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2009年9月28日 (月)

■Dance with …… -更新第316回-



  ※9月28日 21時45分 全面改訂


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「やっぱりダメね」
 動物園の人混みの中、絢辻さんは唐突に呟いて、ぴたりと足を止めて
しまった。
「え、ダメって……」
「動物園。好きになれない」
 背後から、あとからあとから流れてくる人波。早くも遅くもまどろみ
のような速度の流れを、絢辻さんはまるで人々の心が読めているみたい
にほとんど真横に突っ切って、ほとりの木陰にちょこんと居座っていた
ベンチに腰を下ろした。
 僕はと言うと相変わらずな、その突然の流れについていかれず、十メ
ートルも押し流された末ようやく岸にたどり着き、ほうほうの体で上流
の絢辻さんと落ち合うことが出来た。
「あら、おかえりなさい。思ったより早かったわね」
「じょ、冗談やめてよ……」
 バッグから文庫本を取り出そうとしていた絢辻さんに、息を整えなが
ら何とか切り返す。絢辻さんは、ごめんなさいといつもの困った笑顔で
ベンチの隣を一人分空けてくれた。促されるまま、僕もそこに腰を下ろ
した。
「つまらなかった?」
 目の前を絶え間なく流れていく、カップル、家族連れ、女の子のグル
ープ。絢辻さんは僕の問いにもしばし無言で、その流れを追い、時折動
物の檻とそこに群がる人々を不思議そうに、けれど頷いたりしながら眺
めていたんだけれど、やがてその作業も終えて口を開いた。
「以前、水族館がダメだって話をしたことがあったじゃない?」
「ああ、うん。あったね」
 初めてのデートの時だ。景色の美しい部分だけを人工的に切り出した、
その押しつけがましい人間の自然美に対するエゴが鼻持ちならない……
そんな話だったように思う。
「でも、それについてはましになったって言ってなかった?」
「そうね」
 子供の歩くスピードに合わせて、流れ、澱み、時に逆流する人の瀬の
向こう岸、絢辻さんは視線を、さっきまで僕らがいたアムール豹の檻に
移しながら呟いた。
「水族館はまだ良かったのよ。幻想的、っていう免罪符……じゃないわ
ね、少しちがう価値があったから」
 その檻の中ではすらりと精悍な猫科の猛獣が、その精悍さを譲らない
まま、人々の視線に耐えていた。その向こうに寝床のある、コンクリの
壁をにらみ付け、観衆に背を向けて身じろぎひとつしない。獲物たちが、
自分の気配に気付かなくなるのをじっと待っているようだった。
「動物園って、どうしてこう現実的なのかしら」
「それは……確かにそう、かもね」
 絢辻さんの言うとおり、檻の動物たちにはもの悲しさを感じずにはい
られないし、彼らの領域のいたるところにこびりつく、消すことの出来
ない日々の汚れは、それがどうしようもなく現実であることを突き付け
てくる気がする。多分、そこにある哀しい現実の気配を、絢辻さんは僕
よりも見える目で、何倍も敏感に感じ取ってしまうんだろう。
「あたしたち、動物を見に来てるんだか、あたしたちを観察したい誰か
に動物を餌に呼び集められたんだか、分かりゃしないわ」
 組んだ膝に頬杖をつき、その感情をどう処理したものか……と、思案
することにも疲れた様子で絢辻さんは瞳を伏せた。
「ああ……そんな歌があったね」
「なあにそれ? 知らない」

 ♪檻の中にいる 子供の猿を 人の子供が眺めてる
 ♪どんよりとした 真昼の憂鬱 眺めているのは猿の方かもね……

 何かの助けになればと、僕は一節うなって絢辻さんの瞳をのぞき込ん
でみたけれど、彼女は無言で首を左右に一振りしただけだった。そりゃ
そうか。梅原が、アニメ研究所の連中から借りたCDだって言ってたか
らな……。人波の流れつく先で、ひときわ大きな声が上がった。その調
子は激しい。けんかが始まったみたいだ。これだけ人が集まれば諍いも
起きるか。絢辻さんはほとほとウンザリだと大きな溜め息を吐いて捨て
た。それでも、ここで立ち止まっていたって何も話が進まないことは分
かっていたのだろう。膝を押して無理に立ち上がると、
「行きましょうか。悪いけどここはさっと流して、どこか別へ行きまし
ょ」
と、再び、流れの緩やかなところを見つけて身を投じた。僕も慌てて身
を投げる。
 森島センパイあたりに尋ねれば、この施設の本当の楽しみ方を教えて
もらえるのかな。……絢辻さんの性質からいって、そんな教えを乞うこ
とは絶対にないと思うし、そのコツを上手く実践できるとも思えないけ
れど。



