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2009年10月 7日 (水)

■時には昔のはなしお。 ~或る物書きの動機~ -更新第323回-

『アマガミ』の中多さんを見ていると、
学生時代に仲の良かった、中里さんという女の子のことを思い出す。

タイプは少し違うけど、
大人しいところとか引っ込み思案なところ(似たようなものか)、
本が大好きなところなんかはそっくりだった。
あと、ちっちゃかったところも。

……中多さんみたいに、おムネは大きくなかったけどな。
中里さん。
それを気にしてたフシはあったが。



     *     *     *



中里さんは、僕が過去に好きになった何人かの女の子のうちの一人に過ぎないのだけれど
(っていう言い方をするとその全員からエライ勢いで怒られそうだな)、
彼女が強烈に印象に残っているのは……
僕のことを、振るともなく、自然に振ってくれたからだと思う。

中里さんと僕はそこそこ仲が良くて、
学校では話もするし、たまに、ごく自然に一緒に帰ったりもした。
そんな流れで、ある年、文化祭を一緒に見て回ろうか?
ということになったのだ。

色々な演し物を見て回る中で立ち寄ったあるクラスのフリーマーケットで、
彼女の目の色が変わった。
お皿やらおもちゃやらに混じって積まれていた何冊かの本に飛びついて、
そばにいた僕のことも忘れ、彼女はその物色に夢中になってしまった。

中里さんの本好きはちょっと尋常じゃなく、
月にもう何十冊と読む、読書家なんていう言葉では生易しい……
もうほとんど博覧"狂"記と言って良いほどのリーダホリックで、
そのことについてはよく承知していたのだけれど。

そのとき、僕は取り残された教室の真ん中にひとりポツネンとしながら、




「ああ、この子にはきっと、僕は必要じゃないんだな」




と、すごく腑に落ちる格好で、気付いてしまったのだ。

まだ幼かった僕が、ほったらかしにされたことで
彼女にそんなにも愛された本に対してヤキモチを妬いただけなのかも知れないけれど、
いざという時。
……彼女がつま先から傷つき、疲れ、立ち直れないような思いに駆られた時。

彼女を救うのは、きっと僕ではない、本なのだ、
それは、そこに刻まれた物語というひと連なりの時間なのか、
その膨大な時間に埋め込まれた孤立したたった一つの言葉なのか、
或いはもっと直裁的な、カバーの手触り、紙とインクと、焼け付いたお日様の匂いなのか、
もしかしたら彼らの住まう、書架という家が漂わせる温かさなのか、
……それはわからないけれど、少なくとも、
脈打ち、ただれ、ふつふつと、
体のどこかに大きな熱を漲らせた命としての僕なんかではない、
静かで穏やかで、優しい心だけをそっと蓄えた一冊の本なのだと、
そのとき知ってしまったのだ。

打ちひしがれる彼女の傍らで、僕は何の手を差し伸べることも出来ず、
彼女がゆっくりと、しおれた花が雨に潤されるように、
一冊の本によってその瑞々しさを取り戻していく様子を
じっと見守ることしか、きっと出来ないのだろう……
そんな風に思い、その光景を思い描き、居た堪れなくなってしまったのだ。

今にして思えば、そういう風に感じてしまったことこそが
僕が凡百の「男」であることの何よりの証拠であると分かるし、
同時に、彼女のそばにいる資格を失うに十分な思考回路であったことも分かる。

だから僕は、その後、彼女との距離をそれ以上縮めようとはしなかった。
中里さんはそんな僕をどんな風に察知したのかわからないけれど、
やっぱり、それ以上の関係になることを求めてはこなかったし、
それを考えていたのかもわからない。
もともとがそういう距離にある同士だと思っていたかもしれない。

そうして何事も起こらないまま、僕と中里さんは
時間がそうであると決めた通りであるように、学生時代を終えて別れ別れになった。

本当にずっとそばにいたかったのなら、彼女に何もして上げられない辛い時間……
愛する者が自分以外の者に慰められるところを見守り続けるだけの、
そのやるせなさと情けなさに耐えるだけの、強い自分を持てば良かった、
それだけのことだったのだけれど、僕には出来なかった。






その代わり、本を作ろうと思った。






言葉、物語、装丁、書架。

いつでもそのまんなかにいることが出来る、一冊の本を作ろうと思った。
本の中に、彼の魂として在ることの出来る物語を作る人になろうと。
いつか彼女が涙に暮れることがあるのなら、
すこしでも彼女のそばに、僕の想いがあることが出来るように。

中里さん、元気にしていますか。
僕は元気です。
かなしい思いをしていませんか。
まだ、あなたに届ける物語は書き上がっていないのだけれど、
もし今、泣いているのだとしたら……間に合わなくて、ごめんなさい。

何故だかは思い出せないけど。
あなたのことが、大好きでした。



     *     *     *



なんつって。
オイサンでした。
ももんが。



浅田葉子さんといえば、
『悠久幻想曲2』のディアーナもいいキャラクターだった。
丁寧なお芝居する人だと思うんだけど、地味っちゃ地味だなあ。

MID NIGHT GAMERS the 6th obsession
from [True Love Story 2],
story of "to the Princess, Kaori Nakazato"

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コメント

■JKPさん
ごめんなさい、あの頃のノベルはあんまりちゃんと読んでないんですよー。
代わりと言っちゃあなんですが、CDドラマは擦り切れるくらい聞いたんですけどね。
そっか、言われてみれば、一人だけ学期ヒロインでメインを張ってたわけですね。
人気あったんだろうか?
ちなみにオイサンは、昔っから牛乳大好きで、いっくら飲んでも腹を下しません。
大人になった今でも週に3本は飲んでます。
おかげでこんなナリです。

投稿: ikas2nd | 2009年10月 8日 (木) 23時10分

中里さんというと、ノベライズを思い出します。
1学期が森下さん、3学期がかすみだったことを考えれば、2学期の中里さんは大抜擢でした。
やはり健気さが買われたのでしょうか?
牛乳あんなに飲んだら、そりゃお腹壊すよね。

投稿: JKP | 2009年10月 8日 (木) 02時22分

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