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2009年4月18日 (土)

■手帳の中のダイヤモンド -04- 第一部 Pre Story -更新第203回-

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  ■第一部■ 絢辻さんシナリオ解釈 学校編 Pre Story
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……いつもながら、見事な物だと思う。

絢辻さんが、クラスメイトたちの宿題を助け、
全体での作業となれば指示を出し、
必要な時にはまとめ上げて統率する。

……そんな、うちのクラスの「いつもの」様子を遠巻きに眺めながら、
「僕」は今日も、ひとり感心していた。
一つ一つの能力もそうだけど、それらのことを、
「素」の自分をおくびにも出さず、ネコというブ厚い着ぐるみをまとったまま遂行する、
彼女のその擬態ぶりにだ。

しかもそれら全てに押しつけがましさがない。
上から目線も感じさせなければ、
イヤミになるような謙遜もないのだから、始末に負え……
ゲフンゲフン、素晴らしい。

……正直なところ、不思議に思う。

一体どうして、絢辻さんは猫なんてかぶっているんだろう?
それに、クラスの連中のことを、本当はどう思っているんだろう?
絢辻さんほど力があれば、素のままでいたって人はついてくるんじゃないかな?

絢辻さんが間に入ると、色んなことが不思議なくらいまとまり始める。
猫かぶりなんていう枷をはずしたら、もっとすごいことが起こるんじゃないか……
「僕」はそんな風に期待してしまう。

確かに……少し刺激的すぎるタチではあるかもしれないけど。
気の弱いヤツだと、胃を痛めたりくらいはするだろう。
だからまあ、子供用の風邪薬みたいな、あの甘い声の絢辻さんで……
人と付き合うのには丁度良いのかも知れない。

「ちょっと、橘君」

そうそう、こんな風に。

「ちょっと。ねえってば」

でも、今日はちょっとだけ機嫌が悪いみたいだ。
僕にしか見せちゃいけないはずの牙が、八重歯程度にだけど、
言葉の端から、チラチラ覗いてる気がする。

だけど……もったいない気も少しする。
生(き)のままの絢辻さんは、とても魅力的なんだ。

今のところ、僕だけが知っている。

猫の絢辻さんのマイルドさに感情の烈しさが加わると、
あの黒くて大きい瞳が途端に生き生きと輝き出すことを。
みんなにも、あの絢辻さんを見せて上げたいと……

「いい加減目を覚ましな……さいっ」

ガンッ!

「ぐはっ!? う、梅原!? いきなり机を蹴るなんてひどいじゃないか、
 お腹に机がめりこんで二度と子供を産めない体に……!
 ……あ? 絢辻さん?」

「そんなところで、いつまでも寝てられると邪魔なんだけど。

くの字に折れてしまった姿勢で見上げると、そこに、あの真っ黒な瞳と、
長い黒髪の……絢辻さんの顔があった。
傲然と僕を見下ろすその瞳は、爛々と生気に満ちている。
いやあの。
こんなことで輝かれても。

「い……痛いよ絢辻さん! そんな所って、ここは僕の席だろ?
 それに、こんなところ誰かに見られでもしたら困るのは絢辻さ……あ、あれ?」

周りには、もう誰もいなかった。
窓から差し込む濃いオレンジの光が、深い角度で教室全体を染めているだけだ。
今日一日の絢辻さんのことを反芻しているうちに、ちょっとオチていたみたいだ。

「こんな時間に、一体誰に見られるっていうの?
 みんなもう、とっくに帰っちゃたわよ。

「そ、そっか。ははは……

愛想笑いでごまかすしかない僕に、絢辻さんは、ハァ、とこれ見よがしな溜め息をついて

「……あなたもさっさと帰って、保健体育の復習でもしてたら?

と、手にしたプリントを揃えながら言った。

「……なんで、保体?

「男の子が、子供を産めるわけないでしょ。
 バカなこと言ってるからよ。

さっきの冗談のことを言っているらしい。本当に意地が悪い。
トン、トンと大袈裟な音を立てる、分厚いプリントの束がちらりと目に入る。
……だけど、このまま引き下がるのは……僕だって男だ、プライドが許さない。

「そっか。じゃあ、真摯にご忠告を受け止めてそうしようかな。

トン、トッ……。
絢辻さんの手が止まる。

「そう? じゃあ、また明日、ね。

今日の束はより一層厚い。
あの様子だと、三つ……いや、四つは仕事が重なってそうだ。
クラス委員、クリスマス委員、高橋先生と……あとは何だろう。

「……うん。絢辻さんも、お仕事頑張ってね。

やられっぱなしでいていいわけがない。
僕だって、怒る時は怒るんだと、分かってもらわないと今の関係を変えられそうにない。
僕は……後ろ髪を引かれる思いで絢辻さんに背を向けたまま鞄をとった。

「あ、そうそう。橘君。帰る前に、一つ教えて?
 『はいぱぁピーチ情報局』と、『ソックス・トライ・アングル』って、
 等価交換なのかしら?