     *     *     *



 エントランスのほど近く、フラミンゴに孔雀にホロホロ鳥、鳥類の檻
が多く集まった辺りのテラスに絢辻さんを待たせて、僕は飲み物を調達
する。敷地から出てしまう前に一応ここの総括をしたいだなんて、本当
に絢辻さんらしい発想だ。
「紅茶もあったけど、ウーロン茶で良かったの?」
 ウーロン茶とアップルジュース、二つのカップをテーブルに置きなが
ら僕が尋ねるけれど、
「あたしが好きなのは『おいしい紅茶』。こんなところの業務用の紅茶
なんて、何が混じってるか分かったものじゃないでしょ」
と、絢辻さんはにべもない。機嫌が悪いわけではないけれど、なんだか
今日の絢辻さんは、強いて言うなら「難しい」。動物園の動物たちに、
なのか、もしくは他の何かになのか、思うところがあったのだろう。
「そ、そっか」
「あとで精算するわね」
「いいよ、つまらない思いさせちゃったみたいだし。このくらいは、お
詫びもこめてってことで」
 それはありがとう、と絢辻さんはウーロン茶に口をつけ、一息、小さ
く落ち着けた。
「別に、そんなにつまらないわけじゃないのよ。これはこれで面白いの」
 僕に気を使って余計なフォローをする人じゃないから、これはきっと
本音なのだと思う。ただその面白味が、デート向きのものじゃなかった
というだけなんだ。それならそれで、僕のことは忘れて存分にその面白
味に没頭してくれても構わないと思うのだけれど、絢辻さんは絢辻さん
で、一応、僕と居る時は、僕と……僕を? 面白がりたい気持ちを持っ
ていてくれるみたいで。
「確かにね。ここは他とはちょっと違うわ。それぞれの動物の習性をう
まく利用して、それが観客を楽しませるように、工夫が凝らしてある」
と、テーブルに描かれた園内のマップをゆび先でなぞりながら付け加え
た。
 そうなんだ。この動物園はただ動物を檻に押し込めて並べた普通の動
物園とは違う、一風変わった施設を売りにしていて。それぞれのスペー
スは動物が活発に行動したり、観客が動物たちの面白い、素の姿に出会
いやすいように彼らの習性や本能を刺激するように作られている。どこ
かでそれを聞きつけた絢辻さんが
「だったら面白そうね」
って言うから、今回のコースに組み込んでみたのだけれど。だからまあ
……僕がつまらない思いをさせたっていうと、実はちょっとニュアンス
がちがう。とはいえ最終的に誘ったのは僕だから、仕方がないし、それ
を引き受けるのはやぶさかじゃない。だけど、
「でもその分、たちが悪いわよね。やりきれないだけ」
 人の意地の悪さを見せつけるための施設みたい。絢辻さんはそう言っ
てウーロン茶の続きをあおると、カップの奥底を見つめた。そこには、
この動物園が話題になるキッカケになった白クマとペンギンが仲良く寄
り添う様子をあしらったロゴが描かれていて、半分残ったウーロン茶に
薄く映った自身の顔に、少し皮肉な表情で、絢辻さんは笑みをこぼした。
 そう、だけど、やっぱり哀しい顔は見たくはなかった。
「見た? さっきの狼」
「ああ、なんだっけ、『ヘアーズアイ』? すごかったと思うけど」
 人工的な丘をしつらえた施設に狼を放し、その地面の所々に空けられ
た穴から、Hare's、つまり巣穴にいるユキウサギの視点で狼を観察
するアトラクションだった。狼を間近に見ることが出来て、なかなか迫
力があった……と、僕は無邪気に面白がっていたんだけど、
「あれもきっと、狼が餌を探して活発に歩き回るように、お腹を空かせ
るようにし向けてあるのよ。なんだかやりきれないと思わない?」
と、言われてしまうと。
「なるほど……」
そんなものか。僕はもう一つ実感がわかずに、わかったようなわからな
いような返事になる。
 共感を得られないその空気に業を煮やしたのか絢辻さんは……ちょっ
ぴりエッジのきき始めた目尻の端に、瞳を流した。ムッとして、何か思
い巡らせている。沈黙はあるのに、煩わしいざわめきは大きくなるばか
りで。黄昏の図書館、公園、屋上。ひと気のないところで会うことの多
かった僕らには、今日のこの空気はちょっと異質で落ち着かなかった。
「にしても」
と絢辻さんは、途切れることのない人波を見遣り、続いて空を見上げる。
空は秋晴れの快晴。
「思いのほか、暑いわね」
 確かにそうだ。もうじき九月も終わるというのに気温はうなぎのぼり
で、連休の後半、人出が多いことも手伝っている。ここには風もない。
屋外にも関わらず熱気と湿気が渦を巻いて、吐く息までが疎ましい。
 さしもの、いつもは涼しい顔の絢辻さんも参り気味に襟をゆるめた。
掌ではたはたと、胸元に風を……。え、む、胸元? その、胸元に、風
を……はたはた、はたはたと……え、襟をこう、大きく……ゆるめて、
ですね。む、む、む、むな、ムナ、ムナモトに風を……はたはたはたは
たと……そうすると、薄いレースのついた襟がひらひらひらーって……
そんでこう、もう少し、もう少しだけでも風が強いと、その、奥の方が、
もうちょっとだけこう、奥の方までよく見え……ですね、えっと、じゃ
なくって、奥の方まで風が届いて涼しいんじゃないかと、僕はこう思う
ワケですよ。ねえ、絢辻さん。どうでしょう? 騙されたと思って、一
度試してみるというのは。ねえ、絢辻さん……? あ、あや……? 絢
辻……さん?
 はたりと我に返ると……、僕は身を乗り出し、対面に座る絢辻さんの
胸元にくぎ付けになっていた。食い入るような、今にも鼻血をこぼしそ
うな目の僕を、絢辻さんは冷たい目で……ほんのりと頬を染めて、けれ
どその手も休めずに、じっと睨みつけている。
「……」
「ご、ごめんっ!!」
 絢辻さんは何も言わない。険しい表情のまま、慌てて身を引き目を逸
らした僕を睨み続け……僕にそれ以上の動きがないのを見てとるや、ゆ
