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  ぐぎゅるう~。
 
 
 
絢 辻「……」

  三限終わりの休み時間。いわゆる休3の時間帯ってやつだ。
  屋上へ出、そこにいた絢辻さんと合流するなり……
  僕の中の非常ベルが鳴った。
  絢辻さんはその音の大きいことに一瞬目を丸くすると、
  まるで我が事のようにほっぺたを赤くして……雰囲気を険しくした。

絢 辻「……」
主人公「……」
絢 辻「品がない」
主人公「はは、面目ない……」

  きまり悪く頭をかく僕に、絢辻さんは

絢 辻「朝、ちゃんと食べてこなかったの?」

  と、ちょっとあきれ気味だけど、心配そうでもある。
  気を使ってくれてるんだ。ありがたいなあ。

主人公「食べてきたんだけど……さっきテラスの前を通ったら、
    学食の方からカレーの匂いが漂ってきて、さ」
絢 辻「それでつられてお腹が空いちゃった、と」
主人公「そういうこと」

  アッケラカンと僕が応えたら、
  絢辻さんは一つ、鼻から小さな息を漏らした。

絢 辻「ケダモノ」
主人公「なっ!? そ、それはひどいよ! せめてこう……動物的とか!」
絢 辻「ああ、そういう意味に解釈してもらって結構よ」

  ……。
  そんな、さらっと。ニュアンスが違いすぎるよなあ。
  けど絢辻さんはまたすぐに笑顔を作ると、

絢 辻「冗談よ。まあ、そういうことってあるわよね。
    それじゃあ、今日のお昼は学食でカレー?」

  と、フェンスにもたれかかった。そうしたいのは、山々なんだけどね。
  僕は鞄の中に入れてきたランチボックスを思い出す。

主人公「それが、今日は昨日の残りをまとめて
    弁当を持って来ちゃったんだ」
絢 辻「あら珍しい」
主人公「うん。こんな日に限ってね。だからカレーはお預け」
絢 辻「フフッ、それはそれで辛いところね」
主人公「まあね」
絢 辻「フフフッ」

  ぽん、と絢辻さんは目を丸くして、愉快そうに肩を揺すった。
  確かに、僕が弁当を持参することは稀だから。
  何もこんな日に重ならなくてもいいのにとは、僕も思う。
  何気ない時間だけど、こんなやりとりがすごく幸せだ。
  その勢いに乗って聞いてみる。

主人公「……そうだ。ねえ、絢辻さんはどんなカレーが好き?」
絢 辻「どんなって?」

  どんな。……改めて求められると難しい。

主人公「たとえばほら、ポークかビーフか、とか。
    ジャガイモは入れるか入れないか、とか」
絢 辻「ああ、そういうこと。ふーん、そうねぇ……」

  僕のおーざっぱな具体例で大体飲み込めたのか、
  絢辻さんは腕を組み、クルッと視線をはずす。
  いつものしぐさだ。そして、少し考えて。

絢 辻「一番美味しいと思ったのは、
    ちゃんとしたスパイス専門のお店で食べたカレーかしらね。
    辛さと香りに深みがあって、でもスパイスのクセが鼻につき過ぎなくて。
    全体的にまろやかで」

  その香りと味を反芻するように、絢辻さんは少し長めに瞳を閉じて語った。
  絢辻さんが表現すると、すごく美味しそうに聞こえるから、不思議だ。

主人公「へえ……。
    それは、インド風の?」
絢 辻「ううん、日本人のシェフが作ってた。
    カレーって、確かに大もとはインドが発祥なのかもしれないけど、
    日本人の好きなのは日本向けにアレンジされてるんでしょうね」
主人公「学食のカレーはどう思う?」

  これはこれで、大事な話だ。けど、返ってきたのは意外な答えだった。

絢 辻「わからない。食べたことないもの」
主人公「えっ? ないの?」

  これには僕も驚いた。そんな人もいるんだ……なんて言ったら、
  またヘソを曲げられちゃうんだろうけど。
  驚かれたことだけでも、「全然じゃないけど」と若干不満そうだ。
  悪いことしたかな。

絢 辻「一年のとき、クラスの子と一緒になって
    一口だけもらったことがあるわ。でも、あまり憶えてない。
    美味しくも不味くもなかったってことかしら」
主人公「そうなんだ。じゃあ家のカレーは?」
絢 辻「……」