「!!?!?! な……なっ!!?!?

まるで、耳に熊手をひっかけられて引き回されたみたいに、
僕は振り返らざるを得なかった。

影、影。

教室に長く落ちた絢辻さんの影の、指先が。
もう出口まで来ていた、僕の足首に届いていた。

深い黒にオレンジがさして、絢辻さんの目はさらに謎めいた色を帯びている。
愉しそうに、本当に愉快そうに、クスクスと肩を揺すって……
ほんの数秒前まで自分を翻弄したと思いこんでいた小動物の喉元に、
「逃がさないわよ」と爪を立てた。

「え?!?! あ……ええっ?!!?!

「あなたと梅原君。
 怪しげな通信に使う紙は、選んだ方がいいわね。
 こんな大事な提出物に使うから……ホラ、こーれ。

絢辻さんの指にはさまれて、二枚のザラ半紙がひらひら踊る。
端っこには、寝かせた鉛筆で軽くこすった跡がある。
そこに白く浮かび上がるのは、僕と梅原、二人の最上級クラスのお宝の名前だった。
そして、取引の時間と場所までもが。

「ね? どうなのかしら?

「え……あ、う……。

「筆談でするくらいだもの
 ……よ っ ぽ ど、大 事 な 取 引 だ っ た の よ ね ?

目が、目が、目が怖い。生き生きと、爛々と、確かにしてるけど。
瞳と唇の端で、全てを語っている。

大事な人質を、置いて帰れる?
あたしを出し抜こうだなんてちゃんちゃらおかしい。
これ、そのまま先生に出しちゃおうか?
最後には、生活指導の先生に行くはずの────。

「あ、絢辻さんっ!
 きょ、今日は一段と仕事が多そうだね!
 き、気がつかなかったよ、ごめん!

だめだ、だめだ、だめだっ!
こんな猛獣、教室に解き放しちゃ絶対にダメだ!!
一体どれほどの血が流れるか……僕が甘かった!

「え? そんなことないわ、このくらい。あたし一人でも全然平気よ。
 でも、手伝ってくれるって言うのなら──。

絢辻さんは、そう言って。
指に挟んだ二枚の紙を、二つに分けたプリントの山の、
自分に近い方の一番下あたりに、するりと……滑り込ませた。

「お言葉に、甘えちゃおうかな?

ニコリと笑うその頬の下に、一体どれだけ筋肉が隠れているのか。
山のようなアンケートの集計をしながら、僕はときどき盗み見る。
静かに結ばれた唇が、いつか自然に、誰にでも笑いかける日がくるのかな?
とか聞いたら、また余計な詮索するなと、鋭くかわされるのだろう。
……だけど。

「橘君。

僕の視線に気付いたのかどうか。
長く垂れた前髪の奥から、不意に呼びかけられたので驚いた。
止まっている手を、咎められるのかと思ったけど。




「ありがとう。あと、ごめんね。




「ううん、いいよ。……僕こそ、ごめん。

だけど、いつかきっと、訊いてみよう。
絢辻さん。君は一体、どうしてそんなに大きな……
ずくずく濡れて、重そうな猫を飼っているのかって。

そして……いつまでその子を抱いてるつもりなのかって。


      ~ Fin ~


えーと。
万が一、シナリオ解読記事を楽しみに見に来られた方がいたらすみません。

ホントは「絢辻さんシナリオ・学校生活 分析編」をやる予定で、
その冒頭に『ちょっとだけ』読み物をつけようとしたのですが……
ボリュームが予想外に暴走してしまったので、独立させました。

次回こそ、「絢辻さんシナリオ解釈 学校生活編」です。


……どうでもいいけど、オイサンにノベライズやらせてくれませんかね。
同人で勝手にやれってか。
ごもっとも。






 ◆『アマガミ』絢辻さんシナリオ解読企画 「手帳の中のダイヤモンド」 目次
    01 前口上
    02 序文・絢辻詞という「少女」
    03 第〇部 物語のアウトライン 

    04 第一部 学校生活編 PRE STORY (SS)
    05 第一部 学校生活編 その1
    06 第一部 学校生活編 その2

    07 第二部 「目標」編 PRE STORY (SS)
    08 第二部 「目標」編

    09 第三部 家族編 PRE STORY (SS)
    10 第三部 家族編

    11 第四部 手帳編 PRE STORY (SS)
    12 第四部 手帳編 その1
    13 第四部 手帳編 その2

    14 第五部 恋愛編 PRESTORY その1 その2 その3 (SS)
    15 第五部 恋愛編 その1 その2 その3
    16 第六部 終章 PRE STORY その1 (SS)

    ◎『アマガミ』 絢辻さん SS 目次リンク


 

 

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