るめた襟を静かに合わせた。
「えとっ、その……」
「ね?」
「……え?」
「良い気がしないものでしょ?」
 クスッと笑った彼女は、言葉をなくした僕を横目に締めくくった。
 まさか。
 ……襟をどこまで引っ張れば僕からどこまで見えるのか。
 どれだけ風を送れば、襟が蠱惑的にはためくのか。
 ……そんなことまで計算しつくされた、それは……罠だったわけで。
哀しい哉、「動物」は「習性」を利用され、まんまと「観察」されたの
だった。安心するやら、失望するやら、情けないやらやりきれないやら、
えも言われぬ疲労感に襲われて、
「……勘弁してよ」
僕はテーブルの上に崩れ落ちる。絢辻さんは頬を赤くしたまま、こんな
餌に釣られる方が悪いんでしょ、と残りのウーロン茶を、融けた氷と一
緒に一気に飲み下した。自分でやっておいて何を怒っているのか、ボリ、
ボリと乱暴に氷を噛み砕き、「フン」って、「フン」じゃないよ。なん
だよもう。本当の本当に、意地が悪い。底意地、という言葉が何のため
に作られたのか、実感する。
「わかったでしょ、どれだけ底意地の悪い施設かってことが」
「そりゃもう……」
 設計した人の顔まで思い浮かびそうだよ。
 当の絢辻さんはもう一度襟元を確かめ、
「こっちだってノーリスクだったわけじゃないんだから、まだ良心的な
方よ」
と、執拗なくらい丹念に、襟のボタンを確かめた。一応恥ずかしかった
のだろう、はにかんだ睫毛の横顔が、バックに広がる秋の色彩とよく馴
染んだ。
 暑さと湿気。それ以上にどっと押し寄せた疲労にうなだれて、僕は正
直、テーブルに突っ伏したまま眠ってしまいたかった。そうでもしない
と、動悸と、中途半端に火の入ってしまった下っ腹の炉が鎮まりそうに
ない。ちらり、絢辻さんが人波と檻に気をとられているのを確認してか
ら、少しだけ……と目を閉じた。鉄製のテーブルは、ひやりとして心地
がよかった。
 ややあって、向かいでがたんと音がして、閉じた瞳の闇が濃さを増す。
立ち上がった絢辻さんの影だろう。ゴミでも捨てに行くのかな。放って
おいたら、また臍を曲げられそうだ。
「絢辻さん? ゴミなら僕が……」
 そう、体を起こそうとしたら……どうしたことか。絢辻さんは、僕の
座る二人掛けのベンチ椅子、その隣に腰かけようとしているところだっ
た。
 よいしょ、とお尻の下にスカートを整える、女の子独特の仕草の瞬間
にだけ現れるボディラインは丸く滑らかで、僕はその行動の意味も分か
らずただ胸をドキリと波打たせた。もう間近に迫った絢辻さんはさらに
一回、軽く腰を浮かせて、僕の方へ体をスライドさせると……しなだれ、
僕の首に腕をまわした。
「からかったりして、ごめんなさい。怒った?」
 細い二本の彼女の腕は、僕の両肩に乗っかって、顔が殆ど目の前だ。
肌のちいさな溝に入り込んだ汗が光っているのが見えるほど。今日は薄
く、お化粧をしているんだな……ファンデーションの甘い匂いが体温に
あおられて立ち上り、囁く声も、唇をくすぐる風になって感じ取れる。
「ちょ……!」
「だから、お詫び」
 そんな、らしくもない! ……そんな風に考えかける思考は分断され
る。ぐっと、肩にかかる重みが増した。多分その時の絢辻さんのフォル
ムは……四つ足で、しなりと歩くアムール豹。前肢で、獲物を抑えて逃
さない前傾姿勢の、猫科の絢辻さん、ここで復活? 秋物の大胆すぎず
慎みすぎない生地の向こうで、二つのふくらみが僕の胸との間で押しつ
ぶされて、ふやんと甘ったるい鳴き声を上げた……ような気がした。そ
の一瞬で、僕の口の中に唾液が溢れかえった。
「あ、絢辻さん……、ひ、人が……」
「いいじゃない。みんな、動物しか見てやしないわよ」
 覚悟するとか、勢いに任せるとか、なんかもう、そんなあと付け上っ
面の人的機能もどこへやら、僕はその直後に予感されるぬくもりと、押
し寄せるたくさんの水分とぬめりの感触に備えた。自分の入口から吹き
込むだろう、彼女の発する熱い風にただただ期待した。どう受け入れよ
う、どう応えよう? 僕の中で艶めかしくのたうつ彼女の舌に、どんな
挨拶で報いたら悦んでくれるだろう? もう何度目にもなるというのに
高鳴りは天井知らず、胸を突き破る大きさで打っていた。
 鼻先をくすぐり続ける、絢辻さんの匂いと吐息。目を閉じて、一秒、
二秒、三秒、四秒、五秒、六秒、七秒、八秒……。
 ……来ない。
 …………おかしい。
 ………………もしかして。
 体感、カウント十五を過ぎたあたりで僕はうっすらと目を開ける。瞼
と睫毛の向こうに滲んだのは、ぱっちりと目を開けて、僕を……またし
ても、動物観察を続ける絢辻さんの、今にも笑いだしそうに膨張した顔
だった。
「あ……絢辻さんっ!!」
「あははははっ……なあに、その、顔っ!?」
 一体僕はどんな罪深い顔をしていたのか……絢辻さんはお腹を抱え、
長いベンチ椅子に倒れ込んで、笑った。
「ほら、ね? やっぱり、良、良い気はしないわよね? あはっ、あは
はっ」
 なんだよ、もう! ホントに「する」ときには、絢辻さんだって大し
て変わらない顔をしてるに決まっているのに。学校で鼻血まで噴いたの、
どこの誰だよ!
 いつまでも笑いやまない絢辻さんを見て、さすがの僕も……すっかり
カラになった二つのカップを鷲掴みにして握りつぶすと、涙まで流して
震えている絢辻さんを尻目に、席を立った。
「あ、待って。ごめんなさいってば」
「……」
 どうにか持ち直して荷物を手にとり、絢辻さんが僕にとりすがる。珍
しい画だけど、今の僕にはそれを喜んでいる余裕もない。からんだ腕を
振り払う……度胸まではないけれど、ただ黙って、つぶれたカップをゴ
ミ箱へ叩き込むと、絢辻さんを引きずるようにしてエントランスに向か
った。