  分かってはいるけど、一応聞いてしまう。
  案の定、絢辻さんの目じりに鋭い険が立つ。

絢 辻「それは『あたしの家の』ってことよね。またそういう話?」

  あきれ気味、怒り気味。声にもズシリと迫力が増す。
  ああ……。

主人公「ご、ごめん、でも……」
絢 辻「ハァ、全く……」

  怒気を帯びながらも諦め半分。
  絢辻さんの返してくれた答えは……これまた、あまり聞きなれないものだった。

絢 辻「ま・ち・ま・ち」
主人公「ま、まちまち?」
絢 辻「そ。まちまち。スパイスから作ってるときもあるし、
    市販のルーのときもあるわ。
    スパイスは毎回調合が違うみたいだし、ルーもどれって決まってないと思う。
    大体、お母さんが作るか、お姉ちゃんが作るかで全然違うのよ」

  ……お姉さんも台所に立つんだ。そのことの方が意外かも。

主人公「そ、そうなんだ。珍しいね」
絢 辻「そうかしら。それで育ってきたから、知らないわ。
    毎回味が違うのがウチ流ってことでしょうね。
    ……そもそも、うちに家庭の味なんてものがあるか、甚だ疑問だけど」

  最後のセンテンスは、ある意味いつものお約束だ。
  つまりは、これ以上この話題には触れてくれるな、というけん制でもある。
  流れをちょっと変えようか。

主人公「そっか……。
    絢辻さんは作らないの?」
絢 辻「どうしてあたしが、
    あの人たちにご飯を作ってあげなくちゃならないのよ」

  さらなる不機嫌到来。しまった、あまり流れが変わらなかった。
  僕は慌てる。

主人公「いや、ほ、ほら。そうじゃなくても自分で食べたいときとか」
絢 辻「そんなの外で食べるわよ。
    ひとり分だけ作るわけにもいかないでしょ、カレーなんて」
主人公「そうかあ……」

  ご尤もデス。
  鍋いっぱいに作って、ようやく美味しいってものだものな、カレーは。
  ん? でも待てよ、ということは……。

絢 辻「……。
    どうしたのよ。急に黙らないでくれる?
    また何か良からぬことを考えてると判断して、制裁を加えるわよ?」
主人公「せ……! ち、違うよ!」
絢 辻「あら残念」

  またこの人は!

主人公「油断も隙もないなあ……。
    そういうことなら、絢辻さんは近くに美味しいお店を知ってるのかなって
    思っただけじゃないか」
絢 辻「美味しい? うーん……」

  これまた不思議に、絢辻さんは困った頬に人差し指を当て、ぐぐっと首をかしげた。
  あ。あんまり見ない仕草で、ちょっとかわいい。

主人公「ちがうの?」
絢 辻「美味しいかと言われると……どうかしら。
    けど、飽きない味ではあるわね、あのお店のカレーは」

  キラーンミ☆ その言葉を待ってとばかり、僕は身を乗り出した。

主人公「よし、じゃあ、そのお店に行こう!」
絢 辻「え? ちょっと、何言い出すのよ!?」
主人公「今の話だと、決まったお店があるんでしょ?」
絢 辻「うっ……」
主人公「僕、絢辻さんが好きなカレー、食べてみたい」

  「しまった、余計なことを言った」。絢辻さんはそんな顔で一歩引いたけど、
  ここは、押しだ!

絢 辻「何を勝手に……。別に私、今日はカレー、食べたくない……」
主人公「だったらまた今度でもいいよ。
    絢辻さんが食べたくなったときにでも。ね?」
絢 辻「……」

  絢辻さんはまだまだ乗り気でない……というか、
  子供が駄々をこねるみたいに視線を逃がすけれど。

主人公「ね、絢辻さん。……だめ、かな?」

  僕も視線を回り込ませて退路をふさぐ。
  だって、知っておきたいんだ。絢辻さんの好きなもの。
  すると、観念してくれたのだろう。やがて、小さなため息とともに。

絢 辻「……いいわ、わかったわよ」
主人公「本当? やった!」
絢 辻「まったく……」

  強引に押し切られ、絢辻さんしばらく不機嫌そうにしていたけれど。
  諸手を挙げてはしゃぐ僕を見て少しは気が晴れたのか、
  組んでいた腕を背中に回して肩をすくめた。

絢 辻「はいはい。それじゃあ今日の帰りにね」
主人公「え、きょ、今日?」

  またしても急転回だ。今度は僕が戸惑う番。
  小躍りしていた足を止め、絢辻さんを振り返る。

主人公「今日でいいの? だけど、さっき……」
絢 辻「カレーカレー言ってたら、なんだか食べたくなっちゃいました。
    文句ある?」

  ……これは、多分方便。
  絢辻さん、ほとんど棒読みに言い切るとすっきりさっぱり、
  少し重みを加えた声音で僕に了承を押し付ける。
  「ここにハンコを押すのよ、いいわね?」って言われたのとおんなじだ。
  無論僕には、異存はない。

