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2010年7月10日 (土)

■いとなみを空に映して・一 ~『アマガミ』・絢辻さんSS・七夕編 -更新第540回-


 

 
「こ、この道を使うの!?」
 
 
 
 はじめはまだ遠かったお囃子の音が少しずつ近づいて、その力強さや愉快
さのふちどりが、耳の奥でくっきりとし出す頃。
 僕は昂ぶる気持ちに誘われるまま、祭りの熱気、人々の声……そして屋台
の食べ物の匂いに釣られてフラフラと、神社の参道の方へ吸い寄せられてい
くところだったのだけれど……。
「こーら。どこへ行くの? 境内まで行くなら、こっちよ」
と絢辻さんがゆび差したのは、藪木が天然のゲートを作る、苔むした石段の
登り口だった。こんなところに裏道があるなんて、子供の頃から遊び慣れて
いた僕でさえすっかり忘れていた。

 今日は、七夕。
 僕は三枚、絢辻さんは二枚。願い事をしたためた短冊をそれぞれ手にして、
里山の中腹に鎮座まします輝日東神社へ向かうところだった。そう。絢辻さ
んが手帳を焼いたり、二人で雨宿りをしたり……僕らにとっては何かと縁深
い、あのお社だ。
「境内の裏手に行くのなら、ここを使った方が早いわよ」
「だ、だけど、せっかくの、お祭り……」
 絢辻さんは何食わない調子で言うけれど、正直、僕は愕然とした。参道の
方からは、温かな音と光が絶えることなく溢れてくる。このとき僕は、お預
けを食らった子犬みたいな顔をしてたに違いない。参道の方向と、絢辻さん
の顔を交互にチラ見して訴えるけれど……絢辻さんはまたしても、腕組みに
溜め息を一つ。険しい眉で切り捨てた。
「あんな誘惑の多い道! 境内までたどり着くのに、一体どれだけ時間がか
かると思うのよ? それに大体、人が多いったらないじゃない」
 それはそうだ。お祭りなんだから。だけど、それがお祭りの醍醐味じゃな
いか。
「でも……」
 食い下がる僕に、
「これ以上文句を言うなら、あたしもう行かない」
……絢辻さんは、バッサリと。そんな風に切り札を切られては、僕もこれは
だめだと判断する。本当にイヤがってるって分かったから、交渉も抵抗も諦
めないわけにいかなかった。
「……分かったよ。ごめん」
「そうそう。帰りにでも気が向いたら、少し覗いて行きましょ」
 僕が素直に謝ると、絢辻さんも少しだけ譲歩してくれる。いつもの僕らの
パターンだ。僕が薄く苦笑いを浮かべると、絢辻さんも得意げな笑みで返し
てくれ、その空気が嬉しくて、屋台はもう、半分どうでもよくて。
「そうだね。 それじゃあ行こうか!」
と僕は先を切り、名も知らない雑木が象るトンネルへと、足を踏み入れたの
だった。