     *     *     *



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「ねーねー、どうして鷹さん、飛ばないの?」
 飛び込んでくるのは、子供の声。
 見れば、小さな女の子が出口も目前(入口直後、とも言うけれど)のオ
ジロワシの檻の前で、ワシの羽ばたくところを見たいと、父親を相手に
だだをこねていた。
 なるほど猛禽類のスペースはそれなりの広さがあるけれど、北の空を
どこまでも飛ぶ彼らにとって、囲いを多少広げたところでどれほどの違
いもないだろう。ならばいっそと、誇り高い彼らは鋭い爪を宿り木に食
い込ませ、最早それを求めない姿勢を崩さない。飛べる空があるならい
つだって飛んでやる。だがこんな安っぽい空を飛ぶ気は毛頭ない--背
筋を伸ばし、そう言っているみたいだった。一羽だけ、新入り、なのか
な。たまにバサッと広げては、止り木から止り木へ、時に檻の柵へ、落
ち着きなく飛び移っていたけれど……彼を見る仲間の目は、どこか冷た
さを隠し持っているように感じた。
 その子の疑問の素朴なことを僕は微笑ましく思って、少し気分が和ら
いだのだけれど……左腕にからんだもう一人の駄々っ子はそうもいかな
いみたいで。彼女が足をとめたから、僕はバランスを崩して引き戻され、
彼女に寄り添った。
「どうしたの?」
 絢辻さんは答えない。複雑な面持ちで。その子と鷲とをじっと見つめ、
「……そんなの、無駄だからに決まってるじゃないね」
と。いつか聞いた哀しい声で吐き捨てた。僕をたぐり寄せる掌にも一際
の力がこもっている。どうしたんだろう。愉快そうに僕をやりこめた瞳
は影を帯びて、はじめに動物の小屋を見ていた時と同じ、哀しさ、悔し
さ。いっそ憎しみといってもいいような、厳しい力を宿し始めていた。
 似たような目を、見た憶えがあった。