主人公「な、ないです! 全然! ははっ! 楽しみだなあ!」
絢 辻「まったく。たかだかカレーぐらいで何を大騒ぎするのかしら」

  そう言うと絢辻さんはおしりでフェンスを押して歩き出し、
  とことこと階段の方へ向けて歩き出した。休み時間もそろそろおしまいか。
  僕もその後を追いながら、浮かれてニヤニヤ考える。
  ははっ! 放課後に楽しみが出来たぞ!

主人公(それにしても、
    「カレーの話をしてたら食べたくなっちゃった」、か……。
    絢辻さんも、人の子だなあ)

絢 辻「……ちょっと。
    今何か、ものすごく失礼なことを考えたでしょう!?」
主人公「え!? か、考えてないよ!?」

  なんですぐに僕の心を読むの!?
  怖いから勘弁してください!!

絢 辻「どうだか。まあいいわ。
    ……おあつらえ向きに、六限目が体育だったわよね。
    しっかりお腹を空かせてらっしゃいね」
主人公「うん! がんばるよ!」
絢 辻「フフッ、子供みたい♪ じゃあね。先に戻るわね」
 
 
 
  ……こうして、放課後は絢辻さんとカレーを食べに行くことになった。
  楽しみだなあ。
 
 
 
                            (続く)
 
 
 
 

 
 
 
はいどうも、オイサンです。
皆様いかがお過ごしでしょうか(コレと言ってやる気のない挨拶)。

今回のSSはですね、えー、今年の6月頃でしたか。
Twitter上のSS書き同士で、どうでもいいやりとりをきっかけに

  「色んなヒロインが、主人公とカレーを食べに行く」
  という縛りで一篇ずつ書いてみるのはどうか?

というお話なり、……えー、それから5カ月あまりですか。
半分くらいまで書くだけ書いて熟成させていたものを、
「そろそろ頃合いだろう」ということでですね、満を持して発表する……そんなものですよ。ええ。
ほったらかしにしたわけでも、忘れてたわけでもないのですよ、エエ。

機は熟した! と。
だってホラ、ものがカレーですから。
一晩寝かすと美味しくなるって言うじゃないですか。
あれですアレ。

ぼちぼちイイ感じに仕上がってきたので、そろそろ皆さんに召し上がっていただこうかと、
このように考えた次第です。
ちなみに、同じお題でお書きになっている方をご紹介しておきたいと思います。


  ▼ちひろさん( ちびすけ父さんさん )
   アマガミ 響先輩SS 「グリーンカレーは大人の辛さ」
   アマガミ 響先輩SS 「カレーソースは死の香り」
    [無限夜桜ヨコハマ分室 さくらがおか]

  ▼wibleさん
   【SS】グリーンカレーは刺激が大事
    [ UNDER MY SKIN ]

他にもお書きになる方・なってる方がおられましたらお知らせ下さいね。
それでは引き続き、第二部・第三部をお楽しみください。


オイサンでした。
 
 
 

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コメント

■ちひろさん
毎度どーもです。
そうですね、今回は新しいスタイルでやってみようと思って書き始めたのでした。
書き出しから随分間が空いてしまったので、
後半はだいぶ地の文多めのいつものスタイルに戻ってしまった感がありますが。
そこを感じ取って戴けたことは、新しい収穫・手ごたえだったと思います。
より一層洗練させて、広く楽しんで戴けるものが書ければなあと思います。
 
あとは……もっとブラック絢辻さんを活躍させることが、
次回以降の課題ですかね。
 

投稿: ikas2nd | 2010年12月 3日 (金) 12時04分

どもです。おいしくいただきました。
Twitterでは「絢辻さんはかわいいなあ」しか言わなかったので、もうちょっと感想らしいことを。

こう言うと語弊があるのですが、オイサンらしからぬ(?)テンポ重視の文体だなあ
と思って拝読していました。
テンポ重視で読みやすいのだけれど、絢辻さんの仕草や表情、心の動きが想像できて、
絢辻さんのかわいらしさにニヤニヤしつつも、むむっと唸ってしまいました。

次回作も楽しみにしております。

投稿: ちひろ | 2010年11月23日 (火) 23時27分

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