          *   *   *



 ものの五分ほど前のことだ。
 絢辻さんが少し濃いブルーの短冊に筆を走らせて、
「まあ、こんなものかしらね」
と、これといった感慨もなさそうに小首を傾げるのを見て、僕は慌てた。
「えっ? もう書き終わっちゃったの?」
 三枚目をようやく書き終え、四枚目に掛かろうとしていた僕は、さっさと
机を離れてしまおうとする絢辻さんを振り返る。
 遠く神社の方からはお囃子の音が、……多分、テープか何かで再生されて
いるだけだろうけど、聴こえてくる。僕らはそのお祭りのメイン会場から少
し離れて設けられた、河原の願掛けブースで短冊に願いを書いていた。音の
方を振り返れば、小高い里山の中腹よりちょっと上、お社の辺りだけがぼん
やり赤く、提灯みたいな光を宿していた。
 辺りの土手や河原には、ほどほどの背の高さをした小さな笹が二十本近く
並べて立てられていて、集まった人たちは用意された長机で短冊に願いを書
き、思い思いにぶら下げていく。
「どれに下げてもいいのよね?」
 そんな人波に紛れて、絢辻さんともあろう人が、せっかくの短冊を無造作
に笹に括りつけようとするから……
「ああ、待って待って。そうじゃないよ」
と、僕は慌ててそれを制した。
 何よ、と絢辻さんはもう、短冊を枝に結わえようと背伸びの体勢。かかと
を半分浮かせた格好で、なんだか子供みたいに振り返った。そんな姿勢のま
ま待たせるわけにも行かない。僕はええいと、四つ目の願い事は諦めて、書
き上げた三枚だけを束ねて掴むと机を離れた。
「上まで行こう? そこに、一番大きな笹があるはずなんだ」
 上、っていうのは神社の境内のことだ。
 そう、それは、輝日東神社の七夕祭りに古くから参加してきた僕らには公
然の秘密。笹はこうして河原にも用意されていて、短冊もここで書くから大
抵の人はここに願いを下げていってしまうのだけど……実は、大本命の大笹
は神社の境内、しかもその裏手にひっそり立ててある。それでも知る人は知
ってるから、結構な数の短冊や飾り物が、毎年下げられていく。
「……それで?」
「その大笹の先端に下げた短冊は、願いの成就率がなんと通常の五割増し!」
「……」
 ……なんていう……。僕の熱のこもったセールストークも、案の定。絢辻
さんには通じない。冷たい目で僕を睨み付けると、はぁ、と一つため息をこ
ぼした。色々と突っ込みたいところもあるけど、と半ば怒りの気持ちを圧し
殺し、
「……わかった。とりあえず、その大笹に願掛けが出来れば気が済むのね?」
「えっと、はい……」
 なんかもう、相手にするのも面倒くさいといった風情だ。お祭りなんて、
本人のノリが大事だと思うんだけどなあ。


             ・
             ・
             ・


「だけど驚いたよ」
 しゃら、と風に笹の葉が鳴って、僕らは河原の道を歩き出す。まだ梅雨明
け宣言の出ない七月初頭の風と空気はジットリと肌にまとわりつくけど、今
日は少し風がある。天気は生憎良くはなくて、空には薄い雲が幕を引いてい
た。
 話し出しても絢辻さんからは反応がなかったから、僕は勝手に続けた。
「絢辻さんから、『七夕をやろう』って言ってくるなんて思ってなかったか
ら」
「議長。今の陳述は事実と異なります」
 ツンと澄ました思いがけない反撃に、僕は軽くつんのめる。
「そ、そうだっけ」 
「そうよ。あたしは『七夕、やらなくていいの?』って訊いただけじゃない」
 前を行く絢辻さんは後ろ手に組んだ手の指に、ひらひら、ひらひら、二枚
の短冊を躍らせて、僕を呼び寄せるみたいに歩いていく。……何が書いてあ
るんだろう。目を凝らして見ても、時刻は夜の八時をとっくに回っている。
夏だといっても町はとっぷり夜の底にあって、近づいたってそうそう見える
ものじゃない。むしろその……健全な高校生男子の僕としては、手の向こう
の、七分丈のパンツのおしりの方が、その……僕を誘っているようにも見え
るわけでして……。
「そういうことには積極的なあなたが。珍しく何も言わないから、気を遣っ
て上げたんでしょ? 勉強の息抜きも兼ねてね」
 それは、そうなんだけど。夏を目前にして、僕らの受験勉強もこれからい
よいよフルスロットルだ。だからそこは心得て、僕も敢えて黙っていたのだ
けど。……まあ、イザどうしても行きたくなったら梅原でも誘って行けばい
いやという腹はあった。
 だけれど、そもそも……。
「毎年やってたんじゃないの? あなたの家では」
「うん。といっても、随分子供の頃だけどね」
「あら、そういうもの?」
「さすがにね」
 そう。さすがに、高校生にもなって笹に短冊はやってない。こうして短冊
に願いを書き付けるのは四年ぶりくらいになるだろうか。それで四年分……
四枚くらいは書いても罰はあたらないと踏んだのだけど。
「その割には随分、欲をかいたわよね」
と、僕が手に重ねて持った三枚の短冊を見て、絢辻さんは意地悪く眉根にし
わを寄せて笑う。
「はは……積み立てた分が、今年で満期になるんだ」
「なあにそれ?」
と僕の切り返しに、変なの、とさすがの絢辻さんも呆れて苦笑い。また風が
吹いて、今朝まで降ってた雨に冷やされた空気が僕らの笑いを運び去った。
 
 
 
 
                             (つづく) 
 
 
 
 

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