 --早く、家を出たいわ--

 それは、絢辻さんがお父さんの話をした時だ。今はまだ逃げ出せない
絶対的な庇護のもと、絢辻さんは唇を噛んで、その本心を僕に漏らした
んだ。どうしようもない現実。あらがってもあらがっても、その壁の高
さばかりを思い知る更なる現実は、哀しみを超えて最早滑稽だ。だから
今は、いつか羽ばたく日のための雌伏のときと言い聞かせ、精悍さを、
誇りを滑稽に堕とさないために彼女は毅然と前を向く。それがきっと、
誇り高き彼女のジャスティス。そしてそのとき一言は、そんな彼女が漏
らした、悲鳴のほんのひと欠片だったんだ。誇り高き、野生の悲鳴。そ
れを聞くことがどれほど稀で大変なことだったのだと気付くのにも、僕
は随分時間をかけてしまったっけ。
 ……だめだな、僕は。いつまで経っても。
 絢辻さんの手はいつの間にか力を失い、だらりと垂れ落ちていた。そ
のゆび先を僕は手探りで見つけ出し、少しだけ、その気持ちがが伝わる
程度に、荒っぽく握り取ってみせた。驚いた彼女の頭がかすかに跳ね上
がる。
「どこか、行きたいところはある?」
 僕は顔を見ない。視線をエントランスに固定したまま尋ねた。
 ……歩き出すまでの間、絢辻さんは無言だったけれど、
「あそこへ行きましょ。昨日行った、丘がもう一度見たい」
とようやく発したその声は、地底に溜まった湖の、青い青い水面のよう
だった。どんな感情なのか、
「……同じ場所でいいの?」
 僕よりも少し背の低い絢辻さんは、上目遣いのまま。珍しく、無言で
一つ頷いた。
 昨日僕らが訪ねた丘のまちは、町全部が丘……なのか、丘陵地帯を畑
で埋めつくしたその地域をまとめて町と呼んだのか、どちらかは分から
ないけれど、見渡す限り丘、丘、丘の、畑、畑、畑で、視界を遮るのは、
はるか遠くにそびえる山か、風除け目的で植えられた白樺の木々のどち
らかしかなかった。どこまでが見えているのか、視界の端がはたしてど
のくらい先にあるのか、全く自分のスケールでは測れない、そんな町だ
ったのだ。
 空と道、雲と畑しかないそこで、絢辻さんはそこに吹く風にただただ
遊び、はしゃいだり、大きな喜びを露わにするではなかったけれど、心
地よさそうに、青と白と緑色をバックに、ただ一切の柵の取り払われた
自由であることを胸の奥まで吸い込んでは、それを広がる空に返してい
るようでさえあった。
「そんなに気に入った?」
「そうね」
 理由はよくわからないけど、と前置きをして。
 何かいいことでも思いだしたのか、少しずつ表情に晴れやかさを取り
戻しながら。
 僕の恋人は、腕を離れて歩き出した。
「あそこは良かったわね。落ち着けた。あれだけ広い空間なのに、それ
全部と自分が、一対一だって思えるの。自分が一で、目に入る物全部ま
とめて一で、それで一対一」
 お昼を過ぎて、エントランスからは新しい観察者たちが未だぞろぞろ
と雪崩れ込んできている。彼らの話し声。道のそこかしこから生えてい
る高い塔のてっぺんの、スピーカーから流れてくる音楽や放送、やっぱ
りどっちを向いても目に入る、動物たちの小屋。自動販売機にゴミ箱に。
振り仰げば、広がる空は昨日の丘と地続きのはずだった。なのになんだ
か、色が違う、風が違う。たくさんのものが混じって、密度を上げて、
それらは僕たちをすりつぶすほど、この場所を占拠していく気がした。
踏ん張っていないとここからはじき出されてしまう、そんな焦燥感と疲
労感。
 そんな風景の中、絢辻さんは振り返って嬉しそうに微笑んだ。
「そう思うと、すごく気が楽になったわ。自分にもこれだけの広がりと
価値があるんだって思えたの。分かる?」
 本物の丘の上にあったのは、自分と同じ浸透圧を持った風景だった。
自分の吐いた息が目の前の風に均しく融け込んで拡がり、やがて何かを
伴いまた僕の中に帰ってくる感覚は、確かに感じるところがあった。
 ……絢辻さんは、すごい。そんな風に感じたことを言葉で言い表すな
んて、僕には出来ない。だけど彼女が言ったことは、僕の心の中にある
象にピタリとなじんだ。彼女にはそれが出来る。それが出来るから、僕
は絢辻さんと安心して繋がっていられるんだと、僕は勝手に思っている。
絢辻さん、君を好きで良かった。
「そうだね。それは、なんか分かる」
「そ。良かったわ。じゃあ、日が落ちる前に早く行きましょう」
 ひらりと鮮やかに身を翻し、彼女の足首で生まれた力がつま先でしな
やかに地面を蹴るのを見た時、僕にも、ストンと腑に落ちるものがあっ
た。
「ああ、なるほど」
 それがあんまりバッチリとはまったものだから、僕はうっかり声に出
してしまった。
「? なによ」
 怪訝そうな顔をして。或いは、僕のロクでもない思いつきを察して。
せっかく前を向き始めた彼女は、一回転してまた僕を向き直った。しま
った。面倒なコトになった。
「あ、いや、たいしたことじゃ」
「言いなさい」
 遮る言葉もスピード感にあふれて、途端に絢辻さんは責め……否、攻
めに転じる。さっきまでは泣きそうな顔をしていたくせに。けど、いく
らボヤいたところでオフェンスに回った彼女を凌ぎきるだけの技術が僕
にないのは今日までの時間で明らかだ。無駄な抵抗はもうしない。僕は
観念する深呼吸の影に、そっと溜め息を混ぜた。
「えっと、……つまり、絢辻さんが言いたいことっていうのは」
 たどたどしく話し始める僕を見て、何か面白そうなことが起こる予感
に絢辻さんは瞳をきらきらさせ始めている。たとえそれが上手くなくて
も、それを肴にまた僕をやりこめるつもりなのだ。ご期待に沿えればい
いけど。僕はコホンヌと一つ咳払いをし、出来るだけ高い声が出るよう
に喉を整えた。
 --息詰まる、一瞬の静寂。
「『あたしはね、猫なのよ』」
 僕が彼女の口まねをすると、絢辻さんは、目を丸くして固まった。本
当に不思議なことに、その瞬間だけは周りの雑踏すら音を失ったんだ。
そしてその目が怖い光を宿す一瞬の呼吸を見計らい、その機先を上手く
制するように、僕は続きの言葉をポンと吐く。
「『名前は、まだ無いの』」
「やめてよ」
 僕の言おうとしたことに気付いたのか、絢辻さんは尖らせかかった目
尻を丸め、言葉尻に笑いを含ませた。というか、実際、ぷっと小さく吹
き出した。
「あなたそれ、最後まで読んだ?」
 そう言えば、冒頭くらいしか知らない。そのことを正直に白状すると、
絢辻さんは呆れ笑いで腰に手をやった。日本を代表する古典くらいきち
んと読みなさい、と優しいお説教を戴く。はあ、御尤もです。
「その猫。酔っぱらって、お酒におぼれて死んじゃうのよ?」
 ああ、そんなラストだったっけ。僕はなんだか愉快な気分になって、
ははっと笑った。
「そっか。絢辻さんに限って、それはないね」
 絢辻さんも釣られて笑う。そういうこと、と胸を張り、
「解釈としては、面白いけどね」
と、満足したように背中を見せて、先を歩き出した。
 自分の名前も知らない猫。抗い切れない現実。人が見ているのか、は
たまたその逆なのか、そして社会と自然の相克──そんな今日の色々が
綯い交ぜになって、出てきたイメージはそれだった。
「あ、でも」
と、エントランスを抜けたところで。絢辻さんは何かを思いついた
様子で、人差し指を顎に添え、空を見上げて呟いた。
「ラターシュとか」
「え?」
「ロマネコンティとかね」
 一つ目は分からなかったけれど、二つ目は聞き憶えがある。確か、も
のすごく高級なワインの名前だ。だから一つ目も多分、似たような話な
のだろう。結局何の話かと思えば、お酒に溺れて死んでしまう、自由で、
皮肉屋で、滑稽な猫。その話の続きだった。
「その辺に溺れるのなら、悪くないわね。安酒は御免だわ」
 ……う~ん。元気が出たのはいいけれど。
 絢辻さん。
 その発想が、既にずいぶん、俗っぽい気がするよ?



     *     *     *



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 それから電車を乗り継いで、さらに駅から歩いて二時間ばかり。遠く
山々を見晴るかす、高い高い丘の上。タバコだかクルマだかのCMで有
名になった一本の木の下で、夕陽にも早い中途半端な時間のせいか、僕
と絢辻さんの二人きりだ。
 そこで、
「ありがと」
と突然お礼を言われて、僕はまた、すぐには反応できなかった。ここま
での道中、絢辻さんは左手で右手をさする仕草を繰り返していて、僕が
どうにもそれを気にかけて、
「もしかして、手」
と切り出した時だった。本当は手のことを先に確認したかったのだけど、
絢辻さんが意味ありげな視線を微笑みと一緒に送ってきたから……お礼
の方も無視することができなかった。
 遠い遠い山の上にある空気を吸いこみながら、絢辻さんは
「以前はあなたのせいで不安定になったりしたものだけど。今日ばっか
りは助かっちゃった」
と、もう一度右手……僕が動物園で乱暴に握った右手をひとさすりして、
その時の痛みごと、大事そうに左手で包み込んで目を伏せた。
「ああ、うん。……痛かった?」
「少しね。驚いた」
 そうは言いながら、絢辻さんは嬉しそうだった。自分の右手と僕を交
互にまじまじと見つめ、一つ、自嘲気味な笑いをもらした。
「吾輩は、猫である」
 見渡す限りの広い世界にぽつりと落とされた彼女の呟きは、ちいさな
痛みを伴った波紋になって、けれどもその輪郭はしっかりとした強さを
持っていて、消えずにどこまでも広がっていく。何を伝えようとしてい
るのかは、……相変わらず、わからない。ただ彼女が、自分の中にある
大切なものを、もう一度、確認しているように僕には見えた。
 それはさすがに気恥ずかしかったのか、僕を振り返ると照れ笑いを浮
かべた。
「だとすると、あなたは案外、」
と、彼女が言いかけたその途端。
 丘の上と言わず、空と言わず、とにかく目に入る全ての上を吹き抜け
たとても大きな風に絢辻さんは長い髪を弄ばれて、短い悲鳴を上げた。
風は絢辻さんだけでなく、草も、木々も、作物の葉も均しい力で撫でつ
けて、そうすると山々までが、同じ角度で傾いだように見えた。
「やっぱり、すごい景色ね!」
「そうだね。絢辻さんの言ってた通りだ」
 一対一。自分と、それ以外。やがてその風が止むと、辺りからは一切
の音が消え失せ、目の前の畑から、視界の涯の山の上まで同じ大気で繋
がって、そこにあるものの存在が確りと肌に伝わってくる。自分さえ動
かなければ、何か音が鳴ったなら、それは隣のもう一人の立てる音で。
絢辻さんが体の重心を少し変え、髪をかきあげ、息をする、瞬きをする、
唾を飲み、胸を高鳴らせているのが……こんなに広大な時間を目の当た
りにしているっていうのに、たなごころで触れているように伝わってく
る。不思議だけど、当たり前のことのような気がした。
「……知ってる? 人間の体の中で、一番最初に生まれた部分」
 するとまた突然、絢辻さんは不思議なことを言い出した。けれどきっ
と、僕と同じようなことを考えていたのだろう。アプローチの仕方こそ
違え、唐突にも思えるその質問が行き着く先にはそんな予感があった。
だから、……答えはやっぱり分からないんだけど、すんなりと、流れに
乗ることが出来た。
「そんなの、脳」
「ぶぶー」
「……じゃないの?」
 半分食い気味に不正解のブザーが鳴る。絢辻さんにしてみれば僕の間
違いまでが筋書き通りで、絢辻さんは悠々と話を続けた。小砂利の足元
を確かめながら、僕の周りを歩きながら。
「最近の研究だと、小腸ってセンが有力らしいわ」
「小腸?」
 また、随分とマニアックな。凡俗な僕はそんな風に思ってしまうのだ
けれど、医療を志す才女の認識は、もっと論理的だった。
「そんなことないわよ。栄養を吸収する部分よ? 生き物がただ生きて
いくのに、これ以上必要な部分ってある?」
「ああ……なるほど」
 あたしも言われるまでは気がつかなかったんだけどね、そもそも最初
の生き物は……と、生命の歴史やネタばらしを含みつつ、講釈をする絢
辻さんの描く足跡は、僕を中心にその半径をすこしずつ狭めている。
「小腸自身にも、脳みたいな働きをする機能があるんですってよ。脳と
は独立してね。入ってきた栄養を判別して、それを取り込むのに必要な
命令を、周りの臓器に出すの」
「それはわかったけど……」
 どうして今、そんな話を? 多分僕がここで臓器の話を始めていたら、
絢辻さんは「ムードないわね!」って怒り出しそうな気がする……ん、
待てよ、ということは? 僕は一つの仮説に辿りついて、それを確かめ
るために黙って話を聴いた。
「だーかーら、脳なんて、最初はオマケだったって話よ。今じゃ他の部
分が複雑になりすぎたから、脳が一番エライ、みたいな顔してるけど。
所詮人間も、成り立ちは、食べたい寝たい繁殖したい、ってところにあ
るのよね」
 ……日は、徐々に傾き始めていた。すっかり夕陽の時間帯になれば、
きっとここにも観光客が押し寄せてくるんだろう。今は、つかの間の静
寂。波一つない空気を介して繋がった僕らは、畢竟、考えてることは一
つだったってことだ。その空気さえも取り払いたい。そんなことだ。
「えっと、つまり」
 それでも強気に踏み切れずにいた僕に、絢辻さんは。
「……さっきの続きをやりましょ、って言ってるの」
 そう言って、僕を向き直ると背伸びをし。僕の胸に体を預けると……
今再び、首に腕をからめてきた。拗ねたように。
「……その辺は、もうちょっと脳みそを発達させてくれると助かるんだ
けど」
「ごめん」
 僕は体全体で彼女の体重を支え、そっと腰に手を……回そうとして、
嫌な記憶につい身構えてしまった。まさかな、という刹那の硬直を察し
たのか、
「しないわよ。三度も」
と申し訳なさそうに、そして照れくさそうに上目遣いで訴える……絢辻
さんはずるい。本当にずるい。こんなの、もう一回騙されるとわかって
いたって逆らえっこ無いじゃないか。
「そ、そっか」
 そうして素直に狭まる距離。それがカクシン。
「それにね」
 一対一の世界で、唇が触れ合うほんの一瞬前。
「これ以上は、いくら観察しても無駄な気がするのよ」
 絢辻さんが呟いた意味深なセリフが頭を離れない。僕の背中に回され
た彼女の右手が、ぎゅっと強い力で訴えていた。


 --狼の本質なんて、食べられでもしてみないと分からないのかも、
   って、思うしね。


「だとすると、あなたは案外……」のその続き。
 だけど絢辻さん、気付いてるのかな。狼から獣を抜いて、女をくっつ
けると娘になっちゃうんだよ?
 そんなことを考えて。静かに激しく溶け合うさなか、舌先でこっそり
確かめた絢辻さんの犬歯は……僕が思っていたよりもずっと、丸くて、
可愛らしかったのだった。

R0020778

                        (おしまい)


       ~~Epilogue~~


  橘 「さて、人が増えてくる前に、帰ろうか」
 絢 辻「……ねえ」
  橘 「ん、なに?」
 絢 辻「今日のは、その……随分……丹念に……」
  橘 (ギクリ)
 絢 辻「……なんて言うか、口の中じゅう、あちこち……」
  橘 (ま、まずい。
     最中にそんなこと考えてたなんてバレたら……)

 絢 辻「……。わ、悪くなかったわよ」
  橘 「え? ……あ、そう。そっか。それなら良かったよ」
 絢 辻「うん……。良かった……かも」
  橘 (た、助かった……)

 

……思いの外時間がかかってしまった……。
ちょっと、自分の旅の風景にひっかけて、
絢辻さんを登場させようと思っただけだったのですが。
そんな気持ちの、『アマガミ』絢辻さんSSでした。


オイサンです。


今回の旅は親も連れて、北海道は旭川・層雲峡まで行って来ました。
あと、昨今話題の旭山動物園と、美瑛の丘。
いやー……楽しかったけど、くたびれた。
くたびれたけど楽しかった、が正解ですかね。

普段はいつも一人旅、ひと気のないところで一人黙ーって、
物音一つ無い空気を腹の底まで満たすことに至上の喜びを感じる……
そんな遊びばかりしているものですから、
イザ、人様を連れて楽しませようとなると、
普段はやらない、フツーの人たちの楽しむような、
観光地を観光地として楽しむテンションが求められるわけで。

初日は、旭川に行くといつも立ち寄る喫茶店でお茶と軽食を楽しみ、
二日目は層雲峡、大雪山系のお膝元にて
ロープウェイとリフトで黒岳の七合目まで上がって紅葉を楽しみ、
降りてきては銀河・流星の滝を見て楽しみ。

三日目は層雲峡を離れ、
観光タクシーを呼んで美瑛の丘巡りを楽しんで参りました。

最終日の四日目は、英国式ガーデンを作っている
上野ファームガーデンさんを見て回り、
観光タクシーさんの薦めで、ここンとこ話題の
行く予定の無かった旭山動物園さんにまで行って来ました。

二日目・三日目まではオイサンの得意分野に近かったので良いようなものの、
最終日はもう、なんとも人の多いごたる。
「本当にここは、オイサンの愛する、あの深く静かな北海道か?!」
と目を疑うばかりでありました。

人混み怖い!!
連休恐い!!
助けて絢辻さん!!

人が多いと自分では予想の出来ないコトも起こりますし、
なかなかスマートにコトが進まないものですしねー。

マとは言っても、相手は所詮両親ですから好みも大概把握していますし、
お膳立てするのもスポンサードもオイサンですから、
多少失敗したって何を咎められるわけもなく、
ラクっちゃこの上もなくラクなんですけどね。

美瑛の丘を一人てくてく歩き、
目の前につづく道征きや、振り返った背後に延びる元来た道行きを見るときのあの、
絶望的でわびしい心持ちの面白さ。

時折足を止めて、遠くに見えるものや、足下に落ちた何気ないもの……
それは自分にとっては珍しいものでも
そこにはもう何十年も昔から当たり前に人々の営みに合間に常に落ちているものであったり、
自分にとっても当たり前のとるに足らないものなのに
旅情が色付かせてくれるふとしたときめきによって特別な輝きを放ち始めたものであったりするのだけれど……
そういったものたちのその瞬間に特有の陰影を、
どうにか永劫先の自分にもとどけられるようにと、
苦心惨憺の末にこざかしいデジタルデータの写真に押さえ込むときの、ひとときの喜び。

今回はワリと慌ただしく、
そういうしみじみとした感情をじっくり味わう時間は短かったのが残念です。
マその分、普段味わわないような人ごみの中での気分との対照が取れて、
面白かったかなあとは思いますけども。

ちょっとSSの方は、後半のまとまりが悪くて。
またあとでこっそり直そうと画策中。

直しました。多少は読みやすくなった気がしています。

オイサンが動物園で感じたやり切れなさや、
美瑛の丘で、これまでの旅の中で感じ続けてきた感覚を絢辻さんに預け、
彼女の感覚で咀嚼してもらいました。
オジロワシの檻の前の、女の子のセリフなんかはノンフィクションです。

……まあ、『アマガミ』の世界観とは一切関係のない話になってますね。
それはわかってます。
あまりに無理やりだった。

まあ、ね。
お写真と合わせて、オマケ程度に楽しんでもらえれば幸いかと。


ちょっと駆け足気味ですみません。
オイサンでした。


    ◎『アマガミ』 絢辻さん SS 目次リンク



 

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コメント

いろんな記事に、連投失礼します。

動物園は確かにやりきれなさを感じます。
しかしですね、動物園なんかよりもずっと
人間のエゴを感じるものはたくさんあります。

農学部で自然について学んできた僕は。。。ですが
全国にある杉林、放棄された田畑、オイサンの写真の丘。
どれからも人為が感じられます。。。
昔は、といっても江戸時代とかでしょうが、奥に見える山のように
自然な木が繁茂した豊かな森だったろうなと感じてしまうのです。
放牧のために切り開かれた草原やエゾマツの人工林ではなく。。です。
人間の営みのため、そこを追い出された動物や伐倒されだ木を思うとやり切れないのです。

その点、動物園の動物は幸せです。
飼育員は愛があります。
餌には困りませんし、病気になれば獣医さんがいます。
それは野生を捻じ曲げている行為にほかなりませんし、
動物にとって幸か不幸かなんてわかりません。
でも、、、やっぱり、、、って感じなんです。
まとまっていなくてすいません。

話は変わりますが、
動物園って大事なんですよ。
希少種の保全にとって。
うーん、こんなことを書いていると止まらなくなりそうだwww
というわけで失礼します。
毎度毎度、すいませんです。

投稿: Dすけ | 2013年6月26日 (水) 00時12分

おお、丁寧に有難うございます。
可愛いなあ。

巨大なネズミなんですね。
動物園に行くと妙に哲学的になるのは、逆に動物に観察されているような感覚を覚えるからなのかなあ。なんだかまた北海道に行きたくなりました。

投稿: tomozou | 2009年10月 1日 (木) 15時21分

■JKPさん
>すばらしいご旅行をされてきたようで。

やはり一人旅が一番肌に合うのですが、誰かと一緒だと、
寂しくなったり物悲しくなったりするヒマがないのでそれは救いでした。
一人だと、純粋に風景や出来事から感じ取れることは増えて良いのですが、
どうしても沈み込む時間が出来てしまいます。

>なにがって、雄大な景色を眺めて感じる圧倒的な感覚を、「1対1、自分とそれ以外」と表現されるとは。

お恥ずかしい限りでw
実は美瑛は、大小含めて今回で7回目なのですが、その何回目かの時に気がついた感覚です。
美瑛の丘は、「風が自分の中を通り過ぎる」感覚をリアルに味わえる場所です。
是非一度、できれば一人で、歩いてみて下さい。


■tomozouさん
いつもどうもです。

>僕も去年母親と行って来たんですが、

うあ、思わぬところに先客がw
旭山動物園のことを若干悪めに捉えてしまったので
思い出を汚すようなことになっていなければいいのですが。
マお話ってコトでご勘弁を。

>カピバラと何かがひとつのコーナーで協生してるのが可愛かったなあ。

いましたねえ、カピバラ。クモザルか何かと同棲してましたっけ。
ああ、お写真ありますね。
右下の、「投稿者:ikas2nd」のURLのところに貼っておきます。

あんなデカイもんだと思いませんでした。
なんであんな意味ありげな顔して寝てるんでしょうか。

あんな見た目でも、アマゾンで見かけたらビビッてしまうんでしょうねえ。
人間弱ぇ。
ああいう連中がわんさと生きているという事実を思うと、
人間の「自分は何のために生まれてきたのか?」なんていう思想は
ホント考えすぎの賜物だなあと実感する次第です。
たまたまですよねー、みたいな。

投稿: ikas2nd | 2009年9月30日 (水) 21時03分

僕も去年母親と行って来たんですが、カピバラと何かがひとつのコーナーで協生してるのが可愛かったなあ。楽しく読ませていただいています。

投稿: tomozou | 2009年9月29日 (火) 08時17分

すばらしいご旅行をされてきたようで。

それにしてもすごいですねぇ。
なにがって、雄大な景色を眺めて感じる圧倒的な感覚を、「1対1、自分とそれ以外」と表現されるとは。
言葉の持つ可能性を強く信じさせる表現でした。
改めて脱帽です。

投稿: JKP | 2009年9月29日 (火) 00時16分

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